国内の難民支援団体をつなぐFRJの活動
難民とは、紛争や迫害により故郷を追われた人々のことだ。その数は、2023年5月時点で世界を通して約1億1000万人を突破し、さらに増加の一途をたどっているという。
2022年2月に発生したロシアによるウクライナに対する軍事侵攻により、ウクライナからの避難民が来日し、さまざまな地域で受け入れをしたことから、その存在をより身近に感じられた方も多いのではないだろうか。
しかし、日本国内に住む難民や難民申請中の人たちの暮らしぶりは、あまり知られていない。
今回は、日本国内で活動する難民支援団体のネットワーク組織「特定非営利活動法人 なんみんフォーラム(Forum for Refugees Japan、以下FRJ)」事務局の檜山怜美さんに、日本に逃れてきた難民・避難民の人の住まい、そして彼らが抱える住まいの問題について伺った。
――最初に、FRJについて教えてください。
FRJは、大阪に1団体、愛知に1団体、関東圏24団体の難民支援団体が加盟するネットワーク組織です。
26の団体は“難民支援”を共通としていますが、直接的な支援や啓発活動など、団体によって支援の形はさまざまです。そこで、FRJが各団体の支援・サービスを紹介したり、場合により調整したり、難民支援の各現場の声をFRJが集約して政策提言を行ったりしています。
――仲介をされるとのことですが、FRJが介する当事者からのニーズはどういったものがあるのでしょうか?
問合せとして最も多いのが「住む所がない」「手持ちのお金がない」「方々で支援を断られて行くところがない」です。
もう少し状況が緩やかな問題であれば、支援団体やエスニック・コミュニティ(出身国や地域、言語や宗教を同じくする人たちが特定の地域に集まっている、あるいは地域を超えてゆるやかなネットワークを形成している共同体)で解決できるのでしょうが、FRJに寄せられる問合せはかなり喫緊なものが多いです。
困窮してしまった人のセーフティーネットは、いろいろなものに阻まれてしまうので、そこをどうクリアしていくかに焦点を当てて取り組んでいます。
難民が日本に来る理由と住まいの決め方
――そもそも日本に来られる難民・避難民は、どういうバックグラウンドで来日しているのでしょうか。
理由は本当にさまざまなのですが、最もよく言われているのが、ビザが発行されたのがたまたま日本だった、というものですね。またブローカーがそのときに手配できたルートが日本で、到着するまで行き先がわからずに来日した方もいたそうです。
そのほかにも、日本が渡航の経由地になっていて、日本に着いたタイミングでその先の国で渡航禁止が言い渡されたパターンが見受けられます。引き返すわけにもいかないため、そのまま日本に滞在せざるを得ない状況になった、という方もいますね。
もちろん、安全なイメージから日本を選んだ方もいます。
今の日本政府の難民の受け入れの枠組みでは、難民認定制度による受け入れを除くと国や地域の偏りがあります。
2010年からのパイロットケースを経て開始された第三国定住制度(※1)を通じた受け入れ(タイやマレーシアなどアジア諸国から)、2015年のシリア危機を受けて開始されたシリア難民の留学生受け入れ、2021年のウクライナ危機を受けてのウクライナ避難民受け入れなどを行っています。
これまでに難民認定された人の出身国はさまざまではありますが、国による人数の差はかなりあり、2022年は圧倒的にアフガニスタン出身が多いです。
2021年のクーデター以前に認定が減った時期もありますが、それ以前はミャンマーが多い傾向でした。
また、支援団体にもよりますが、中東・アフリカ系の方からの難民申請に関する相談を多く受ける傾向もみられるそうです。
たとえばミャンマー出身者であれば、国内のエスニック・コミュニティのつながりが強く、コミュニティ内でおおよそ問題が解決できるため、支援団体へ相談に来ることは少ないようです。
それでも解決が難しい場合には、個人あるいはエスニック・コミュニティから、支援団体へ相談が寄せられることもあります。
――日本に住んでいる難民の方の住環境について教えてください。みなさん、どんなところに住まわれているのでしょうか。
出身国や状況などによっても異なりますが、大きく分けると、「シェルター」、「一般的な賃貸物件」、「公営住宅」、「社員寮」の4つになります。
