地域の人と一緒に新しいまちづくりを創り出す企業・リノベリング

2025年2月8日、兵庫県姫路市で民間主導による新しいまちづくりをテーマとしたシンポジウム「なぜあの企業は地域に投資するのか? 民間が担うこれからの公共」が開催された。主催は株式会社 リノベリング。同社は地域の潜在資源を活用して地域の課題を解決する「リノベーションまちづくり」を推進する取組を行う。地域を変える人材を集め、実際に空き物件を題材にして事業提案をする「リノベーションスクール」を全国各地で開催。多くの地域でエリアリノベーションによるまちづくりを行い、成果を上げている。

またリノベリングでは、姫路市と西隣のたつの市という二つの城下町をつなぐ取組を行っている。姫路市には世界遺産・姫路城があり、たつの市には重要伝統的建造物群保存地区があり、観光などで補完し合えるという。同社では、交通・観光企業の神姫バス 株式会社、古民家を継承して地域再生の活動をする株式会社 緑葉社という二つの地元企業とともに取組をしている。

姫路でのシンポジウムは「民間企業が持続的に成長し、地域と共に発展していくためには何が必要か」「地域との共創とは」「公共のあり方とは」をテーマにする。そして民間企業が地域に投資することでエリア価値が向上し、自社事業にも良い影響を与える事例を深掘り。民間主導による新しいまちづくりの方向性を考える機会とするものである。

シンポジウムは3部構成で、1部では3名のゲストが登壇し、事例紹介をするショートレクチャー。2部は1部のゲスト3名によるパネルトーク。3部はゲスト3名とパネリスト2名でのクロストークという構成で行われた。

リノベリングは姫路・たつのエリアで、地元企業2社とともに両エリアをまたいだ地域活性化の取組を行っている(提供:リノベリング)リノベリングは姫路・たつのエリアで、地元企業2社とともに両エリアをまたいだ地域活性化の取組を行っている(提供:リノベリング)
リノベリングは姫路・たつのエリアで、地元企業2社とともに両エリアをまたいだ地域活性化の取組を行っている(提供:リノベリング)姫路駅を起点に、世界遺産・姫路城のある姫路市と重要伝統的建造物群保存地区のあるたつのという二つの城下町の相乗効果によるエリア価値向上をめざす(提供:リノベリング)

パネリストの一人は、神姫バス 株式会社長尾 真(ながお まこと)代表取締役。同社は古くから兵庫県の交通を支えてきた企業である。「地域との協創」「移動をベースにしたまちづくり」という考えのもと、事業を展開している。今後、神姫バスは交通機関から「地域づくり・まちづくり企業」になるのをめざしているという。

たとえば、同社は路線バスを活用した「貨客混載」の取組や、同社グループのワンストップサービスにより地域を支えるという「ライフプラットフォーム構想」などに取り組んでいる。長尾さんは「地域のための事業をするのは楽しいです。思い入れのある街だからこそ、姫路もたつのも『惜しい』と感じる部分があります。その『惜しい』を少しでもなくしていくのに尽力したいです」と話す。

もう一人のパネリストは、建築家の西村 浩(にしむら ひろし)さん。西村さんは佐賀県佐賀市出身で、1999年にワークヴィジョンズ 一級建築士事務所を設立し、代表になる。建築企業として、設計の依頼がある街にする必要があると考えた西村さんは、地域の価値・魅力を上げることが重要だと考えるに至った。街の人気が上がれば、投資が起こるという。

そして故郷・佐賀市の空地にコンテナを建て、自社の事務所とシェアオフィスを開設。さらに横のビルに複数のテナントを誘致したり、自身でベーグル屋をオープンするなど、積極的に活動する。地域の魅力が向上すると、地域の価値・ブランドが向上し、新たな人が集まってきて店が増えていった。「地域の好循環が起こると、やがて地域を良くするためにトータルプロデュースできる人材が育っていきます。すると、さらなる循環が期待できます」と西村さんは語る。

リノベリングは姫路・たつのエリアで、地元企業2社とともに両エリアをまたいだ地域活性化の取組を行っている(提供:リノベリング)神姫バス株式会社の長尾真 代表取締役
リノベリングは姫路・たつのエリアで、地元企業2社とともに両エリアをまたいだ地域活性化の取組を行っている(提供:リノベリング)建築家の株式会社ワークヴィジョンズ・西村浩 代表取締役

地元の魅力発信の一般社団法人設立から公園PFI事業参画、百貨店跡地の再生も手がける福山市の事例

シンポジウムの第1部では、まず各地で民間によるまちづくりの取組を行い成果を出している3名が登壇。事例紹介とともにショートレクチャーを行った。

最初の登壇者は、広島県福山市にある福山電業 株式会社の代表取締役・島田 宗輔(しまだ しゅうすけ)さん。福山電業は1946年(昭和21年)に創業した電気工事企業で、戦災復興工事や公共工事・大型商業施設など、まちづくりに幅広く携わってきた。

島田さんは大学卒業後に地元・福山市へ帰郷。友人とサイクリングをしていたときに見た福山の景色に感動する。そして福山の魅力を伝え、みんなで楽しんでもらうため、本業とは別に一般社団法人を設立した。島田さんたちが活動を続けていくうちに、行政等に知られるようになり、やがて福山中央公園でのPFI事業への参画を打診される。そして公園内に、ガーデンレストラン「Enlee(エンリー)」を開業した。

また福山電業は、福山市中心部にあった大型百貨店「福山そごう」の跡地に、1階のみを利用した施設「iti SETOUCHIイチ・セトウチ)」を2022年(令和4年)に開業する。同百貨店は1992年(平成4年)に開業したが、2000年(平成12年)に閉鎖。その後、建物を利用して2度にわたり施設が開業するものの、2020年に閉鎖して以降は利用方針が定まっていなかった。

※参考記事:
広島県福山市「iti SETOUCHI」は"屋根のある公園"であり"小さなまち"。まちの未来をつくる大型施設再生の新たな形

福山市・福山電業 株式会社の島田宗輔 代表取締役(提供:リノベリング)福山市・福山電業 株式会社の島田宗輔 代表取締役(提供:リノベリング)

島田さんは「公園のPFI事業では、行政の『公園はみんなのもの』という考えとは異なる発想を取り入れました。『みんなのもの』ということは『誰のものでもない』ということで、無難なものになってしまいがち。そこでもっと遊んで楽しめる公園にしようと思い、ガーデンレストランをはじめ、日陰空間・芝生広場などをつくりました。またイベント団体をつくり、公園で開催しています」と話す。

iti SETOUCHIは「まちの実験場」をコンセプトとし、社会活動(ソーシャル)と企業活動(ビジネス)と面白い人が集まる場(カルチャー)の融合をめざしているという。建物を「小さなまち」「屋根のある公園」と見立て、商業施設跡地の活用方法の新たな形として注目されている。施設内にはテナントのほか、無料のベンチやソファー、さらにコワーキングスペースや貸事務所もある。イベント会場としても利用され、年間で多数のイベントが開催される。

民間によるまちづくりのポイントは、住民の目にとまるような活動を、少ない人員・資金で行うことだと思います。そのためには世間への露出、そして認知の拡大がポイントです。そこで活動をしやすくするために、団体を法人化しました。法人になることで行政などからの信用度が向上し、メディアに取り上げられやすくなりましたね」と島田さんは活動を振り返った。

福山市・福山電業 株式会社の島田宗輔 代表取締役(提供:リノベリング)島田さんは「まちづくりは少ない力で、多くの市民の目にとまるような活動をするのがポイント。それには活動母体を法人化することで、信用度を高めることが有効」と話す

かつて栄えた映画館街ににぎわいを戻し、宿場を生かした活動にも取り組む静岡市の事例

続いての登壇者は、静岡市にある建築デザイン企業・株式会社 創造舎山梨 洋靖(やまなし ひろやす)代表。山梨さんは静岡市出身で、地元建設会社での勤務を経て、2007年に創造舎を独立開業。2011年に静岡市葵区の人宿町(ひとやどちょう)にある銭湯だった廃ビルをリノベーションし、自社ビルとして事務所を郊外より移転、山梨さんの住居も同ビルに移した。また同町の通りを「人宿町人情通り」と名付け、「OMACHI創造計画」としてまちづくりの活動に取り組んでいる。

