オンラインイベント『経験を聞いて相談できる!車椅子ユーザーの「住まい」と「仕事」の経験シェア&相談会』が開催

住まいの問題をLIFULLが、仕事の問題をオリィ研究所が、双方の専門領域から解説と相談にのる住まいの問題をLIFULLが、仕事の問題をオリィ研究所が、双方の専門領域から解説と相談にのる

「障害があっても自立した生活をしたい」「障害があっても家族に頼らず暮らしたい」という考えが当事者間に広まり、施設入所よりも自宅での生活を選ぶ障害者の数は増加傾向にある。企業や行政も「共生社会」の実現を目指し、支援策の拡充が進められている。
とはいえ、初めて自立生活を送る場合には、当事者や家族、また支援者も「具体的にどうしたらいいのか?」という不安がぬぐえないだろう。

障害がある人の自立した暮らしはどうしたら叶えられるのか。
実際に自立生活を送る当事者を迎えて、生きていくうえで欠かせない“仕事”と“住まい”の経験談を語ってもらうイベント『経験を聞いて相談できる!車椅子ユーザーの「住まい」と「仕事」の経験シェア&相談会』が、2025年3月6日、オンラインで開かれた。

このイベントは、事業提携をしている株式会社LIFULL(以下、LIFULL)と株式会社オリィ研究所(以下、オリィ研究所)の2社合同主催で開かれた。発案はLIFULL HOME’S FRIENDLY DOORによるもので、サポートデスクの運営を通じて「直接ユーザーと接点を持てる機会を増やしたい」という希望から開催が決まった。

本記事では、車いすユーザーの当事者目線での見識が語られる貴重な機会となったイベント、そして本来であればクローズドである個別相談の様子を相談者のご厚意により取材を行い、レポートする。

第1部/車いすユーザーの住まい探しの実体験

株式会社LIFULL LIFULL HOME’S FRIENDLY DOOR事業責任者 龔軼群(キョウ イグン)株式会社LIFULL LIFULL HOME’S FRIENDLY DOOR事業責任者 龔軼群(キョウ イグン)

開催時間を迎え、共催2社の代表の紹介より始まった。
LIFULLからは住宅弱者(※)に親身になってくれる不動産会社を探してマッチングする「FRIENDLY DOOR」事業責任者の龔 軼群(キョウ イグン)、オリィ研究所からテレワーク人材の障害者雇用支援サービスを行う「FLEMEE」の事業責任者 加藤寛聡(カトウ ヒロアキ)氏がそれぞれ自己紹介を行った。
イベントでは以降、住宅に関するものをLIFULLの龔が、仕事に関するものをオリィ研究所の加藤氏が、それぞれファシリテーターとなり進行していく。

第1部は、『「住まい」と「仕事」に関するリアル経験談・車椅子ユーザーの住まい探しの経験シェア会』と題し、当事者に経験談を聞く内容だ。

当事者として登壇したのは、オリィ研究所が提供する分身ロボットOriHimeの現役パイロット(操縦者)としてカフェ等で遠隔勤務する車いすユーザー2名だ。
まず紹介されたのは、ゆいさん。先天性の脳性麻痺により車いすユーザーとなり、現在は福岡にて一人暮らしをして3年目を迎える。
次に、牧野さん。幼少期に横断性脊髄炎を発症し、5歳から車いすユーザーになる。大学時代から一人暮らしを始め、現在は大阪にて、フルリモートでオリィ研究所の転職支援サポート業務に従事している。

登壇者の自己紹介を終え、最初は「住まい」について取り上げることになる。ファシリテーターである龔より、質問が2名に投げかけられ、それに答える形で進行された。
第一の質問「一人暮らしのきっかけは?」に、まずは牧野さんが答える。

牧野さん「一人暮らしに踏み切ったのは、大学在学中でした。車いすでの通学が大変だったことや、兄姉や周りの人たちが一人暮らしをしているのがうらやましくて『私も一人暮らしをしたい!』『なぜ私はダメなの?』という思いからです」

