行き場のない子どもたちを受け入れる一時避難場所を提供する
「子どもシェルター」は、虐待やネグレクトなど、家庭に居場所がなく緊急性の高い子どものための一時避難場所だ。児童相談所では一時保護の対象の大半が中学生までであることに加えて、児童福祉法は18歳未満にしか対応していないという理由から、集団生活が合わなかったり行き場のなかったりする10代後半の子どもたちを主に受け入れている。
今回、日本初の子どもシェルター「カリヨン子どもの家」を設立した、社会福祉法人カリヨン子どもセンター理事の坪井節子さんにお話を伺った。
坪井さんは心の揺れ動きが大きい思春期にもかかわらず、「家庭」という安住の場所がない子どもたちに、長年にわたり弁護士として寄り添い続けてきた。カリヨン子どもの家の活動と、そこに込められた想いを伝える。
虐げられてきた子が尊厳を取り戻し、踏み出す場 「子どもシェルター」
――まず「子どもシェルター」がどんな場所であるかを教えてください。
今はさまざまな場所に「子どもシェルター」と呼ばれる施設があります。
私たち弁護士が中心となって設立したカリヨンの子どもシェルターは、厚生労働省の認可を受けた自立援助ホームの特別形態として運営する「自立援助ホーム(子どもシェルター)」です。
中学卒業後の15歳から20歳になるまでの子どもで、家族の元から出て行かなければならなかったり、すでに家出をしていたりという、「今晩泊まる場所がない」という危機的状態にある子どもたちを対象にしています。
子どもシェルターは、逃げる意志を持った子に「子ども担当弁護士(通称・コタン)」がつき、親権者には弁護士が法律的に対応して、緊急的にかくまう場所です。そこで2ヶ月程度の短期間で次の安心できる場所を探します。医療でいえば、救急救命室みたいなものです。
――今でこそ、そうした“子どもが安心して逃げ込める場所”ができたわけですが、カリヨンを設立する以前、子どもたちはどういう状況に置かれていたのでしょうか。
まだカリヨンがなかったころ、東京弁護士会子どもの人権救済センターが運営する「子どもの人権110番」にかかってきた相談を受けたときのことです。「もうこれ以上親から殴られたくなくて家を出たけれど、これからどうしたらいいですか」という相談がありました。私は、その子の住所を聞いて、「管轄の児童相談所にこちらから連絡を入れるから、そこへ行くように」と言うことしかできませんでした。
にもかかわらず、児童相談所の職員からは親に謝って家に帰るように促されたり、18歳以上であることを理由に断られたりしていたようです。
仕方がないので、弁護士仲間の家にかくまってもらったり、自宅で保護したりしていましたね。
ただ、そうした子どもたちのケアやお世話と、弁護士の仕事との両立は本当に大変でした。保護したかった子が、私の子どもが熱を出していいたため「友達の家に泊まるから大丈夫」と遠慮してしばらく音信不通になったのち、警察に保護されたこともありました。話を聞くと、年齢を偽って風俗店の寮に泊まりながら働いていた、と…。
助けを求めてきた子どもたちの居場所が日本にないこと、弁護士が24時間子どもたちを見るのは難しいことを痛感しました。
そういう経験があって、カリヨンをつくりたいと思ったのです。
――日本にはなかったということですが、参考にした海外の施設があったのですか?
1990年ごろにフィリピンやタイなどで、少女たちが日本人も含めた外国人買春による性虐待を受けている事例を知って、ショックを受けました。
そうした子どもたちがどんなふうに保護されているのか、仲間を募って現地へ学びに行ったことがあります。そこである保護施設を訪れた際、とてもビックリしたのです。そこは住む場所であり、学校があり、医師やソーシャルワーカー、弁護士まで常駐している施設でした。当時の日本では福祉と法律は別の問題だと思われていました。社会福祉に弁護士が関わることはほとんどなかく、福祉の施設に弁護士が常駐するなど考えられませんでした。
弁護士が常駐しているのは、少女たちが自分を売ったブローカーや親を刑事告発するためです。少女たちに、自分が被害者であることを法廷で語れるように力をつけさせる。そこまで取組んで初めて子どもたちにとって本当の救済になる、という考え方でした。
「弁護士が福祉の分野で働く」という意味、子どもを支援する輪の一つとして弁護士が入ることの意義を、そこで教えられました。
これらの体験はのちに子どもシェルターを構想したとき、福祉支援、医療的支援、教育的支援と同時に法的支援として弁護士が入って、皆でスクラムを組んで子どもの権利を保障する感覚を養うことにつながりました。
居場所のない子はまず「子どもの人権110番」に電話を
――虐げられてきた子どもにとって、それほどまでに強く支えてくれる大人のいる場所は心強いと思います。「身を守りたい」「逃げたい」と思った子がカリヨンを頼りたいと思ったとき、どうしたらいいのでしょう?
