20歳代の約45%が「移住」に関心。移住・二地域居住は広がるか

コロナ禍でリモートワークが浸透したことで、以降、特に若い世代を中心に「移住」や「二地域居住」への関心が高まっている。2023年の内閣府の調査によれば、20歳代の東京圏在住者のうち約45%が地方移住に関心を持っており、その割合は全年齢平均よりも大きいという。2020年度比では5%超上昇しており、東京都での移住相談件数のうち、40歳代以下の若い世代の相談が約7割を占めていることからも、関心の高まりが見て取れる(※1)。

また、二地域居住等をしていない人のうち、約3割(27.9%)が二地域居住等に関心を示している調査結果もある(※2)。二地域居住とは、「主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点(ホテル等も含む)を設ける暮らし方」であるが、地方への人の流れを生むとともに、 東京一極集中の是正や地方創生に資するものとして注目される。

こうしたニーズの高まりを受け、国土交通省が立ち上げた移住・二地域居住等促進専門委員会では、若い世代を中心とした移住・二地域居住等を促進するための施策検討が重ねられ、2024年1月にその中間とりまとめが公表された。策定に携わった国土交通省国土政策局の倉石 誠司さんに、その背景やビジョンを伺った。

東京圏在住者の地方移住への関心の高まりを示したグラフ。若者の45%が地方移住に関心(出典:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」2023年4月)東京圏在住者の地方移住への関心の高まりを示したグラフ。若者の45%が地方移住に関心(出典:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」2023年4月)
東京圏在住者の地方移住への関心の高まりを示したグラフ。若者の45%が地方移住に関心(出典:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」2023年4月)二地域居住等への関心について。二地域居住等を行っていない人のうち、27.9%が二地域居住等に関心があるという(出典:国土交通省「二地域居住に関するアンケート」2022年8~9月)

移住・二地域居住の促進で、2032年までに関係人口をコロナ以前の1.5倍へ

移住・二地域居住の促進の土台となるものとして、先んじて2023年7月に閣議決定された「第三次国土形成計画(全国計画)」がある。未曽有の人口減少、巨大災害のリスク、気候変動を始めとしたさまざまな難局を乗り越えるため、総合的かつ長期的な国土づくりの方向性を定めたものだ。スローガンとして 「新時代に地域力をつなぐ国土 ~列島を支える新たな地域マネジメントの構築~」が掲げられている。

倉石さん「今回の国土形成計画のキーワードは、『地域力』です。『地域』を前面に打ち出した初めての計画になります。全国各地域の力を結集し、地方への人の流れを創出・拡大していくことに重きを置いており、今回の計画では、地域生活圏の形成を図ることを重視しています」

“地域生活圏”とは、通常の日常生活に必要なサービス、例えば地域交通、バスやタクシー、ライドシェアなどの移動周り、医療や福祉、学びといった暮らしに関わるサービスが過不足なく提供される地域を指す。人口減少社会において、上記3つのポイントを兼ね備えた地域生活圏は、人口10万人程度以上が目安だという。デジタルも活用すれば、例えば5万人の圏域でも、日常生活のサービスを十分維持できるとされる。

地域生活圏のイメージ図。10年ほど前の計画では、地域生活圏を維持するには30万人の人口が必要とされていたそうだが、官民パートナーシップにもとづく地域マネジメント、日常生活におけるデジタル技術(自動運転や遠隔医療、オンライン教育など)を徹底活用していけば、現実味がある数字だという(出典:第三次国土形成計画(全国計画)パンフレット「地域生活圏」の形成)地域生活圏のイメージ図。10年ほど前の計画では、地域生活圏を維持するには30万人の人口が必要とされていたそうだが、官民パートナーシップにもとづく地域マネジメント、日常生活におけるデジタル技術(自動運転や遠隔医療、オンライン教育など)を徹底活用していけば、現実味がある数字だという(出典:第三次国土形成計画(全国計画)パンフレット「地域生活圏」の形成)

人口10万人程度というと、神奈川県伊勢原市や埼玉県坂戸市などがあてはまる。なかなか大きな地域圏といえるだろう。自治体単体ではなく地域をまたいで考えるものではあるものの、それだけの規模の地域生活圏を維持するには、地域間を移動する人の流れを生み出す必要がある。

こうした背景から国土交通省は、「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、特定の地域に継続的に多様な形で関わる人々」を「関係人口」と定義し、2032年度を目途に、全国の関係人口をコロナ禍前と比較して1.5倍程度に拡大することを目指している。

