精神障害のある人が一人暮らしをするために
精神疾患の症状は依存症、うつ病、強迫性障害、摂食障害など、種類も症状も程度も多岐に渡る。メンタルヘルスといった言葉も一般的になり、精神疾患への理解も広がりつつある。これまで当事者は長い間、家族や福祉施設での看護の下での生活、病院での社会的入院と、直接的に社会と関わることを避ける環境下で暮らすことが主流だった。
しかし、2003年に障害者自立支援法が制定、2014年に障害者権利条約が採択されて以降、障害がある人も地域社会の一員として暮らし続けていける世の中へと、世相が変わってきている。とはいえ、自立して日常生活を送るためには、事前の準備と周囲や行政の支援が必要になる。精神障害のある人が一人暮らしをするために気を付けておきたいポイント、生活を支える制度についてお伝えしよう。
新居を探す前に確認しておきたい3つのポイント
「施設のすすめで独り立ちする」「一人暮らしをしてみたい」「親が高齢になって今後を心配して」…と、自立生活をスタートさせる動機はさまざまだろう。
まずは住む場所探しをと思うかもしれないが、それより先に考えてもらいたいのが、自分一人で生活を成り立たせていけるかという点だ。自分一人で身の回りのことを管理しなければならない自立生活では、環境だけでなくこれまでの生活様式も一変する。心と体を整えることが肝要な精神障害のある人の生活で、一人でも規則正しい生活を送れるかどうかは、一人暮らしを始められるかの一つの判断材料になる。
規則正しい生活とは、“自力で家事ができるか”“お金の管理ができるか”“一人で通院ができ、薬の飲み方を守って暮らせるか”の3つが基本になる。
自力で家事ができるか
特に長い間実家で親と同居してきた人に多い傾向だが、家事全般を親が任ってきたことで、独立する年齢になるまで自分で習慣的に炊事・洗濯・掃除をしたことがない、という人が少なくない。やり方が分からないがゆえになおざりにしてしまい、栄養失調やゴミ屋敷化といった、健全とはいえない状態に陥り、病状が悪化してしまうおそれがある。
お金の管理ができるか
給与や給付金、生活保護費など、これまでに手にしたことのない額のお金を扱うことになる人も多いだろう。しかし、何にどれだけの費用がかかるか、支払いに必要な金額を確保しつつ他のことにどう分配するかというお金の管理は毎月の生活をやりくりするうえで欠かせない。趣味や遊びに使ってしまって、生活や医療費に充てるお金が不足して通院ができなくなるような事態に陥らないよう、自制心も求められる。
一人で通院ができ、薬の飲み方を守って暮らせるか
病院への定期的な受診や治療薬の指示どおりの服用は、寛解(かんかい※)の最重要事項。体調不良時は家族に通院を付き添ってもらったり薬を取りに行ってもらったり、という方も多いだろう。
しかし、一人暮らしとなると体調不良時でも自力で対応しなければならない。通院のほか、薬の飲み忘れや過剰摂取をしないセルフコントロール、一人で抱え込まずにケアサービスを頼ることも大切だ。
この3つを誰が見ても問題のない程度に自立前からできていないと、いざ一人暮らしをスタートさせた途端に病状が悪化してしまい、せっかく入居できたにもかかわらず即退去になってしまいかねない。不安が残るなら、自宅での実践はだけでなくデイケアや宿泊訓練、グループホームでの経験を重ねて、自信がついてから、部屋探しを本格的にスタートさせよう。
※寛解……再発のおそれのある病気において、病状が一時的あるいは継続的に軽減した状態。または見かけ上消滅した状態。
住まいだけでなく“相談できる場所”も確保しておく
一人暮らしをするにあたって、新居から通えるクリニックのほか、困った際に相談できる場所ともつながっている状態にしておく必要がある。“自治体の福祉窓口・地域活動支援センター”“基幹相談支援センター”“社会福祉協議会”へ物件探しと並行して相談に行き、一人暮らしを検討していること、病状、懸念点を共有しておこう。
市区町村の役所内の福祉窓口・地域活動支援センター
障害者の暮らしや福祉サービスに関する一般的な相談に応じてくれる場所だ。抱えている困りごとをどこに相談すればよいかわからない場合にも、福祉課やセンターの窓口に相談することで、その内容に合った相談先を紹介してくれる。また、地域生活支援事業(移動支援や訪問支援など)の利用申請窓口にもなっていまる。
基幹相談支援センター
その地域におけるあらゆる障害者・高齢者の相談支援の中核的な役割を果たす、地方行政機関だ。障害者やその家族のサポートを行っている。病院や事業所とも連携し、障害者が地域で暮らしていくためのニーズを聞き、必要なサービスは何かを当事者と一緒に考えながら提案をしてくれる。
社会福祉協議会
高齢者・障害者といった人たちに対して、地域における福祉の推進を図ることを目的として市区町村に1つは設置されている社会福祉法人だ。
日常生活自立支援事業(次項でご紹介します)や生活福祉資金貸付事業(無利子または低利で福祉資金・教育支援資金等の他、緊急小口資金の貸付)といった支援を行っている。
このほかにも、相談事業を行う障害福祉サービス事業所や支援団体なども事前に調べておくと安心だ。