助けてほしいと思ったら、まず東京弁護士会「子どもの人権110番」に電話をかけてほしいです。そのときに電話対応をした弁護士がコタンになり、カリヨンにつなげる、というシステムになっています。
子どもからの直接のコンタクトでない場合は児童相談所へ子どもが行き、相談所の方からカリヨンに連絡が入るというケースがかなり多いですね。
高校の先生、特に定時制の高校の先生からご連絡を受けることもありました。困難を抱えている生徒がいることを児童相談所に連絡したところ、カリヨンを紹介してもらうケースもあるようです。
ただ、正直なところ、今は定員がいっぱいで受け入れが間に合っていない状態です。
千葉や神奈川、埼玉にも子どもシェルターがあるので、カリヨンに入居できなくても、そちらにお願いして連携を取っています。
それ以外でも、子どもの一時支援を行っているNPO法人に応援を要請したり、17歳以下であれば児童相談所での再保護、18歳以上の女の子であれば女性シェルターにごく短期でも保護をお願いしたりしています。
ネットのつながりではなく、職員が直接向き合い寄り添う カリヨンでの暮らし
――では、今度は入居してからのことを聞かせてください。カリヨン子どもの家で、子どもたちはどのように過ごしているのですか?
男女ともに、定員は6名です。1階にダイニングとリビング、スタッフルームがあり、居室は2階という間取りになっています。
日課はとくにありませんが、スタッフと遊んだり、居室で読書や勉強をしたりするなど、各自が自由に一日を過ごしていますね。
ただ、安全上の問題で個人の通信機器は使えません。親や反社会勢力にGPS等で追跡されている可能性がある、また、誰かがインターネット上に位置情報を発信してしまうと、シェルターが現在の場所で運営できなくなるおそれがあるからです。
インターネットの使用や、SNS上でのつながりを支えにしている子どもたちの気持ちも重々理解していますが、シェルター入居期間中はお友達やSNSの交流ができなくなることを理解してもらいます。話をしたくなったり、不安になったりしたときは職員が対応しています。
そうした気持ちをSNSやゲームで紛らわすのではなく、「何を考えているか」「どうしていきたいと思っているか」を職員や弁護士が受け止めることで、支援の方向性を決めることに役立てられるという側面もあります。
――実際にカリヨンを利用した子どもたちはどうに変わっていきますか?
最初は「この子とどう話をしたらいいんだろう」と思うほど何も語らなかった子が、毎日スタッフと接したり、子ども担当弁護士が熱心に通ったりするうちに、ポツリポツリと話をしだすのです。これは子どもの中では大きな変化だと思いますし、私にとってもうれしい変化ですね。
虐待を受けた子どもたち、特に思春期の子の負のパワーはかなり強いです。リストカットをしたり、薬を飲んだり、暴言を吐いたり、物を投げたり、過食になったり…。自分が愛されていないという思いから、さまざまな「試し行動」をしてきます。
ですので、子どもたちに対峙するスタッフのメンタルケアも大事です。「ひどい言葉を直接投げかけられるのは、あなたが悪いからじゃないんだよ」と、いったん子どもから離して休ませて、別のスタッフが対応する、といったメンタルケアをし合っていかないとなりません。辛抱強く向かい合ってくれているスタッフには、本当に頭が下がります。
――シェルターの滞在期間は最長で2ヶ月とのことですが、退居後はどうしているのでしょうか。
自立援助ホームに移る子が一番多いですね。ただ、自立援助ホームもどこも満杯なのが現状です。
家に帰る子は6~7人に1人いるかどうかです。その場合、親自身が虐待していたことを認めて変わってくれるご家庭でなくてはなりません。
そのほか、新聞配達などの住み込みの寮に入る子もいますし、病が重くて入院の必要がある子、生活保護を利用してアパート暮らしをする子もいます。
施設を離れた子を見守る仕組みを。もっと子どもたちを救う場を
先ほども触れましたが、カリヨンを離れたOBOGの子、社会的養護を離れた人のことを「ケアリーバー」と言います。彼らのような若者の支援をどう構築していくのかが非常に大きな課題になっています。
妊娠してしまった、彼氏からDVを受けた、結婚したけれどすぐに離婚することになった、給料が払われずに家賃が払えなくなったなど、さまざまなことが起きますが、彼らには帰る家がありません。そして、社会的養護から離れた若者を支援する制度があまりにもありません。SOSを出す若者たちをどう救うかが大きな問題になっています。
