2022年、ほこみち制度による姫路・大手前通りの賑わいづくり開始

JR姫路駅の中央コンコースから北を見ると、真正面に姫路城がそびえる。姫路駅から城まで一直線に続く、約840mの道は「大手前通り」と呼ばれ、これまで継続的に「魅力向上」「まちづくり」「にぎわいづくり」に向けたさまざまな活動が公民連携で行われてきた。2022年に入ってからは、「歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)制度」の占用予定者の公募が行われた。

ほこみち制度とは、歩行者を中心とした道路の構築に向けて、国や市町村などの各道路管理者が、快適な生活環境の確保と、地域活性に貢献する道路を指定する制度で、道路管理者が、道路空間を活用する者(=占用者)を公募により選定することができる。

5月には占用予定者が大手前通り街づくり協議会に決定。大手前通りの沿道の地権者や事業者などを中心に構成された協議会である。今後は、民間が主体となり活動が本格化する。


大手前通りにおける占用の範囲は、姫路市呉服町47番2地先から綿町104番地先まで。現在、占用開始に向け、沿道事業者を含めて制度活用の準備やルール作りを進めているといい、事業開始時期は2022年夏を予定している。ストリートファニチャーを常設するなどして、訪れる人を増やし、人の流れを生みたいとする。

JR中央コンコースからの眺め。真正面に大手前通り、その向こうに姫路城がそびえる(写真/介川亜紀)JR中央コンコースからの眺め。真正面に大手前通り、その向こうに姫路城がそびえる(写真/介川亜紀)

しかし、賑わいづくりは一朝一夕にはいかない。「大手前通り」で、ほこみち制度を活用し、民間が主体となって賑わいづくりに取組むまでには、社会実験を含む3年以上にわたる準備段階があった。当記事では、ここまでの経緯を、姫路市産業局産業振興課中心市街地活性化推進室室長の杉野淳一さんと、2019年から活動のサポートをしてきた都市デザイン事務所、有限会社ハートビートプラン(大阪市)の園田聡さん、社会実験の運営を担ったはりま家守舎株式会社代表の梶原伸介さんに聞いた。

JR中央コンコースからの眺め。真正面に大手前通り、その向こうに姫路城がそびえる(写真/介川亜紀)左から姫路市産業局の杉野淳一さんとはりま家守舎の梶原伸介さん、ハートビートプランの園田聡さん(写真/介川亜紀)

通り沿いのビルは会社が多数。観光客はただ通り過ぎていく

2010年頃まで、姫路駅北駅前は70台分のタクシー待機場、バスの待機場及び乗降場、そしてその間に車道が走り、車優先の場所であった。2015年にタクシー及びバスの待機場と乗降場が整理され、北駅前広場や歩行者デッキなどが新設されて、車ではなく人が集い行き交う場所として生まれ変わった。JR中央コンコースから姫路城へ続く大手前通りが一目で見通せるように改修が行われたのもこの時だ。この駅周辺でのハード面での整備終焉を機に、「大手前通り」の賑わい創出についての取組みもスタートした。

ユネスコの定める世界文化遺産に登録されている姫路城のお膝元の通りで、なぜ、人が集い賑わいを創出するための活動が求められたのだろうか? 観光客も、市民も行き交うような場ではないのだろうか。園田さんはこう説明する。
「大手前通り沿いの建物の低層部には金融機関などが多く、飲食店や物販店はわずかで、これまでは歩いていても賑わいは感じにくい状況でした。1階部分は通りに対して”閉じている”印象で、(人が足を止めるきっかけがなく)楽しめる場所にはなっていません。すでに歩道は拡幅され植栽も設けられ、滞留を想定した空間として整備されているのに、利用に結び付きにくいようですね」

そこで、市や賑わいづくりの運営主体である大手前通り街づくり協議会のメンバー、ハートビートプランは、まず将来の活用イメージをまとめていった。「日常的に賑わいがあり、人々が憩う空間になるためには、やはり通りと沿道の建物の連携が必要。1階にはカフェや飲食店などが入り、通りにテーブルやいすを設置して、人が滞留するようになり賑わいが生まれる、といったビジョンです」(園田さん)

