コロナ禍で変化した、住みたい街・求める広さ
新型コロナウイルス感染拡大以降、人々の住みたい街や住みたい家は変化した。特に、2020年にLIFULL HOME’Sに掲載された物件のうち、実際の検索・問合せ数から算出した「住みたい街ランキング2021(首都圏版)」では、賃貸部門1位が神奈川県の「本厚木」駅となるなど、消費者に郊外化の意向が表れたことが注目を集めた。なお、直近(2022年)の同ランキングでも本厚木が1位をキープし、その傾向は続いている。
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一方、リモートワークの普及に代表されるコロナ禍の働き方の変化は、多様なライフスタイルを生んだ。ある人は会社に通って仕事をし、ある人は自宅で仕事をする社会において、 “便利な街”や“住みよい家”を杓子定規に測ることはより難しくなったように思う。例えば、これまで都心へのアクセスが良い=便利という定義に多くの人が共感したはずだが、今日においては決してそうとは言えないのではないか。今やそれらの価値観はさまざまなベクトルに向いている。
テレワークの推進・リモート授業などで、家が第2のオフィスや教室の役割を担うようになり、「もう少し広い部屋」「あと、もう一室」を求める人は増えたように思う。一方東京都によると、週3日以上リモートワークを実施している人の割合は、2021年1月の緊急事態宣言中の約6割(東京都 テレワーク導入率調査結果より)に対し、2022年1月は43.3%(東京都 テレワーク実施率調査結果より)となっており、テレワークの実施日数はピーク時よりも減っていると思われる。フルリモートであれば、とにかく家賃が安い郊外の広い家に引越すという振り切った選択も現実のものだが、定期的に通勤が必要であれば、会社(都心)へのアクセスも無視するわけにはいかない。また、テレワークをしていない人でも、余暇時間を自宅で過ごすことが多くなり、改めて自宅の狭さに気づいたという人も多いだろう。
今回、LIFULL HOME'S PRESSでは、一人暮らし向けに、"都心に近く、家賃のわりに広い部屋に住める駅"を調査。LIFULL HOME'Sのデータから、賃料から算出した理論専有面積と実際の専有面積との差をスコア化し、「都心アクセス」と「家賃のわりに部屋が広い」を両立できる街を可視化した。どの駅がランキング上位となったのか、みてみたい。
家賃のわりに広い部屋に住める駅ランキングとは?
今回の調査対象は、山手線の各駅と、山手線のいずれかの駅まで20分以内で到達可能な駅(※)。調査対象各駅を最寄り駅としてLIFULL HOME’Sに掲載されている単身世帯向け物件を母集団とし、駅毎に平均賃料と平均専有面積をドットプロット。それらの近似直線を「賃料から導く理論専有面積(以下、理論面積)」としたとき、理論面積に対し、実際の平均専有面積の比率が高い順にランキング化したものだ。
※ データ抽出時に物件数が50件未満の駅は除外
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【調査対象物件】
・山手線の駅、山手線のいずれかの駅まで20分以内で到達可能な駅が最寄り駅(※データ抽出時に物件数50件未満の駅は除外)
・ワンルーム、1K、1DK、1LDK
・駅徒歩15分以内
・築40年以内
【調査対象期間】
2022年1月24日
【分析】
株式会社LIFULL LIFULL HOME’S事業本部 リサーチグループ
※データ使用や詳細データのお問合せはhomes-press@LIFULL.comまでご連絡ください。
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大ターミナルに接続しない路線がTOP10に並ぶ
まずは一般的な単身世帯を想定し、平均賃料が12万円以下の駅に絞ったランキングを発表したい。
1位・2位は日暮里舎人ライナー沿線。どんな街なのか
1位:高野駅(日暮里舎人ライナー)
日暮里舎人ライナーは、慢性的な渋滞に悩まされていた尾久橋通り周辺の通勤通学の足として2008年3月に開業した比較的新しい路線だ。今回のランキングで1位となった「高野(こうや)」駅へは、山手線と接続する日暮里から北に6駅、乗車時間10分で到着する。高野の平均賃料は8.1万円、平均専有面積は32.1m2で、賃料から導き出した理論面積24.3m2との比率(以下、理論面積比)は132.4%となる。つまり、同じ8.1万円の家賃を払って住んだときに、平均的な駅よりも約3割広い部屋に住めるということだ。その差は7.8m2であり、これは畳に換算すると4.5~5畳に匹敵する。
関連リンク:高野駅の賃貸物件(単身向け)を探す
