車いすユーザーが気にする部屋探しのポイント

車いすは約2500年の歴史があり、かつては「車輪付き家具」とも呼ばれ家の中で使うものとされていた。いまでは歩行が不自由な人の足として、そして当事者の能動的な活動に欠かせないものとして日々進化を続けている。日本には400万人を超える身体障害者がおり、そのうち車いすユーザーは約200万人、全人口の1.57%に上るともいわれる。

当事者の暮らしはあまり知られておらず、車いすユーザーの部屋探しを難しくしている。当事者の目線での住まいにまつわるお話を、一般社団法人WheeLog代表でご自身も車いすユーザーである織田友理子さんに伺った。

――車いすユーザーのお部屋探しはなかなか大変だと、以前別のインタビューで伺ったことがあります。織田さんの実感としてはいかがでしょうか。

車いすユーザーの住まいというと、バリアフリーであることが必須だと思われがちです。
「消防法や建築法を鑑みて車いすユーザー向けにできていないから…」「車いすだと室内を傷つけられそう」と入居を断るオーナーの方もいるかもしれません。ですが、車いすユーザーからすると、入り口に段差があっても適宜対応できますし、室内・室外で車いすを使い分けたり傷つけないようシートを敷いたりといった配慮をしています。そうした、車いすユーザー・不動産会社・オーナー、各人の知識不足や見方の食い違いから、借りづらい問題が生じているのではと考えます。
お互いの齟齬を埋め、不動産会社がお部屋を借りたい車いすユーザーの想いにどれだけ寄り添ってくれるか、それによって車いすユーザーでも賃貸住宅に暮らすことは可能だと、私は思います。

――段差があっても構わないとのことですが、具体的にはお部屋探しではどういった点を気にしているのでしょう。

車いすユーザーが生活の場で注目をするのは、主に、“段差がどこにどれくらいあるか”“間口が何センチか”“開き戸なのか引き戸なのか”“水回りの造りがどうなっているか”という4点です。不動産会社の方から上記の点をご提示いただければ、理想のお部屋に出会える可能性はかなり上がると思います。

たとえば玄関先の場合、車いすのサイズにもよりますが、最低限65~70cm程度あれば通り抜けられます。80cmあればなお良いですね。またその範囲も、自走式(手で押すタイプ)か否かによっても変わってきます。70cmの間口であっても、自走式だと人によっては手が当たってしまうことがありますから。
さらに、開口70cmの表記でも、ドアの重なりが生じていると、通過できるスペースとしてはそれ以下になる場合もあるので気をつけないといけません。段差に関しては、何センチであるかが重要です。車いすは、段差が一番のウィークポイントではあります。
ただ、大家さんと相談にはなると思うのですが、5cmくらいの段差であれば、ホームセンターで三角柱の木材を買ってきてスロープを自作して置くなど、手軽に段差を埋めることはできます。

――玄関を入った先にある廊下に関してはどうでしょう?

車いすでの生活は方向転換をする際、回転するスペースが必要なため、90°曲がるのに十分な幅のある物件が好まれます。ただ、多くの賃貸物件では造りが一方通行になっていると思います。めったにないですが、廊下にUターンができる踊り場的な空間があるといいですね。

――言われてみると確かにそうです。物件探しで見るような簡易的な間取り図では、玄関や廊下の幅はわかりづらいですよね。

そうですね。一般的に、間取り図は上から見たものしか用意されておらず、部屋の区切りなどに段差が実際にあるのかは図面からではわかりません。内見前に段差の高さが事前にわかると親切だなと思います。
洗面台にしてもそうです。洗面台の下が空いていると、車いすに座った状態でも膝が洗面台の下に入り接近できるので、利用しやすくなります。図面ではそういった点はわからないですよね。

車いすユーザーの暮らしはあまり知られておらず、部屋探しを難しくしている。当事者の目線での住まいにまつわるお話を伺った。「車いすでもあきらめない世界」をみんなでつくりたいと願う織田さん。車いすユーザーのお部屋探しや暮らしについて伺う

現地へ行くのは時間的にも体力的にも大変

――LIFULL HOME’Sでは、平面の間取り図を3D化してお部屋をウォークスルーで見られるサービス「LIFULL HOME’S 3D間取り」を提供しています。車いすユーザーのお部屋探しには親和性が高そうです。

みんながみんな平面の図面を見て理解できるわけではありません。3Dで内見できれば、車いすユーザーが自身でお部屋探しがしやすくなると思います。
最終的には実際に内見をしに現地へ行くことは必須です。ただ、こういった3D閲覧サービスがあると、見に行く前に判断できる部分も多くなります。現地へ行くのは時間的にも体力的にも大変ですから、技術で苦労が軽減されるのはとても良いと思います。

――図面ではわからない構造面ではどうでしょう。重度の車いすユーザーの室内の介助にはリフトが必要になることがあると思うのですが、その点を考慮すると、鉄筋コンクリート造が好まれそうだなと感じました。

