75歳以上の高齢者の数はさらに増え続けている
今の日本が超高齢社会と呼ばれるようになって久しい。厚生労働省の調査によると、65歳以上の高齢者数は2025年に3,657万人となり、さらに20年後の2042年には3,878万人まで増えるという予測が立てられている。また、75歳以上の高齢者の全人口に占める割合はますます増加しており、2055年には、25%を超えるという見解もある。
住宅弱者に含まれる65歳以上の高齢者の住まい事情は、どんな様相になっているのだろううか。高齢者の住まいの今、高齢者向け住宅それぞれの特徴、そして高齢化が進む日本が抱える住まいの問題について紹介しよう。
高齢者をめぐる住まいの種類、なぜこんなに多いのか
「高齢者の住まい」と言われたら、どんな場所を思い浮かべるだろうか? 老人ホーム、有料老人ホーム、グループホーム、高齢者専用賃貸住宅、サービス付き高齢者向け住宅――。聞いたことがあっても、違いまではよく分からないという方が多いのではないだろうか。
なぜ高齢者の住まいにはこんなにも種類があるのか。その背景には日本が歩んできた老人福祉制度の遍歴が関係している。これまでの日本では、長いこと高齢者の介護は家族の役割として、主に家庭内の女性がその多くを負担していた。その流れが大きく変わったのが1963年。この年に施行された「老人福祉法」によって、地方公共団体や社会福祉法人の運営による高齢者用の居住施設、特別養護老人ホームや養護老人ホーム、軽費老人ホームの整備が進められた。
その後、1986年に老人保健施設が制度化され、さらに2000年には介護保険制度が導入されたことにより、民営の介護付き有料老人ホームやグループホームが登場。高齢化のニーズに沿うように、どんどん地域に広まっていった。しかし、こうしたホームはあくまで施設として機能していたため、「暮らしを営む」という住まいの意味合いは薄くならざるを得なかった。
その後、2005年12月に「高齢者専用賃貸住宅登録制度」が開始されたことで、ようやく「住まい」の観点が付加された整備が始まり、高齢者専用賃貸住宅(通称・高専賃)が造られるようになった。2011年10月には、「高齢者の居住安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正によって、有料老人ホームと高専賃の性格を併せ持ったサービス付き高齢者向け住宅(通称・サ高住)ができ、今に至る。
では、高齢者向けの施設や住宅にはそれぞれどんな特色があるのか。
次の項目で見ていこう。
公的な高齢者向け施設・集合住宅の特徴と種類
高齢者向けの居住施設というと、老人ホームを思い浮かべる方も多いのではないか。地方公共団体や社会福祉法人が運営する、公的な介護保険施設であるホームには、
・特別養護老人ホーム(通称・特養とくよう)
・養護老人ホーム
・軽費老人ホーム
の3種類がある。
共通する特徴として、公的施設のため民営のホームより費用が安く、閉所のリスクが少ないというメリットが上げられる。反対に、人気が高く入所しづらいところははデメリットだろう。どの施設も「老人ホーム」と名がついているが、それぞれ性質が異なるため、入居条件や利用に制限がある。
特別養護老人ホームは、在宅での生活が困難になった要介護の高齢者が入居できる介護保険施設だ。在宅での生活が困難になった要介護3以上(特例として要介護1~2の場合もある)の高齢者が入居できる。介護スタッフが常駐し、24時間介護を受けることが可能だ。原則として終身まで介護が受けられる。
養護老人ホームは、収入がない、身寄りがないなど、生活面で困難をきたしている高齢者を養護し、社会復帰を目指すための施設だ。身体的に自立した高齢者に向けた施設のため、介護サービスは付帯しない。また、入居の決定権は市区町村にあるため、入居する際には市区町村が調査を行う。サービスの一環として入浴・食事・排泄の介護を受けることはできるが、リハビリなどの身体機能回復訓練や医療処置を受けることはできない。
軽費老人ホームは、60歳以上で、自立して生活することに不安があり、家族による援助を受けることが困難な人などが入居できる、生活のサポートを目的とした施設だ。見守りと食事の提供を行うA型、見守りのみのB型、食事や生活援助などが付帯するC型(ケアハウス)の3つの種類に分かれている。
民間高齢者向け施設・集合住宅の特徴と種類
2000年以降増えた民間が運営する高齢者向けの施設や住宅には、代表的なものとして、
・有料老人ホーム
・サービス付き高齢者向け住宅
・認知症高齢者グループホーム
が挙げられる。
その大きな特徴は、いずれも基本的には元気なうちから入居でき、いざというときは介護サービスが受けられること。また、手厚い多様なサービスを提供していることだ。しかし、その多様さなどから、施設によって費用の設定にバラつきがあり、入居に際して自分が何を必要とするのか吟味する必要がある。
