馴染みの「赤胴車」が、自分の町にやってきた!

武庫川団地中央バス停に降り立つと、目の前に広がる緑の広場。飲食店や専門店が集まるショッピングセンターと、25階建てのUR武庫川団地2棟に挟まれたちょうど真ん中あたりに、電車が見えてくる。「赤胴車」と呼ばれるその電車は、鮮やかなレッドとクリーム色のツートーンカラーが目印。1958年に誕生してから2020年まで阪神武庫川線で、特急や急行車両の先頭車両として活躍していた赤胴車は、電車好きのみならず、地域の人にも親しまれている電車だ。電車のデビュー当時、漫画雑誌で人気となっていた「赤胴鈴之助」という剣道を行うヒーローの、胴に巻かれた防具の色が赤だったことが、この電車の色合いと似ていたことから、愛称として赤胴車と呼ばれるようになったのだそう。

しかし、そのような電車がなぜこの場所にあるのだろうか?

武庫川団地のランドマークとなった「赤胴車」武庫川団地のランドマークとなった「赤胴車」

この背景には、2020年3月に独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)と阪神電気鉄道株式会社が、阪神沿線のUR賃貸住宅を中心とする地域活性化を目的とした「包括連携協定」を結んだことにある。この協定により、地域の交流、暮らし、健康などの分野で相互に協力することとなった。

「赤胴車の運行が終了すると聞いて、ただ廃棄するのはもったいない!というのが企画の発端です。赤胴車はまさに、UR武庫川団地にお住まいの方やこの地域の住人にとってはゆかりのある電車。地域活性化のシンボルとして、武庫川団地内に移設し、団地と地域のコミュニティ形成の拠点として活用するのはどうかというアイデアに繋がりました」と、企画を担当した、UR都市機構西日本支社 盛田欣哉さん、平野蒼依さんは話す。

武庫川団地のランドマークとなった「赤胴車」UR都市機構西日本支社の(左)盛田欣哉さんと(右)平野蒼依さん

赤胴車をUR武庫川団地と地域のコミュニティ拠点に

UR武庫川団地の中央に位置する、ショッピングセンター「メルカードむこがわ」はこの地域には欠かせない町の便利スポット。スーパーマーケット、飲食店、衣料品等の専門店、美容院、医療施設、学習塾など約50軒の店舗が集まっている場所だ。この「メルカードむこがわ」を経営する日本総合住生活株式会社が、2020年赤胴車の活用法についての、デザイン案・イベント案の企画提案を募集するコンペティションを開催。応募総数20作品の中から、選出された5作品のアイデアやエッセンスを活かしながら、赤胴車が設置される施設のデザインと設計が行われた。

こうして、赤胴車と赤胴車のある広場を活用した武庫川団地エリア全体の地域コミュニティ活性化に向けて、赤胴車は地域のコミュニティスペースとして生まれ変わった。

阪神電車武庫川線 武庫川団地前駅から徒歩約13分の場所に、「赤胴車」はある阪神電車武庫川線 武庫川団地前駅から徒歩約13分の場所に、「赤胴車」はある
阪神電車武庫川線 武庫川団地前駅から徒歩約13分の場所に、「赤胴車」はある赤胴車の中は、そのまま!運転席の中には、限定期間のみ入れる

赤胴車が置かれているのは、団地の生活空間に隣接している広場。もともとこのエリアではUR武庫川団地内だけでなく、周辺住人と連携した地域イベントが月に1回のペースで行われている。3日続く大型の夏祭りなどもあるという(※2020年、2021年と未開催)。他にも、自治体や住民へのヒアリングや、近隣にある武庫川女子大学との連携の中から、広場の活用法のアイデアもたくさん生まれてきた。

多くの人に利用される場になってほしい

2021年7月10日に開催された、オープニングセレモニーも大盛況。地元の高須中学校吹奏楽部による演奏とともにテープカット、赤胴車の内覧会や子ども運転士体験などのほか、地元の和太鼓クラブによる演奏や子ども向け縁日などが多数催された。

今後さらに、たくさんの方に赤胴車を活用していただき、地域での交流が育まれてほしいと、盛田さんと平野さんは話す。

2021年7月10日に行われた、地域のコミュニティスペース「赤胴車」オープニングセレモニー当日の余数。赤胴車とその前の広場を活用し、地域の人などが多数集まった2021年7月10日に行われた、地域のコミュニティスペース「赤胴車」オープニングセレモニー当日の余数。赤胴車とその前の広場を活用し、地域の人などが多数集まった
2021年7月10日に行われた、地域のコミュニティスペース「赤胴車」オープニングセレモニー当日の余数。赤胴車とその前の広場を活用し、地域の人などが多数集まったオープニングセレモニーで披露された、地元の和太鼓クラブによる演奏

「すでに先行して始まっている企画もあります。例えば、小さな子どものいる世帯に喜ばれているのが『親子カフェ』。元幼稚園教諭で保育士資格のある女性2人組が講師となり、子どもへの絵本の読み聞かせとコーヒーの提供などが月1回行われています。また団地には、さまざまな年代の方が住んでいますが、長く住まわれる方も多いため、高齢者の方も増えています。

武庫川女子大学訪問看護ステーションが行う『高須みんなの保健室』では、月に2回、看護師さんが健康状態をチェックしています。高齢者の方にはもちろん、若い世代でも、近所で気軽に足を運べるといって好評です。これらの企画は、今後赤胴車で行われます。赤胴車の空間を楽しみながら、地域の交流が生まれる、さまざまなアイデアを心待ちにしています」

赤胴車は、地域の方であればレンタル利用が可能。また、コミュニティ形成を目的とする企画であれば、地域外の方でもレンタル利用ができる。

問合せ先:都市再生機構 西日本支社 武庫川団地管理サービス事務所
所在地:UR武庫川団地 19号棟2階

「ふるさと」となる団地を地域で育てていきたい

近年、UR都市機構が力を入れているのが、地域コミュニティの育成だ。

「40年50年その場所に建っている団地も多くあります。当時の新婚さん夫婦もおじいちゃんおばあちゃんになっていて、そう考えると団地は、お盆やお正月に孫が帰省するときの、『ふるさと』になっているんですよね。団地がどんな場所であってほしいかと想像してみたときに、豊かで過ごしやすい環境であってほしいと考えています」

住んでいる人が元気だと、町が元気になる。その逆もしかり。これらの相乗効果で地域が豊かになっていく。その中心となるのが、コミュニティなのだ。

車内には、子どもや電車好きにはたまらない仕掛けがたくさん車内には、子どもや電車好きにはたまらない仕掛けがたくさん

「豊かな暮らしは、団地の中の管理だけでは達成されません。少し視野を広げて団地のある町全体で見ていくことが必要です。長く住んでいる方には、満足度を上げて更に居心地がいいと思ってもらえる場所に。新しく住む場所を考えている方にとっては、住みたいと思ってもらえる魅力的な町に。団地を良き『ふるさと』にするために、より豊かな地域のコミュニティが求められていると思います。これから、赤胴車がさまざまな人をつなぎ合わせる、いい接着剤になってくれると嬉しいです」

UR武庫川団地のランドマークであり、地域のコミュニティをつなげる場所として、生まれ変わった赤胴車。地域を感じるための一つの取っ掛かりとして、まずは気軽に赤胴車で行われるイベントに足を運んでみるのもいいかもしれない。

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