「木造マンション」のメリットや条件とは。不動産ポータルサイトに登場した新たな分類

従来、マンションといえばRC（鉄筋コンクリート）造だった。ところが、2021年11月に東京都稲城市で地上5階建ての「MOCXION INAGI（モクシオン稲城）」（三井ホーム）が竣工するなど、最近は木造（※）のマンションが登場しはじめている。しかしながら、今まで木造の共同住宅は、RC造と同等の性能を持ち合わせていても「アパート」に分類されてしまい、「マンション」よりも格下のイメージを与えていた。そこで2021年12月、大手不動産ポータルサイトなどが共同で掲載ルールを改定。一定の条件をクリアする木造共同住宅を「マンション」として登録し、広告できるようになった。その背景と一定の条件などを解説しよう。

※「MOXION INAGI」は1階がRC造、2〜5階が木造

そもそも木造マンションが登場する背景には、脱酸素社会実現への動きがある。林野庁の「令和元年度森林・林業白書」によると、工法別の住宅1戸当たりの炭素貯蔵量（※）と材料製造時の二酸化炭素排出量は次のようになっている。

※木材は森林が吸収した炭素を貯蔵している

●炭素貯蔵量
木造：6トン
鉄骨プレハブ住宅：1.5トン
RC（鉄筋コンクリート）住宅：1.6トン

●材料製造時の二酸化炭素排出量
木造：5.1トン
鉄骨プレハブ住宅：14.7トン
RC（鉄筋コンクリート）住宅：21.8トン

上記のように木造は他の工法よりも圧倒的に炭素を貯め、二酸化炭素を排出しないのだ。このようなことから国は木造建築物を推進している。具体的には木材を大量に使用する大規模建築計画に助成金を出したり（サステナブル建築物等先導事業）、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」（2021年10月1日施行）によって、木造建築物の設計・施工に係る人材の育成や木材の製造コスト低廉化技術の開発促進などを行っている。

隈研吾建築都市設計事務所が監修した「CLT PARK HARUMI」。CLT（木質直交集成板）を使用したこのパビリオンは、国産材活用のシンボルとして誕生した

放置された人工林は、土砂災害の原因になることも

マンションを含む木造大規模建築物のメリットは、二酸化炭素排出量が少ないことだけではない。例えば次のようなことが挙げられる。

・木材は鉄骨やRCよりも軽量なので、基礎工事の費用が抑えられる
・日本の森林資産を有効活用できる
・人工林を健全な状態に保つことができる
・木材自体に調湿機能がある
・木材は紫外線を適度に吸収するので目にやさしい

ネックとして、おもに耐火性と遮音性がある。しかし、技術の進歩によって最近はRC造と比べても遜色のないレベルを実現できるようになった。つまり、仕様によっては木造でもRC造と同等の住宅性能を有するのだ。

そこで前述のように一定の条件をクリアする木造共同住宅は「マンション」として入居者を募集できるようになった。

広告などで「木造マンション」と表記できる条件は下記になる。

●建物種別
共同住宅

●階数
3階建以上

●住宅性能評価
住宅性能表示制度による住宅性能評価書の取得を必須とし、以下の等級条件を満たす。
劣化対策等級（構造躯体等）が等級3かつ以下の①もしくは②のどちらかの等級・条件を満たす。
①耐震等級（構造躯体の倒壊等防止）が等級3
②耐火等級（延焼の恐れがある部分（開口部以外））が等級4もしくは耐火構造である

広告で「木造マンション」と表記できる要件。住宅性能評価に関しては自社評価は不可。登録住宅性能評価機関が交付する住宅性能評価書が必要になる（出典：「LIFULL HOME'S掲載ガイドライン（賃貸）」）

住宅性能評価とは、国が個別の建物の耐震性など10分野35項目の性能にお墨付きを与える制度だ。その中に上記の劣化対策等級、耐震等級、耐火等級があり、内容は次のようになっている。

●劣化対策等級3
劣化対策の最高等級。通常想定される自然条件および維持管理の条件下でおおむね75～90年大規模な改修工事をする必要がないレベル。

●耐震等級3（構造躯体の倒壊等防止）
耐震の最高等級。極めて稀に（数百年に一度程度）発生する地震による力（建築基準法施行令第88条第3項に定めるもの）の1.5倍の力に対して倒壊、崩壊等しない程度。

●耐火等級4（延焼の恐れがある部分（開口部以外））
耐火の最高等級。火熱を遮る時間が60分相当以上。

以上のように広告等で「木造マンション」と表記された物件は、国が耐震性や耐火性などの住宅性能に対してRC造と同等とお墨付きを与えている。しかも地球環境にやさしい建物だ。マンション探しをする際は、「木造なんて」とは思わず、選択肢に入れてはいかがだろうか。