部屋探しから契約・決済までオンラインで完結する外国籍の人に向けたソリューション

2023年4月よりMooovin 事業部にアサインし、事業ディレクターとしてサイトの構築からユーザー・管理会社へのフォローまで「Mooovin」のすべてを手がける藤 大貴 氏(画像右)2023年4月よりMooovin 事業部にアサインし、事業ディレクターとしてサイトの構築からユーザー・管理会社へのフォローまで「Mooovin」のすべてを手がける藤 大貴 氏(画像右)

コンビニエンスストアやスーパー、病院や介護施設など、身近な生活のシーンで、働く外国籍の人たちと接する機会が増えていると感じる人は多いだろう。法務省の発表によれば、2023年6月末時点で、在留外国人(永住者や中長期在留者)の数は前年度比4.8%増の322万3,858人となり、過去最高を更新している。
外国籍の人口が増え続けている一方、外国籍の人たちをめぐる住まい探しの環境は、時代に即して変化しているとは言いがたく、外国籍であることが理由で部屋探しに難儀する人が増える懸念もある。

そのような中、賃貸管理やサブリース事業を軸に不動産のITソリューションを進める株式会社KACHIALが、外国籍の人をターゲットに“部屋探しから契約・決済まで”オンラインで済ませることができる賃貸プラットフォーム「Mooovin(ムービン)」を2023年1月にローンチした。今回は事業のディレクター藤 大貴 氏に、事業の内容と、Mooovinが見据えるその先についてお話を伺った。

国内だけでなく海外にいながらにして賃貸契約が結べる「Mooovin」

Mooovin のトップページ。初期費用や毎月の家賃をクレジットで決済でき、24時間多言語対応サポートが付帯、来店不要でオンライン上で完結できるサービスだMooovin のトップページ。初期費用や毎月の家賃をクレジットで決済でき、24時間多言語対応サポートが付帯、来店不要でオンライン上で完結できるサービスだ

海外からでもオンライン上で、物件探しから申込み、さらには契約完了、毎月の家賃の支払いまでのすべてを完結できるMooovin。システム自体がまれなうえ、ユーザーは外国籍に限定している。外国籍の人たちの日本での部屋探しに苦労する場面が散見される中で、かなり画期的なサービスといえよう。サービス立ち上げはどういった経緯からだったのだろうか。

「KACHIALの賃貸管理事業の中に、外国籍の方をサポートする国際課があるのですが、そこに上がってくる『気に入った物件があっても入居できない』といった声、そして介護業界で長らく勤めていた経験のある社長の高橋が気づいた、現場で働く外国籍人材の住居ニーズが高い現状、その2つに応える形で生まれました」

求められるニーズにマッチするよう、“外国籍の方向け物件”の情報を集め、提供し、ユーザーの契約から居住サポートに至るまでを提供する。一見、賃貸仲介のようにも見えるが、「あくまでポータルサイトであり、プラットフォーマーという第三者的な立場になります。場づくりをしているという意味では、業界初と言えるかもしれませんね」と藤さん。

「『Mooovin』は空室状況を把握する管理会社・不動産オーナーと国内の部屋を借りたい外国籍のユーザーを結ぶサービスです。掲載しているのは、自社のサブリース物件だけでなく、不動産オーナーの許諾を得られている他社管理会社が提供する全国区の外国籍の方向け物件情報となっています。

また、弊社の管理物件だけでなく他社においても、管理物件の情報にそもそも『外国籍可/不可』といった項目はありません。そのため、入居可能かどうかオーナーに一件一件確認し、情報を追記しています。Mooovinに掲載を希望される管理会社にも、その作業をお願いしています。
事業を進めていると、同業他社でも“外国籍の方向け物件”の情報提供を進めているお話も耳に入ってくるので、外国籍の方に視野を向けている企業の広がりを感じています」

ユーザーと管理会社、双方にもたらされる利点

「外国籍の方を受け入れることで不動産業界が元気になる」という考えのもと、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会や全国賃貸管理ビジネス協会にて情報を発信することも「外国籍の方を受け入れることで不動産業界が元気になる」という考えのもと、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会や全国賃貸管理ビジネス協会にて情報を発信することも