でもそもそも賃貸では原状回復の観点から、天井から吊るすタイプの天井走行リフトの設置は難しいでしょうね…。ただ、土台に車輪のついた床走行リフトというものがあって、それなら使えるかもしれません。
その他にもさまざまな福祉機器はあります。身体障害者や高齢者の介助用品は、これまで先人たちが技術開発してきた優れた製品がたくさんあるので、それらを取り入れて工夫し、自分たちの生活を良くすることはできますね。作業療法士の方などに聞いてみるのもいいかもしれません。

3D内見は車いすユーザーの手助けになりそうだ3D内見は車いすユーザーの手助けになりそうだ

織田さんが実践しているお部屋を傷つけない・快適にする工夫

――住宅に配慮する方法の話が出てきましたが、織田さんのお住まいの工夫はどんなことをされていらっしゃいますか?

間口を傷つけないのと自身がぶつかってケガをしないよう、部屋の入り口に、赤ちゃん用品店で売られている、角をガードするスポンジを付けています。加えて、床を汚さないようにすることには特に気をつけています。
以前使用していた簡易電動車いすでは、畳や床を汚さないように車輪にカバーをかけていましたね。友人宅に招かれた際は、そのまま入ると土足で上がるようなことになるので、玄関先でタイヤを拭いてから、車輪カバーを装着するようにしていました。車輪カバーがないときは、新聞紙を敷いてもらうなど、汚さないための工夫は常に考えていました。

今は残念ながらカバーがつけづらい大きな電動車いすなので、帰宅したらタイヤを拭いてもらうようにしています。友人宅では電動車いすで上がらずにソファーなどに移乗してもらい、クッションを活用するなどして座らせてもらっています。

――車いすでの生活は高低の調整が難しいと聞きます。インターホンやスイッチ類、コンセントのように、室内設備に関して織田さんのお宅ではどのようにしていらっしゃいますか?

最近は、照明スイッチやカーテンなど物理的な動きが必要なものは、音声認識によるIoTを活用しています。

織田さんは、ご主人とお子さん、ご自身のご両親との2世帯同居。家族と住まうご自宅をどのような仕様にしているのだろうか織田さんは、ご主人とお子さん、ご自身のご両親との2世帯同居。家族と住まうご自宅をどのような仕様にしているのだろうか

得てして「車いすユーザーの一人暮らしは大変」と思われることも多いですが、私の知人にも適宜対応して挑戦している人もいます。
一昔前は「車いすユーザーは親元を離れて暮らせない」と言われていたこともありましたが、これからは本人が望めば社会が受け入れていく世の中になっていくのかなと思います。

織田さんは、ご主人とお子さん、ご自身のご両親との2世帯同居。家族と住まうご自宅をどのような仕様にしているのだろうか織田さんがご自宅で使用しているスイッチボット。料理は低温調理器などの使用で火を使わなくてもできる
織田さんは、ご主人とお子さん、ご自身のご両親との2世帯同居。家族と住まうご自宅をどのような仕様にしているのだろうか一家で愛用している電気調理鍋。便利なグッズはたくさんある

パーフェクトな情報提供が難しくてもウェルカムな気持ちがあれば

――当事者が自分の生活環境に関する情報を集めるだけでなく、不動産情報を提供する側も車いすユーザーが欲しい情報を押さえておくことで、お互いにとっていいお部屋探しになりそうです。

ええ。とはいえ、人それぞれ求める情報は違うので、問合せのあった車いすユーザーに完全にマッチした情報を提供するのは大変です。車いすユーザーは自分から情報を集めることで、自身の生活を良くしていけると私は思っています。ですが、当事者の多くは、「聞いてもいいのかな」と葛藤して、勇気を振り絞ってお部屋探しに臨んでいます。ですので、不動産会社をはじめ問合せを受ける側にウェルカムな気持ちがあれば、不明な点を聞きやすかったり、安心できたりするはずです。

ウェルカムな人にどれだけ出会えるか、がお部屋探しの際の重要なファクターだと感じます。

――住宅弱者の中には、自己情報の開示に抵抗感を抱く方も多いといいます。車いすユーザーの場合、病状などご自身の状況を開示するのは、やはり難しさを感じるものでしょうか。

そうですね…。たとえば、私のように進行性の病気であれば、難しいかもしれません。あるいは、お部屋の中で車いすを利用することを伝えるのをためらう人もいるでしょう。ただ、車いすは生活を送るうえで必要不可欠なものですから、内緒にしていたことでお互いに気まずくなることは避けたいですね。

――不動産会社の方にヒアリングをした際、「車でのご案内のときに車いすの方を介助できるか心配」という声がありました。それに対してどう思われますか?