有料老人ホームには、大きく分けて介護付き有料老人ホームと住宅型有料老人ホームがある。前者の場合、終身まで同じ施設内で暮らします。常駐するスタッフによる包括的なサービスが受けられるため、臨機応変に対応が可能で、安心度が高いのが特徴だ。
後者は、自立~比較的要介護度の低い人を対象とした施設だ。介護サービスが必要になった場合に外部事業者と契約を結ぶ。介護サービスがオーダーメイド式のため、要介護度や限度額に応じたサービスを利用者が取捨選択できるのが特徴だ。ただ、プランに組み込まれていない突発的なサービスは受けることが難しい場合もある点に注意が必要だろう。
近年数を増やしているのが、サービス付き高齢者向け住宅。これは、高齢者向けのサービスがついた賃貸住宅である。安否確認や生活相談等のサービスのほか、食事を提供する物件もある。介護サービスは外部事業者を利用するが、訪問介護事業所やデイサービスなどが併設されているところが多くなっている。
入居後に介護度が上がるとサービスを補えないため、施設への転居の可能性に留意しておく必要がある。
認知症高齢者グループホームは、「認知症対応型老人共同生活援助施設」とも呼ばれ、認知症を発症した高齢者のための介護施設だ。専門スタッフの援助を受けつつ、5~9人のユニットで共同生活を送ることになる。
介護保険における地域密着型サービスの1つのため、
・医師から認知症の診断を受けている65歳以上の人
・介護保険の要介護認定で要支援2以上の認定を受けている人
・施設と同じ自治体に住民票がある人
の3つの要件を満たす人しか入居できない。とはいえ、自宅に近い環境で手厚い介護が受けられるのは大きな魅力だろう。
その他の高齢者向け住居
高齢者の暮らしには介護が切っても切り離せないが、ここまでのような介護に重きを置いた施設や住宅以外にも、シニア向け分譲マンションや一般的な賃貸住宅といった選択肢がある。
シニア向け分譲マンションは、その名の通り所有権を有する分譲マンション。老人ホームやサ高住のような制約がなく、自立した自由な暮らしが送れるという大きな長所がありる。一般的な分譲マンションと異なるのは、高齢者が利用しやすいよう手すりがあったり、段差が解消されていたり、コンシェルジュが常駐していたりするなど、さまざまな生活支援サービスが整っている点だろう。
一般的な賃貸住宅も、昨今では高齢者のニーズの高まりを受けて、高齢者でも借りやすくなってきている。身体的にも経済的にも自立した生活を送るシニア層に向けて、電気の使用量を利用した軽微な見守りサービスを導入するなど、自分らしい暮らしをかなえる物件を取扱う不動産会社も増えてきた。
▼参考:「増えるアクティブシニアのニーズにどう応えるか。R65不動産代表が語る高齢者と賃貸住宅」
高齢者の住宅確保、これからの課題
高齢化に対応するように、公民にわたりさまざまな高齢者向け住居が増えてきたが、それでもなお、高齢者をめぐる住まいには課題がある。
第一に、公的な高齢者向け施設数が頭打ちになっていることだ。介護保険の財政悪化などを背景に、新設できず、公的施設への入居希望者をすぐに受け入れることができない状況が続いている。地域によっては、入居申請から実際に入れるまでに1~2ヶ月以上要する場合もあるそうだ。
次の課題は、ゆるい支援や見守りのある、安価な賃貸住宅の供給が乏しい状況だろう。厚生労働省の調査では、所得150万円未満の65歳以上の単身世帯が年々増えている、という結果が報告されている。しかし、そうした低所得高齢者が入居できる居住資源が公民ともに少なく、居住支援の現場では解決策を模索しているという。
加えて賃貸物件では、孤独死の問題がさらに注目を集めてしまっている。高齢者施設が増えた1970年代以降、高齢の人の住まいといえば老人ホームと思われていた。厚生労働省の高齢者の住まいに関する資料によると、2014年時点で、高齢者が施設で暮らす割合は約1割しかおらず、残り9割が在宅のため、在宅高齢者におけるケアニーズは高いといわれているのである。そのうえ、持ち家率が低下して賃貸住まいが増えているため、賃貸物件で老後を迎える人も多くなると予測されている。
賃借人の生活を、いったい誰が見守り、請け負うのか。高齢者が住む物件を中心に、それに関わる人たちがどう連携するべきかの最善策を、模索しているのが現状だ。
高齢になっても健康的で豊かな暮らしを送ることは、だれしもが思い描く余生の理想的な姿だと思う。そのイメージをより具体化して考えてみることは、住まいを検討している高齢な当事者だけでなく、これから老後を迎える人にとっても大きな備えになるだろう。資産とあわせて、これからの状況に合わせた住まいの情報も蓄えておきたい。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2022年1月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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