家賃が払えないという人は少なくない

「賃貸住宅に住みたくても住めない!」そんな社会的弱者が今後ますます増加しそうだ。たとえば大家が入居を拒むことが多い単身高齢者世帯の数は、2015年時点で625万世帯と全体の11.7%だったが、2040年には900万世帯に迫り全体の17.7%になる見込みである(厚生労働省「生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案について」)。また、50歳代以下の持ち家率は年々下がっている。たとえば40歳から49歳を見ると、1993年の持ち家率は67%だったが、2018年は58%だ。持ち家がない人たちの多くは、賃貸住宅に住むことになるが、高齢や低迷する日本経済の影響などから収入が減ったといった理由で家賃が払えないという人は少なくない。

上:単身高齢者世帯数の推移。2015年時点で単身高齢者世帯数は全世帯中11.7%だったが、2040年には17.7%に増加する見込み。下:年代別持家率の推移。40歳から49歳の場合、1993年時点では67%が持家に住んでいた。それが2018年には58%に減少している。50歳から59歳でも同様の傾向がある(出典:厚生労働省「生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案について」)上:単身高齢者世帯数の推移。2015年時点で単身高齢者世帯数は全世帯中11.7%だったが、2040年には17.7%に増加する見込み。下:年代別持家率の推移。40歳から49歳の場合、1993年時点では67%が持家に住んでいた。それが2018年には58%に減少している。50歳から59歳でも同様の傾向がある(出典:厚生労働省「生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案について」)

そこで国は、生活困窮者自立支援法に基づく住居確保給付金という制度を設けている。これは月々の支出のうち、もっとも大きな割合を占める家賃を一定期間支給する制度だ。同制度のきっかけは2008年9月のリーマンショックだった。この世界的な金融・経済危機によって、2009年7月の失業率は5.5%と戦後最高水準にまで達した。そのため、2009年10月に住宅手当緊急特別措置事業がスタート。2013年4月に住宅支援給付金となり、2015年4月に住居確保給付金に名称が変更された。そして2024年4月17日、改正生活困窮者自立支援法が参院本会議で可決・成立した。これに伴い住居確保給付金も2025年4月1日に拡充されることになる。

最大9ヶ月間にわたって家賃を支給

住居確保給付金の新規支給決定件数は、制度がスタートした2015年度から2019年度まで約4,000件から7,000件で推移していた。それがコロナ禍の影響などで2020年度は約13万5,000件、2021年度は約4万6,000件、2022年度は約2万4,000件となっている。年々減少しているものの、コロナ禍前の水準には程遠い。

住居確保給付金のおもな制度内容は以下になる。

●給付額

市区町村ごとに定める額を上限に実際の家賃額を原則3ヶ月間支給。ただし、一定の条件を満たす場合は2回まで延長可能で最大9ヶ月間支給。給付金は、自治体から大家等へ直接支払われる。

支給上限額例(東京都特別区の場合・月額)
単身世帯:5万3,700円 2人世帯:6万4,000円 3人世帯:6万9,800円

●対象要件

次の1~4のいずれにも該当する人が対象となる。
1. 離職・廃業後2年以内もしくは個人の責任・都合ではなく給与等を得る機会が離職・廃業と同程度(※)まで減少している。
2. 直近の月の世帯収入合計額が、市町村民税の均等割が非課税となる額の12分の1(以下、基準額)と家賃(上限あり)の合計額を超えていないこと。
3. 現在の世帯の預貯金合計額が、各市町村の定める額(基準額の6月分。ただし100万円を超えない額)を超えないこと。
4. ハローワーク等に求職申し込みをし、月2回以上の就職相談、週1回以上の企業等への応募を行うこと。ただし自営業者については、求職の申し込みの代わりに事業再生の活動が認められる場合もある。

※ 同程度とは「景気悪化によりアルバイトのシフトがカットされた」等が考えられるが、個別判断になるので後で説明する自立相談支援機関に相談してほしい。「2」と「3」もわかりづらいので、自立相談支援機関に確認したほうがいいだろう。

なお、会社員、アルバイトだけでなく自営業者やフリーランスでも申請可能だ。

市区町村等が直接大家等へ給付金を支払う

手続きの流れは以下のとおり。

●手続きの流れ

1. 申請者が自立相談支援機関へ相談し、申請書類等を提出する
2. 自立相談支援機関が居住する市区町村等へ申請書類等を送付する
3. 市区町村等が自立相談支援機関へ決定通知書等を送付する
4. 自立相談支援機関が申請者へ決定通知書等を送付する
5. 市区町村等が直接大家等(賃貸人等)へ給付金を支払う(代理納付)

自立相談支援機関とは、生活困窮者自立支援法に基づいて市区町村(福祉事務所のない自治体の場合は都道府県)が開設している相談窓口だ。家賃の支払いに困っている人だけでなく、ひきこもり、多重債務、DV被害などさまざまな事情で生活に困っている人からの相談を受け付けて自立に向けた支援プランを提供している。なお、自立相談支援機関には、自治体の直営と民間事業者に委託しているものがある。各市区町村の自立相談支援機関は、下記厚生労働省のサイトで簡単に見つけることができる。
https://corona-support.mhlw.go.jp/jukyokakuhokyufukin/counter.html

住宅確保給付金の手続きの流れ。自立相談支援機関を介して賃貸人等(大家等)へ直接支給される(出典:厚生労働省「生活支援特設HP」)住宅確保給付金の手続きの流れ。自立相談支援機関を介して賃貸人等(大家等)へ直接支給される(出典:厚生労働省「生活支援特設HP」)

申請に必要な書類

●本人確認書類
運転免許証、マイナンバーカード、住民票等。顔写真付きの証明書がない場合は2つ以上必要になる場合がある。

●収入が確認できる書類
申請する人および同居している人の給与明細、年金などの公的給付金の証明書等。ただし、各種控除がされる前の額がわかる必要がある。

●預貯金額が確認できる書類
申請する人および同居している人の金融機関の通帳の写し。

●離職・廃業や就労日数・就労機会の減少が確認できる書類
離職・廃業後2年以内の場合:離職票、離職証明書、廃業届等。

個人の責任・都合ではなく給与等を得る機会が離職・廃業と同程度まで減少している場合は、勤務日数や勤務時間の減少が確認できるシフト表等。

引越し代も補助へ。まずは自立相談支援機関に相談を!

住居確保給付金の2025年4月1日からの拡充内容は、「家賃の低廉な住宅への転居支援」だ。自分の収入に合ったより低廉な家賃の物件に引越すことができれば、長く住み続けることができ、自立の促進につながる。そのための引越し代や礼金等を補助してくれるのだ。これについては、求職活動を要件としない。ただし、厚生労働省に確認したところ決まっているのはここまでで、補助額などの詳細は2025年4月1日までに確定することになる。

以上のように住居確保給付金制度は、家賃の支払いに困っている人の強い味方だ。「自分なんかよりもっと困っている人がいる」と我慢している人もいるかもしれないが、まずは居住する市区町村の自立相談支援機関へ相談してみよう。なんらかの糸口が見つかるはずだ。

公開日: