沿線開発から50年強。ハード・ソフト両面から住み良い街、沿線を目指す
横浜駅から海老名駅と湘南台駅を結ぶ、神奈川県内完結の私鉄だった相模鉄道(以下、相鉄)。2019年11月に開始されたJR線との直通運転に加え、2023年3月には東急線とも直通運転が開始され、都心部への通勤や通学、レジャーなどの利便性向上で注目が集まっている路線だ。
今回エリアマネジメントに関する取り組みを紹介する相鉄いずみ野線は、1976年に二俣川駅~いずみ野駅間が開業。その後、1990年にいずみ中央駅まで、さらに1999年には小田急線や横浜市営地下鉄との連絡駅である湘南台駅まで延伸され、現在の形となった。
相鉄いずみ野線沿線は、路線延伸と同時に大規模な住宅開発が進み、短期間に多くのファミリー層が入居したエリア。開発から約50年が経過し、当時入居した世代が現在高齢となり、駅周辺を離れると戸建て住宅エリアが広がるものの、住み替えや世代交代が進みにくい状況が続いていた。
そこで相鉄グループでは、国土交通省によるモデル事業などを活用しながら、さまざまなプロジェクトを推進。賃貸マンション・分譲マンション・サービス付き高齢者向け住宅・介護施設などの建築に加え駅前広場を再整備するなど、住み替えを含め多世代に対応する住み良い街づくり事業を推進。ハード面の整備にとどまらず、「まちをどのように育てていくか」という、シビックプライドを醸成するための“ソフト面”にも注力した取り組みを行っている。
地域に根ざしたエリアマネジメント拠点を設けるなど、再開発とエリアマネジメントを一体で進める相鉄グループ。南万騎が原や弥生台の具体的な事例を軸に、相鉄のエリアマネジメントを担う担当者に話をお伺いした。
「沿線開発6大プロジェクト」と再開発の沿革
相鉄グループでは、“選ばれる沿線の創造”に向けた「沿線開発6大プロジェクト」を推進し、沿線開発の取り組みを強化(横浜駅きた西口、星川・天王町間整備計画、二俣川駅南口地区、泉ゆめが丘地区、いずみ野線沿線駅前街区リノベーション計画、海老名駅周辺整備計画)。2024年度中に、6大プロジェクトのすべてが完了した。
例えば横浜駅西口では「ザ ヨコハマ フロント」が誕生し、星川・天王町間では線路の高架化によって南北の分断を解消。線路の高架下にはクリエイター向けのスタジオや店舗が入り、新しい人の流れを生み出している。
「ハードをつくったら終わりではなく、そこに住んでいただく方や活動していただく方、来ていただく方などがまちを愛し、誇りを持つ、シビックプライドを醸成するためには、エリアマネジメントの取り組み、いわゆるソフトの取り組みを継続的に行う必要があると考えています。そこで、6大プロジェクトに合わせて、開発したエリアが継続的に発展するために、エリアマネジメント拠点を設置する取り組みも行っています」(株式会社相鉄ビルマネジメント 筒井さん)
ハード面の整備が整った現在、相鉄グループが次に注力しているのが、選ばれる沿線であり続けるための「ソフト面」の取り組みだ。その例をいずみ野線の南万騎が原駅や弥生台駅を例に紹介しよう。
みなまきラボなどのエリアマネジメント拠点を設置し、「住み続けたい」と思えるまちへ
南万騎が原駅前は、相鉄グループのエリアマネジメント拠点のひとつ。駅前に階段状に広がる広々とした「みなまきみんなのひろば」、広場の奥に設けられた「みなまきラボ」、そして隣にある小さなチャレンジスペース「みなまきTRYSTAND」。これらが一体となり、まちを継続・発展させるための取り組みを行っている。
みなまきラボは、自分の得意を生かしてまちづくりに関わりたい地域住民が「みなまきラボ会員」としてラボ内で定期的に活動しており、多世代交流を生む場となっている。公(横浜市)、民(相鉄グループ)、学(横浜国立大学)による運営委員会と事務局に加え、横浜で活躍するクリエイター集団が「運営パートナー」として加わり2016年にスタートしたものだ。
ラボには、毎週水曜日の14時~17時30分まで運営スタッフが常駐。その他の日も音楽や読み聞かせ、野菜の直売など住民による様々な活動が行われており、会員になれば無料で利用することができる。2025年12月現在、約25組が活動している。