精神障害のある人の一人暮らしで利用できる支援や制度
暮らしを少しでも楽にするために、利用できる支援制度は積極的に活用していきたいもの。全国的に施行されている精神障害者のための支援制度には、代表的なもので障害基礎年金、自立支援医療(精神通院医療)、日常生活自立支援事業、自立生活援助などがある。
障害基礎年金
精神疾患にかかって生活や仕事がうまく運ばなくなった人が受給できる年金だ。障害者年金ともいわれる。支給される金額は障害の等級によって決まっていて、2023(令和4)年4月現在、1級では972,250円、2級777,800円が1年間に支払われる。主治医の診断書とともに住所地の市区町村役場の窓口で受給申請をする。
自立支援医療(精神通院医療)
精神疾患の高額な治療を通院によって長期間続ける必要がある人が対象となった支援制度だ。医師の診断書とともに申請書を市区町村の福祉課窓口で提出し、申請が通ると医療費の自己負担額が1割となります。自治体によっては、負担額に対して助成金が出るところもある。
日常生活自立支援事業
社会福祉協議会が実施する支援です。定期訪問といった福祉サービスの利用、住宅や日常生活に関する契約の補助、日常的な金銭の管理、などが1回1,200円程度(生活保護利用者の場合は無料)で受けられる。
自立生活援助
一人暮らしを始めた障害者の生活上の困りごとの相談にのって、自分で解決できるように援助するサービスだ。月2回以上の訪問や生活上で困ったことがあったときに駆けつけてくれる、といった支援が受けられる。期間は原則1年間。場合によっては延長も可能だ。申請は市区町村の福祉課の窓口で行い、受理されるまでに約1ヶ月かかる。
そのほか、就労が難しい場合には、生活保護を利用することもできる。
部屋探しの方法と入居に向けて必要なこと
では、いよいよ新居探しだ。物件を探す代表的な方法に、国土交通省が提供している検索サービスセーフティネット住宅情報提供システムから探す方法と不動産会社へ問合せる方法の2つがありる。
セーフティネット住宅情報提供システムとは、国土交通省が提供する住宅確保要配慮者専用の物件検索サイトだ。住みたい地域や最寄り駅などからも検索できるほか、“精神障害”や建物の構造を絞って検索することができる。ただ、制度が始まって日が浅く対象物件が少ない、希望条件に見合う物件がなかなか見つからない、といった懸念点もありる。
不動産会社に問合せる場合、メリットとデメリットがある。メリットは選択肢が多く、希望に沿った物件に出会える可能性が高い点。デメリットは、物件が見つからない場合は何件も回る必要があり、心身の負担になる場合がある点だ。
また、申し込みに際しては、家賃滞納などのトラブル軽減とオーナーや管理会社の審査を通りやすくするためにも、家賃債務保証会社を利用するとよいだろう。
不動産会社に精神障害があることを伝える? 伝えない?
そして、特に不動産会社へ問合せる際に悩むのが、“自身の疾患についてどこまで伝えるべきか”という点だ。精神障害がネックとなって審査が通らないのではと、不動産会社に話すか迷う人もいるのではないか。
居住支援法人の専門家による見解では、障害者手帳を所持している場合、疾患について不動産会社に伝えることを推奨している。一人暮らしは住む場所が決まれば終わり、ではない。不動産会社や管理会社、オーナーとの関係は退去するまで続く。告知をしたうえで入居物件が決まるということは、精神障害について多少なりとも理解してくれている人と付き合いができる、と考えられるからだ。
もし告知せずに入居して、後に問題が起きてしまった場合、「なぜ入居時に障害者手帳を持っていることを伝えてくれなかったのか」と貸主側は思うはずだ。貸主と借主の信頼関係が崩れた状態では、トラブルがさらに大きな問題に発展してしまいかねない。さらに病状の面でも、後ろめたさを抱えたまま過ごすことは病状悪化の一因にも成り得る。
また、物件探しは申込時に断られたり希望どおりの物件と巡り合えなかったりといった状況が繰り返されることもある。できれば一人ではなく家族や親族と一緒に、家族や親族が頼れない場合には相談員など病状を知る信頼できる人と、一緒に不動産会社を回るようにしよう。
障害者に理解のある不動産会社を探すために
精神障害を抱えながら一人暮らしをしている方はたくさんいる。そうした方々の体験談では、日々の生活を満喫しているという声がある一方、孤独感に心を擦り減らしている声もよく聞かれる。社会的な孤立を回避するためにも、支援制度を上手に使って自宅以外の居場所を見つけることにも挑戦してみよう。
LIFULL HOME’S FRIENDLY DOORでは、障害者フレンドリーカテゴリから障害者に理解のある不動産会社を探すことができる。お部屋探しの手段のひとつとして、活用してはいかがだろう。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年2月22日掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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