業界初ともいえるMooovinサービス。改めてその特徴と、ユーザーが享受できる利点を詳しく伺った。

「“外国籍の方向け” “オンラインで完結” “言語サポート”、大きく3つのサービスが軸にあります。
数あるユーザーのメリットの中でも、ひとつが、外国籍の方向け賃貸物件のみ掲載しているため通常の部屋探しよりスムーズに入居できるという点です。気に入った物件が見つかっても、外国籍であることを理由に断られて部屋探しが振り出しに……といったことが外国籍の方には起こりがちです。Mooovinの当初のコンセプトから、この点は重視していて、ユーザーにとっていちばんの魅力になるのではと感じています。

2つ目がオンラインで契約・決済まで一気にできる点。決済は国際5大ブランドのクレジットカードで可能なため、海外にいながらにして物件を契約、入居後の毎月の家賃支払いも済ませることができます。実際にドイツ在住の方がサイトを利用して、現在も問題なくご入居いただいている事例もあります。

3つ目に言語サポートが自動付帯している点です。通訳や24時間対応の多言語コールセンターの利用が付帯していて、日本語に不安のあるお客様にはかなりの安心材料になると思います」

またユーザー側だけでなく、不動産業界側にも大きな利点があるという。

「不動産業界側にもメリットが3つあります。第一に、内見や事前問合せの手間の省略です。国内の一般的な部屋探しでは不動産会社への物件問合わせがファーストアクションとなりますが、Mooovinでは申込みがそれに該当します。
海外ではウェブショッピングのように部屋を探すのが当たり前なのだそうです。MooovinはそれにならってECサイトのようなつくりを意識し、写真をはじめとする物件情報を管理会社やオーナーに詳細に入力いただくようお願いすることで、契約までの効率化が図れると考えます。

次に、外国語対応ができるスタッフがいなくても、付帯する多言語サポートによって、外国語対応が可能になる点です。契約に必要な重要事項説明も、自社で人員を確保せずともサービスの通訳を活用して伝えることができます。
オペレーターによる言語対応だけでなく、管理会社側とユーザー間のやり取りに自動言語翻訳を付けているため、外国籍の方の入居に不安を感じる管理会社側のハードルがだいぶ下がると思っています。

そして、これは副次的な効果ですが、IT導入の試験的運用と不動産DXの推進です。IT重説(オンラインによる重要事項説明)や、電子サイン、クレジット決済に関心があっても、個別に取り入れるのは費用も手間もかかります。Mooovinはそれらがすべてパッケージ化されているので、導入費を抑えることができるのです」

草の根的なアプローチから知った切実な声と利用者からの喜びの声

EXPAT EXPO TOKYO 2023 出展時の様子。不動産各社参加している中、立っているだけ
で声をかけられるほどのニーズだったそうEXPAT EXPO TOKYO 2023 出展時の様子。不動産各社参加している中、立っているだけ で声をかけられるほどのニーズだったそう

ポータルサイトの真価は、情報にリーチすることが難しかったユーザーにいかにサービスを介して情報を届けるかに問われる。不動産業界において、その指針のひとつとなるのはユーザー数・登録物件数だ。ターゲットが“外国籍”と限定的なことで、アプローチ方法も一筋縄ではいかないのではなかろうか。

「ローンチ当初は、国際課からの紹介や、都内の外国語学校に伺ってお悩みのヒアリングをしつつプロモーション活動を一件一件草の根的に行っていました。
手応えを感じたのは2023年の秋以降で、在留外国籍の方向けの展示会への参加や、日本在住外国人コミュニティのお祭りなどに協賛したことで大きく変わってきたと感じています。イベントのブースに立つたび、個人の外国籍の方だけでなく、企業の外国人採用担当者からも、住宅のミスマッチの切実な声が直接寄せられ、関心をいただいています。その反響の多さに、Mooovinを通して私たちが取り組もうとしていることは間違っていないのだなと、改めて実感しています」