「みなまきラボでは、近隣の小学校と連携した探究学習や、米づくりから行った米粉パンの販売なども行いました。みなまきピクニック、みなまき一箱古本市、みなまきひな祭り、みなまきハロウィンパーティーは“みなまき4大イベント”として住民の方にも好評です。特にみなまきハロウィンは地域の方がイベントを行いたいと声を挙げたもので、企画から当日の開催までもほぼお任せしています。
イベントなどをきっかけに地域の方々の共感が広がり、『自分たちも何かやってみたい』という主体的な動きが生まれた際に、私たちがその取り組みを支える立場で関わることを大切にしたいと考えています。地域の皆さんの自発的なアイデアや行動を後押しすることこそが、エリアマネジメントにおける理想的な関わり方なのではないでしょうか」(筒井さん)
特徴的なのは、テーマ型コミュニティを起点にしている点だ。
「みなまきラボはテーマ型コミュニティです。地域とつながりたい人たち、例えばアートや音楽、本、ものづくり、それぞれの関心や好きなことをきっかけに人が集まることができる場所だと考えています。いつでも参加でき、また辞めることができるのも特徴だと思います」
小さなチャレンジスペース「みなまきTRYSTAND」&「弥生台TRYBOX」
みなまきラボの隣にあるのが、地域住民の「やってみたい」という想いを叶えるための小さなチャレンジスペース「みなまきTRYSTAND」。以前は宝くじ売り場だった場所を活用したもので、オーナーさんが日替わりでお店を開いたり、ワークショップを開催したりできる「実験の場」として運営されている。
「自分で店舗を持つには商品などを揃えることも大変ですが、みなまきTRYSTANDは、小さなスペースだからこそ始めやすい。3ヶ月ごとに募集を行い、半年ごとにオーナーさんの入れ替えを行っています。使用料金は1日1,000円です」(みなまきラボなどの運営を担っている、株式会社オンデザインパートナーズ 西大條さん)
南万騎が原駅から2駅湘南台駅寄りの弥生台駅でも、「みなまきTRYSTAND」と同様に「弥生台TRYBOX」を設置。「みなまきTRYSTAND」よりも広いスペースがあり、多様な人々の“チャレンジ”を応援している。こちらの使用料は1日5,000円(現在はキャンペーン価格で3,500円)だ。
「みなまきTRYSTAND」や「弥生台TRYBOX」の出店者同士がつながりコラボ出店が実現したり、この場所での活動から駅前イベントの出店につながったりするなど、新たな挑戦が生まれているという。
エリアマネジメント拠点をきっかけに「地域の方がつながっていく喜び」を実感
あえて明確なゴールを設定せず、1年ごとにトライアンドエラーを繰り返し、次の年を考える。その繰り返しが結果的に住民との対話につながっていったという、みなまきラボ周辺のエリアマネジメント。
西大條さんにやりがいや手応えを聞くと、取り組みを始めてからの年月を振り返りながら、こう語る。
「問い合わせが増えてきたというよりは、10年経って、やっと手ごたえが得られてきたという感覚ですね。でも、それは決して遅かったという意味ではなくて。最初から何らかの目標を立ててしまうと、そこにフォーカスされすぎて、ほかの可能性が見えなくなってしまう気がしていたんです。こちらの目標ではなくて、住民の皆さんの声を聞いて、『じゃあ、それをやってみましょうか』と環境を整えていく。その積み重ねで、住民の方も無理のないペースで関わり続けてくださっているのかなと思います」
筒井さんにもお聞きした。
「8年ぐらい経ってようやく、地域の皆さんが集まって『あれをやってみよう』と、いろいろなことが自然に動き出す状態になりつつあるなと感じています。長い道のりでしたが、方向性としては間違っていなかったんだろうな、という実感はありますね」
西大條さんと同僚の櫻井さんは、より日常に近い具体例を話してくれた。
「みなまきラボの会員さんでも、エリアマネジメントという言葉を意識して関わっている方は、ほとんどいないと思います。ラボに来てくれる方の中には、散歩のついでに『ちょっと話してみようかな』と入って来てくれたのが最初の方もいます。最初は話すだけだった方が、備品を直してくれたり、模型を作ってくれたり、折り紙で季節の飾りを作ってくれたりして。『地域活動をしたい』というより、『ここに来る時間が楽しい』という感じなんですよね。