不動産会社は不動産を紹介するところですし、不動産会社の方に介助をしてもらう前提で来られる車いすユーザーさんは少ないのではないでしょうか。基本的に介助が必要な方は、ご自身でヘルパーさんや同行する方を手配して来られるのが理想ですよね。移乗のお手伝いや車いすを押すのが当然となってしまったら、「障害者のお客様は面倒くさい」ということになってしまい、とても残念です。
とはいえ、ちょっとしたお手伝いが必要な場合もあるとは思うので、そんなときは気負わず手を差し伸べていただけると嬉しいです。

――物件を見るプロとして、障害者の方が必要とする物件の情報を知り、お伝えすることが大切なのですね。

“「車いすでもあきらめない世界」をみんなでつくりたい”と立ち上げたWheeLog。笑顔のあふれるイベントを開催している“「車いすでもあきらめない世界」をみんなでつくりたい”と立ち上げたWheeLog。笑顔のあふれるイベントを開催している

車いすユーザーから不動産業界に期待すること

――車いすユーザー目線で、不動産業界に今後期待することはありますか?

段差をなくす、動線を確保するといった物理的配慮は、確かに金銭面での負担は大きくなるでしょう。ただ、ちょっとした工夫次第で、住める人の割合は増えていくと思います。「車いすでも住めますか?」という問いに、「完璧なバリアフリーではないからバリアフリー住宅とは言えない」「バリアフリーじゃないから無理です」と即答するのではなく、住宅の詳細な情報提供をすることで、車いすユーザー自身で判断がつくはずです。車いすユーザーがお部屋をあきらめざるを得ない状況がなくなることを期待しています。

――可能性が広がれば、成約できる確率も上がるはずですしね。

そうなれば、お互いにとって良い結果につながりますよね。物件の情報や状況を明示して、お互いにすり合わせができたらよいのではと思います。

住宅の詳細な情報提供が、車いすユーザーの部屋探しの助けになる住宅の詳細な情報提供が、車いすユーザーの部屋探しの助けになる

織田さんの今後の展望

――織田さんはさまざまな活動に従事なさっていますが、今後の展望をお聞かせください。

現在『WheeLog!: みんなでつくるバリアフリーマップ』という、車いすで実際に走行したルートや、ユーザー自身が実際に利用したスポットなど、ユーザー体験に基づいたバリアフリー情報を共有できるアプリを開発しています。それを今後、日本のみならず世界へ広げていきたいです。

私自身、車いすを使うようになった頃に、行動範囲やできることが狭められてしまい、気持ちがネガティブになってしまいました。ですが、世の中は進化しています。車いすユーザーが何かの壁にぶつかったり嫌な思いをしたりしても、その原因が世の中にまだ知られていないだけ、悪気がないだけで、「もっとこの先は良くなる!」「車いすが世の中で異質なものとならない社会になるのは、時間の問題」と私は心から信じています。

先ほど3D内見のお話もありましたが、各企業の努力で便利な商品やサービスがたくさん生まれています。私たち障害者が、豊かに暮らしていきやすい世の中になっていますので、それを皆で“実感”できる社会になるよう、WheeLogの活動をがんばっていきたいです。

――企業に限らず、社会一般の人たちにも、車いすユーザーがぶつかる壁を減らすにはどういった考えが必要だと思いますか?

人に手を貸せる人は、めぐりめぐってその人が困ったときに救われることがあるのでは、と思います。だから助けてくださいというわけではありませんが、私たちに関心をもってくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいです。そして、関心を寄せてくれたことが、その人の糧になればいいなと、願うことがよくあります。誰かに手を差し伸べられる人が増えたら素敵ですね。

織田さんの趣味は旅行。国内外問わず、忙しい合間を縫って車いすで家族旅行をアクティブに楽しんでいる織田さんの趣味は旅行。国内外問わず、忙しい合間を縫って車いすで家族旅行をアクティブに楽しんでいる

織田さんのお話を聞いて感じたのは、車いすユーザーは事前の情報収集に非常に心を砕いている、ということ。WheeLog!アプリの開発も、“できそうにないからあきらめる”といった学習性無力感を打破するための情報源を目指しているという。
WheeLog!アプリ開発のクラウドファンディングでは、セカンドゴールまで達成されたそうだ。織田さんの言う「車いすが世の中で異質なものとならない社会になるのは、時間の問題」が体現されているかのようだ。
障害のあるなしにかかわらず、人の気持ちに寄り添えたなら、人と人とのやりとりがお互いにとって良いものになるのではないかと思えるインタビューだった。

※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年10月掲載当時のものです。

お話を聞いた方

お話を聞いた方

織田友理子(おだ・ゆりこ)
1980年生まれ、千葉県出身。2002年に遠位型ミオパチー(体幹から遠い部位である手足から全身の筋肉が低下していく進行性の遺伝性筋疾患。現在は指定難病)と診断。研究推進・新薬開発・難病指定を求めて任意団体「PADM遠位型ミオパチー患者会」を発足。2013年にNPO法人「PADM」へと法人化し、国や医療機関などへの提言や患者交流等を行う。
また、バリアフリー動画情報サイト「車椅子ウォーカー」の配信や、一般社団法人WheeLogを立ち上げてバリアフリーマップアプリ「WheeLog!」の開発・「車いす街歩きプログラム」の運営といった情報発信を通じて、社会全体のバリアフリーに関する理解普及に努める。

お話を聞いた方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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