生活保護や就労支援など支援の種類は多いですが、バラバラです。チームになって若者を支える必要があると思います。
それには子どもシェルターにおけるコタンのように、ケアリーバーの伴走をするキーパーソンが必要で、そういう人がいないと包括的に支えるチームはなかなか成立しません。
もう一つは、子どもの権利擁護に特化した第三者評価機関の確立ですね。児童福祉施設は、第三者評価を受けることが努力義務として求められています。子どもにとって適した施設の運営がきちんとなされているかなど、第三者の目でチェックを受け、外部の専門家の助言を得て、改善を目指すシステムを実現していくことが課題になっています。
参考:日本児童相談業務評価機関
そして、全国各都道府県に1軒ずつ子どもシェルターがあってほしいと思っています。現状19ヶ所で運営されていますが、まだまだだと感じています。
子どもシェルター新設団体への伴走支援が、2021年度から2024年度まで、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)の休眠預金活用事業に採択されました。全国の子どもシェルター運営団体で組織する子どもシェルター全国ネットワーク会議が、公益財団法人パブリックリソース財団とコンソーシアムを結び、現在子どもシェルターのない都道府県への5軒程度のシェルターの立ち上げを、資金とノウハウ伝授の両面から支援する取組みです。
シェルターを立ち上げる実行団体は、その地域の人が担わなければならないため、弁護士や市民、医療関係者、福祉関係者の中で取組みたい意志のある方がいれば、その人を皆で支援して、シェルターを増やすのが目標です。
参考:
一般財団法人 日本民間公益活動連携機構
パブリックリソース財団 子どもシェルター新設事業≪休眠預金活用事業≫
寄り添う気持ちと目線が、虐待を受けた子どもの生きる気力に
――最後に、こうした子どもをめぐる支援に接していない一般の人たちが、生きづらさを抱える子どもたちに何かできることはあるでしょうか。
こういう子どもたちがいることをまず知ってほしいと思います。家に帰れずにいる子たちに対して「何怠けているんだ」「なんでもっとしっかりやらない」「なぜできないんだ」と非難する人たちが非常に多いです。
一人で生きてこなければならなかった子どもや若者が抱える困難が、想像を絶するものだということを、想像力をもって理解してほしいです。
それによって、彼らに直面したときの接し方が変わると思います。彼らの困難に思いをめぐらせれば、「この子は一体何に苦しんでいるのだろう」「どうしてこんな話し方をするのだろう」と背景に目を向けたり、理解を深められたり、その人の困りごとが見えてきたときに「私なら何ができるだろう」、そういう視点で付き合っていけるのではないかなと思います。
その人たちが、傷ついているけれど一人の人として、誇りを持ちたいという気持ちでいることを理解してほしいと願っています。
何か特別なことをする必要はないんです。彼らの一番の恐怖は、一人ぼっちであること。私たちも彼らも、小さな存在です。
小さな存在でも、傍らに寄り添って、じっと話を聞くことはできます。じっと話を聞いて「私には何もできなくてごめんね。でも、あなたに生きていてほしい」――その気持ちを伝え続けていきたいと思っています。
開設当初と今、18年近く子どもたちを身近で見てきた坪井さんに子どもたちの変化を伺ったところ、今の子どもたちは精神面で課題を抱えている子が多い、という見解だった。孤独と戦って心をすり減らす子どもたちがいる。可能性を秘めた子どもたちの未来を明るくするのは、大人たちの寄り添う気持ちなのかもしれない。
お話を聞いた方
坪井節子(つぼい・せつこ)
1953年生まれ、東京都出身。1978年早稲田大学第一文学部哲学科卒業後、1980年4月東京弁護士会にて弁護士登録。1984年4月坪井法律事務所開設。1987年11月から、東京弁護士会子どもの人権救済センター相談員、東京弁護士会子どもの人権と少年法に関する委員会委員などを務める。2004年6月NPO法人カリヨン子どもセンターを立ち上げ、2008年3月に社会福祉法人化する。2020年6月理事長を退任。現在は、理事として団体の運営と子どもたちの見守りに尽力する。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note2021年12月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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