暮らしの延長線上にあるようなマイクロホテル
駅を降りると、そこは西の果てのまち。道幅の広い道路をてくてくと歩いていると、500mほど先にある佐世保港から潮風が吹き抜けてくる。佐世保港から5分ほど車を走らせれば、海上自衛隊と在日米軍海軍の基地、巨大な250トンクレーンや大型軍船を望むことができる。軍港として栄えた長崎県佐世保市は、さまざまな文化が混ざり合うまちだ。
屋上サウナつきマイクロホテル「RE SORT(リゾート)」は、佐世保港のそばにある。築年数約40年の4階建てマンションの一部をリノベーションした施設は、エントランスもロビーもない。ホテルとして使われているのは3室のみで、それ以外は一般の賃貸物件として住人が暮らしている。訪れたときの感覚は、旅行に来たというよりも、家に帰ってきたという表現の方が近いかもしれない。ホテルの目の前で朝3時から賑わう佐世保朝市には、新鮮な食材を求めて訪れるファンも多い。
「『RE SORT』は、佐世保の暮らしの延長線上にあるような宿泊施設。佐世保で営まれている日常の暮らしやまちの資源と合わせて、体験そのものを“リゾート”に変えていこうとするプロジェクトです。近所のお店で食事したり、港沿いを散歩したりと、地域そのものも旅に組み込んでほしい」と「RE SORT」を運営する一般社団法人REPORT SASEBO・代表理事の中尾大樹氏は話す。
屋上サウナから眺める、港町の風景と暮らし
ホテルの大きな特徴は、各部屋に設けられた室内サウナと屋外サウナだ。3階のGray、4階のBlue、Green、と名付けられた3室の部屋は、それぞれ佐世保のまち、海、山をイメージして名付けられている。グレイッシュカラーを基調に色分けされた部屋は、趣向の異なるオープンワンルーム。開放的な空間に、サウナルームが共存する空間はサウナ好きにはたまらないだろう。
もうひとつの特徴は、マンション屋上に広がる屋外サウナ。サウナ体験に必須となる「サウナ室~水風呂~外気浴」という基本の3セットを屋上で堪能しながら、目の前に広がるのは、佐世保港とその周辺のまちなみだ。山沿いに点々と灯る煌びやかな湾岸夜景も、夜サウナの楽しみだろう。
ホテル3室はリノベーションやサウナ用の備品などを含めて、約3,500万円を投資して2019年に誕生。コロナ禍やウッドショックの影響を受け、サウナ機器が届かず、当初の予定より2ヶ月遅れのオープンとなった。IT機器を利用した無人受付で、プライベート感のある仕組みもホテルの特徴だ。
まちなかに見られる「万津6区(よろずロック)」とは
「RE SORT」は万津町にある。ホテル誕生の背景には、この町で動いているまちづくりの取り組みが大きく影響している。
万津町は、離島への航路であり物流の拠点であった港町。倉庫としても利用されてきた古ビルが立ち並ぶなか、近年、若手事業者や移住者によるカフェや雑貨店など、新たな店舗出店が増えているエリアだ。この5年の間に、30店舗ほど増えたという。それには、2017年にオープンした万津町にあるBRICK MALL SASEBO(ブリックモールさせぼ)の存在が大きい。菓子店、マッサージ店やオフィスなどがテナントとして複数入居し、若い起業家の第一歩を応援する施設として役割を果たしてきた。
ホテルの周辺を歩いていると、まちの建物の数ヶ所に「万津6区」と描かれたウォールペイントにふいに気づかされる。「万津6区とは、このまちで商いをしていたり、暮らしたりしている、意思を同じくする複数の人たちで進めているプロジェクトのこと。名前は万津町にある町名に、三ヶ町、四ヶ町、五番街と数が続くことにヒントを得て名付けた俗称です。“懐かしさと新しさが交差する、6つ目のまちをつくろう”という想いが込められています」と中尾氏。
中尾氏は2018年からスタートしたエリアマネジメント「万津6区」の発起人でのひとりもある。このまちに目的地になり得るホテルが足りない状態、それを解決するべく生まれたのが「RE SORT」で、万津6区プロジェクトのひとつとして誕生した。最近では午前4時〜8時に佐世保朝市で開催する「neo朝市」やネット上で展開するインタビューマガジン「万津人(YOROZU ZINE)」など、地域の機運を醸成させるようなプロジェクトがどんどん生まれている。
多様なメンバーが混ざり合って生み出される、万津町のプロジェクト
活動を中心的にしているのが、「RE SORT」の運営元でもある一般社団法人REPORT SASEBOだ。役員は6名でスタッフは11名。公務員、ホテルディベロッパー、経営者など立場や背景もさまざまで、県外から参画するメンバーも数名いる。『新しく、このまちらしく、人間らしいしごとをつくる』が合言葉。コミットメントルールは、プロジェクトに対して、やりたい人が手を挙げて、興味のある人だけが参画するということ。週3日のミーティングでは、進捗管理、アイデア出し、それぞれの立場で得た知識の共有など、さまざまな情報交換がなされる。
プロジェクトは、アイデアが発酵するように、タイミングが重なったときに急に動き出すということも多いそうだ。地域に住まずとも、共に居心地のいい場所をつくるものとして意見交換できる場が醸成されているのは、大きな特徴だ。
「こうして育ってきた拠点をつなげて、今後は地域の中で経済循環する仕組みをつくっていきたい」
そう中尾氏が話すように、2021年から実験的に使われてきた「旧万津町公会堂」は、近々まちづくり拠点として生まれ変わる。近隣大学のゼミ生や留学生の人との交流も視野に入れて、コミュニティビジネスに興味のある仲間づくりにも力を入れていく。また今後はコワーキングスペースもつくる予定で、ワーケーションという滞在の理由もまたひとつ増えそうだ。
宿泊拠点と地域の連携を。万津町で新しい旅体験
近年の活動が広まり、近郊の市町村からも佐世保や万津町への認知度が上がっている。佐世保市内へのホテル誘致の話も一般社団法人REPORT SASEBOに届くようになっているのだそう。
「泊まって終わるのではなく、ホテルを通して地域でどうコミュニケーションを誘発させるかが今後の課題。今後は地域と連携した交流型のプランも検討中です」と話す大丸勇気氏。九州近郊のサウナ併設施設と連携を取るなどの動きもあり、まちに滞在したくなる仕掛けも豊富に用意されそうだ。
「新しいことじゃないと意味がないし、ここにないものじゃないとやる意味がないと思っています。万津町を実験台として、いろいろ実践しながら雑多な文化が交わるこのまちらしい面白さをつくっていきたい」と松尾浩樹氏。
万津町でのさまざまな活動やまちの宿泊拠点である「RE SORT」を通して、地域とコミュニケーションを取るための手法がさまざまにある。文化の入り混じる港町をそのまま体現しているようだ。サウナでも、朝市でも、仕事でも、訪れる目的や理由は何でもいい。この場所に滞在して、地域と交わることから見えてくる新しい旅の魅力が見つかるのではないか。
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