インターネットなどで賃貸物件を探していると、時折「定期借家」と書いてある物件を見かけることがあります。

しかし、仕組みを詳しく理解している人はそれほど多くなく、「物件が魅力的でも何となく借りるのをやめてしまった」というケースは少なくありません。

今回は部屋探しの選択肢を広げるために、定期借家の仕組みやメリット・デメリットについて見ていきましょう。

定期借家物件

定期借家イメージ

 

定期借家の詳しい仕組みは、賃貸物件を借りた経験がある人にもあまり知られていません。

 

実際に国土交通省の2019年度住宅市場動向調査では、賃貸物件に住む80%以上の人が詳しい内容を知らないと回答しています。

 

ここではまず、定期借家の基本的な仕組みについて押さえておきましょう。

 

通常の賃貸物件は、賃貸借契約で定めた期間が完了すると、更新を行うことで引き続き入居が可能となります。一方、定期借家は契約で取り決めた期間が満了した時点で契約が終了する仕組みです。

 

一般的な賃貸物件との大きな違いは、こうした契約の形態にあるのです。ただし、貸主と借主の合意のもとで再契約をするならば、引き続き入居ができます。

 

国土交通省の調査によれば、民間の賃貸住宅のうち定期借家を利用しているところは2%となっており、それほど広く普及しているわけではありません。主に短期賃貸マンションなどで利用されるケースが多いのが現状です。

 

定期借家は2000年3月の法律の改正で導入された「定期借家制度」によって生まれたものであり、比較的新しい仕組みだといえます。

 

これまで普通借家制度においては、貸主側から正当な理由もないままに、「借主からの契約更新の要望を拒否することができない」ので、どうしても貸し手側に心理的な負担が偏ってしまう部分がありました。

 

マナーを守らない借主に居座られてしまったり、退去してもらうために多額の立ち退き料が必要になったりといったリスクがあったのです。

 

こうした問題を解消し、良質な賃貸物件の供給を促す目的で設定されたのが定期借家制度です。

 

定期借家物件

書面を交わす

 

定期借家の仕組みや背景を理解したところで、さらに深く掘り下げるために、一般的な借家契約である「普通借家契約」との異なる部分を解説します。

 

更新の仕組みや契約方法などについて詳しく見ていきましょう。

 

先ほども説明した通り、定期借家契約には更新がなく、期間満了とともに契約が終了します。引き続き入居を続ける場合には、貸主との合意のうえで再契約を結ばなければなりません。

 

また、契約期間もそれぞれ異なり、普通借家契約の場合は1~2年間となるのが一般的です。

 

普通借家契約においては、1年未満の契約期間を設けると「期間の定めのない契約」として扱われてしまうため、多くの物件では2年ごとの期間が決められているのです。

 

一方で、定期借家契約には期間に関する明確な決まりは定められていないので、1年未満であっても有効な契約となるのです。そのため、築年数が経過していて、1年以内に取り壊す予定の物件などで採用されるケースもあります。

 

通常の借家契約においては、契約方法に関する定めはなく、口頭であっても成立する場合があります。しかし、定期借家契約は借地借家法によってきちんと決まりが設けられており、「必ず書面で結ぶ」こととされているのです。

 

定期借家においては、貸主から不動産会社を通じて「更新は行わずに、期間満了によって契約は終了させる」といった説明をあらかじめ行う義務もあります。更新の説明義務を怠った場合は、普通借家契約として取り扱われます

 

普通借家契約においては、期間満了に対して特に手続きをしない場合においても、自動で契約更新されます。一方で、定期借家契約においては自動的に契約が終了するため、借主は期間満了とともに退去しなければなりません

 

万が一契約終了の時期を忘れてしまうと、借主の生活に支障をきたしてしまうため、1年以上の定期借家契約では貸主が「期間満了の6ヶ月~1年前」までに通知をする義務があります。

 

定期借家物件

定期借家契約のメリット

 

定期借家契約は本来、貸主を守るために導入された制度であるものの、借り手側にとってもいくつかのメリットがあります。ここでは、主なメリットについて見ていきましょう。

 

定期借家契約は、普通借家契約よりも借主の負担が大きいため、その分相場よりも家賃が安く設定されている場合があります。

 

リーズナブルに良質な物件を借りたいといった際には、十分に検討の余地がある契約形態でもあるのです。

 

期間が限定されることでメリットを得られるのは、何も貸主に限ったことではありません。借り手にとっても、契約期間が短くなることがメリットとなるケースもあるのです。

 

たとえば、「持ち家の建替えなどで半年だけ住める物件を探している」「1年間の単身赴任をする」「お試しでシェアハウスに住んでみたい」といった人にとっては、2年間の普通借家契約よりも気軽に入居を検討することができます。

 

定期借家物件

定期借家契約のデメリット

 

定期借家契約には、事前に理解しておくべきデメリットもあります。ここでは、具体的なデメリットを2つに分けて見ていきましょう。

 

期間が明確に決められている定期借家契約では、途中解約を行えるケースが限られています。転勤・療養・家族の介護などのやむ得ない事情がない限りは、基本的に解約の申し入れができません。

 

特約などがないときには、残りの期間分の家賃を請求されてしまう場合もあるため注意が必要となります。定期借家を借りる際には、事前に入居期間を明確にしたうえで契約を結ぶことが重要です。

 

定期借家契約を結ぶときには、原則として再契約ができないと考えておくほうが無難です。入居態度に問題がなくても、建物の建て替えや取り壊しといった事情によって、借主がいくら希望しても再契約が行えないこともあるのです。

 

そして、たとえ再契約を認められた場合であっても、新たに入居をするためには初期費用が必要となります。

 

ただ、貸主との交渉によっては、再契約の初期費用を割引したり免除をしたりしてくれるケースもあるため、個別に相談をしましょう。

 

定期借家物件

定期借家契約の注意ポイント

 

定期借家契約は一般的な賃貸借契約とは異なる側面もあるものの、きちんとルールを理解していれば問題なく入居することができます。

 

ここでは、事前に押さえておくべき注意点を確認しておきましょう。

 

再契約には貸主の許可が必要であり、契約期間が満了しているにもかかわらず居座った場合には、損害賠償請求をされてしまう可能性もあります。

 

期間満了の時期を迎えるまでに、新たな入居先を見つけて引越しの準備を進めておくことが重要です。

 

また、普通借家契約では家賃を滞納してしまってもすぐに退去を命じられることはほとんどないものの、定期借家契約では入居できなくなる場合もあります。

 

トラブルを起こせば、再契約の可能性も低くなってしまうため、当たり前ではありますが、マナーやルールをきちんと守ることを念頭に置いておきましょう。

 

定期借家物件

定期借家イメージ

 

この記事のポイントをまとめます。

ポイント

  • 定期借家は契約更新ができず、期間の満了とともに退去するのが一般的
  • 貸主の許可があれば、再契約を結ぶことも可能
  • 取り壊しの予定があるなど、再契約が断られてしまうこともあるため注意が必要
  • 通常よりも家賃が安い、短い期間で住めるといった点がメリット
  • 契約や更新、途中解約のルールを押さえておくことが重要

定期借家はよく分からないからと避けてしまう人がいますが、条件があえば実はお得に借りることもできる契約です。注意点を理解し、条件に合う人は検討してみましょう。まずは実際に物件を見てみてください。

 

定期借家物件

更新日: / 公開日:2020.12.25