家賃保証業界にもフィンテックの波。利用が広がるAI定性与信技術
賃貸契約の安全性を高めるため賃借人が求められる“保証人”。国土交通省の2016年度の調査では、賃貸借契約の約97%において保証人が求められ、そのうち約6割が家賃債務保証会社を利用、さらに家賃債務保証会社の利用は増加傾向にある、と発表されている。
しかし、高齢者・生活保護利用者・外国籍といったバックグラウンドを持つ人たちは家賃債務保証の審査が通りづらいとも同調査で明らかになっている。
超高齢社会、かつ人口減少により外国籍の人たちの労働力を期待する今の日本において、家賃保証が利用できない人が増える懸念は明白だ。そのうえ、保証会社の審査は年々厳しくなっているともいわれて久しい。
そんな業界にAI技術で風穴を開けようとしているのが、H.I.F.株式会社だ。今回は、代表取締役の東小薗光輝氏に、同社が提供するAI与信サービスの仕組みや、家賃保証業界へのアプローチ、今後の展望などを伺った。
ひとり親世帯は与信が受けられない――属性で判断される憤りから起業へ
「『本来融通されるべき人』のために」というミッションのもと、AI定性与信技術によって適切な人にお“金”が“融”通される社会の実現に向け、2017年に立ち上がったH.I.F.。起業のきっかけを東小薗氏に尋ねた。
「私はもともといわゆる“生活弱者”でした。ひとり親家庭で育ち、私が高校3年生のときに母親が交通事故に遭って働けなくなってしまいました。親が働けなくなったことで融資を受けられず、大学進学をあきらめ、住み込みで生活のできる自衛隊へ入隊……という体験の中で感じた、“生活弱者にかけられるバイアスによって与信付与がされない”という実情に憤りを覚えていました。そんな世界を変えたい――という想いで与信事業を始め、それに共感してくれるスタッフと共に今も続けられています」
並々ならぬ熱意とともに、起業当初は法人向けの与信を主軸として事業を展開。AIを導入した審査で、業界標準の10分の1のデフォルト(債務不履行)率を実現しているという。
東小薗氏は金融業界での勤務経験から個人与信審査に長けていたこともあり、2021年に個人向けの家賃・敷金保証サービスを開始。2023年1月現在では、家賃・敷金保証事業全体でおよそ3,000件の保証を行い、内9割が個人住宅向けの契約とのこと。提携する管理会社数は約220社に及び、着実に実績を伸ばしている。
家賃保証審査のAI与信は、従来の与信審査と何が違うのか
H.I.F.の家賃保証で用いられている独自のAI定性与信技術「二十一式人工知能付自動与信審査回路」は、業界水準の10倍以上の与信精度だという。与信審査とAI、あまりなじみのない言葉の組み合わせだ。サービスの特徴を伺った。
「私たちの住居の家賃保証は、“間口が広く、審査通過率が高い”というのが大きな特徴です。審査に際し、選択式の質問を35問用意しています。その回答を、これまでに集めた延滞率や保証金回収率などの情報をAIに機械学習させたデータに照らし合わせて審査します。
審査ロジックも、単一属性で判断するように組まれていません。というのも、集めてきた情報を解析すると、ひとり親、高齢者、生活保護、犯罪歴のある人といった属性による与信リスクはほぼなかったからです。そのため、従来の審査では個人の属性へのバイアスによって与信がないとされていた方々も、審査が通りやすくなっています。
また、日本語が話せない人でも問題ではない点も特徴に挙げられます。2023年12月より、株式会社エイチ・アイ・エスと共同した『グローバル家賃敷金保証サービス』を始めました。外国籍の方の居住支援サービスが付帯する家賃敷金保証のため、より間口は広がったと思います」
気になるのは、その審査のロジックだ。35問の質問が審査にどう関わってくるのだろう。
「私たちが法人向けの家賃敷金保証で培ってきた統計と、人口統計学的属性(demographics) と心理学(psychology)を合わせた審査項目から導き出されたモデルを、個人居住向け賃貸に流用しています。審査の基礎となる35問の質問は、居住地や転居理由、過去の家賃延滞歴など基本的な質問のほか、好きな動物や色、休日の過ごし方といったその人の行動や思考に直結するユニークなもので構成されています。
先ほど単一属性ではリスクはほぼないと言いましたが、[属性]×[別の要素]といった、掛け算だと浮かび上がってきます。同様に、[地域]×[職業]、[引越し理由]×[休日の過ごし方]等、この膨大な計算にもAIが必要となっているのです」
入居審査の通過率を上げる×家賃の延滞率を下げる、両輪の取り組み
H.I.F.の審査通過率は、およそ9割。大手保証会社が5割程度なのに対して、驚異的な数値である。この差に関して尋ねると、東小薗氏は「ミッション・ビジョンが異なるからでは」と答えた。