最初は散歩の寄り道ぐらいの感覚だったと思うんです。そのような方が、気が付けば緑化プロジェクト(『みなまきみんなのひろば』の植物のお手入れを行う)のメンバーになり、生き生きと活動されているのを見ると、とても嬉しく思います」
西大條さんは、そのような姿を見て「地域の方がつながっていく感じが本当に嬉しい」と話す。みなまきラボなどのエリアマネジメント拠点の地域への貢献度は数字での評価は難しいものの、人が役割を見付け、生き生きと活動する様子を目の当たりにできること。時間を積み重ねてきたからこそ実感できる変化を間近で見られることも、大きなやりがいにつながっているはずだ。
「成果が見えにくい」などの課題を抱えながらも、“まちを育てる”という本質を追求
手応えを感じる一方で、浮かび上がってくる課題もある。筒井さんがまず挙げたのは、「持続可能性」についてだ。
「持続可能な仕組みって、そもそも何だろう、というところがすごく難しいですね。方向性は正しいと思いますが、この活動を通して地域にどれぐらい貢献しているのかということを、我々がきちんと認識するということにも難しさを感じています」
さらに、みなまきラボなどのエリアマネジメント拠点を外部に説明する際のハードルも高いようだ。
「活動を行う場所はありますが、例えば公民館や自治会館と何が違うのかを考えた時、共通する部分はあるものの、テーマ型コミュニティとエリア型コミュニティは違う、という話はできるのですが、『みなまきラボでなければできないことは何か』をわかりやすく説明するのは容易ではないですね。
みなまきラボは“ラボ”である以上、研究や実証実験みたいなことを行う場所という意味合いもありますが、我々が目標に掲げているターンテーブルモデル(多様な世代が街に共存し、循環することで新たな魅力を創出し、「選ばれる沿線」を実現する取り組み)のように生産年齢人口も含めていろんな人たちが交じり合い、持続可能なまちになっているかどうかをどこまで達成できているのか、貢献できているのかの成果を認識しにくいと感じています」
西大條さんは、エリアマネジメント拠点の認知不足を課題に挙げる。
「まだ、みなまきラボのような場所があること自体を知らない方も多いのではないでしょうか。知ってもらえれば、使いたい、関わりたいという方は、もっといるはずだと思っています」
櫻井さんは、課題と共に、表裏一体のやりがいについても話してくれた。
「個人の『好き』とか『やってみたい』ことと、相鉄グループが取り組むエリアマネジメントをどうつなぐかを意識していないと、住民とまちづくりの間に乖離がおきてしまいます。
会員さんと直接話ができる立場にあるからこそ、そのつなぎ方を考え続けることが大事だと感じます。すぐに答えが出ないからこそ難しいですが、ある意味やりがいになっているのかなと思います」
みなまきラボ開設からもうすぐ10年。効果は着実に現れている
「地域への貢献度を把握しにくい」「認知度が低いのではないか」、などの悩みはあるものの、みなまきラボなどのエリアマネジメント拠点は10年近い歳月を経て、地元住民の間に確実に溶け込んでいる。
「4大イベントのひとつ、『みなまきハロウィンパーティー』(地域住民発案の、地域住民主催イベント)の時に、実行委員の近隣住民の方がインタビューを受けていたんです。そのインタビューを聞いていたのですが、『なぜこのような活動をしようと思ったのか?』という質問に対して、『みなまきラボがあったから』とおっしゃっていたんです。それを聞いて、集まる場所、発信する場所としてみなまきラボが認識されていることを実感して、嬉しく思いました」と西大條さん。
直近で、3月に「みなまきひな祭り」が開催される。近隣住民をメインに多くの人が集まり、みなまきみんなのひろば(駅前広場)を中心に大いに盛り上がる恒例のイベントとなっている。
ハード面だけでなくソフト面も重視し、“市民参加型”の育てるまちづくりを推進する相鉄グループ。エリアリノベーションやエリアマネジメントに興味のある人は、駅前広場が大きなひな壇に変身する「みなまきひな祭り」など数々のイベントを見学、またはスタッフの一員となって参加してみるのも楽しいのではないだろうか。


