※1 第三国定住制度……難民キャンプなどで一時的な庇護を受けている難民を、新たに受入れに合意した第三国へ移動し、移動先の第三国で庇護あるいはその他の長期的な滞在権利を与える制度。
(参考:内閣官房ホームページ 平成24年1月掲載 日本で自立を目指す第三国定住難民に理解と支援を~第三国定住による難民受入れ事業~)
実は数が少ない「難民シェルター」
――4つの住まいについてお伺いします。国内の難民シェルター数は、今どれくらいあるのでしょうか。
FRJが把握する限り、“難民シェルター”と銘打った民間シェルターを運営するのは国内で4団体ほどです。あとは、難民に限らず困窮者支援をしている団体のシェルター、地域によっては女性や女の子のためのシェルターの一室、修道院などを使わせてもらっている、といった感じです。総合的に見ても、部屋数は常に潤沢にあるとは言えません。
シェルターに近い住み方として、ユースホステルやホテルへの一時滞在もあります。ウクライナからの避難民の中にはホテル滞在をする方もいました。
一方、国が運営するシェルターは、2022年度時の発表では、年間25人の受け入れだったそうです。
――たった25人なのですか!
国が予算立てをしているはずなのですが、いったい年間何人と想定して算出しているのかが気になります。
――そうした難民シェルターやユースホステルなど、政府や支援団体が用意する住居は、入居期限などはあるのでしょうか?
基本的に期間が設けられています。シェルターも数が限られていますし、ロングスパンで提供するのはなかなか難しいところです。
民間シェルターの現状でいうと、そもそも難民申請の平均処理期間は2022年では約3年9ヶ月かかっていて、難民認定されてから退去するというスパンではなかなか手続きが進みません。
それに加えて、生活の基盤づくりが整わないなど賃貸物件を見つけるまでもさまざまなハードルがあり、じわじわと延長することがあります。
そのため、滞在期間をどれくらいに設定するのかは、シェルターを伴う支援活動において苦渋の選択のひとつでしょう。
本来であればシェルターは、政府が提供すべきセーフティーネットですが、それが不十分であるがゆえに民間が請け負っている部分があります。シェルターを提供しなければホームレスになってしまう。けれどもニーズの増加に対してリソースには限界があります。
――FRJでも一時シェルターを運営されていたとのことですが、運営側の視点では、どんなことが難しいと感じますか?
大なり小なりありますが、一番はボランティアの確保でした。というのも、場所を明かすことができない特性があったからです。FRJのシェルターの開所理由が、身寄りも住居もなく来日し空港で庇護を求めた(※2)人を受け入れるためで、中には特定の個人が迫害されて逃れて来る可能性も過分にありました。
そうした側面から場所は非公開だったので、公に人を集めることが難しかったです。
最終的に近隣の方には所在は知られるところとなりましたが、シェルター内に出入りするのはまた事情が違いますしね。
第二には、当事者の出身国、民族、宗教を考慮しないといけない点です。
時折どうしても空き部屋がなく、男女のカップルを男性の住むシェルターに迎え入れることがありました。そのとき先住の男性がムスリムの方だと共同生活が難しくなってしまいます。
あるいは、カメルーンからの難民に同国だからと同じシェルターに入ってもらおうとしても、英語圏とフランス語圏とで敵対しているので離さなければならないなど、状況に合わせた配慮が必要になります。
また、共同生活を送る場合、難民認定された人もいれば、申請中の人もいて、就労ができる・できないの差で不快な思いをしていた入居者の人もいたかもしれません。
自立の先が見えている人と見えていない人とが共同生活を送るための空間づくりには、配慮が必要でした。
※2 庇護を求める……日本に庇護を求めて逃れてきた者が、出入国管理および難民認定法に基づき、日本政府に難民申請をすること。空港到着時に難民申請は可能だが、一時庇護上陸許可を受け、身体拘束を解かれて地域の出入国在留管理局で難民申請をする方法もある。
数は最も多いが難題も多い「一般的な賃貸物件」
――次に、一般的な賃貸物件について聞かせてください。一般賃貸に住まわれている難民の方はどのくらいの比率でいるのでしょう?
