「都市での暮らしに緩やかな人間関係を」という取り組み
団地再生という言葉からは郊外の団地を想起する人もいるだろうが、実際には都市型の団地でもコミュニティ醸成、地域との交流を育むなどさまざまな試みが行われている。
郊外型の団地では長く住む人が多く、地域で助け合える部分もあるが、都市型団地では隣に住んでいてもほとんど交流がないことが多い。その土地を知らずにある日居住することになり、仕事中心のせわしない毎日に加え、短期間での転居も多い。そんな暮らしでは人間関係を育むことは難しく、孤独や不安を感じることもあるはず。といっても、べったりした人間関係を求めているわけではないという入居者にどうしたら寄り添うことができるか。
神奈川県住宅供給公社(以下、公社)の都市型団地では2015年に建替えが完了したフロール横浜山手(横浜市中区)以降、その課題に取り組んできた。単身者中心のフロール横浜山手では自治会離れを意識、公社職員によるコミュニティイベント、防災訓練を実施したが、職員の兼務では繁忙期、異動時期に無理が生じる。専門家による継続的な支援が望ましいことが分かった。
2016年建替え完了のフロール新川崎(川崎市幸区)は子育て応援をコンセプトにしたファミリー向け賃貸住宅で、毎月専門家によるイベントが開催されて自主的なつながりに発展。現代的な自治会づくりにもチャレンジした。だが、イベントは参加者が固定してしまい、受動喫煙やごみの分別など住環境の水準維持等の新しい課題も見えてきた。ここでも単発のイベントではなく、継続的な物件への関与が望ましく思われた。また、住環境のクオリティを維持するためには管理を一方的なサービスではないものに変える必要も見えてきた。
そうした反省を踏まえて誕生したのが2020年に管理を開始したフロール元住吉(川崎市中原区)である。同物件は昭和20年代の団地を建て替えたもので、東急東横線の元住吉駅から徒歩8分。公社の団地のうちでは屈指の利便性の高い物件で、全153戸。間取りは約32m2の1Kから約66m2の2LDK。月額家賃は9万9400円~19万9300円で共益費は月額1万1000円である。
顔の見える関係を作る3つの取り組み
孤独になりにくい、地域や周囲とのつながりのある賃貸住宅を意図し、フロール元住吉の特徴は3点ある。一つは常駐のコミュニティマネジャーでもあり、管理人でもある守人(もりびと)を配していること。ふたつ目は従来型ではない、新しい形の集会所としてシェアラウンジを設けたこと。みっつ目は地域との接点となるべく地域交流スペース「TONARINO(となりの)」を設置したことである。
順に見ていこう。
守人は管理人ではあるものの、従来型の掃除などのメンテナンス業務を中心にした作業では待機時間も多い。そこでコミュニティ醸成に寄与できるような人を配することを検討し、建築設計段階で公募をした。そこでこれまでも各地の団地でコミュニティづくりを手掛けてきた株式会社HITOTOWAを選定。守人の意見も反映しながら設計を進めた。
現在は同社の中村優希さんを中心に数人でチームを組んで仕事に当たっている。チーム制にしているのは役割が属人化することを防ぐため。敷地内外の巡回、清掃の監督業務などをしている以外はエントランス脇のカウンターにおり、入居者には顔の見える存在。
建物の出入り時に挨拶をするのはもちろん、新規入居者には共用部を案内、使い方を説明し、貸切利用時の受付・備品の貸出を行い、月に2回ほどはイベントを開催、もりびと通信なるレターを毎月発行するなど、業務は幅広い。一部の入居者にとっては挨拶以上の会話を交わす相手にもなっている。
これにより建物の維持管理にもプラスがあると公社賃貸事業部運営管理課の並木文栄さん。
「顔の見えない人が相手だと建物は汚しても良い、サービスは受けるだけという関係になりがちですが、顔が見える相手に対してはそうはならない。シェアラウンジは飲食OKですが、それは自分で片づけることが前提。それが可能になるのは誰かがやってくれる場ではないことを入居者が理解しているから。また、ずっといてくれる人がいるという安心感も重要です」
並木さんは過去の産休時に何年も住んでいるにも関わらず、マンション内に誰も知人がいない状態で、孤独で辛い思いをした経験がある。そんな時に周囲に顔見知りや悩みに共感してくれる人、ちょっとした雑談ができる人がいたらどれほど救われたか。その思いがフロール新川崎の「子育て応援」に繋がり、さらにフロール元住吉の「守人」に結実した。知っている顔がいつもの場所にいること、言葉を交わせることは住んでいる人に幸いなのである。
働く場、遊ぶ場、コミュニケーションの場としてのシェアラウンジ
守人のいるカウンターの向かいにはシェアラウンジがある。入居者は朝6時から夜10時まで無料で使えるようになっており、時間になると自動で照明が暗くなり、利用できる時間が終わったことを教えてくれる。
従来の団地にも集会所は作られていたが、いちいち数日前から利用を届け出て鍵を受領しないと使えなかった。シェアラウンジの場合は利用時間内であればいつでも使える気軽さがあるのだ。設置には2017年頃から進む働き方の多様化も考慮されている。パソコンさえあれば家でも仕事ができるような時代である。であれば自室以外にも建物内に仕事ができる場があったほうが良いだろうという考えだ。
そのため、シェアラウンジでは無料Wi-Fiが使えるようになっており、リモートワークなどで利用している姿も日常的に見られる。