最終的に、将来像は下記のようにまとめられた。
1) 地域の人が日常的に憩う。観光客も日常を見て暮らすように旅をする
2) 建物更新を契機に若い人のチャレンジの場になる
3) 魅力的な用途(飲食など)が入り、多様な人の目的地になる
4) 開かれた建物と道路が連動して新しい人の居場所になる
5) 快適な空間で地域の人や観光客が思い思いに過ごしている

姫路駅へ続く「大手前通り」では、公民連携で街づくりが進められている。2022年に入ってからは、「歩行者利便増進道路(通称:ほこみち)制度」の占用予定者の公募が行われた。左は現状の様子を現した図。通り沿いのビルの1階は主に会社のため通りに対して“閉じた”印象で、歩く人々と接点が生じない。右は通りの理想のイメージ。ビル1階には飲食店などが入ると同時に通りではマーケットなどが行われ、人が足を止め楽しむ(図提供/姫路市 特記以外、図・写真ともにハートビートプラン)

社会実験第1弾はアウトドアファニチャーを設置し飲食店と連携

大手前通りの将来像を実現するため、2019年から5ヶ年にわたる取組みを計画。2019年から2021年まではまず行政主導で公民が連携し、社会実験を通してロードマップなどを探り、2022年からはほこみち制度を活用して民間主導で自走を始めるというものだ。

社会実験は計2回。第1弾は2019年11月の1ヶ月間に行われた「大手前通り活用チャレンジ“ミチミチ”」だ。主催は協議会と連携し実行部隊としての役割を持つ「大手前みらい会議(通称:OMK)」。沿道を中心とした事業者や不動産オーナーが、それぞれの建物の前の空間を自由に活用してみる、というもの。「将来的な利活用をイメージして、実際に具体的に試してみるという趣旨です」(園田さん)
週末を中心に、飲食店はファサードの前にテーブルやいすを置いて店を拡張し、屋外の雰囲気を楽しみながら飲食できるようにしたり、クラフトの店は通り沿いに屋台で小物を販売した。そのほか、運営者は通りに簡易な茶室や、人が会話できるような櫓型のアウトドアファニチャー、パーティバイクなども設置した。

テーブルや木の周りに備え付けたベンチなどで思い思いにくつろぐ人々。足を止めて会話を楽しむ

テーブルや木の周りに備え付けたベンチなどで思い思いにくつろぐ人々。足を止めて会話を楽しむ

この通りは日ごろ観光客が城に向かって通過することがほとんどだったが、社会実験期間中に滞在人数や時間、アクティビティなどを記録したところ、「会話」「佇む」「飲食」などの行動から人の滞留時間が伸びているのが分かった。また、「休憩スペースがもっとあるといい」という声は85.5%に上った(有効回答数117、R1年度大手前通り活用チャレンジ実施報告書より)。

「一部の通り沿いの飲食店では、期間中に売り上げが伸びています。一方、沿道とは関係のない事業者の屋台は、見込みよりも売り上げが伸び悩むという傾向がありました。総合すると、イベント的にやたらと屋台数を増やすのは得策ではない、と考えました」(杉野さん)

テーブルや木の周りに備え付けたベンチなどで思い思いにくつろぐ人々。足を止めて会話を楽しむ

道路よりも高い位置でくつろげるようにした櫓型のストリートファニチャー。座ったときの眺めもいい

第2弾の社会実験は1年間。四季ごとの対応策の必要性が明らかに

社会実験の第2弾は、コロナ禍に突入した2020年12月にスタートした。第2弾は地域の方々の利用が少ない状況に着目し、まずは憩いの場として日常的に人がいる状況をつくることが目標となった。また、市や社会実験の関係者は、憩いの場となることで沿道の事業者などによる地域経済が循環し、魅力的なコンテンツに投資を行い、収益の一部をエリアに再投資することでエリア価値が高まり、さらに居心地の良い場所になるという好循環も念頭に置いた。そうした背景から、ストリートファニチャーを設置した滞留促進の空間づくりを主とし、イベントは最小限にしぼった。