施策の3本柱は「住まい」「仕事」「コミュニティ」

国土形成計画をベースに、次のステージに向けた具体的施策として「移住・二地域居住促進」が進められている。移住・二地域居住の促進は、関係人口の創出・拡大、魅力的な地域づくり、また個人の多様なライフスタイルの実現が期待される一方で、一般市民がいざ実践に移すには障壁が多いのが実情だ。
「地方移住にあたっての懸念」を聞いた調査では、「住まい」のほか、「移住先での仕事」や「買物や公共交通等の利便性」、「人間関係や地域コミュニティ」を挙げる割合が多かった(※3)。これらの結果を受け、移住・二地域居住等促進専門委員の中間とりまとめでは、取り組むべき課題として「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニティ」の3点が設定されている。

住環境が整備されれば、いきなりの移住は難しい場合でも、お試し移住や短期滞在といった選択肢が取りやすくなる。自然が豊かなところで子育てをしたい、まずは地方での居住を楽しみたい、という潜在層の取り込みにつながる住環境が整備されれば、いきなりの移住は難しい場合でも、お試し移住や短期滞在といった選択肢が取りやすくなる。自然が豊かなところで子育てをしたい、まずは地方での居住を楽しみたい、という潜在層の取り込みにつながる

「住まい」に関する取り組み
移住者を呼び込みたくとも、ニーズに合った住まいが不足している現状がある。空き家は増えている一方で、移住者向けの住居として活用できる物件は少なく、また賃貸住宅の供給量が少ない地域も多い。築年数の経った建物は改修するにも予算の捻出が困難なケースも多いだろう。地域に多数の空き家がある現状で、適切な活用をどのように進めるかが課題となる。

・空き家の掘り起こし、改修、活用
・シェアハウスも含めた賃貸住宅の供給
・二地域居住等に伴う諸費用の公的支援
・お試し居住、長期滞在等の促進
・子育て等の住生活環境の充実

「なりわい(仕事)」に関する取り組み
多様な働き方が増える中、転職することなく移住を選択する人も増えている。地方でも場所に縛られない働き方を実践するためには、テレワーク環境やコワーキングスペース等の働く場や交流場所を確保することが求められる。また、コワーキングスペース等が地域の交流の場となるようコーディネーターとなる人材の育成・確保も重要だ。

・場所に縛られない働き方(転職なき移住)への対応
・ニーズに合った仕事の確保
・ 副業などの新しい働き方の普及促進

「コミュニティ」に関する取り組み
移住者と地域コミュニティとの関わりも重要である。円滑に地域コミュニティに溶け込める環境を整えること、また若い人が地方でチャレンジしやすいよう、活動費などの予算支援のほか、地域との関係構築の一助として、市役所や町役場からのお墨付きを得られるような仕組みを設けることも検討されている。

・移住・二地域居住者の地域コミュニティへの参加
・地域交流拠点の整備、運営
・二地域居住者と地域住民をつなぐ人材の育成

これら3つの柱は、単独で進めても目指す結果は得られにくい。
自治体や地域振興会、不動産会社、金融機関、ハローワーク、移住者の会など、地域の実情に応じて行政・民間が一体となり、横断的に進めていくことが求められる。

移住のミスマッチを防ぐには?求められる地域からの情報発信

情報発信がさかんな自治体では、移住者の取り組み事例やインタビューなどの情報がWeb媒体やSNSなどさまざまな媒体で発信されている情報発信がさかんな自治体では、移住者の取り組み事例やインタビューなどの情報がWeb媒体やSNSなどさまざまな媒体で発信されている

都市部から地方への移住が促進されると、起こりやすいのが移住後のミスマッチだ。
LIFULL HOME'S PRESSでも、さまざまな地域の事例を取材してきたが、中には「移住者の想像と実態が違うこともある」「もとの地域に戻る人もいる」といった声もあった。移住後の定住への難しさが窺える。今回の中間とりまとめでは、移住者と地域、双方にとって幸福な移住となるために、地方自治体の情報発信が重要になるとしている。

倉石さん「移住・二地域居住等を進める上で、補助金などのハード面ももちろん大切ですが、移住のミスマッチを防ぐために、地域からの情報発信も大きなポイントになります。地域の中できちんと議論をし、未来のビジョンを描き、“うちの地域には、こういうエリアに、こういう人に来てほしい”という『地域が求める人物像』をしっかり発信していくことが大切です」