「大型テレビ、スピーカーが設置されているので家族、友人と一緒にスポーツ観戦を楽しむ人たちもいます。最近ではクリスマス、ハロウィン等、入居者さん企画のイベントが開催されるようになり、浴衣で集まる夏祭りも開かれました。子ども同士が勉強会をしていることもあります。
飲食が可能なので、家で作ったものを持ち寄ってご飯会を開いたり、親族が集まった時に家族会を開いたり、使い方はその人それぞれ。最初のうちはこんなことをしていいのだろうかと戸惑う様子もありましたが、日常的なコミュニケーションやイベントを通じて入居者自身も徐々にどのような場で活用できるのか、こういう使い方はどうだろう?と理解が深まり、多様な使い方がうまれています」と中村さん。
若い人たちだけでなく、シニア層も利用しており、町内会の延長の場としてここで一杯という使われ方もあるのだとか。直接、老若が交わっているわけではないが、互いが同じ空間に暮らしていることは意識されているらしい。
地域との交流拠点でコミュニティのマンネリ化を防ぐ
もうひとつが、同一建物内にありながら外部にも開かれた場にある地域交流の場、TONARINO.by SWITCH STAND(カフェ)。ここは入居者を地域につなげる装置となることを目指しており、機能としてはカフェ、レンタルルーム、レンタルボックスからなっている。
「フロール元住吉の153戸という規模ではコミュニティのマンネリ化が懸念されます。それを考えると常に外の新しい空気が入るようようにもしておいたほうが良いのではないかと考えました。また、入居者の中心は単身者や子どものいない世帯。子育て世帯は子どもを介して勝手につながりますが、単身者や子どものいない世帯の場合はそうはならない。であれば、マンションコミュニティを必要としていない人の居場所として、社会的な充足感を得るためにも心地よいサービスのカフェがあると良いのではないかと考えました」と並木さん。
周辺は住宅ばかりのエリアで同種の飲食店はほぼない。それもあって、カフェユーザーはフロール元住吉の住民と地域の人が約半々。毎日コーヒーを飲みながら読書をする地域のシニア男性がいたり、小学校から帰ってくるとまずカフェによってスタッフと話をしてからマンション内に帰るという子どもたちがいるなどカフェは地元で愛されている。入居者も建物内でコーヒー、ランチが調達できるのは便利だろう。カフェ店頭でのポップアップショップには「次回はいつ?」と楽しみにしてくれる常連がつき始めている。
レンタルスペースも子ども向けの習い事などで定期的に使われるようになっているが、それでも万事OKというわけではない。現時点ではカフェの運営費用は公社が支援しており、いずれ自走できるようにと考えているものの、そのあたりの先行きが不透明なのである。
4年目までは守人がカフェも運営していたが、現在は守り人と協働する(株)Yuinchuにカフェ運営を依頼している。居場所、緩やかな交流拠点を目指すことから一般的なチェーン店のカフェのように飲み物を出しておしまいとはならず、コンテンツを重視し、社員がサービス提供やイベント運営に常に関わっている。それが人件費に反映されてしまうのだ。
見えないサービスの対価はどこから受け取るべきか
「守人には管理の窓口業務を委託しているので管理費を充てることで問題はないのですが、孤立しにくくするための地域の居場所などといった部分にかかる費用をどこから捻出するか。理想は自走ですが、ここは住宅地。常連が徐々に増えたとしてもそれですべてを賄えるようになるかどうかは微妙です」(並木さん)
そこで住んでいた人がどう考えているかを知るため、公社では退去者に対して行っているアンケートに今年から有人管理、カフェの存在などについて追加の質問を加えた。「今後も予算内であれば緩やかなつながりがある賃貸マンションを優先して選択するか」「フロール元住吉のサービスに対する対価として妥当な金額」といった質問で、この質問を積み重ねていくことで許容範囲が見えてくるのではないかと考えている。
また、入居者に対しても、「住民のウェルビーイングに役立つカフェを併設した賃貸住宅で、カフェの維持に必要なコストが家賃に転嫁されるとしたら、いくらまでなら許容できるか」等の質問を含むインタビューを重ねている。10人のうちの2人ほどが「子どもが小学校に入学する前に持ち家への引っ越しを考えなくてはともろもろ検討したが、サービスと家賃を考えるとここが一番コスパが良く、なかなか決断できない」などといった回答をしたという。
特にフロール元住吉は人気沿線の徒歩圏内にあり、こうしたサービスがなくても部屋は埋まるように思われる。取材後、一般的な相場を調べてみたが、ワンルームなど単身者向きの間取りではこの物件ほどの広さは希少で、かつフロール元住吉の賃料はもっとコンパクトな間取り並み。それだけで競争力は十二分にある。だったら、それで良いと考えるか、もう1歩踏み込んで社会課題に取り組み、住む人の満足につなげるか。
収益面でいえばそんなものはなくて良いだろうし、社会貢献的要素や、将来的な賃貸住宅のあり方や多様性を考えたらそうした取り組みは必要だとなるだろう。収益と社会性のバランスをどうとるか。そのあたりは民間よりも難しく、公社内でも「法人税が免除されていることからその分を社会貢献に」という意見や「サービスコストは家賃で回収し継続性を高めたい」等考え方はいろいろあるそうだ。
だが、民間ができないことを実験できるということには意味があるはず。都市での暮らしがより良いものになるよう、検討を続けていただきたいものである。




















