京都府宮津市にワーケーション施設「自強館」が誕生

天橋立といえば、京都府北部の日本海・宮津湾にある日本三景のひとつ。「股のぞき」をすると、逆さになった松林が天に昇る龍に見えるとも、天にかかる橋に見えるともいわれることで有名だ。そんな景勝地に、コロナ禍で注目を集めるワーケーション施設ができた。2022年3月18日に完成披露会が行われたので、筆者も参加してきた。

現地までは大阪から車で2時間弱。途中で休憩をとりつつ、またその日はあいにく大雨で、スローなペースを余儀なくされた。しかし整備された高速道路のおかげで、アクセスはかなりよい。丹後半島のふところに位置する京都府宮津市に、目的のワーケーション施設「自強館」はある。周辺は、夏にはマリンスポーツをはじめさまざまなアクティビティも楽しめる観光地だが、宮津市の街中には歴史的な建造物も多く残り、古き良きたたずまいを残す町の風情は、ホッとするような落ち着きも感じさせてくれる。また、丹後半島に抱かれた宮津湾は、海の幸の宝庫といわれ、沖釣りのメッカとしてもよく知られる。取材帰りに味わった絶品の海鮮丼が、宮津市の魅力をより印象付けてくれた。

本稿では、宮津市長も出席した「自強館」の完成披露会の様子と、事業の概要やその理念をリポートする。

景勝地「天橋立」に生まれたワーケーション施設「自強館」景勝地「天橋立」に生まれたワーケーション施設「自強館」

働く人にも、企業にもメリット。時代が求めるワーケーションを

株式会社中川住研 代表取締役 中川克之さん株式会社中川住研 代表取締役 中川克之さん

コロナ禍で、働き方、ひいては生き方を考え直す人が増え、それに合わせるように従業員の働き方を見直す会社も増えている。仕事と余暇、双方の充実を図るワーケーションの広がりは、まさにその象徴といえる。

天橋立にできたワーケーション施設「自強館」は、中小企業で働く人たちが利用できる宿泊施設付きオフィスだ。「自強館」をつくったのは、京都府亀岡市の株式会社中川住研。「地方に“共感”と“にぎわい”を」をミッションに掲げ、地元を中心に古民家再生事業や、田舎暮らしのサポート事業を展開している不動産会社である。今回のワーケーション施設は、ミッションを具体的に実行していく中のひとつの取組みで、加えて通常の事業エリアの外で行う初めての事業でもあるという。

ワーケーション施設を利用したい会社は、プランに応じた利用費を払い(半年毎の更新制)利用することができる。従業員に働きやすい環境を提供することは、仕事の質の向上と労働生産性の向上にもつながる。また、施設を共に利用しあう異業種の会社間で交流が進めば、そこから、新しい事業アイデアが生まれることも期待される。
かつて、企業の福利厚生施設といえば、大企業が所有する保養所などがあったが、所有からシェアの時代へと移り変わる中で、福利厚生施設も所有せずにシェアする形が進んでいくとも考えられる。特に中小企業にとっては、所有する負担を回避しながら、質の高い福利厚生施設を従業員に提供できるようになる。シェア型のワーケーション施設は、雇用する側、雇用される側、双方にとってメリットのあるシステムといえよう。

ロケーションの良さと、歴史を残す建物で、仕事も余暇も充実

目の前には、歴史ある丹後一宮・元伊勢 籠(この)神社目の前には、歴史ある丹後一宮・元伊勢 籠(この)神社

ワーケーション施設にネーミングされた「自強館」という名前は、宮津市内の小学校に、1931(昭和6)年に建築された講堂の名前だ。市道の拡幅工事に伴って歴史ある講堂が取り壊されることになったため、一部の部材と「自強館」の名称を譲り受けたそうだ。この「自強館」、目の前には丹後一宮・元伊勢 籠(この)神社が建つ。伊勢神宮のふるさととも呼ばれ、天照大神や豊受大神はここから伊勢神宮へと移され祀られたという、由緒ある神社である。

「自強館」の1階はコワーキングスペース、2階は宿泊施設となっていて、いずれも広くとられた窓からは、元伊勢 籠神社が目の前に見える。2階宿泊施設への出入り口は、1階コワーキングスペースとは別に設けられていて、来館目的が違う人同士が出合わないように設計の配慮が感じられた。内装はモダンで、和室も備えられるなど、元伊勢 籠神社を目の前にくつろげる室内になっている。ちなみに、旧自強館から譲り受けた部材は、2階への階段などに使用されているとのことであった。

また、付近には日本海があり、海水浴をはじめとしたマリンスポーツを楽しむこともできる。そして、海の幸だ。良好な漁場に抱かれた周辺では、季節を問わず絶品の魚介類が水揚げされ、働く人、余暇を楽しむ人を問わず訪問者の舌を楽しませてくれる。「自強館」から南側へ歩いてすぐのところには、観光船乗り場がある。「股のぞき」で有名な天橋立だが、観光船に揺られその景色を眺めれば、ハードワークの合間のリフレッシュにも最適かもしれない。

目の前には、歴史ある丹後一宮・元伊勢 籠(この)神社1階のコワーキングスペースでは大人数での会議も
目の前には、歴史ある丹後一宮・元伊勢 籠(この)神社2階の宿泊施設。大きな窓から明るい陽光が差し込むリビング
目の前には、歴史ある丹後一宮・元伊勢 籠(この)神社2階の宿泊施設には和室も

“オール京都”で進められる、地域活性化のモデル事業

中川住研が手掛ける宮津市の事業は、当初ワーケーション施設となる予定ではなく、コロナ禍で再検討を余儀なくされた結果だというが、予期せぬ事態がワーケーション施設という新たな活路を見いだすきかっけとなった。宮津市も「市内まるごとワーケーション」をコンセプトに、企業誘致を行っている。見どころあり、グルメありという恵まれた町の資産を活かし、新しい働き方へのPRを積極的に行っている。

さらに自強館は、一般社団法人 京都府北部地域連携都市圏振興社、一般社団法人 森の京都地域振興社、一般社団法人 京都山城地域振興社、京都銀行、京銀リース・キャピタル株式会社、京都信用金庫、京都中央信用金庫、京都北都信用金庫が、2021年3月に共同で設立した「地域づくり京ファンド有限責任事業組合(略称:地域づくり京ファンド)」の、第1号投資案件となった。ファンドの目的は「京都府における持続可能な地域づくりを着実に進めていくため、協定締結者は連携し、それぞれに有するノウハウやネットワークを活かし、地域の活性化に向けて地域が主体となって行う活動を支援すること」とされている。このファンドを活用し、地域活性化に向けた"オール京都"での連携・協力体制のもとで誕生したのが、ワーケーション施設「自強館」だ。宮津市、京都府、人、資金、場所。まさに京都一丸となって、進められた事業である。

「自強館」のネーミングは宮津市の古い小学校講堂から「自強館」のネーミングは宮津市の古い小学校講堂から

新しい価値観を、地域の活性化に生かせるか

多くの参加者でにぎわいを見せるお披露目会多くの参加者でにぎわいを見せるお披露目会

「どのように働き、どのように生きれば、価値ある人生を手に入れることができるのか」と考えたことがある人は多いだろう。コロナ禍がきっかけで、その理想が変化したという人もいるかもしれない。フリーランスや個人事業主はともかく、これまで出社することが当たり前だった会社員の中にも、必ずしも会社へ出社しなくても仕事を進められるとわかった人たちが一定数生まれた。都会を離れて地方へ移住したいと計画する人もいれば、現在の住まいはそのままで、週末だけ、好きな場所で仕事も余暇も楽しむ、というスタイルを選びたい人もいる。そういったニーズをつかもうと、各地方の行政は、待ちの姿勢でなく「選ばれる地方、選ばれる町」になるための事業を、より積極的に展開している。

天橋立に生まれた「自強館」という価値が、どのように地方の活性化をもたらすのか。今後が楽しみなワーケーション施設「自強館」は、2022年7月にサービスを開始をする。


■取材協力
株式会社中川住研「自強館」
https://jikyokan.com/

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