ひとり親、シングルマザーが一戸建てを求める背景
ひとり親世帯は、子育てと仕事の両立の難しさから経済的な余裕がなく、貧困率が高いとされる。特にシングルマザーは社会的な自立に問題を抱えていることがあり、公営住宅の優先入居や入居支援はあるものの、住まい選びは難しいのが現状だ。
「本当は家を持ちたいけれど、賃貸に住むしかない…」そんな状況のひとり親世帯に寄り添う会社がある。所得が低い傾向にある女性のひとり親でも建てられる新築一戸建て「シングルマザーのための家」を提供しているのは、高知県高知市を拠点に建築業を行う株式会社シオミホームイングだ。今回は社長の塩見泰一郎さんに、その商品の成り立ちとひとり親が住宅を建てる利点や注意点などを伺った。
――「シングルマザーのための家」を建てる際のヒアリングから分かった、ひとり親世帯が一戸建てを建てることの難しさを教えてください。
家を持つことへのハードルははさまざまですが、多くのお客様が抱えているのは資金の問題です。そこには土地代、ご両親からの反対、自己資金に関する難しさなどさまざまな事情が関係しています。お子さんの通学を考慮して学校周辺の土地を希望される方は多いのですが、そうしたエリアは地価が高い傾向が強く、資金繰りが苦しくなることがあります。資金の兼ね合いで土地探しに苦労されるケースが多い印象です。
次に多いのは、ご家族の協力を得られないことでしょう。住宅を建てるうえでご家族の後押しは非常に重要なのですが、シングルマザーが家を持つことに対してそのご両親が警戒することが多く見られます。「シングルマザーが家を買うのは無理なのでは」「住宅購入はまだ早い」などと、親から反対されることもあるようです。
自己資金については、資金の段取りをどう立てるかということが問題です。住宅購入において、現実的に多少なりとも自己資金が必要です。また、ほとんどの方が現金で一括払いではなく、住宅ローンを組みます。シングルマザーはその審査が厳しいという点も資金調達の難しさの一つになっています。
資金以外の理由でハードルになっているのは、家を持つことへの知識不足からくる怖さではないでしょうか。そもそも家を持つことを考えていなかったり諦めていたりしていたため、購入できることが分かっても、何から着手していいのかまったく分からない。なかでも30年超のローン、いわば高額な借金を抱えることへの不安も、シングルマザーが家を持つことの難しさの一因になっていると思います。
――そうしたことを飲み込んでなお、シングルマザーの方が家を望む理由は何でしょう。
子どもを守るための巣作りです。子どもをのびのび育てたいと思う、親心からだと思います。「集合住宅では近所から騒音などで苦情が来ることを気にして、いつも子どもを叱ってばかりだった。そんな自分の姿が嫌だ」と話すお客様もいました。さまざまなハードルがあっても、「家を持ちたい」という強い意志を、お客様(シングルマザー)のみなさんから感じます。
――ちなみに、高知市での子育て世代の傾向として、マンションよりも一戸建てのほうが需要は高いですか?
そうですね。高知市では一戸建て志向の方が多い印象です。都心では一時の仮住まいとして、勤務地に近い場所などで便宜的に住まわれる方はそれなりにいるかもしれませんが、「土の上に住みたい」という希望は、お客様との話の中でよく伺います。
「シングルマザーのための家」が実現した理由
――「シングルマザーのための家」というブランドができた経緯を教えてください。
「シングルマザーのための家」は、2014年にスタートさせた低所得者向け新築一戸建て事業サン・ブランドハウスを、シングルマザーに特化させたブランドです。
私は本質的に、弱い立場にいる人や女性の味方です。私の母もシングルマザーだったので、苦労している様子を幼い頃から目の当たりにして育ちました。この年齢になった今でも、苦労していた母の姿を思い出すのです。だからこそ、苦労をしている人のために家を建てるべきではという想いが、必然的にこのブランドの立ち上げにつながりました。
かつては「おたくはお金持ちにだけ家を建てるのではないか」「お金のある人だけがお客さんだと思っているんじゃないか」などと、一部の方に言われたこともあります。そこから、低所得者向け住宅事業を立ち上げ、低価格帯の一戸建ての提供を始めました。無事に事業化ができたら、今度はその想いがシングルマザーへと向かっていった、という次第です。
男性は相対的に仕事、つまり働く所があることにプライオリティを置く人が多く、“自分の城”と呼べるような家を所有することに対してあまり執着がない、と私は感じています。一方の女性は、家を持って子どもを育てるための巣づくりを重要視する方が多い印象です。そうした点を考えても、私はシングルマザーにこそ家が必要なのではと思って、このブランドを立ち上げました。
――「シングルマザーのための家」というネーミングもかなりインパクトがありますね。
当初“シングルマザー”という単語を付けることに、私自身も抵抗がありましたが、勇気をもってこの名前にしました。売り出した当時は批判的な内容の電話もありましたね。シングルマザーになりそうだと危惧されている方、シングルマザーという響きに罪悪感を持つ当事者の方もいらっしゃいます。そうした方々からすれば、私のやっていることは、女性の心理を逆撫でするようなことにも受け取られかねませんでしたから。それでもこちらの意図をご説明し、ご理解をいただいて今に至っています。
――ひとり親の低所得の方でも家を建てることを可能にした、低価格で提供できる理由を教えていただいてもいいでしょうか。
安い価格で提供できるのは小型かつ設計上の無駄を省いている点が挙げられます。無駄といっても、もちろん建築基準法の範囲内でのことですので点検や検査などはクリアしています。言い換えると、必要最低限を極めた設計であるということ。贅沢感には欠けますが、家屋としては何ら問題ありません。
次に、同じものをたくさん建てることで一棟あたりのコストを削減しています。いわば規格住宅です。一般的な注文住宅のような建て方だと、打ち合わせ、準備、施工など、各所にその都度時間を要します。一方、規格住宅は作業の流れが決まってるので、スムーズに施工できます。実際、着工から完了までは2ヶ月半くらいです。加えて、取引先やメーカーさんに「日本一の企業になります」と宣言して、私どもへの投資として仕入れ価格を抑えていただいているのも安くできる一因になっています。
シングルマザーが家を所有するメリットと注意点
――ひとり親が家を建てることには、どんなメリットがありますか?
