住まいの確保に苦しむ人たちを家賃保証で支える、居住支援法人と組んだ企業の取組み

居住支援において、家賃保証会社が支援団体と事業連携を行うのは希少なケースだが、切実なニーズがそこにある居住支援において、家賃保証会社が支援団体と事業連携を行うのは希少なケースだが、切実なニーズがそこにある

人の暮らしが「衣食住」で表されるように、人が生存していくうえで住宅は欠かせないもののひとつだ。しかし、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、ひとり親など、何らかの事情によって住宅を確保することが難しい人たち“住宅確保要配慮者”がいる。
そうした住宅確保要配慮者を民間賃貸住宅に円滑に入居できるよう、支援活動を行うのが“居住支援法人”だ。2017年に施行された改定セーフティネット住宅法で定められ、住宅確保要配慮者に対して住宅情報の提供・相談、見守りなどの生活支援などを、各都道府県による認可を得て行う。2023年4月末時点で全国に687の団体や企業が認定を受けている。

しかし、住宅が見つかれば支援が完了というわけではない。賃貸住宅を契約するには保証人が必須で、住宅確保要配慮者にとって保証人を立てられないことも借りづらさの大きな要因となっている。
この問題に、“家賃保証”の観点から居住支援法人と連携し、住宅確保要配慮者への支援を行うのがナップ家賃保証株式会社(以下、ナップ)だ。
今回、ナップの居住支援の立役者である常務取締役田邊裕典氏に、ナップの取組みについて話を伺った。

家賃保証会社の居住支援 始まりは福岡のNPOの声かけから

熊本県で創業したナップは、不動産業から創始し、2001年に家賃保証会社をスタートして今に至る。家賃保証業界では古参ともいえる企業だ。しかも金融業界から参入する企業が多い家賃保証業界の中で、不動産業からというのも当時では画期的な転身だったであろう。

「不動産業が元であることから、“世の中のニーズはどこにあるのか”に対して敏感にキャッチできていたので、高齢者・外国籍・夜逃げ・孤独死といった目前の問題を解決していかなければという考えが創業時からありました。
また私たち家賃保証会社は、お金が払えるかわからない人たちを支えるために、支払い能力のある人からもお金を集めて、社会の制度を維持していくことに存在価値があると感じています」

社会的弱者の状況を、不動産業・家賃保証業と視点を変えながらも見続けて事業として続けてきたナップ。
今日のように居住支援団体と組んで事業を推進するに至ったきっかけは、田邊氏が福岡の営業所に在籍時に受けたNPOからの要請だった。

「2014年に、福岡県を拠点に活動するNPO法人大牟田ライフサポートセンター(以下、OLSC)から、団体で支援している方の部屋探しに力を貸してほしいと頼まれたことが発端でした。
福岡県大牟田市は『日本の20年先を進んでいる街』といわれていて、当時で高齢者の人口比率が約4割に上っていました。OLSCはその現状に危機感を覚えた、弁護士や行政書士、市職員、ケアマネジャーといった人たちで立ち上げた団体です。
OLSC設立当初から私たちも彼らと居住支援に関わり続けて、徐々に輪が広まった、という感じです」

ナップ自体も2018年に熊本県の居住支援法人の指定を受け、その後も2023年11月に神奈川県の指定を受けた。2024年4月には千葉県の居住支援法人となる見込みだ。
居住支援に関するネットワークや、高齢者・若者・障害者等、幅広いジャンルの支援団体の相談に応じているそうだ。

「現在では70の居住支援法人と提携し、2023年11月までに1617名の住まいを確保してきました。特に2020年以降は契約者数が顕著に伸びてきていて、それ以前は年間50名程度だったのが、今では月100名のペースで契約を結んでいます」

2020年といえばコロナ禍真っ最中。契約者数増加の要因について伺うと、田邊氏は予想外の見解を述べた。

「新型コロナの影響もありますが、セーフティネット住宅に対する認知が上がったことが一番の要因だと思います。住宅セーフティネット法が制定・施行された2017年当初はあまり反響がなかったのですが、賃貸住宅管理協会団体・不動産協会団体を中心に考える機会が増え、制度の必要性や制度に則した運用が広がっていったからだと感じています」

ナップの居住支援の要として事業を進める常務取締役田邊裕典氏。当初は社内でも懐疑的な意見もあったが、田邊氏が押し進めて実績が生まれ、理解を得られたそうナップの居住支援の要として事業を進める常務取締役田邊裕典氏。当初は社内でも懐疑的な意見もあったが、田邊氏が押し進めて実績が生まれ、理解を得られたそう