ゆいさん「私も弟がいて、弟が実家を出たことで自分と親との距離が近くなりすぎているように感じたのが、大きなきっかけでした」

と、共に自立の意欲は強かった。
しかし二人とも、親へ「一人暮らしをしたい」と話した際に、強く親から反対されたとのこと。反対をどう説得したのかに話が及ぶと、

牧野さん「基本的に親は私が『やりたい』と言ったことは叶えてくれたのですが、生まれて初めて反対されて驚きました。今思うと寂しさの裏返しだったのかもしれません。けれど、『一人で大丈夫?』『お金は?』と心配事を挙げられたので、『やってやろう!』と闘志を燃やしてそれらをクリアし、説得しました」

ゆいさん「強く反対されていたので、承諾を得てから部屋を探すのは難しいと感じていました。そのため、あとは契約書に判を押すだけ、というところまで進めて、なかば強引に説得しましたね(笑)」

と、ともに綿密に自身で準備を進めてきたそうだ。
笑顔で語っていた二人だが、そこに至るまでには大変な苦労があったはずだ。それは後ほど詳しく尋ねるとして、住まいから仕事の話へとトピックが移る。

※住宅弱者……高齢者、外国籍の人、LBGTQs、生活保護利用者、シングルマザー・ファザー、被災者、障害者など、年齢、国籍、セクシュアリティー、経済力、社会的立場などを理由に賃貸の入居を断られてしまう人たち。

車いすで仕事を見つける際の課題や工夫

株式会社オリィ研究所 FLEMEE 事業責任者 加藤寛聡(カトウ ヒロアキ)氏株式会社オリィ研究所 FLEMEE 事業責任者 加藤寛聡(カトウ ヒロアキ)氏

会は続いて、仕事の経験談を共有するパートに移る。ファシリテーターは、オリィ研究所の加藤氏にバトンタッチされた。

「仕事探しで大事にしていたことは?」の問いに、今度はゆいさんが回答を求められ、ゆったりと話し始めた。

ゆいさん「親は正社員を望んでいましたが、私は雇用形態にこだわらず、いろいろと経験してきました。その中で、通勤がある仕事に就いていたときに、通勤による疲れから体調を崩してしまうことがありました。その経験から、リモートでできる仕事を探すようにしています」

牧野さん「学生時代に接客のバイトを経験していたことから、大学卒業後の就職活動でも営業職を希望していました。『やりたいことをやってみたい!』という思いと、『やりがい』を大切に就職活動をしたのですが…車いすでの職探しの大変さを実感しました」

一般的にも心身・経済的に負担の多い就職活動。車いすでの勤務は場所を選ぶことにもなるため、さらに狭き門になることは想像に難くない。

また、障害の程度によっては働き方にも独特の制限ができてしまう。
ゆいさんはヘルパーを利用しているが、ヘルパー利用とリモート就労の注意点にも触れる。

ゆいさん「ヘルパーさんが来ているときは仕事ができないので、調整が必要になります」

これは、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に定められていることが関係している。
義務的経費として給付される個別給付を利用して、マンツーマンでの対応が必要な訪問系サービスの提供を受ける場合、“通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出は対象外”とされているためだ。

さらに、希望の企業に入社できたとしても入社動機となった職種を全うできるとは限らない、という牧野さんの体験も話に上がった。

牧野さん「営業職希望で入社したものの、体調を鑑みて事務職に配属されたこともありました。それも経験値と思って取り組みました」

気持ちを切り替えて事態をポジティブにとらえる牧野さん。“働きたい”という気持ちの強さがうかがえる。

「住まい」と「仕事」それぞれを探すときに大変だったこと

「住まい」と「仕事」それぞれを探すときに大変だったこと

一筋縄ではいかない、車いすユーザーの住まいと仕事探し。その過程でも特に大変だったことについて深掘りしていく。

住まいに関しては、ゆいさんの体験にフィーチャーして話が進行していった。
車いすユーザーの部屋探しにおいて重要となるのは、不動産会社が車いすユーザーの暮らしについて見識があるかどうかだ。

