2020年の国勢調査をもとにした小地域別集計からみる高学歴地域の変動

私はこれまで何度も地域のマーケティングをしてきたので、市区町村別の学歴についても調べてきた。しかしこの15年くらいは学歴について調べてこなかったので、2020年 国勢調査「小地域別集計」はなかなか興味深い結果であった。

私の従来の認識では学歴の高い地域は東京の都心部から西南部に広がっていた。千代田区、文京区、港区から、渋谷区、目黒区、世田谷区、杉並区、武蔵野市、国立市、あるいは東急沿線、鎌倉などの湘南地域である。また女性については、団塊世代以降の女性の学歴は横浜市青葉区周辺で高かった。

しかし今回の2020年の国勢調査をもとにした小地域別集計をみると、そうした常識が崩れつつあることがわかった。男性ではあきらかに湾岸のマンション街に住む人の学歴が高い。他方、女性は高学歴者が都心部に集まっている。
男女とも学歴が高い郊外もあって、その代表は近年人口増加で注目されている流山市である。

従来学歴が高かった地域は、現在御80歳以上の男性で高学歴な人が多かった地域である。それらの地域はその後も高学歴な人たちが住んできたが、過去20年、30年の間にあまり変化がなかっただろう。

だが現在の60歳以下になると、男性の4年制大学進学率が35%を超え、女性も現在の40代以下になると20%を超える。そうした世代が多く住む地域は住民全体の学歴が急激に高まったのだ。

男性は「山の手」「湘南」が好き

以下詳しく見てみる。
まず男性。在学者を除き、卒業者だけを分母としてその学歴が四大卒以上(大学院を含む)の学歴を持つ者の割合が70%以上の地域をグラフにしてある(卒業者数50人以上の地域のみ)。

一番高いのは逗子市新宿五丁目で84%であった。しかしここはリゾートマンションであり、一般の住宅地ではない。次いで八王子市石川町、横須賀市光の丘であるが、これらは病院や研究機関が立地しており、それらの施設に常駐する人がほとんどのようである。

一般の住宅地で最も学歴が高いのは川崎市宮前区宮崎四丁目であり、80%。地図で見ると田園都市線沿線の完全な戸建て住宅地である。
以下、藤沢市、鎌倉市の各地域が上位をいくつも占めている。

小地域別・男性の大卒以上率ランキング 
国勢調査小地域集計2020年より三浦展作成(卒業者50人以上の地域のみ)小地域別・男性の大卒以上率ランキング  国勢調査小地域集計2020年より三浦展作成(卒業者50人以上の地域のみ)

また田園都市線やそこに隣接する小田急線新百合ヶ丘駅周辺の学歴も高く、川崎市麻生区万福寺、横浜市青葉区あざみ野南、同・みすずが丘などがランクインしているが、従来の常識どおりである。

それらに混じって、港北ニュータウンにある横浜市都筑区中川6丁目、武蔵小杉駅周辺の川崎市中原区の各地域があがっているのが新しい傾向であるが、これらの地域はみな私が唱えた「第四山の手」地域である。

男性はなぜ浦安を選ぶのか

また男性に特徴的なのは、浦安市の多さである。美浜一丁目、舞浜三丁目などの地域が70%台で多数あがっている。
浦安市にも戸建てはあるが、おそらくはマンション居住者がほとんどだろう。さらに最近注目の流山市おおたかの森駅周辺の地域も複数が70%以上である。

先述した「第四山の手」は有名大学を出て有名企業に勤める収入の高い人たちが多く住む地域であり、世代的には昭和ヒトケタ世代から団塊世代くらいが中心だった。
そして働くのは男性だけであり、女性は専業主婦であるのが典型であった。

江戸川区から浦安方面上空江戸川区から浦安方面上空

女性に占める専業主婦の占める割合が多い町丁を地図にしてみると、港区・渋谷区、世田谷区、田園都市線沿線と、時代と共に「山の手」が移動したことがわかる(地図1 2015年国勢調査による)。
同時に、田園都市線から横須賀方面にかけての多摩丘陵上に開発された住宅地にも専業主婦ゾーンが広がっている。これが「第四山の手」である(地図1)。 

しかし現代は男女共働きが主流になっていることから、都心は無理でも都心近くに住む人が増えていることは言うまでもない。都心に近い割には地価が安いという意味では浦安が最適であろう。子どもがいるならディズニーランドが近いことも居住地選択の理由になるだろう。

江戸川区から浦安方面上空地図1 女性に占める専業主婦の占める割合が多い町丁   (資料「国勢調査小地域集計」2015年から三浦展作成、出典 三浦展『首都圏大予測』光文社新書)

女性は千代田・文京など都心志向強いが、流山も人気

次は女性。大卒以上率1位、2位は、柏市柏の葉六丁目と文京区本郷七丁目だが、これは東京大学があるためである。3位の築地五丁目と所沢市並木は医療機関がある。神田駿河台は大学関係と医療機関の両方があり、新宿区市谷船河原町は日仏学院があるためであろう。日本橋本町二丁目はとても狭い地域で、マンションができたためであろう。

一般の住宅地と言えるのはその次の横浜市西区紅葉ヶ丘で大卒以上率が54%である。
そして次が流山おおたかの森南三丁目で53%。以下おおたかの森駅周辺地域が東・西・北それぞれにトップ50にランクインしている。
また男性同様、川崎市麻生区の人気があり、万福寺や上麻生がランクイン(ただし上麻生は住宅地ではないので、大学・役所・研究機関の可能性がある)。

だが男性と比べると明らかに都心部が多い。千代田区では、麹町六丁目・九段北二丁目・神田駿河台二丁目・六番町・猿楽町一丁目、文京区では、大塚一丁目・同二丁目・関口三丁目・同二丁目・後楽一丁目・小日向二丁目・同四丁目・本郷一丁目。また新宿区市谷田町二丁目なども上がっており、皇居から見て北側の山の手住まいが多い。東大・お茶の水女子大、あるいは早稲田大学出身者が多いのであろうか。

女性は千代田・文京など都心志向強いが、流山も人気
女性は千代田・文京など都心志向強いが、流山も人気文京区は緑も多い

流山は「第五山の手」か

超高学歴女性が、おそらく未婚のままキャリアを積み上げる場合、都心住まいをするのであろう。それにしても港区・渋谷区ではなく、千代田区・文京区を選ぶ人が多いのは、民間企業よりも官庁・大学で働く人が多いのではないかと思われる。

女性に対して男性は、学歴が高く収入も高ければ、結婚をして家庭を持つ人が多いように思う。そのため都心住まいは経済的負担となり、第四山の手、あるいは浦安、流山という選択も増えるのであろう。

また男性も女性も大卒以上比率が高い流山おおたかの森駅周辺地域は、男女共働きが常態化した現代特有のいわば「第五山の手」だということもできるだろう。

流山おおたかの森駅周辺流山おおたかの森駅周辺

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