審査通過率98% それを可能にするポイントは“伴走型支援”

連携する団体が増えたことで契約者増加、つまり支援から取りこぼされる人がそれだけ減ったということだが、今に至るまで万事順風満帆というわけではなかった。
「ごく一部ですが」と前置きをしつつも、不動産仲介会社をグループにもつ団体からの依頼に応じたら、その実仲介手数料で利潤を得るためだった、都から団体への助成が切れたとたん団体が支援を打ち切り対応に苦慮した、といった苦い経験もあったという。
ナップでは現在、どういった点を重視して提携をするか否かを決しているのだろうか。

「NPOや居住支援法人の方々と連携するにあたって、“伴走型支援をしている居住支援法人と提携する”というルールを設けています。
連携する千葉県の居住支援法人 株式会社あんど(以下、あんど)がハブとなって、私たちとの連携を希望する団体と面接し、支援内容、これまでの支援実績を確認します。そのうえで、私たちも含めて面談をし、連携をするか判断しています」

気になるのが、住宅確保要配慮者に対する支援の実働だ。賃貸契約までのワークフローについて伺うと、通常の審査とは異なるという。

「一般的な“物件探し・申し込み・家賃保証審査”という流れでは、住宅確保要配慮者は不動産会社やオーナーの不安感による審査落ち、家賃保証会社の通常審査による審査落ちで、なかなかお部屋を借りることができません。
そこで、先に私たちが伴走支援をする支援団体とすりあわせをしたうえで審査をし、審査が通ったらお取引のある不動産会社にその旨を通達してお部屋を契約する、と流れを変えました。
具体的には、申込者の名前は伏せて、申込者の状況と伴走支援する支援団体の情報、支援団体が申込者にどういった伴走支援をするのかも併せて不動産会社に提示します。
伴走支援の例を挙げると、お金の管理に難儀する方であれば金銭管理契約を結んでいる、精神疾患がある方であれば定期訪問を行って服薬をきちんとしているかを確認する、といったものですね。“救ってくれる手がある”そして“家賃保証がある”ことをお伝えして、不動産会社へ送客しています。
もし家賃滞納が発生したときに居住支援法人に連絡して確認をお願いできる点においても、伴走支援を行う支援団体であることが重要なのです。おかげでデフォルト率(債務不履行が発生する率)も低く抑えられ、実績にもなっています」

各自が得意な分野で支援に注力する仕組みと他社との連携

ナップの管理は家賃保証にとどまらない、独自の“人”に対応した策を講じてもいる。

「孤独死と無断退去に関しては、『株式会社リーガルスムーズ』と提携してスムービング(委任)サービスを全年齢に付加し、賃貸借契約などの解除、遺留品・残置物等の撤去、原状回復・特殊清掃等がスムーズに行われる仕組みができています。
高齢者に関しては、緊急時の駆け付けが付帯したサービスの提供も用意しています。
家族に頼れない若者に関する事案では、私たちの場合は緊急連絡先を児童養護施設や支援団体で可能としていて、支払い能力に問題がなければ審査は通ります」

田邊氏によると、居住支援法人を介したナップの審査通過率はおよそ98%。非常に高いこの数字は、申し込む側としても心強いだろう。残り2%についても、「周辺に影響を与えかねず民間住宅の分野では支えきれない方もいて、難しいと感じています」と課題として受け止めているようだった。

あんどの協力の下、住宅確保要配慮者の支援にあたっては、人の管理を居住支援法人が、建物管理は不動産会社が、家賃管理をナップが、と取り組む分野を再編。各自が得意な分野で支援に注力する形を取っているというあんどの協力の下、住宅確保要配慮者の支援にあたっては、人の管理を居住支援法人が、建物管理は不動産会社が、家賃管理をナップが、と取り組む分野を再編。各自が得意な分野で支援に注力する形を取っているという

家賃保証会社から見る居住支援の動きとこれからの家賃保証の可能性

「NPOが持続的に事業を進めていけるだけの資金源がないのが、一番の課題」と語る場面も。居住支援を通じて社会福祉の多用な側面を見ている「NPOが持続的に事業を進めていけるだけの資金源がないのが、一番の課題」と語る場面も。居住支援を通じて社会福祉の多用な側面を見ている

