「借りたいのに借りられない」。住まい探しに困難のある人を支える居住支援法人
「独居老人ということで(入居を)断られた」
「物件の内覧を希望した際にひとり親家庭で生活保護利用者ということを不動産会社に伝えたら、その後返事がなかった」
「女性同士のカップルはトラブルが多そうという理由で入居を断られた」
「(被災した)詳細を聞かれ嫌な顔をされ、それ以降は嫌々対応された」
「精神障害者ということで契約が破棄になったり、『精神障害者には貸せる物件がない』と言われた」
「No rent to foreigners.(外国籍には貸し出してもらえなかった)」
これらは、LIFULL HOME’Sが高齢者、外国籍、LGBTQ、生活保護利用者、シングルマザー・ファザー、被災者、障害者といった“住宅弱者”を対象に2019年・2020年・2022年と3度にわたって行った、「住宅弱者の『住まい探し』に関する実態調査」に寄せられた声だ。
この声が表すように、さまざまなバックグラウンドを理由に住まい選びが難しくなっている人がいる。
住まいを選ぶことができる権利が平等にあるとは言い難いこうした状況に、住まいの確保を手助けする法人「居住支援法人」があるのをご存じだろうか。
今回は、セーフティネットの一端を担う、居住支援法人について掘り下げていく。
居住支援法人とは
社会福祉と住まいについて調べると、必ず出合う言葉「居住支援法人」。居住支援法人とは「住宅確保要配慮者居住支援法人」の略称で、住宅確保要配慮者(※1)、上記で述べた住宅弱者の民間賃貸住宅等への入居を円滑化する活動を行う、都道府県から指定を受けた法人団体のことだ。
何らかの事情を抱えた人たちを支援するNPOや社会福祉法人、ソーシャルビジネスを展開する企業が、当事者への支援の一環で住まい探しを助けることは往々にして行われてきた。
しかし、支援活動を行う側にとって負担は大きく、持続する課題があった。
そこで政府は、セーフティネット機能をより強化させるため、居住支援法人の制度を盛り込んだ法改正を2017年10月に施行。それにより、住宅弱者への入居相談や生活支援を担う居住支援法人の役割が、法的に位置づけられたのである。
居住支援法人は、居住支援を行う各法人が都道府県に申請を行い、申請を受けた知事が選定のうえ指定、国から指定された法人に活動に充てる補助金が支給される仕組みだ。
法改正から6年が経過し、不動産、福祉、士業関係などさまざまな法人が居住支援法人の指定を取得。2024年6月30日時点で、全国で814法人が登録、897の窓口が存在し活動している。
※1 住宅確保要配慮者…住宅セーフティネット法で定められた、住宅の確保に特に配慮を要する人。月収(政令月収)が15万8,000円以下の世帯の低額所得者、発災後3年以内の被災者、東日本大震災等の大規模災害の被災者、高齢者、障害者、18歳未満の子どもがいる子育て世帯、外国籍、中国残留邦人、児童虐待を受けた者、ハンセン病療養所入所者、DV被害者、拉致被害者、犯罪被害者、矯正施設退所者、生活困窮者が該当する。また自治体によっては、新婚世帯やLGBTQ、U・I・Jターン者などが対象となる場合もある。
居住支援法人の支援①住宅相談など賃貸住宅への円滑な入居支援に係る情報提供・相談
居住支援法人の活動は大きく3つ、①入居支援、②家賃債務保証、③生活支援にカテゴライズされている。①~③のすべてをカバーする法人もあれば、いずれかを行う法人もあり、その支援内容もさまざまだ。
入居支援の具体的な内容は、住まいに関する相談、不動産事業者・物件の紹介、内覧同行や賃貸借契約時の立ち合い、支援プランの作成、必要なサービスのコーディネートなどが該当する。
そのほか、法人で借り上げた物件へのサブリースの形での入居や、運営するシェルター等への一時的な入居といった、緊急性の高い支援もここに含まれる。
たとえば、シングルマザー支援の法人による入居支援では、子どもの学校や保育所を考慮した家探しをするという特色がある。
入居支援を支援内容として登録している法人の種類を挙げると、NPO法人、一般社団法人、公益社団法人・財団法人を含む一般財団法人、社会福祉法人、居住支援を目的とする会社など幅広い。各法人の強みに特化した分野で支援を行う。
居住支援法人の支援②登録住宅の入居者への家賃債務保証
家賃債務保証の具体的な内容は、セーフティネット住宅(※2)への入居に伴う家賃債務保証を行う、というものだ。
住宅弱者の借りにくさのひとつに、そのバックグラウンドに起因する家賃滞納の可能性を理由に、大家や管理会社から入居を拒まれることが挙げられる。さらに“連帯保証人がいない”となると、その壁はさらに高くなってしまう。
滞納のリスクを家賃保証会社のサービスを利用することで解消できるが、家賃保証会社でもまたバックグラウンドが理由で与信に通らず、サービスを受けられないことも少なくない。
そこで、住宅弱者への居住支援として賃貸保証を行うのが、“家賃債務保証支援”だ。