2位:扇大橋駅(日暮里舎人ライナー)
「扇大橋」駅は、同じく日暮里舎人ライナーの駅で、高野より1駅都心寄りに位置する。平均賃料8.0万円、平均専有面積31.5m2。こちらの理論面積比は130.9%で、高野よりもわずかに低くなった。
関連リンク:扇大橋駅の賃貸物件(単身向け)を探す
日暮里舎人ライナー沿線の街並み
「高野」駅と「扇大橋」駅はともに東京都足立区に位置する。両駅の駅間距離は500mで生活圏が重複すること、両駅と3位の駅の理論比率差が大きいことを考えると、高野と扇大橋は1位グループとみなしてよいだろう。両駅周辺は、路地が入り組み、畑も点在する。近年まで鉄道空白地帯であったように、開発の波から取り残されていたためだが、山手線駅まで10分以内の駅としては貴重な環境だろう。一方、付近の施設充実度は決して高くない(※)。2022年2月現在、両駅の半径1km圏内に大型商業施設やカフェ、パンや弁当の専門店といった商業・レジャー施設は存在せず、生活利便施設の面ではスーパーマーケットよりもコンビニエンスストアが充実している。目的によっては付近で事足りないこともあるだろう。買い物や余暇は都心に出て、家にいる際は自宅周辺よりも自宅内で過ごす時間を重視する人に適したエリアかもしれない。
※ 徒歩圏内の充実度を表した指標であるWalkability Indexによる
高級住宅街だが、築年数を考慮しなければ広い家に住める
3位は、1・2位とは趣の異なる駅。意外にも大ターミナル新宿からほど近い「代々木八幡」駅(小田急小田原線)がランクインした。代々木八幡の平均賃料は11.9万円、平均専有面積は36.2m2と、日暮里舎人ライナーの2駅と比べると、家賃、面積ともに一回り水準が上がる。理論面積比率は125.5%だ。実際の物件に目を移すと、20m2台では6~15万円なのに対し、30m2台では9~30万円台と幅が広く、また間取りは1LDKであるにもかかわらず80m2台の物件が存在するなど、一部の“高級物件”または“豪邸”といえる物件が平均賃料と平均面積を引き上げている格好だ。ただし、12万円以内であっても30m2以上の物件は、築20年を超えると多数存在する。築年数を考慮しなければ、家賃のわりに広い家に住むことができる駅といえる。原宿駅までは、緑豊かな代々木公園を通り抜けて徒歩18分。渋谷駅へも徒歩19分で、都心のターミナルも生活圏となる。
関連リンク:代々木八幡駅の賃貸物件(単身向け)を探す
4~7位は、住宅と工業の混合密集地が続く
4位「足立小台」駅(日暮里舎人ライナー)、5位「町屋駅前」駅(都電荒川線)、6位「川口元郷」駅(埼玉高速鉄道線)と、トップ2に続き再び城北地域が名を連ねる。日暮里舎人ライナーは前述のとおり、元々の鉄道空白地帯に建設された路線であるが、埼玉高速鉄道線も成り立ちは同様である。日暮里舎人ライナーと埼玉高速鉄道線はいずれも盲腸線(起終点の一方が他の路線に接続していない路線)であり、同沿線を目的地としない限り通過しないことから、沿線住民以外にはなじみのない路線ではないだろうか。都電荒川線を含むこれらは、主要路線の補完的役割をしている路線であり、沿線の拠点性は決して高くない。その中でも足立小台、町屋駅前、川口元郷は付近に古くからの住宅や町工場が混在し非常に密集している地域だ。上位3駅よりも平均専有面積は小さくなるが、家賃も相応に下がる。理論面積比率はそれぞれ116.7~114.1%である。
7位「昭和島」駅(東京モノレール)が位置する昭和島自体は、その多くが工業用地であり、住宅のイメージはないかもしれない。実は、昭和島駅の物件としてカウントされているのは、平和島運河を挟んだ大森東や大森南の物件であり、大森地区も場所によっては大森東避難橋(通称、見晴らし橋:歩行者・自転車専用)を使えば、京急本線の大森町駅などより昭和島駅のほうが近いのだ。大森も大正時代頃から域内に工業が集積するとともに人口密度が高くなったエリアで、そういう意味では昭和島駅も混合密集エリアを抱えているといえ、家賃や専有面積も城北地域のそれらと類似している。また、東京モノレールも起点は浜松町であり、大ターミナルに乗り入れないという点では4~6位と共通しているだろう。
JR駅が乗り入れる拠点駅もトップ10入り
8位は「亀戸」駅(JR総武線、東武亀戸線)、9位は「南千住」駅(JR常磐線、東京メトロ日比谷線、つくばエクスプレス)と、JR線を始めとした複数路線が乗り入れる拠点駅がランクイン。平均賃料はそれぞれ10.3万円と9.6万円、平均専有面積は30.2m2と28.8m2。理論面積と比べて約1割広い家に住めることになる。自宅周辺の利便性を求めたうえで、家賃のわりに広い部屋に住もうと思ったら、亀戸と南千住は有力な候補となるだろう。
下町と郊外、どっちが割安か?