ゆいさん「不動産会社は、車いすユーザーの仲介実績のある不動産営業の方を友人から聞き、その方の勤める1社にお願いしました。部屋探しの手順としては、ヘルパーさんを頼みたかったのでエリアを先に決めて、並行して福祉関連の手続きを進めました。不動産会社にはエレベーターありなどの希望の条件を具体的に出し、自力でできることの再確認を行いました」

当時を振り返るようにゆいさんは部屋探しの手順を話していたが、その過程にはトライ・アンド・エラーが何度も繰り返されたとのこと。
そうして不動産会社やヘルパー、福祉課担当者と協力して、判を押す段階まで進めたゆいさん。しかし契約を結んでも、すぐに入居というわけにはいかなかった。

ゆいさん「フロアマットやコーナーガードの設置といった室内のリフォームに2ヶ月ほどかかりました。ヘルパーさんや親と協力して行ったのですが、その間も家賃を払わないといけないので、金銭面の大変さもありました」

契約から入居までの室内の準備、入居後にすぐヘルパーを利用するための手配など、引越し準備には金銭的にも時間的にも、余裕をもって段取りを組み立てていかなければならないことが伝わってくる。

続いては、仕事の大変だったことについて、牧野さんが就職活動時と就職後の経験を語る。

牧野さん「車いすユーザーを雇用した前例がないことを理由に、最終面接で落ちたことがありました。自力では解決できないことに直面した際は、同じ職種で業界を変えてみるとよいかもしれません。たとえば、5~6年前は出社するのが前提での職種しかありませんでしたが、コロナ禍でリモートワークという選択肢が増えました。時代の変化によって環境が変わり、チャンスが訪れることもありますから」

リモートワークに話が及び、ゆいさんも同調する。

ゆいさん「今のようにリモートワークがなく、通勤が大変でした。先ほども話しましたが、一度体調を崩してしまうと復調・復帰するのも大変です。それと、収入が不安定だったことで、周りの人たちを不安にさせたこともあり、私を支えてくれていた人たちも大変だったと思います」

二人の体験に対し、加藤氏からは“車いすでの業務=事務職”という固定観念が社会の間に根強くあることを指摘。ただし、「働く側も、自分がどんなことができるのかを見てもらえるようにするとよいですね」と、アプローチの仕方の助言を添えていた。

第一部最後のトピックとして、二人から参加者に向けてアドバイスが送られた。

牧野さん「やりたいことはあきらめずに動いてみれば広がってくると思います。がんばってください」

ゆいさん「『自分には一人暮らしはできない』『働くのはムリ』と思う人もいるかもしれません。ですが、どちらもやっている人はいます。そう感じてしまうのは、実践している人が身近にいないせいだと思います。アンテナを広げつつ、自分からも発信してみてください!」

苦労した体験の先に充実した生活を送れている様子が、二人の明るい声から感じられた。同じく自立した暮らしを望んでいる車いすユーザーの仲間に対して、大いにエールとなったことだろう。

第2部/1対1の個別相談会

第2部/1対1の個別相談会

第二部は、参加者が申込み時に添えた希望に沿って、自身が抱える住まいまたは就業の悩みや不安を気軽に聞けるカジュアルな相談会だ。

実家から出て一人暮らしを考えている方の住まいの相談には、LIFULLの龔と宅建士でもあるFRIENDLY DOOR事業の担当者、ゆいさんが対応。エリアの絞り方や、部屋探しをするまでの役所への申告などの手順を説明した。
また初めての部屋探しになることから、車いす生活にフィットした物件探しの方法をレクチャー。LIFULL HOME’Sの検索ページを使って、希望エリアの相場や、間取り図を使って移動形態に合った動線の見方、物件の選び方をシミュレーションしながら、お部屋探しのイメージをもってもらうことに努めていた。
テレワークを希望する場合、住宅内での就労スペースやヘルパーの利用に関しても配慮が必要となり、車いすユーザーの仕事の問題は住まいにも直結していることが、この相談でも浮彫りになった。