「多くの保証会社は、“家賃滞納リスクに対して保証料をもらう”といった商売の仕方です。そのため、リスクが高い人はできるだけ弾いて、自分たちの収益を大きくしようとします。私たちは審査技術を提供する会社なので、家賃敷金保証で得たデータを解析して、モデルをつくり、別の金融に流用することに重点を置いています。その違いが大きいのだと思います。
また、与信の問題を解決することで、損をする人は誰もいません。金融機関はお金を、家主は部屋を貸せますし、借りる側も恩恵を受けられる。与信審査をする私たちも審査手数料を得られ、税金もきちんと納められる。全体によいサイクルが生まれます」
ウェブサイトにある一文、「貸主様には最大の安心を、借主様にはお部屋を借りる際の信用リスクを補完できる安心を」は、東小薗氏のこの説明が裏付けるものだろう。
同業他社との違いは、ほかにもあった。
「多くの保証会社では家賃滞納が生じると、補填による企業損失を増やさないために退去を促すのが一般的です。一方、私たちは家賃滞納が発生した場合、退去を促すことはせず、賃借人にカウンセリングを行います。事態の正常化、つまりまた家賃をきちんと払える状態にすることが目的です。家賃を払えなくなる人の9割方は『仕事を失った』というのが原因なのですが、カウンセリングを通じて提携する人材派遣会社を紹介する、といった対応もそのひとつです。正常化しやすい人であることもわかったうえで審査を通過していますから、回収率が下がることもありません。
不動産管理会社からすると、保証会社によって退去させられると、リーシング費用が新たに発生するうえ手間もかかります。不動産会社も退去に伴う原状回復といった労力が必要になるので、空室になってほしくないはず。そういった点で、不動産業界の方々からは評価いただいているようです」
入居者も家賃滞納をしたくてしているわけではない。「正常化」という言葉が用いられていることに、H.I.F.の企業理念が伝わってくる。AI審査技術が生む入居審査通過率の高さと延滞発生率の低さ、そして事態の正常化は、業界に一石を投じるサービスといえよう。
家、車など、AI与信の技術をあらゆる分野の借りづらかった人たちへ
家賃保証に関して、次々と業務提携を進めるH.I.F.。2022年11月には株式会社ビズリンクと連携してフリーランスに向けた家賃保証サービスを、2023年12月に株式会社エイチ・アイ・エス、株式会社宅建ブレインズと連携して外国籍の方向けの家賃敷金保証および居住支援サービスをスタート。与信が付与されづらいバックグラウンドの人への賃貸保証を広めている。
与信を付加するジャンルを広げることで、審査モデルの精度が上がり、通過率や回収率も上昇すると東小薗氏は見通しているとのこと。不動産業界側の認識を、善意だけではなく、入居率の向上やデフォルト率の低減などビジネスの観点でよりよい方向へと変えていこうする姿勢がうかがえる。
「近い将来、外国籍の方の流入が増えることから、家賃保証のニーズも増え、家賃保証市場も大きくなっていくでしょう。ただ、審査モデルをその変化に合わせてアップデートしていかないと、市場の伸びについていけなくなるのではと考えています。今後も、私たちと同じミッション・ビジョンを掲げる企業と協力して、与信付与がなく苦労している人に付与をしていきたいですね。
家賃保証以外の分野では、中古車ローンに注目しています。中古車ローン業界でもお金を借りたくても借りられない人たちがいると知り、家賃敷金保証で得たデータや実績を中古車ローンに活用できればと考えています。たとえば、地方に住んでいる、あるいは配送業を始めようとしていている方が、何らかの事情があって与信がなくローンが組めないと、生活が立ち行きませんから」
ローンや保険、リースなど、生活に密着する金融はあまたある。AIによる与信は、あらゆる金融分野に広がる余地のあるサービスといえるだろう。家賃保証を切り口に、長らくあった世の中のバイアスが消えていくかもしれない。
お話を聞いた方
東小薗光輝(ひがしこその・みつてる)
高校卒業後、陸上自衛隊入隊を経て複数の金融機関に勤務。2011年に株式会社エイチ・アイ・エス(以下「HIS」)へ入社、法人営業部にて勤務。2016年澤田経営道場2期生として経営を学び、2017年11月HISを退社、H.I.S. Impact Finance株式会社(現H.I.F.株式会社)を設立する。現在は会社運営のほか、ひとり親世帯へのベーシックインカムや動物保護を行う「zoo財団」への支援活動にも尽力している。
■H.I.F.株式会社
https://www.hifcorp.co.jp/
==============
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
公開日:
LIFULL HOME'Sで
住まいの情報を探す
住宅弱者フレンドリーな不動産会社を探す
賃貸物件を探す
マンションを探す
一戸建てを探す
注文住宅を建てる
売却査定を依頼する
【無料】住まいの窓口に相談