第1弾と第2弾での大きな違いは期間だ。第1弾は1ヶ月、第2弾は結果として1年になった。そこから見えてきたものが2点あったという。ひとつは各季節に見合う対応を要することだ。「1年を通じて社会実験したところ、春夏秋冬での利用者の反応の違いを把握することができました。真夏や真冬に人が通りに長時間滞留するのは難しいので、どのような対策が可能なのか考えなくてはなりません」(園田さん)
もうひとつは管理体制の大切さだ。「1ヶ月程度であれば、(予想外の事態などがあっても)気合で乗り切れるかもしれません。しかし、1年間となると管理が難しい部分などが明らかになってきます。(1年間の運営は簡単なものではありませんでしたが)その点が試せたのは大きな収穫です」(園田さん)

歩道上の複数個所に、人が滞留するためのストリートファニチャーが置かれた歩道上の複数個所に、人が滞留するためのストリートファニチャーが置かれた
歩道上の複数個所に、人が滞留するためのストリートファニチャーが置かれた家型のストリートファニチャーは、複数の人で会話を楽しみやすい。ワークショップでさまざまなデザインのストリートファニチャーが生まれた

第1弾、第2弾を通して社会実験に関わったはりま家守舎代表の梶原伸介さんは、実験終了後、株式会社を立ち上げ、通り沿いの店舗を借りて2022年2月にクラフトビール専門店「KOGANE」をオープンさせた。「通りをどのように使ったらいいかを実際に見せたいと考え、KOGANEをつくりました。分かりやすいのは、地元の人と観光客が通りで気軽にビールで乾杯しているところじゃないか、と思っていましたから。社会実験を通じて、求心力があるほどやれることが広がっていく様子を目の当たりにしているので、ここを拠点にもっといろいろなことにチャレンジしていきたい」

歩道上の複数個所に、人が滞留するためのストリートファニチャーが置かれたビアレストラン「KOGANE」のファサード。ビールを主役にしたのは、それぞれにストーリーがつくり込みやすいから、とのこと(写真/KOGANE)

「姫路市ウォーカブル推進計画」と並行し、まち全体に人の流れを波及

さらに、市が2021年3月に策定した「姫路市ウォーカブル推進計画」がこの大手前通りの賑わいを実現するために重要な役割を担っているという。当計画は「中心市街地において歩行者優先の居心地が良く歩きたくなるまちなかを目指し、公共空間利活用の仕組みやリノベーションまちづくりなどのウォーカブルな環境づくりに資するさまざまな取り組みを進めていくために策定した」ものだ。園田さんはこう話す。「ほとんどの人は座れるところが増えたから座りに行こう、とは思いませんよね。好みの飲食店があるなどその場所が魅力的であるかどうか、そこに行くまでの道中は楽しいかどうかも大切です。その双方があってはじめて“行ってみたい”と感じるのだと思います」

市全体の視点から、杉野さんはこのような理想を掲げている。「市内外問わず、みんなが愛着を持ってくれるまちになってほしいと思います。今、ほこみち制度を活用した大手前通りの賑わいづくりや、リノベーションまちづくりなどを進めていますが、街中でたくさんの民間のプレイヤーが活躍し始めています。その方々や活動をつないで、より大きな動きに結び付けていきたい。それが市の大きな役割ですね」

社会実験の第1弾で登場したパーティバイク。乗っている人も周囲の人も笑顔に社会実験の第1弾で登場したパーティバイク。乗っている人も周囲の人も笑顔に
社会実験の第1弾で登場したパーティバイク。乗っている人も周囲の人も笑顔に屋台のフレームは主催者が準備。車道側に位置する滞留空間を利用して設けられた

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