仕事の相談には、オリィ研究所加藤氏と牧野さんが対応。
相談者からの働き方の質問に、「リモートワークは体力的に楽だが、出社は直接指導が得られる、とそれぞれの良さを説明するシーンも見受けられた。
加えて、求職中も“雇用する側の視点で、自分にどういう印象をもつか”を意識して、自身のことを説明する資料を作成するとよい、とのアドバイスも。就労への不安や疑問を抱える相談者にとって、心構えを整えるよい機会となったはずだ。

イベント終了後のアンケートでは、「実際直面した苦い経験をどう克服、改善してきたか聞けて良かった」「普段、社会から置いてきぼりにされがちな面にクローズアップされた貴重なイベントで、このような機会、ありがとうございます」と好意的な回答が寄せられていた。

イベントを終えて。オリィ加藤氏「多くの方に気づきやヒントを提供できるのでは」

イベントを終えて。オリィ加藤氏「多くの方に気づきやヒントを提供できるのでは」

人生において切り離せない関係にある住まいと仕事。この2つの課題について、当事者と共に考え、発信することで、多くの人に気づきやヒントを提供できるのではないか、とこのイベントは企画された。
加藤氏は「経験を持つ2名を迎え、リアルな経験談を交えた対話ができたことは、大きな価値があったと感じています」とイベントを振り返る。

加藤氏「障害のある方の住まいや就労の課題は個別性が高く、一般化しづらい難しさがあります。その中で、当事者の一次情報を直接扱えたことが、参加者にとっても貴重な機会になったのではないでしょうか」

加藤氏が事業責任者を務める「FLEMEE」では、障害者の雇用支援を通じて当事者からの相談に応じている。寄せられる声にはどんなものが多いのだろうか。

加藤氏「勤務体系などさまざまある中、最も多いのは『完全テレワークを希望したい』というご相談です。移動距離や経路、天候などによる通勤の困難、オフィスの環境に不安があることが要因といえます。
また、中には高いスキルや豊富な経験を持ちながらも、中途障害(病気や事故などによって後天的に生じた障害)によって選択肢が大きく狭まってしまう方も少なくありません。テレワークが可能であれば活かせる能力があるにもかかわらず、社会や企業側の受け入れ体制が十分に整っていない点には、まだまだ改善の余地があると感じています」

今後の取り組みに関して尋ねると、障害者雇用をはじめ、移動困難者の雇用に関心のある企業向けに、導入をサポートする伴走型プログラムの提供を開始しており、対象企業向けに複数のイベントを企画中とのこと。「他企業とコラボレーションしながら、実際に取り組む企業のリアルな事例を紹介する機会を作っていきたい」と期待をにじませていた。

参加者からも好評だった本イベント、LIFULL・オリィ研究所の両社ともに次回開催を検討しているとのこと。開催情報はFRIENDLY DOORの各種SNSにて告知予定のため、当事者はもとより、家族や支援者はぜひフォローしてお待ちいただきたい。


■Peatix 経験を聞いて相談できる!車椅子ユーザーの「住まい」と「仕事」の経験シェア&相談会(開催終了)
https://peatix.com/event/4287286/view

■株式会社オリィ研究所
https://orylab.com/

■FRIENDLY DOOR X(旧Twitter)
https://x.com/FRIENDLY_DOOR

■FRIENDLY DOOR Facebook
https://www.facebook.com/friendlydoor

■(既存記事)車いすユーザーが賃貸物件で暮らすときのポイント4選 快適に過ごすための工夫とは
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01247/

■「障害者」の表記について
FRIENDLY DOORでは、障害者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「障害者」という表記を使用しています。

イベントを終えて。オリィ加藤氏「多くの方に気づきやヒントを提供できるのでは」

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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