最大のメリットは、自身の財産を持てることです。そして先述の、安心して子どもをのびのび育てられるということもあります。そのほかには、当社の「シングルマザーのための家」であれば周辺の同等の広さの賃貸物件の家賃より安い負担額で建てられる点です。家賃をなんとか払えている状態であるなら、家賃より月々の支払いが安くなれば、その差額を子どもの教育費に回すことができます。
さらに、老後の生活保障になる、という利点もあります。リバースモーゲージ(※)が利用できる場合もありますので、老後の生活資金をまかなう方法を選択できるようになります。当社ではご来店のお客様に家賃を伺って、たとえば月々5万円であれば4万円のローンを提案するなど、月々の支払いが減るようなご提案しています。
※リバースモーゲージ
持ち家などの居住用資産を担保として、生活資金の融資を受ける借入方法。自宅を担保に自治体や金融機関から融資を受け、死亡後に担保物件を処分して借入金を一括返済する。なお、利用には年齢、資金用途等の条件を満たす必要がある。
――メリットがある一方、デメリットや注意しておく点はありますか?
発注時に贅沢をしていないか注意すること、ですね。一般的に、“家を持つ”となると、人は贅沢をしたくなるものです。「一生住むものなのだから、ちょっといいものに…」とグレードを上げたりオプションを付けたりと背伸びをしがちですが、それが後々の支払いに影響してしまうことが往々にして起こります。
家族の収入が減ったり、子どもの年齢が上がるに伴って教育資金がかさんだりすると、住宅ローンが家計を圧迫し、結果的に教育費を削るなどお子さんの生活に多大な影響を及ぼしかねません。実際、当社の別ブランドで家を建てた方の中には、住宅ローンの支払いが苦しくなったことが原因で夫婦仲が悪くなった、というお客様もいらっしゃいました。
その点、「シングルマザーのための家」は、贅沢をかなえる家ではなく、必要最低限の建築でコンパクトにまとめているのが特徴です。幸せになるために家を建てるのに、不幸になってはいけません。私は無理を招きかねない贅沢には必ず釘を刺しています。理想を高くされるのであれば、ハウスメーカーを訪ねたほうがいいと思います。
「シングルマザーのための家」を全国に シオミホームイングの取組み
――シオミホームイングでは、どのような社会貢献に取り組んでいらっしゃいますか?
シングルマザー支援団体のパートナー企業として協力し、高知でのシングルマザーの支援の一環として活動しています。
直近では、“ブラボーフェスタ”というイベントの開催を企画しました。母親、特にシングルマザーの方々は、日頃の生活に追われていて、子どもと一緒に遊ぶ時間がなくなりがちです。共感できる仲間や寄り添ってくれる人たちとリラックスして過ごすこと、また子どもたちも元気に笑顔で過ごせること、この両方を実現するために、シオミホームイング本社の敷地を利用したイベントです。日頃から「シングルマザーのための家」の新築完成見学会は開催していますが、そうした業務とは別に、このイベントは私の想いを形にしたものです。
そのほかにも、私どもの見学会のプロモーションにと誕生した“サンレンジャー”が、TikTokで注目を集め、県内外のイベントに登場するなど、たくさんの方へ笑顔を届けています。シオミホームイングでは、会社の集客を“A面”、私の「弱い立場の人を助けたい、笑顔にしたい」という想いを“B面”と呼んでいます。そして、このA面を支えているのが、B面なのです。
――今後の展望を教えてください。
今後は、社会に貢献できる事業に取り組みたいと考えています。そして、「シングルマザーのための家」の事業を全国に広げていきたいですね。日本一を目指していますから。日本の隅々にいる困っている人たちに、私たちの想いを届けたいです。
加えて、シングルマザーの支援活動を高知のみならず岡山ほか、各地に広げていきたいと考えています。シングルマザーの方々の支援には、特に精神的なフォローが必要です。住宅関連だけではなく、いろいろな面で助け合えるような組織をつくっていきたいですね。
「シングルマザーは、すべてにおいて一人で選択や決断をしないといけない。その孤独に寄り添う存在が必要なんじゃないかなと思うのです」――インタビューに同席してくださったスタッフの方から、こんな言葉があった。
“家を建てる”という大きな選択肢ができること、それをかなえるために一人ひとりの住まいに対する想いに寄り添う存在がいることは、暮らしの豊かさにつながるように感じられた。理想の暮らしができることの喜びは、その空間を共有する子どもの世代にも受け継がれていくはずだ。
お話を聞いた方
塩見泰一郎(しおみ・たいいちろう)
大阪、東京で建築及びデザインを学び、1978年高知に帰郷し、建築会社を開業。2014年、「シングルマザーのための家」事業サン・ブランドハウスを創設。現在も高知県3店舗、岡山県2店舗と低所得者向け住宅建設業はもとより不動産業にも力を入れ、社会貢献を目指している。
▼株式会社シオミホームイング
https://shiomi-home.co.jp/
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2022年9月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
公開日:
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