2022年末時点で、難民の背景があって日本に住んでいる方は3万人超。難民申請者も含めると4万人を超えると考えられます。出国したり帰国したり人がいる一方で2・3世といった背景をもつ人も含めると、さらにその数字は増える可能性があります。シェルターやホテルに滞在できる人は限られているので、難民全体の比率でいえば、(賃貸物件に住んでいる人は)それほど少なくはないはずです。
――一般的な賃貸というと、後ろ盾が少ない難民の方は大変かと思います。支援団体が借り主となってサブリースするような形でしょうか?
そういった支援をする団体もあるかもしれませんが、多くは当事者が契約しています。難民申請者の中でも、仮放免(※3)でない限りは転居や移動も自由なので、住所変更の届け出はもちろん必要ですが、ライフスタイルに合う住まいを探して居住しています。生活が安定してきていたり、就労資格を得ていたりすれば、借りるハードルは少しずつ下がるので、ご自身で借りる方がほとんどなのではないかと思います。
――一般賃貸選びにはどんな難しさがあるのでしょうか?
多くの支援団体で言っているのが、“部屋が借りられない”ですね。理由をはっきり言わずに、何かしら事情をつけて断られてしまうことがあります。そのほかにも、「銀行口座を開設できる人」「6ヶ月以上の在留資格がある人」と条件を出されることもあるそうです。また、オーナーはいいと言っていても保証会社から断られる、という事例もありました。
逆に、保証会社が外国語対応可能だったことから、保証会社を通してコミュニケーションが取れるならと入居がOKになった良い事例もあります。
――入居の難しさでいうと保証人の問題もありそうです。
難民の方の場合は、日本に身寄りがいない、知り合いがいない場合がほとんどなので、連帯保証人を立てるのは難しいですね。知り合いがいても、保証人を頼めずに苦労する方もいます。
また別の事例では、難民申請中ならば事を荒らげないだろうと足元を見て、退去費用を吹っ掛けてくるケースもあるそうです。当事者も、問題を起こすと入管での審査に影響を及ぼすのではと、言われたままの額を支払ってしまうこともあるといいます。
――それはひどいケースですね。外国籍の人への偏見や在留ステータスで判断するというのは、人権問題も絡んでくるような話です。
そうですね。ただ確かに、日本の一般賃貸で家賃を払い続けるのはなかなか大変なのも事実ではあります。難民のなかには安定した収入を得て支払えている人もいれば、難民申請者への保護費(※4)を受けながら借りている人もいます。
それができない人は、親族や知人から支援を受けて家賃を支払う、といった状況です。
保護費の一部である住宅手当を支給してもらうには、賃貸借契約を結んでから申請する手順が必要になります。さらには、ウクライナ避難民の方のように、住居を確保するための一時金といった制度もありません。日本の賃貸事情にあわせて、どのような支援が実質的に必要かを考える必要があります。
――借りられたら生活基盤があることで自立に本腰が入れられそうですが、借りるまでが相当大変なのですね。
ええ。来日してすぐにシェルターに入るなど、何かしらの居住支援を受けてきた人が突然賃貸住まいになれ、と言われてもなかなか踏み出せないと思います。
日本に長年住んできた人、また日本語がある程度話せる人であれば、日本での生活経験や土地勘があるでしょうから、伝手さえあればそれほど難しくはないかもしれませんが、来日してすぐはまず難しいです。
自分の足で不動産会社へ行く、物件を何件も回って出せる家賃と希望物件との差を知って折り合いをつける…といった、手続きの過程で都度困難に直面して心理的な負荷も大きいのではと感じています。
一般賃貸を探すのに伴走支援があればいいのでしょうが、支援団体にもなかなか余裕がありません。協力してくれる・寄り添ってくれる人がいれば、当事者も頑張れると思います。
※3 仮放免……出入国在留管理局の施設に収容されている外国籍の人が、一時的にその収容を停止され、身体の拘束を解かれる制度。
※4 保護費……難民認定申請者に対する唯一の公的な生活支援金。最低限の生活を維持するため、生活費として1日1,600円(子ども12歳未満1,200円)、住宅費として単身の場合で家賃に限定して月額上限6万円が支給される。保護費を受け取れるのは、原則として難民申請が1回目の人のみ。
自治体の采配によるところが大きい「公営住宅」
――公営住宅にはどういった問題があるのでしょう?