これにより、当事者だけでなく、大家や管理会社への信用が担保されることにもつながる。
家賃債務保証支援は、入居支援と比べて対応する法人の数は少ない。
主に、家賃保証を行う債務保証会社や信販会社といった企業のほか、居住支援法人が保証会社や財団と連携する形で行っている。
また住宅弱者への与信に限らず、見守り事業を行う支援団体等と協力して、家賃滞納を防ぐ活動を行う企業もある。
※2 セーフティネット住宅…新たな住宅セーフティネット制度によって、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として登録された賃貸住宅。
居住支援法人の支援③見守りなど要配慮者への生活支援
生活支援の具体的な内容は、主として入居後に付随する支援だ。
安否確認、緊急時対応(緊急通報・駆けつけ等)、定期または随時の訪問(見守り・声かけ)、生活支援(家事・買い物支援等)、金銭や財産の管理、近隣との関係づくり、サロン等への参加、近隣や家主との間のトラブル対応、就労支援など多岐にわたる。
さらに具体的に見ていこう。
独居高齢者数が増加傾向にある昨今。「高齢者の見守り事業」とひと口に言っても、アプローチは実に多彩だ。
高齢者家庭への訪問、配食サービス、乳酸菌飲料等の配達、新聞・郵便・宅配・ごみ回収等、電話訪問・相談、救急キット・安心シート・連絡カード等による事故防止対策の実施、緊急通報システム機器の設置、高齢者見守りネットワークの活用…といった、さまざまな手法がとられている。
また高齢者の賃貸で注視されるのが、孤独死の問題だ。これに関しても、死後事務委任(行政への諸手続き、関係者への連絡)等・家財処分や遺品整理・葬儀や納骨、といった事柄を事業化する居住支援法人もある。
高齢者のほかにも、生活困窮者向けには「フードバンク」を活用した食糧支援、LGBTQのための職場紹介や就労相談といった、バックグラウンドに特化した支援を打ち出している法人もある。
生活支援を行う法人は、NPO法人、一般社団法人、社会福祉法人、居住支援を目的とする会社等の幅広い団体が登録している。
こうした入居支援・家賃債務保証・生活支援の3つに加え、それに付帯する業務も、居住支援法人の助成対象に含まれている。
おわりに
居住支援法人は、いわば住宅弱者に特化した安定した住まいを支えるスペシャリスト。適切な対応方法を知る居住支援法人に協力を仰ぐことで、“かなえたい暮らし”の実現に一歩近づけるはずだ。
記事内で紹介した支援内容のとおり、法人それぞれの活動は幅広いうえ、支援も各法人の強みを生かした特色あるものが多く見受けられる。
LIFULL HOME’S ACTION FOR ALL編集部では今後、そうした独自の活動展開する居住支援法人をフィーチャーして取り上げていきたい。
■参考記事
家賃保証が居住支援法人と連携して住宅弱者の暮らしを後押しする ナップ家賃保証の居住支援
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01141/
精神障害者の部屋探しに必要なことは? NPO法人東京こうでねいと代表に聞く支援の裏側
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01155/
ホームレスの“自立”を“孤立”にしない。北九州市NPO「抱樸」の住宅セーフティネットとは
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_00620/
居住支援はハードとソフトで。居住支援全国サミットから、住まいと福祉の一体的支援を考える
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01088/
低所得の高齢者を守る空き家活用等の取り組み~「医療と住まいの新しい関係」シンポジウム
https://homes.co.jp/cont/press/rent/rent_00276/
■参考
国土交通省「住宅確保要配慮者居住支援法人について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr7_000026.html
厚生労働省「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等
(住宅セーフティネット法)の一部を改正する法律の公布について(情報提供)」
■「障害者」の表記について
FRIENDLY DOORでは、障害者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「障害者」という表記を使用しています。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出合える世界の実現を目指して取り組んでいます。
公開日:
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