社会に貢献できる不動産事業としてスタート
猫と暮らせるシェアハウスとして、福岡で誕生した「ねこ長屋」。2022年8月、都心に近い福岡市大橋で「大橋ハウス」、2023年6月には郊外の糟屋郡篠栗町で「若杉ハウス」をオープンした。「保護猫」と「空き家」の問題を同時に解決する、注目のモデルだ。
ねこ長屋を立ち上げ、運営・管理を担う廣田左希子さんに、設立の経緯から現状、今後の展望まで、本音を聞いた。
ねこ長屋を運営する南進住宅株式会社が設立されたのは、2022年1月のこと。福岡市で南進貿易を経営する松田典仁さんが、友人の廣田さんに話を持ちかけたことから、ねこ長屋の物語は始まった。
松田さんには社会に貢献できる不動産事業をしたいという思いがあり、シニア向け住宅などのアイデアを温めていた。「松田がいくつか考えていた案の中で、保護猫と暮らすシェアハウスの案に賛同し、ぜひチャレンジしてみたいと思い一緒にやることにしました。というのも、私自身も保護猫や捨て猫を飼っていたからです」と廣田さんは説明する。
まずは人気エリアで都市型「大橋ハウス」が完成
飲食業を経てコーチングの事業をしていた廣田さんは、不動産に関しては全くの素人。自分で調べたり人に聞いたりして、手探りで動き出した。
「猫と暮らせるシェアハウスに見学に行ったとき、あまりの不衛生さに驚きました。きちんと管理をしないとこうなるし、管理人と居住者の程よく近い距離感も大切だと学びました」
保護猫に加えて空き家問題の解決も図るため、一軒家をリノベーションしてシェアハウスにする方針は当初から定まっていた。
まずは都市型で女性専用にしようと、駅から近い物件を探し、たどり着いたのが福岡市南区の大橋駅から徒歩6分のところにある3階建ての家だった。大橋は都心の天神まで電車で4駅と便利で住みやすく、ファミリーや一人暮らしにも人気のまち。家はすでにかわいい雰囲気にリノベーションされていて、女性用にピッタリというのも決め手になった。
猫と暮らすために、玄関にはオーダーメイドの猫脱走防止柵、リビングには猫ドアとキャットウォークを設置し、4つの個室の扉は猫ドアと鍵のついたタイプに変更。保護猫を2匹譲渡してもらった。
最初は入居者が決まらなかったものの今は満室に
いよいよ2022年7月、「大橋ハウス」は入居募集を開始した。しかし、入居者がなかなか決まらなかったという。
「不動産が動くのは1~3月で、夏の募集は無謀だったと後で知りました。それでも問合せは結構あって内覧いただいたのですが、1人目のハードルがとても高くて…。誰もいないと警戒されて、どんな人と住むか事前に知りたかったのかもしれません」
結局、最初の人が入居したのは翌年2月だったが、今は4部屋とも埋まり、予約待ちの人までいる。キャリアウーマンのほか、ドイツと韓国からワーキングホリデーで来て、数ヶ月滞在したケースもある。
大橋ハウスでは、猫のご飯や水などの世話は居住者の当番制にしている。猫の体調が悪い場合は廣田さんに連絡すれば、廣田さんが病院に連れて行くといった対応をする。また、月1回、共用部の掃除と猫の爪切りなども廣田さんの担当だ。
「入居者さんたちは、猫とよく遊んでくれています。一緒に住む保護猫2匹は、過酷な状況から救われた猫たちで、生まれたときから飼い主さんがつきっきりでお世話していたわけではありません。だから、シェアハウスでの暮らしはお互いにちょうどいい距離感なのかもしれません」
次は郊外で広々とした「若杉ハウス」をオープン
次はのびのびと暮らせる郊外型にしようと物件を探し、糟屋郡篠栗町で2階建ての古民家を購入。リノベーションして、2022年8月に「若杉ハウス」が完成した。博多駅から快速電車で15分ほどの自然豊かな場所で、広々としたリビングや縁側、大きなウッドデッキもあり、個室7部屋を備えている。
こちらはもともと男女兼用のシェアハウスにしていたが、男性からの問合せがなく、女性の内覧者から「女性専用ならいいのに」という声もあったため、途中で女性専用に変えたという。
今は女性4人と保護猫3匹で生活している。「最寄り駅から歩いて15分ほどかかりますが、こんなところで猫と暮らしたかったと言ってくれる方が集まっています。会うたびに猫の話をしてくださって、猫への深い愛情を感じます」と廣田さんもうれしそうだ。
これからも毎年ねこ長屋を増やしていきたい
ねこ長屋を始めて1年と少し経った。「大橋ハウスの入居者がなかなか決まらない時期に、すでに若杉ハウスの物件も購入していたので、最初はかなり焦りました」と苦労も明るく話す廣田さん。それでも、ねこ長屋に大きなやりがいを感じている。
「ハウスができたおかげで、過酷な環境から保護されたものの引き取り手がなく2日後に殺処分されることになっていた猫たちを直前で救うことができました。まず私たちが愛情を持って飼育すれば、猫たちも再び人間を信用してくれるようになり、シェアハウスでもゆったり過ごしています。やはり猫の命を救えるというのが、ねこ長屋の一番の喜びです。それに、どなたかが住んでいた思い出の空き家をシェアハウスとして生まれ変わらせ、次の世代に引き継いで、少しでも空き家問題を解決できることにもやりがいを感じます。これからも試行錯誤しながら、できれば年に1、2軒増やしていきたい。ねこ長屋が増えれば増えるほど、救える保護猫の数が多くなり、空き家の解消にもつながるので」と力を込める。ねこ長屋の今後の展開が楽しみだ。
ねこ長屋
https://nekonagaya.com/
公開日:












