省庁を超えた支援へ。居住支援全国サミットが開催
住宅の役割は、雨風から身を守ってくれるというハード面だけではない。住み慣れた家や地域への思いなど、居住者が自分らしく暮らすためのソフト面の役割も大きい。そのため、国や自治体が行う住宅施策では、住宅の供給だけにとどまらない福祉政策との一体的な支援が必要となる。
2023年3月17日、国土交通省と厚生労働省の共催に加え法務省も一部参加し、「令和4年度居住支援全国サミット」(以下、サミット)を開催した。住宅確保への配慮を要する、高齢者、生活困窮者、障がい者、子育て世帯、刑務所出所者などへの居住支援の強化を図ることが目的のこのサミットでは、厚労省 老健局長 大西証史氏、国交省 住宅局長 塩見英之氏よる挨拶のあと、国における住宅・福祉に関する施策の説明や、専門家による基調講演、居住支援に取り組む団体を招いてのパネルディスカッションが行われた。本稿ではその概要をリポートする。
居住支援は、「まちづくりの中で考えることが必要」
「高齢者の割合は増加し、持ち家率は低下。低所得などの生活困窮者も増えている。今、そしてこれからの日本には、住まいと生活の一体的かつ包括的な支援が必要だ」
こう説明するのは、厚労省 老健局 高齢者支援課長の須藤明彦氏。須藤氏はそのような支援を行う4つの自治体を紹介したが、支援事業は広がりつつあるとはいえ「全国的に見ると支援事業の実施はまだ多くはない」(須藤氏)という。
厚労省は、2014年度から高齢者の住まいと福祉を一体的に支援するため、「低所得高齢者住まい・生活支援モデル事業」を開始。2017年度からは介護保険制度における地域支援事業としてそれを位置付けているが、実際に事業を行う中で見えてきた課題から国の伴走的支援が必要と考え、2021年度からは「高齢者住まい・生活支援伴走支援プロジェクト」を実施。自治体のサポートを進めている。
居住支援は住まいの確保に加え、複合的な課題を抱える入居者の支援強化、大家も安心して住まいを貸し出せる支援など、多面的な視点と連携が必要だ。須藤氏は、「居住支援はまちづくりの中で大きく考えていかなければならない」と、地域共生社会の実現が必要であるとした。
社会の変化で、居住支援の問題も複雑化
基調講演は「空き家と福祉をつなぐ包括的居住支援をめざして」をテーマに、東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・大月敏雄教授が行った。高度経済成長期以降の社会変遷に日本の住宅事情を絡めて語られた内容からは、住まいと社会、住まいと個々の人生がいかに密接であるかを再確認させられた。
1970年代前半までの住宅ストック形成時代を経て、1980年代には住宅も量から質への時代に移った日本。住宅産業という言葉もこの時代に生まれ、業界は好景気時代を過ごす。しかし1990年代、経済は低成長期へ移行。震災の経験や高齢化問題に直面したことから、住宅の耐震化やバリアフリー化が課題となる。また建物だけでなく、周辺環境への関心が高まった時代でもあったという。2000年代に入ると単身世帯の増加や、経済的格差が広がりを見せ始める。
「既存住宅の質の向上を図りながら、高齢者や住宅確保要配慮者らへ多様な住宅を提供すること。また住宅確保要配慮者らを拒まない住宅をどう確保し、支援していくのかがクローズアップされました」(大月教授)
さらに2010年以降の住宅問題の特徴として世界共通の課題である持続性を挙げ、「住宅確保に困っている人にどうつないでいくのか、居住差別をなくしていこうという点も持続性にあたります」と説明した。
最後に公営住宅についても言及。公募制ということもあり迅速性を欠き、現状では居住支援につながっていないため、緊急対応や入居ハードルの緩和などを考えていく必要性があるとし、講演を終えた。
愛知県岡崎市と鹿児島県奄美市の取組みを紹介
サミットでは、居住支援を行う2つの自治体による事例紹介も行われた。
愛知県岡崎市が初めて居住支援協議会を設立したのは2019年。住宅確保要配慮者の入居受け入れが可能な約3,500戸の住宅が登録されたものの、入居中の物件が多く活用にはほとんど結びつかなかったという。
大家や賃貸事業者からは、入居後の居住者への不安の声があがった。一方、福祉窓口に寄せられる住宅相談について、その本質は生活困窮や家庭内トラブルなど他にあることも多いことがわかった。
そこで同市は2021年に「住まいサポートおかざき」を開始。住宅やその情報を提供する大家・賃貸事業者と居住支援団体との連携を整備したことで、「これまでの支援にプラスして、市役所ではできない支援も組み合わせることが可能になりました」(同市 都市基盤部 住宅計画課・原田晶氏)という。
さらに、横連携がしやすいよう市役所のフロアに外部支援団体が常駐するなど、重層的支援を強化している。
続いて、鹿児島県奄美市 居住支援協議会設立準備会から居住支援の準備を進める現状報告がされた。
同市は、2022年3月時点で生活保護受給世帯率、住民税非課税世帯率、高齢化率、ひとり親世帯率などが軒並み全国平均より高く、住宅確保要配慮者が多い。
市営住宅について同市総務部プロジェクト推進課の永井美香氏は、「他の自治体では公営住宅は空き家が目立ち集約化が進んでいますが、本市では老朽化した住宅でも需要が高くほぼ満室。入居希望者が数百世帯あります」と説明する。
2021年度国交省「居住支援協議会伴走支援プロジェクト」に応募し採択を受けた自治体の取組みを学び、自治体の数だけ居住支援の形があると知ったという永井氏は、今後の方向性を2点あげた。
ひとつは福祉事業者と不動産事業者など、異なる視点を持つ「他業種間の垣根を下げる」こと。もうひとつは居住支援窓口の一元化を避けるなど、支援者がパンクしないよう「支援者の支援」をすること。
そんな同市の取組みは、住宅課でも福祉課でもなく、新設されたプロジェクト推進課で総合的に進められている。
居住支援を事業として成立させる2社が登壇
サミットの最後には、日本社会事業大学専門職大学院 井上由起子教授の進行でディスカッションが行われた。
パネリストは居住支援を行う事業者から、アオバ住宅社 取締役 齋藤瞳氏、株式会社あおいけあ 代表取締役 加藤忠相氏、福岡市社会福祉協議会(以下、福岡市社協) 事業開発課長 栗田将行氏が迎えられ、それぞれの居住支援事業について興味深い話を聴くことができた。
注目したいのは、居住支援が事業として成立し、誰かが大きな負担を負うことなく継続できている点だ。支援は一過性では効果が薄い。住宅と福祉の一体的支援を事業として行う話から学ぶことは多い。
「お客さまの9割が何らかの事情を抱えた人たち」と話すのは、アオバ住宅社・齋藤氏。同社は借り上げた物件や自社所有物件を貸し出し、入居支援を行っている。自社で物件を買うことについて、保証会社の審査に通らないけれど、その人にとって次のステップに行くために転居が必要な場合に、自社で所有する物件であれば貸すことができるからだという。
さらに、「転居を通じた自立のサポート」をミッションに、入居後も支援は続く。同社の事業内容には不動産事業のほかに清掃事業が掲げられており、受注した清掃の仕事を入居者に提供することで生活支援をしているのだ。支援される側は収入が得られることはもちろん、「支えられる側が支える側にもなれる」と喜ぶ姿も目にすると齋藤氏は言う。
清掃は、目に見える形でモノや状況がキレイになっていく達成感もあるだろう。その上、キレイな状態は誰もが喜んでくれる。どのような状況にあっても、人は本能的に何かに貢献したいと願っているものなのだろう。支えられる側の人が、誰かを支えることができるという実感を積み重ねることは、その後の人生の希望につながるかもしれない。
さらに注目したいのは、齋藤氏が「清掃事業は今や事業の柱」とした点だ。ここにも、支援する側とされる側、互いに支え合える形ができていることがわかる。
また齋藤氏は住まいの相談を受ける中で「福祉の知識が圧倒的に足りないと感じた」と、社会福祉士の資格を取得。その知識を生かしたコンサルティングで、管理会社や大家の支援もしている。
「居住場所はあくまでも入り口で、本当の支援は入居後が大事。大家さんはトラブルへの不安があると思うので、福祉や行政、さまざまなサポートで見守り、地域で暮らしていけるという実績づくりをすることで、前向きになってくれると思います」(齋藤氏)
株式会社あおいけあで介護事業所を経営する加藤氏は、高齢者が部屋を借りられない現状を、不動産業界の知人から聞いていた。そして、介護事業者としてできることを考える中で生まれたのが、「ノビシロハウス」だ。
コロナ禍で空室が目立つアパートを購入し、1階は車いす生活も可能な仕様へリノベーション。隣接して建てた新築棟には、高齢者の仕事の創出を目指して、カフェやランドリーが入る。
新築棟にはさらに、訪問在宅看護・在宅診療の事務所も入っている。と、ここまで聞けば高齢者向け住宅かと想像するが「一番のポイントは8部屋のうち2階の2部屋だけは若者向けと謳っていること」(加藤氏)だという。しかも若者は家賃が半分なのである。
その理由について加藤氏は「ここに住む若者には、高齢者に、毎朝必ず『いってきます』と声をかけて出かけること。新築棟のカフェで毎月1回、主導してお茶会を開くことをしてもらっています」と明かす。つまり若者はソーシャルワーカーの役割を担っているのだ。
ちなみに、お茶会のモデルはフランスの隣人祭り。熱波で多くの高齢者が亡くなり、「あの時隣に住む高齢者に声を掛けていれば助かっていたかもしれない」と社会問題になり始まったもので、祭りを通して近隣に高齢者や体が不自由な人がいることを知り、出かける前に声をかけるようになったのだとか。
こうしてノビシロハウスに住む高齢者は、いつも誰かの目にとまり、誰かが気にかけてくれる。
「部屋にひとりで居て亡くなっても、その日に見つかれば孤独死ではなく尊厳死です。ここは人生の最期まで居ることができるアパートになりました」と加藤氏。福祉も介護も、支援は受けたくないと思う人は多いもの。だから支援を受けていることを感じさせない社会を作りたかった。
かつて日本で当たり前にあったであろう社会が、ここにはある。その社会は、今はこうして意図を持って作る必要があり、意志を持って守っていかなければならないのだ。
転居の相談とはいえ、背景には別の要因も
同じくパネルディスカッションに登壇した福岡市社協・栗田氏は「身よりのない方は保証人が探しづらく、住まいの確保に苦労されていることを感じ、2013年に住まいサポートふくおかを立ち上げました」と話す。
住まいサポートふくおかは、支援団体らで構成され、入居支援および入居後の生活支援を行う。ここでの福岡市社協の役割は「転居の相談を聞いて、どこへどうつなぐかコーディネートすること」と栗田氏。
というのも、転居の相談とはいえ、その根っこにはDVや虐待などから逃げたいなど別の要因があるケースも多いためだ。支援を受ける側にとって、適切な支援先へつながることは重要だ。知らない、わからないことが多いと思われるため、コーディネーターの存在は心強いだろう。
また、「社会貢献型空き家バンク」を立ち上げ、「空き家を探して」「福祉で使う」仕組みを作っている点も注目もしたい。築270年のお堂が通所型サービスの事業所として利用されていたり、遺贈物件を障がいのある人たちが暮らすシェアハウスにしたりしている。このほか見守り・交流アプリを開発し、オンライン訪問や、オンライン会食なども行う。さらに終活サポートセンターを設置するなど事業は広がりを見せる。「終活サポートセンター窓口への相談は、想定以上に多い」と栗田氏。現場で得た経験や知識をもとに、本当に必要な支援体制が作られていると感じた。
人は地域社会で生きている。住宅だけでなく、社会とのつながりを
パネルディスカッションの最後に、井上教授がある建築学の先生の言葉だとして触れたことがある。住まいは住宅と地域施設からなるというものだ。つまり、人は地域生活の中で生きていると言っている。
高度経済成長期に建て続けられた住宅は、今や空き家問題の原因になっている。しかし、空き家が増える一方で居住場所に困る人も増えている。住宅と福祉の一体的居住支援は、地域社会とのつながりを作る支援ともいえそうだ。
ところでこの「つながり」は、支援者間においても重要であることが今回よくわかったと思う。不動産事業者、福祉・介護事業者、自治体など、専門分野や官民を超えた横のつながりを持つことは、知識や知恵を共有でき、支援される側によりよい形で支援が届くことを意味するからだ。
居住支援は、入居前から入居後の生活へと継続が必要なもの。ボランティアだけでは続けられない。横のつながりを持つことで、誰かの負担に頼るのではなく、アオバ住宅社やノビシロハウスのように事業として成立させることができるのだ。
そして支援される人は、継続的な支援によって地域社会に生き、その中で誰かを支える役割も持てる。支援体制を増やすために、このような支援の形があることを広く周知していくことが重要だろう。
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