移住施策がうまくいっている自治体は、マーケティング観点も採り入れながら、街が目指す姿を積極的に発信している。移住・二地域居住の実践者がメディアに出ることも多く、ロールモデルの見える化は移住検討層にとっての参考となり、安心感につながるだろう。

余談だが、「地域からの積極的な情報発信」は、その地域に暮らす人々の持続的な幸福(Well-being)にも大きく影響している。LIFULL HOME'S 総研が2023年に発表した『地方創生の希望格差 寛容と幸福の地方論Part3』では、「自分が暮らす地域の未来に希望を持てること」が、「生きがいや将来の持続的な幸福」につながり、「地域に希望を持てる」要因は、「地域の政治行政を信頼できること」「政治行政からの発信が住民に届いていること」が大きく影響することがわかっている。

■関連記事:地方創生は持続的な幸福度(Well-being)を目標にするべき。「地方創生の希望格差 寛容と幸福の地方論Part3 」LIFULL HOME'S 総研

移住・二地域居住地を選ぶ上でも、街のビジョンが明文化され、自治体がそれを積極的に発信していることは、移住者と地域とのミスマッチを防ぐだけでなく、移住後に生き生きと活躍する人々が増えることにもつながるだろう。

官民連携で機運を高め、移住・二地域居住をライフスタイルの一つに

2024年2月9日には、国土形成計画における移住・二地域居住等に関し、「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定された。法案にあるとおり、移住・二地域居住等を進めるには、「住まい」「なりわい(仕事)」「コミュニティ」、この3つの制度設計が肝になる。ただ、これらは特効薬ではなく、10年先やその先を見据えた種まきであり、じわじわと効いてくる漢方薬のようなものだ、と倉石さんは語る。

「この法律の改正は、一つのエポックメーキングであると考えています。1、2年ですぐに結果が出るとは限りませんが、この法律によって移住・二地域居住等の新たなライフスタイルが世に広まり、地方に人の流れができ、地に足のついた都市と地方の相互の交流を生み出していければと考えています。10年先や20年先、振り返ったときに、あのときこの流れができていてよかったねと思える計画・制度にしようと、そのような思いで制度をつくりました。移住や二地域居住は富裕層だけのものではなく、将来を担う若い人たちのニーズや関心に応えられる社会にしたいと考えています」

この法案により、全国の地方公共団体、民間事業者間で情報が共有され、空き家の改修・お試し居住の促進、地域の多様な関係者による地域公共交通のリ・デザイン、反復継続した来訪を促進する「第二のふるさとづくり」の推進などをはじめ、各府省庁の関係事業・施策をパッケージ化して、連携が進むことが望まれる。

また、移動にかかる費用負担や住民票の問題、子育て世帯であれば学校をどうするかなど、移住・二地域居住等を進める際にハードルとなる諸問題への対応も必要だ。実際に二地域居住をしている人は、年収500万円前後の層が半分以上を占めているという調査結果もある。住まいや生活にかかる費用のほか、移動費をサポートする仕組みづくりも必要だろう。
今回の法律成立を契機に機運が高まり、鉄道会社や航空会社、教育関連会社など、さまざまな業界を巻き込みながら移住・二地域居住促進に向けた議論が進んでいくことが期待される。

「移住・二地域居住等促進専門委員会 中間とりまとめ 配布資料」では、岐阜県飛騨市の「空き家活用における官民連携」や栃木県小山市の「子育て世代の移住促進に向けた住宅取得や交通費支援」、長野県塩尻市のシビック・イノベーション拠点「スナバ(コワーキングスペースの整備・運営による新規事業創出支援)」など、さまざまな自治体の取り組みが紹介されている。こうした事例の共有も取り組みを進める上で有効だろう「移住・二地域居住等促進専門委員会 中間とりまとめ 配布資料」では、岐阜県飛騨市の「空き家活用における官民連携」や栃木県小山市の「子育て世代の移住促進に向けた住宅取得や交通費支援」、長野県塩尻市のシビック・イノベーション拠点「スナバ(コワーキングスペースの整備・運営による新規事業創出支援)」など、さまざまな自治体の取り組みが紹介されている。こうした事例の共有も取り組みを進める上で有効だろう

■取材協力:国土交通省
参考資料:移住・二地域居住等促進専門委員会 中間とりまとめ
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kokudo03_sg_000275.html

※1,3…内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2023年4月)より
※2…国土交通省「二地域居住に関するアンケート」(2022年8月31日~9月12日)より

公開日: