赤字続きだった市の施設「駿府の工房 匠宿」を再生した創造舎
静岡県静岡市の人宿町で、エリアリノベーションに取り組み、次々と個性的な店舗を誘致してまちを活性化してきた株式会社創造舎。代表の山梨洋靖さんが、2011年に人宿町の古い銭湯ビルを改装して自宅兼事務所として移り住んできたところからはじまり、これまでに135店舗もの物件を手がけてきた。
創造舎は市街地の人宿町からはじまり、現在は郊外の丸子・匠宿エリアの開発にも取り組んでいる。
創造舎は2021年より、静岡市の指定管理業務である「駿府の工房 匠宿(以下匠宿)」の運営をはじめた。静岡市には12の伝統工芸が残っており、匠宿では駿河竹千筋細工・和染・木工・漆・陶芸などの伝統工芸を気軽に体験できる施設だ。各種工芸の体験ができるだけではなく、作品が展示される「匠伝統工芸館」や作家の作品が並ぶギャラリー「Teto Teto」、カフェ、お土産屋などが併設されている。
匠宿が位置するのは、旧東海道の宿場町のひとつである丸子宿。人宿町から車で15分ほどの位置にあり、木々が生い茂る山に隣接し、清々しい空気を感じるエリアだ。
匠宿は25年以上前に建設されたが、採算が合わず、赤字が続いていた。そこで、人宿町でまちづくりに取り組み、成果を上げている創造舎の山梨さんに、静岡市から相談があったという。
山梨さんは行政事業の枠にとらわれず、1億5,000万円を自費で投入して改装。スタイリッシュな外観・内観に変更し、地域の名産であるハチミツを使ったカフェ「HACHI & MITSU」やコーヒーショップ「The COFFEE ROASTER」などのおしゃれな店舗も併設した。
さらに、以前からあった工芸体験の方法も変更した。もとはインストラクターがお客さんに体験を提供していたが、それだけでは弟子が育たない。実際、20年間で工芸は衰退していた。
そこで、創造舎では工芸職人を「工房長」として招聘し、体験を提供するだけではなく職人を育てることにも注力。同時に、プロの技をお客さんに間近で見てもらうことで、伝統を守り育てることに力を入れている。
できるだけ若手を雇い、新しい職人が誕生することを目指し、「職人育成100人計画」を掲げている。
匠宿の来場者数は4年間で4倍に増加
さらに、「ものづくり」を守り、育成する匠宿の姿勢に共感し、進出してきた有名企業がある。静岡市に本社を置く、世界的な模型メーカーの株式会社タミヤだ。
匠宿から1本道を挟んだ建物の「工房 星と森」にあるタミヤのスペースでは、お客さんが模型づくりを楽しめるようになっており、ミニ四駆のコースも設置されている。このタミヤブースの工房長は、タミヤの社員で催事のプロの方が務めている。
また、匠宿にはきんつば屋が入っているが、元々この地域にあった店舗から事業承継の相談を受け、レシピを受け継ぎ、匠宿でオープンした。ここでも、人宿町と同様の手法を活かしている。
こうした取り組みが成果を上げ、創造舎が運営を開始してから4年間で、工芸体験の人数は年間1万人から3万人に、来場者数は5万人から20万人にまで増加した。施設内には、子連れのファミリーや若いカップルなどの姿が見られた。
地域全体で伝統工芸を未来につなぐ
創造舎のミッションは「静岡市の伝統工芸を未来につなぐ」こと。そのために、施設だけではなく、周辺に宿泊施設やお風呂などが必要だと考え、丸子・匠宿エリアの物件も次々と手がけていった。
匠宿から山側に向かう緩やかな坂道をのぼっていくと、創造舎の手がけたお店があちこちに見られる。
プライベートサウナを備えた古民家のラグジュアリーホテル「和楽」や温浴施設「ふきさらし湯」、駄菓子とおでんの「吾作商店」など、次々と開発。レストランやホテル内では、匠宿でつくった皿や箸などの工芸品を使うといった連携もしている。指定管理の施設を軸に、公民連携でエリア全体の価値を高めていくという方法だ。
このエリアで手がけた物件はすべて創造舎の直営だというから驚く。多くをテナント貸ししている人宿町とは異なり、規制の関係もあり、丸子・匠宿エリアでは直営で運営しているという。そのため、匠宿をはじめてから創造舎の社員数は大幅に増えた。
創造舎が成果を上げてきた秘訣
約8年間で人宿町の135店舗を手がけ、2021年からは静岡市指定管理業務の匠宿を運営、周辺のエリアづくりも行ってきた創造舎。これだけのスピード感を持ってまちづくりを進めてこれた秘訣はどこにあるのだろうか。
山梨さんのお話と視察ツアーを通して感じた3つのポイントをまとめてみたい。
1、エリアを絞る
人宿町は200メートル×50メートルの約1万平米を4区画、合計4万平米のエリアに絞って開発を行っている。これは、メインの通りを中心として、その両隣の通りまで、つまり3本の通りに限定される。山梨さんは、このエリアを明確に守っており、エリアの少し外で出店したいという相談が来ても、エリア内に来るように説得するという。
しかし、「4万平米で135店舗って、まだ店が連なってるっていう感じはしないんですよ」とも続ける。
「僕のイメージだと1,000軒くらいやらないと『すごいまちだね』とはならないと思っています。だから、今はまだ13%くらいの状態ですね」(山梨さん)
実際にまちを見て、人宿町のにぎわいを感じていた参加者からは驚きの声が漏れた。
また、人宿町と丸子・匠宿エリア、車で15分くらいの2つのエリアを結んで盛り上げようという意識も明確だ。山梨さんは「僕が社長でいる間は、他の場所にいかず2エリアに特化すると宣言している」という。エリアを分散せず、集中しているからこそ、密なまちづくりにつながっているのだろう。
2、地域の信頼を獲得する
まちづくりで気がかりな点は、地域住民との関係性だろう。無理に進めると、どうしても衝突が起きてしまう。
その点、山梨さんは最初にまちの「重要人物たち」を押さえていた。人宿町には旦那衆のような会合があり、当初は80代ばかり、十数人のメンバーの会合に毎月参加することを7年続けた。最初はかなり怪しまれたというが、会を重ね、ときには涙するような戦争体験を何度も聞いたりしていくなかで、徐々に信頼を得ていったという。現在は婦人会の運転手を務め、地域とのつながりを大事にしている。
山梨さんが7年間で築き上げた関係性は、現在になってじわじわと影響力を発揮している。というのも、人宿町内で空き物件の話が出ると、多くの人が大手企業ではなく、創造舎に相談に来てくれるという。地域住民との関係性をじっくりと構築し、成果も上げてきたからこそ、信頼を獲得できているのだろう。
3、小さな規模で
「小さな規模で、こだわりのある個人店を誘致する」ことも創造舎のポイントだ。
たとえば、人宿町に70坪の空き店舗があったが、個人店には大きすぎて家賃も高い。エリア的にチェーン店が出店できるほどの人通りもないため、手に出しにくい中途半端な規模だった。そこで、1店舗を15~20坪ほどの4つに分けてリノベーションした。こうすることで、家賃を抑え、個人店でも借りやすいようにしている。
この手法は人宿町内のあちこちで見られ、個性のある小さなお店が連なることで、まち全体の価値が高まっている。
現に、創造舎が2011年に人宿町に本社を構えてから、土地の価格は上がっているという。
「まちも行政とのつながりも、結局は人」だという山梨さん。ツアー後の懇親会でも、偶然居合わせた顔見知りの人に、店舗進出を口説いていた。人を大事にし、情熱を持って取り組んできた山梨さんだからこそ、人宿町の通りを「人情ストリート」と名付けたのはしっくりくるような気がする。
人と人との人情がつなぐ縁
最後に、個性ある店を誘致するコツ……というか、山梨さんの情熱を感じるエピソードを紹介したい。
隣り合わせの古い一軒家をつないで、八百屋や肉屋、コーヒーショップなど6店舗が入る「人宿町マート」。ここはOMACHI創造計画第4弾でリノベーションされた建物で、「人宿町に生鮮を扱う店がないね」という話から八百屋と肉屋を誘致した。テナントは募集をかけることもあるが、山梨さんの人脈のなかから探してくることが多いという。
「僕が人宿町に住んでいることが大きいかなと思っています。僕も通りを毎日何往復も歩くんですけど、店に通い、見知った顔が増えると、自然と相談事を持ちかけられるようになるんです」(山梨さん)
山梨さん流の人脈づくりが、まちの活性化にもつながっていることがうかがえる。そして、これは「小さなエリア」に絞っているからこそ可能であり、活動の初期に地域住民の信頼を得られたことが現在につながっていることでもあるだろう。
2日間にわたる視察ツアーでは、山梨さんのすごさに圧倒されるばかりだった。それは、筆者が感じたというよりも、日頃からまちづくりに取り組んでいる参加者から、次々に湧いた驚きの声から感じられた。今後、各自が自分の地域に学びを持ち帰り、それぞれのまちづくりに活かしていくだろう。
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