公営住宅は、運営する自治体によって状況が異なります。どんなことが公営住宅全体の問題なのか、どうしたら自治体がよりフレキシブルに対応してくれるか、といった要因を分析することに難しさを感じています。
基本的に、公営住宅は中長期の在留資格がある人は、その他の条件も満たせば入居できることになっています。逆に考えると、中長期の在留資格があるかどうかが難民申請者にとって最初のハードルだと思われます。
それから、入居までの手続きが煩雑なので、それなりにバイタリティーのある人か、伴走してくれる支援者がいる人、担当してくれた自治体職員が非常に熱心な人など、幸運な状況でないと公営住宅には入れない、というのも耳にします。
あとはウクライナ避難民の方もそうでしたが、公営住宅の多くは部屋に家財道具が備わっていないとようです。そのときに手持ちの資金がなければ、生活に困るケースはよくありますね。支援団体の人が入居先を訪ねてみたら、部屋にやかんが1個あるだけの状態だった…なんて話もありました。
仕事と住まいを一度に確保できる「社員寮」
――では社員寮はいかがでしょうか。収入と住まいを確保できて一挙両得な印象です。
社員寮は働けている間はいいのですが、最も困るのが難民不認定になってしまったときです。
難民不認定になると在留資格がなくなり、仕事に就けなくなります。職を失うと同時に住居もなくすことになり、その際のセーフティーネットがない点が課題のひとつです。
支援団体としても、支援が必要なのはわかっているのですが、難民申請期間が平均3~4年の中で、「最善かつ永続的な支援ができる」とは一様に言えない問題もあります。
<後編へ続く>
日本に来たあとの難民・避難民の暮らしの今について、4つの住まいの在り方それぞれに、独特の問題をはらんでいる現状を知ることができた。中でも衝撃的だったのが、難民に対する民間シェルターの数と国のシェルターの数だ。その比率にスタッフ一同驚きを隠せず、知ろうとしない限り知り得ない数だと感じた。
後編では、長年日本へ来た難民の人々を見守ってきた檜山さんが感じる、難民をめぐる“今”の問題を伺う。
お話を聞いた方
檜山 怜美(ひやま・さとみ)
大学在学中に友人から誘われたボランティアがきっかけで、難民支援団体を友人と立ち上げ・運営し、国内外で活動するいくつかのNGOにてインターンを経験。大学卒業後の2014年より、日本に逃れた難民を支援するNGO/団体の全国ネットワーク特定非営利活動法人 なんみんフォーラムの事務局に参画。組織運営、各活動のためのコーディネーションのほか、国内外の関係機関の連携・協力の促進、支援現場の声をとりまとめた政策提言などを担う。
▼特定非営利活動法人 なんみんフォーラム http://frj.or.jp/
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年9月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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