プロモーションや外国籍の人たちのコミュニティ内で交わされる口コミ、企業案件によって登録者数・登録物件等も順調に増加しているとのこと。実際に利用したユーザーからの反応も上々のようだ。

「国内在住の韓国籍の方の事例なのですが、仕事の関係で東京と北海道の2拠点の部屋探しを同時に行う必要がありました。物件リクエスト(Mooovin側が該当エリアの管理会社に問い合わせて物件を登録する機能)を使って所定のエリアで希望物件を見つけ、無事2件とも成約できました。2ヶ所同時かつ遠地の物件探しは日本人でも難しいと思います。移動を要せずに契約までできることは、手段や方法、国境まで越えた部屋探しとして可能性を感じています」

来たるべき時代の変化にどう対応するか――業界や企業への課題と期待

「外国籍向け物件情報の付加を進めている同業他社の話も耳にすることが増え、外国籍の方に視野を向けている企業の広がりを感じている」と藤さんは語る「外国籍向け物件情報の付加を進めている同業他社の話も耳にすることが増え、外国籍の方に視野を向けている企業の広がりを感じている」と藤さんは語る

不動産賃貸業界内のニーズと供給のアンマッチに着目してMooovinという新しいサービスが誕生したわけだが、新しい事業を通じて見えてきた不動産業界の課題はあるだろうか。

「管理会社の視点で見ても、不動産業界は堅実な業界。だからこそ新しいものへ一歩踏み出すのに慎重になる側面があり、MooovinがカバーするようなDXの導入や外国籍にフォーカスした取組みは、そう簡単には進まないのだと思います。
特に業界のトレンドとして、高齢者と外国籍のお客様は、今後長期的に増加する傾向があり、対応せざるを得ないタイミングが必ず訪れます。そこまでに早めに準備をしておくか、そのときに初めて対応するか――対応に対する経営者層・実務層・地域の間にある熱量の差を埋めるため、課題というより、私たちのアプローチ方法を変えていく必要があると感じています。
また、2024年は世帯数の減少がスタートするともいわれていて、賃貸業界は空室増加に大きな影響を受けるのではと注目しています。この変化にも、ITによる業務効率化で貢献できたらと考えています」

外国籍の人をめぐる住環境の課題について尋ねると、「個人ユーザーよりも、外国籍の方を雇用する企業、管理団体、人材派遣会社といった、外国籍の方を招いて住宅供給をする側に課題を感じる」と藤さんは言う。

「不動産に対するリテラシーがあまり高いとはいえない点が気になっています。たとえば、『都内で3万円台かつ3人入居可の物件』といった無理な要望が上がることもしばしばあるのです。固定費を圧縮して収益を上げたい思いもわかりますが、『日本へ働きに行きたい!』と来日してくれた方々に、決して良いとはいえない住環境を提供するようなことを、私たちはしたくありません。外国籍の方に住まいを用意する担当者や企業が、自分もその条件下で住めるのか、住む人の環境についても想像してほしいですね」

Mooovin の今後の展望について伺うと、「一般賃貸からスタートしましたが、今後は外国籍の方のライフステージに合わせた、住まいのほか車の購入や仕事の仲介、恋人のマッチングなど、周辺領域にもこのポータルサイトに集約させ、外国籍の方の暮らしを支えていきたいと社長とも話しています。できると確信しています」と、藤さんは穏やかに笑う。

ローンチから1年。一般賃貸に関しては大手管理会社との提携も進み、今春には10万件以上の物件がMooovinに掲載される予定だという。外国籍の賃貸を切り口に、多様な可能性を秘めたMooovin。その変革に期待したい。

今回お話を伺った方

今回お話を伺った方

藤 大貴(ふじ・ひろき)
大学卒業後、国内大手アウトドアメーカーにて販売・店長職、不動産会社にて不動産売買の仲介営業を務めたのち、株式会社KACHIALに入社。2023年4月よりMooovin事業部にアサインし、事業ディレクターとして外国籍の方々の日本での暮らしのサポートに尽力する。

■Mooovin
https://mooovin.jp/

今回お話を伺った方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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