同性カップルの部屋探しが困難である実情とは

心を通わせた人と一緒に暮らす部屋はありのままの自分でいられ、安心を得られる場所にしたいものだ。しかし、その場所となる賃貸物件を同性カップルが探そうとすると、男女のカップルのようにはいかないという。

来客の9割がLGBTsの方という株式会社IRIS(アイリス)は、性的マイノリティ当事者の不動産仲介をはじめとしたライフプラン支援を多く手がけている企業だ。その代表であり、ご自身も当事者としてLGBTsに関する活動を展開する須藤啓光(すとう・あきひろ)さんに、LGBTsにまつわる住まいのトラブルのひとつ「同性カップルの部屋探しの困難」の実情について伺った。

※今回の記事では、LGBTに限らずすべてのマイノリティに親切な企業でありたいというIRISが掲げる思いを踏まえ、LGBTsと表記している。

同性カップルの部屋探しが困難である実情とは

男女カップルのようにはいかない同性カップルの賃貸事情

――IRISにいらっしゃるお客様の9割がセクシャルマイノリティの方だとうかがいました。「部屋が借りづらい」というのは具体的に何が問題ですか?

セクシャルマイノリティの問題は大きく2種類に分かれます。1つは同性カップルの問題、もう1つはトランスジェンダーの問題です。同性カップルが部屋を探す場合、日本ではまだ法的な婚姻関係になれないので、ルームシェアという定義に当てはめられることが多いです。

――ルームシェアだと寝室が2部屋になったりするのでしょうか?

そこを理解してもらうのが課題になってきます。カップルなので、部屋は1LDKでもいいわけです。カミングアウトをしていないお客様が他社で物件探しをする際に直面する壁はまさにそこです。希望を説明したくてもしづらく、精神的な負担が大きいところが問題ですね。

また、カミングアウトしている・いないにかかわらず、男性カップルが来店すると良い顔をしない不動産会社の担当者もいます。接客の際に「いいですね~」などと言いながらも冷ややかな目線で見てくる担当者や、中にはあからさまに態度に出して軽蔑してくる担当者もいるそうです。

レズビアンカップルの方も、不動産会社での接客時に嫌な思いをすることがあります。二人でお部屋探しに行って「レズビアンカップルなんです」と言うと、本来お部屋探しとは関係ないプライベートな部分にズカズカ入ってくるような質問をされることが多いそうです。でもそれって、そもそもLGBTsに限った問題ではなく、その担当者のリテラシーの問題ですよね。ただ、そういったことでお部屋探しのしづらさを感じる方が多いです。

――やはり、一般的な不動産会社だと断られがちですか?

「ご紹介できる物件は少ないですね」「難しいですね」などと言われることが多いです。あとは、とりあえずやってみようという精神で、まずは提案をしてみますが、いざ図面に「二人入居可」と記載のある物件に申し込みを入れてみると、やっぱりだめだった……ということが多いです。たいてい大家さんの前、まず管理会社さんで断られてしまいます。

「二人入居可」なのに入居できないワケ

――入居ができないのにはどんな背景があるのでしょう?

「二人入居可」というのは、結婚しているなど、法的な関係性もしくは親族であることが、条件となる場合が多いです。そのため、一般的には同性カップルはルームシェアの扱いになります。ですから、物件情報に記載されている「二人入居可」には該当しないことが少なくありません。一般の方はそれが分からなくて申し込みをしてみるのですけれど、結局うまくいかず、IRISへ相談にくる方が多いですね。

IRISで物件を紹介するときには、ルームシェア物件は数が少ないので、二人入居可の物件も紹介できるようにニーズに合った物件を紹介します。そのあとに1件1件管理会社や大家さんへアポを取って、説明と交渉をして、クリアできた物件だけを紹介するようにしています。

――男女のカップルの方だと婚約しているなど、結婚前の状態でも借りられますよね。

実は男女間であれば、一般的な不動産会社はわりと何でもOKしてくれます。「これから婚約します」という状況でも借りられます。
パートナーシップ制度が広がりつつある今でこそ、同性カップルも公的書類の提出ができますが、昔は「カップルの証明って何?」という反応でした。
パートナーシップ制度が施行されているのは東京23区の中でも7区ぐらいで、まだまだ限られています。「これからパートナーシップ制度を使いたいな」と考えている方々が、審査の段階でパートナーシップ証明書の提出を求められても対応できません。
時代の変化によって、パートナーシップ制度があれば申し込みできる物件も増えましたし、逆に「パートナーシップ証明書がないとダメ」という案件も増えてきました。

――そうなると、パートナーシップ制度がある自治体のほうが、物件が借りやすいですか?

圧倒的に紹介しやすいです。ただ、借りやすいだけじゃなくて、自分のライフスタイルや自身の心の在り方を大切にしていらっしゃる方も多いので、そういう部分に寛容な中野区や渋谷区が人気ですね。

「二人入居可」なのに入居できないワケ

ゲイカップルとレズビアンカップル それぞれがぶつかる壁

――ゲイカップルとレズビアンカップル、住まいを探す中で苦戦することに違いはあるのでしょうか?