認定NPO法人抱樸の奥田代表の話として、独り立ちをして賃貸に住み、その後自治体の雇用促進住宅に移り住んで貯蓄をし、最終的に持ち家を持つ――高度経済成長におけるこうした住み替えの変化は、“住宅すごろく”とも形容され皆一様にたどる道とされてきた。
それにならい、日本の制度はこれまですごろくのあがりである“住宅を所有すること”に力を入れてきた。フラット35がそのいい例で、住宅ローンを組みやすくし、1世帯に1つ持ち家がある環境をつくり上げている。
時は令和。当時と比べて所得が下がり、核家族化が進み、さらに“家族”の価値観が変化して独身単身者も増え、自由な暮らしが社会的にも受け入れられつつある。

こうした現状と居住支援について、田邊氏はこう分析する。

「家というハードに制度が舵を切りすぎてしまったがために、ソフト面、つまりそれを支えるシステムや人手が不十分になってきていると感じています。特に公共系の住宅は運営費や職員数の減少による人手不足から、40年かけて3割を削減する政策が打ち出されていて、住宅を所有できない住宅確保要配慮者の方たちがあふれてしまう状況にあります。
この状況の改善のため、住宅のセーフティネットに関してそれまで『近くて遠い』と言われてきた国土交通省と厚生労働省が足並みを揃えるように動きだしました。
2023年12月に両省が発表した中間とりまとめによると、住宅確保要配慮者を受け入れる側にあたる国土交通省が受け入れ態勢を整えることを、福祉を担う厚生労働省が住宅確保要配慮者の入居にかかる初期費用と毎月の家賃にプラスして見守り費用を予算化しなければならない旨を、ともに打ち出しました。それが実現すれば、居住支援法人の活動もより進めやすくなるはずです」

居住支援において、政府の動きは非常に重要だ。田邊氏は続ける。

「家賃保証会社として、厚生労働省の予算化で注目しているのが代理納付です。
住宅確保要配慮者は生活保護を受給している方が多く、家賃は生活保護費から賄われます。公営住宅の場合、保護費の支払い元と家賃納付先が同じ自治体のため手続きが役所内でできることから、代理納付率が約70%と非常に高くなっています。
一方、民間賃貸の場合の代理納付率は20%程度と非常に低く、家賃滞納のリスクにもなっています。予算化によって民間賃貸の代理納付が義務化されれば、オーナーや管理会社が負う滞納リスクが減り、部屋を貸しやすい環境が整うのではと考えます。
家賃滞納がなくなれば家賃保証会社は不要なのでは……と思われるかもしれませんが、孤独死による残置物の処理や、生活保護の打ち切りで家賃が急に払えなくなることをカバーするために、家賃保証は必要になります。家賃保証会社の事業展開として、そういった点にも可能性を感じています」

国・支援団体・民間企業の三方が協力し、三者ともにプラスになる支援の法整備が、時を置かずなされていきそうだ。

住宅からさらに広く“困っている人”を支える。家賃保証事業の在り方

自身も伴走型支援士2級を取得。困窮する人を支える伴走の大切さ、実効性のある支援の考えが息づいている自身も伴走型支援士2級を取得。困窮する人を支える伴走の大切さ、実効性のある支援の考えが息づいている

2022年上期においてもナップは、認定NPO法人D×P(ディーピー)と連携し親に頼れない若者支援をスタートさせたほか、株式会社LivEQuality大家さんが構想するアフォーダブルハウジングプロジェクトに参画するなど、ジャンルも規模もさまざまな住宅支援に乗り出している。

「私たちのこうした取組みも、私たちだけでこの先続けていくのは難しいでしょう。『ナップが頑張っているから我が社も頑張ろう』と、ほかの保証会社もなってもらえるといいと思うのです。社会的に『どこの保証会社でも対応できるようになったよね』と感じられる世界観のほうがいいですよね。かつては外国籍の方たちの入居が厳しかったのが、今はだいぶ入居しやすくなってきています。それと同じです」

またナップの保証は不動産にとどまらず、医療機関向け⼊院医療費債務の保証業務を行っていることから、今後は介護施設入居時の連帯保証人に関する施設保証も構想にあるという。
住まいだけでなく生きることに寄り添う事業を展開するナップ。その今後の発展に期待したい。

今回お話を伺った方

今回お話を伺った方

田邊裕典(たなべ・ひろのり)
熊本県出身。2011年、株式会社ナップ入社。九州事務管理センター・熊本支店に勤務ののち、2018年にナップ家賃保証株式会社常務取締役に就任。実務と並行し、居住支援法人やNPOと協力した居住支援事業を進める。その傍ら、一般社団法人全国保証機構の理事を務めるほか、不動産活用の講演に登壇するなど、企業が事業として行う居住支援の周知と啓蒙に尽力している。

■ナップ家賃保証株式会社
https://nap-service.com/

今回お話を伺った方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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