郊外では、大田区のあの沿線が多数ランクイン
11位以降は下町と郊外が混在する結果となった。11位、12位に「三ノ輪」駅、「入谷」駅と東京メトロ日比谷線の単独駅が並び、三ノ輪と至近の「三ノ輪橋」駅(都電荒川線)も15位に入る。
一方、高級住宅街として知られる「田園調布」駅(東急東横線、東急目黒線)が14位、「中村橋」駅(西武池袋線)が16位、「洗足池」駅(東急池上線)が18位となるなど、北東方面の下町と、南西方面の郊外が入り混じる。傾向として、下町各駅の平均専有面積は20m2台前半なのに対し、郊外は20m2台後半である。とはいえ理論面積比率は同程度なので、下町は安く狭く、郊外は高く広いものの、ここに名を連ねる駅であればどちらもお得度は同じくらいということだ。
また、「川口」駅(JR京浜東北・根岸線)は「借りて住みたい街ランキング2022」でも13位と人気の街。本ランキングでも13位となったことから、お得度の面でも折り紙付きといっていいだろう。30位までに大田区の東急線沿線が5駅もランクインしている点も特徴的だ。
家賃を気にしないなら
湾岸エリアが上位に割って入る
1位は、高野を差し置いて「辰巳」駅(東京メトロ有楽町線)となった。タワーマンションも多数立地し、平均賃料は13.3万円と高めだが、それ以上に平均専有面積が41.6m2と非常に広い。理論面積比は136.1%で、理論値より10m2(約6畳)以上広いことになる。実際の物件を見ると、賃料20万円で70m2前後、15万円で50m2前後(いずれも1LDK)といったところだ。平均賃料12万円の制限を取り払うことで上位に登場したのは、辰巳のほか「品川シーサイド」駅(りんかい線)や「新木場」駅(JR京葉線、東京メトロ有楽町線、りんかい線)と、湾岸エリアが中心となった。高賃料帯で、相応に広い部屋を手に入れたい場合、これらの駅を優先的に調べてみるとよいだろう。住宅地の公示地価が全国2番目に高い(2021年)番町エリアを擁する「麹町」駅(東京メトロ有楽町線)も、25位にランクイン。家賃こそ高いが、広さの観点では決してコストパフォーマンスが悪いということではなさそうだ。
また、ここまで城西方面の駅はほとんど登場していない。以下に今回のランキングの下位20駅を掲載するが、下落合や沼袋、下高井戸、野方、と城西地域の各駅が名を連ねており、いずれも平均専有面積が21m2前後。城西エリアは、家賃に比して部屋が狭いエリアといえそうだ。
ランキング下位は? 面積あたりの単価を考えてみると?
下位には、都心と城西地域
ここまで城西方面の駅はほとんど登場していない。以下に今回のランキングの下位20駅を掲載するが、都心部のいわゆる一等地のほか、下落合や沼袋、下高井戸、野方、と城西地域の各駅が名を連ねており、いずれも平均専有面積が21m2前後。城西エリアは、家賃に比して部屋が狭いエリアといえそうだ。
平米単価ランキングは、城北・城東地域が上位を独占
続いて、1m2あたりの賃料(以下、平米単価)を見てみよう。寝るためだけの家ではなく、在宅時間を充実させようと思えば、ある程度の広さが必要となるだろう。部屋を探すときに1m2あたりの賃料を考えるのもひとつの住まいの探し方だ。山手線の各駅まで20分でアクセス可能な範囲内で、平米単価が安い順に並べると、ここでも「高野」駅と「扇大橋」駅がトップ2。3位は「足立小台」駅となった。以降、「小菅」駅(東武伊勢崎線)、「亀有」駅(JR常磐線)、「小岩」駅(JR総武線)、「金町」駅(JR常磐線)と城東地域の各駅が並ぶ。
住みたい街は、人それぞれである
今回のランキングでは、都心に近く“家賃のわりに広い部屋に住める駅”を紹介した。とはいえ、暮らしは家の中だけでは成立しない。在宅時間が増えたからこそ、自宅周辺の利便性や自然環境を感じる機会も増えるし、公園やカフェなど、お気に入りの過ごし方ができる場所も必要になるだろう。また、リモートワークによって職場での人とのかかわりが減った分、地域のコミュニティに参加する意義も増しているのではないだろうか。広さなど、家のスペックは暮らしにかかわる要素のひとつにすぎない。いかに自分らしい暮らしの場を見つけられるかが大切だ。
冒頭に述べたように、生活スタイルや価値観が多様化し、杓子定規に街を評価することはナンセンスな時代である。住みたい街として紹介されることも多い吉祥寺は、今回の「家賃のわりに広い部屋に住める駅」という視点では、下から11番目だ。本ランキングは、「家賃のわりに広い家に住みたいが、都心へのアクセスも諦められない」という人を想定してお届けしているが、決して誰にでもぴったり当てはまるランキングではない。あくまで参考指標のひとつとし、人生を豊かにする街選びをしてほしいと思う。
今後も編集部では、一人ひとりの住まい探しに少しでも寄り添うランキングをお届けしていきたい。
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