どちちも法的な課題や社会の偏見によって、部屋探しが難しいという点は同じです。違いがあるとすると、ゲイカップルは、男性同士だと「うるさそう」「物を壊しそう」「部屋を汚く使いそう」などの先入観を持たれやすく、審査が通りにくいことがあります。

一方で、レズビアンカップルの場合、男性同士のような先入観は持たれにくいものの、別の理由で壁にぶつかってしまうこともあるようです。社会の構造として男女の賃金格差はまだまだ大きく、女性の非正規雇用の割合も男性に比べて高い現状があります。女性同士ということで経済的に不安定な場合も多いため、審査で不利になってしまい、物件の選択肢が限られてしまうケースもあると聞きました。

ゲイカップルとレズビアンカップル それぞれがぶつかる壁

LGBTsにフレンドリーな不動産屋にめぐり合うには?

――お話を伺っていると、部屋探しの最初の窓口である不動産会社で可・不可が振り分けられてしまっていることも多いと感じます。

そうですね。かなりつらい思いをされている人も多いと思います。ですから、LGBTsにフレンドリーだとうたっている不動産会社さんを利用するほうが、安心できるのではないでしょうか。

――そうした不動産会社を探すコツなどはありますか?

正直なところ、行ってみるしかないです。インターネットでフレンドリーな会社を探すときの一例ですが、「顔が見える不動産会社さん」を選ぶといいと思います。IRISのホームページの場合、スタッフの顔を全員見せるようにしていて、顔出しできない人はイラストなどで紹介しています。どういう人たちが働いているのか見えたほうが、当事者は安心するのではないかとの思いからです。
ユーザーの目線で、その不動産会社さんがどういう方々かをイメージできるところかどうか、リサーチすることをおすすめします。
たとえば、ホームページにはLGBTsについて記載してあるけれど、更新されていない場合、現在はその熱量が下がってしまっているという可能性もあります。それと、レズビアンのお客様には女性のスタッフが向いているでしょうし、ゲイのお客様は男性のスタッフのほうが話しやすいでしょうね。

本来の部屋探しにジェンダーは関係ありません。私たちは不動産業のプロとして仕事をこなすだけですから、ごくごく当たり前のことをするだけです。そこの認識がブレている人が多いな、という印象はあります。

LGBTsにフレンドリーな不動産屋にめぐり合うには?

「本当はLGBTsフレンドリーとうたいたくない」―IRISが行っている取組み

――不動産会社側にそういった性別に関するバイアスがかかったままであることが、部屋探しを難しくしているのかもしれませんね。

そうですね。日本って、見えない差別が多いと思います。自分の実体験でもあるのですが、弱者が取り残されていて、それを救おうとしてくれる人はいるけれど、根本的な解決がとても大変です。そして、そうした問題に無関心な人が多い。関心がないから、手を差し伸べてくれる人が少ないのだと思います。LGBTsに限らずマイノリティは多くて、そこから生まれる差別にも、関心がなくて気づいてもらえない。

一当事者として、LGBTsを特別視したくないので、本当はIRISもLGBTsフレンドリーとうたいたくはありません。また、LGBTsを特別扱いしてほしいとも思っていません。

ただ、日本に多くある見えない差別を可視化させるフェーズという意味合いで、「LGBTsフレンドリー」を掲げて活動しているのが実態です。いずれそうした社会問題がなくなればいいなと思っています。そのためには、まずは自分たちができることからチャレンジしていくのはとても大事で、かつ同時に結果を出していくことが、私たちにとって一番の近道になるんじゃないでしょうか。

僕はIRISを100年続く会社にしていきたいと思っています。自分たちが掲げている「自分らしく生きられる社会の実現」をより具体的にするためには、まずいろんな方が働きやすい環境をつくるべきだと考えていて、IRISがその受け皿になれるように考えています。

「本当はLGBTsフレンドリーとうたいたくない」―IRISが行っている取組み

それまで離れ離れの生活をしていた二人が、寝るときも食事も一緒に過ごせるようになるのは心躍ることだろうだが、同性カップルというだけで部屋探しに多くの壁がある。住みたい暮らしをすることは、本来誰でも叶えられる自由のはずだ。

今回のインタビューによって、知られていない不自由があることを知り、関心を持っていただけたのではないだろうか。この気づきが、須藤さんやLIFULLが目指すハウジングイコーリティ、ひいては社会全体の公平さにつながればと期待している。

お話を聞いた方

お話を聞いた方

須藤啓光(すとう・あきひろ)
1989年、宮城県生まれ。不動産会社勤務を経て、大手金融会社にて保険、証券、投資信託のリテール業務に携わりながら、2014年からファイナンシャルプランナーとしてLetibeeにライフプラン関連の記事を寄稿。同時期に、自身でもWEBマガジン「IRIS(アイリス)」の運営をスタート。2016年にIRISを法人化、株式会社IRISを設立。以降、代表取締役CEOとして営業部門の統括を担当する傍ら、LGBTs当事者のライフプランニングサポートや各種コンサルティングをはじめ、ラジオ番組のMCなど活動は多岐にわたる。

▼須藤さんが代表を務める株式会社IRIS
https://iris-lgbt.com/

▼須藤さんご出演のラジオ番組。渋谷クロスFM(88.5MHz)にて、月曜 19:00〜19:50 生放送
Colorful Style ✕
http://shibuyacrossfm.jp/program/mon/19.php

▼「しなきゃ、なんてない。」LIFULL STORIES須藤さんへのインタビュー
LIFULL STORIES
https://media.lifull.com/stories/2020042289/


※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2021年8月掲載当時のものです。

お話を聞いた方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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