人宿町はJR静岡駅の北西約600m、静岡市のシンボルである駿府城公園の南西約500mという場所に位置する。昭和時代には映画館が数軒ある娯楽の街だった。しかし、しだいに映画館が撤退していき、いつしか廃ビルが多く活気の失われたエリアとなっていた。その人宿町に活気を取り戻したいと考えた山梨さんは、佐賀市の「わいわい!!! コンテナ」プロジェクトを知る。これを参考にすべく佐賀を視察。そして、人宿町内の空地にコンテナ広場をつくり、定期的にイベント開催を始めた。この結果、人宿町に人が集まるようになったという。

コンテナ広場が期間満了で終了したあと、山梨さんはさらなる取組を始める。2016年に自主運営にてラーメン店をオープン。また翌2017年には5階建ビルの大幅リノベーションを実施した。これを契機にOMACHI創造計画が本格始動し、エリア内のビルを次々にリノベーションしていく。人宿町人情通り周辺は徒歩3分ほどで回れる小さなエリアだが、山梨さんはそのエリア内に110店舗を誘致(2024年現在)した。

静岡市・株式会社創造舎の山梨 洋靖 代表取締役(提供:リノベリング)静岡市・株式会社創造舎の山梨 洋靖 代表取締役(提供:リノベリング)

さらに静岡市街地西部、静岡駅から西に約6kmのところにある丸子(まりこ)地区のまちづくりにも取り組む。そして「人と匠が宿る場所」というコンセプトのもと、人宿町と丸子という二つの宿場を東海道でつないでいる。なお丸子はかつて東海道の宿場として栄えた歴史ある街で、とろろ汁で知られている。

取組の一例としては、創造舎が工芸体験施設「匠宿」の指定管理者となり、同施設を「駿府の工房 匠宿」として再生。 来場者を年間5万人から18万人に増やした。また日帰り温浴施設も開業するなど、丸子と隣接の泉ヶ谷の両エリアを「里山工芸観光村」として観光振興に取り組んでいる。

「人宿町のまちづくりは、行政の補助金に頼らず、民間の力のみで取り組んできました。ビルを購入してリノベーションし、そこへテナントとして店に入ってもらい、家賃をいただいて収入としたことがポイントです。またテナント出店したい人を期間限定で雇用し、修業のような形で弊社の飲食店で働いてもらい、タイミングを見て独立できるスタイルをつくっています」

「このように、まちづくりを継続させる仕組みづくりが重要だと思います。また人宿町に誘致した店は、いずれも個人店です。こだわりや情熱を持った店主たちだからこそ、魅力のあるエリアになっていると思います」と山梨さんは話す。

静岡市・株式会社創造舎の山梨 洋靖 代表取締役(提供:リノベリング)山梨さん「まちづくりの活動を継続させていくことが大切。そのためには仕組みづくりが重要です」

閉館した百貨店と大食堂を存続させる取組からまちおこしの活動へ展開した花巻市の事例

3番目に登壇したのは、岩手県花巻市にある株式会社小友木材店小友 康広(おとも やすひろ)代表取締役。木材店のほかに、あわせて異業種6社を東京と岩手で経営するパラレル経営者である。花巻出身の小友さんは大学卒業後、東京のIT系ベンチャー企業に就職。その後、同社のグループ企業で役員をしながら、実家となる小友木材店の代表となる。小友材木店は1905年(明治38年)創業の老舗で、小友さんで四代目となる。

2016年、花巻市にあった大型商業施設「マルカン百貨店」が閉館する。6階には10段巻きの大型ソフトクリームが名物の大食堂があり、この店の存続を願い、高校生ら市民が署名活動を展開していた。そこで小友さんは、マルカン百貨店および同食堂の事業承継を決意する。

さまざまなプランを模索したが、全館の改装は採算面から厳しいと判断し、大食堂の存続を第一に考えたプランを実行。8階にあった電機室を1階に移し、店舗は1階のテナントと6階の大食堂のみに。また無料だった駐車場は有料にした。あわせて建物の耐震対応も行っている。その後、地下にスケボーショップ、2階にダンス教室やおもちゃ美術館もオープンした。

花巻市・株式会社小友木材店の小友康広 代表取締役(提供:リノベリング)花巻市・株式会社小友木材店の小友康広 代表取締役(提供:リノベリング)

小友さんは、ほかにも花巻市内でまちおこしの取組を行っている。当初は転貸と食堂の事業承継のみだったが、2017年から2025年までの間で事業承継は3件、事業誘致を5件、さらに新規事業1件を展開すべて黒字で運営している。事業承継では花巻空港のレストラン、老舗ギョウザ店、クレープが人気の飲食店などがある。小友さんは「私が取り組んでいるまちづくりのイメージとしては、花巻という街の文化を街中に集めた上で、より良く磨いていくといった感じです」と話す。

「まちづくりの取組をやって良かったことは、花巻を今後どうしたら楽しい街にできるかと一緒に考える仲間が、非常にたくさん増えた点。リノベーションスクールの誘致や民間のまちづくり活動をまとめた冊子発行など、民間で話し合ったことを行政に提案し、実現したことも多いです」

花巻市街地では2017年以降、62件ほどのリノベーションなどのまちづくりの取組が行われているという。小友さんが関わったのは、そのうち10件ほどだ。「地域の投資するのは『志』と『そろばん』がそろうから。志とは家族と仲間の幸せな暮らし。花巻という街というより、自分の生活圏を良くする感じです。自分部屋の拡張のようなイメージでしょうか。そろばんとは、『地域』は投資対象として優良だから。気軽に少ない投資をして、大きな成果が得られると思っています」と小友さんは語りました。

花巻市・株式会社小友木材店の小友康広 代表取締役(提供:リノベリング)小友さん「私の場合、花巻の街というより、花巻に住む家族や仲間の幸せな暮らしを実現するために、まちづくりの活動を始めました」

まちづくりの取組には地元からの信頼が必要

第2部では、ショートレクチャーで登壇した3名によるパネルトークが行われた。

最初のテーマが「新事業をどのように始めたのか」。島田さんは、気の合う仲間とノリと勢いで始めたとのこと。また趣味を法人化する感覚だったという。山梨さんは自分がどうかではなく、地域に必要とされるもの、地域の人が望んでいるものをつくるという気持ちだったと振り返る。

また小友さんは、自身の経営力を上げるか考えていたとき、自社に不採算ビルを所有していたことに気づいたという。同時期、リノベーションスクールでまったく別分野の2人と知り合い、花巻の活性化のために新事業を始めたそうだ。経営力向上の機会・不採算ビル・別分野の2人との出会いというタイミングが重なったのが、新事業のきっかけだったと話す。

続いてのテーマは「街に開かれた拠点を構えると、どうなったか」。3人とも同じく「信頼獲得につながる」と答える。島田さんは「情報や人脈が広がり、知名度が上がることで、信頼につながる」と話す。街を活性化して新しくしていくためには、従来の方法にも入っていく必要があり、そのためには信頼が必要という。山梨さんはまちづくりの話を進めるためには、信頼を得られるような行動をする必要があるとのこと。まちづくりを進めるには、道路など公共の場所を使うことも多く、地元からの信頼は重要だという。

小友さんは、信頼獲得は自身の本業・小友木材店のためだと話した。地元の木材店がまちづくりをすることで信頼を獲得し、本業にも好影響があるという。とくにほかの人がやりたがらない案件を積極的に挑戦するとのこと。そのうえで重視していることが「敵をつくらない」ようにすることだと話す。そのため不安を抱かれるような相手と会う場合は、不安点を丁寧に聞いたり、共通の知人がいればその人を介して会ったりするという。

パネルトークの様子パネルトークの様子
パネルトークの様子ゲスト3人が共通して話すのは「信頼が重要」ということ。島田さん「地域活性化の活動には、地元のからの信頼が不可欠です」

三つ目のテーマは「普段から意識していること」。島田さんは現場に任せることが大切だという。また他地域で「いいな」「地元でも応用したいな」といったものは、積極的に取り入れることを考えていると話す。先のテーマで小友さんが話した「敵をつくらない」ように振る舞うことも意識しているとのこと。

山梨さんは、地域の活性化のことを常に考えるようにしているという。地域の活性化は先頭に立つボス的存在が必要で、ボス的存在がいないと統率がとれた街がつくれず、魅力が育たないと話す。そのため山梨さん自身がリーダーとなり、自ら手と足を動かし、地域を見ているそうだ。

小友さんは「必然をつかまえる」ことを意識していると話す。不確実性の高い事業においては計画はあまり役に立たず、偶発的に発生した事象をいかに生かしていくかが重要だそう。そのために偶然にやってきたチャンスに対し、嫌な気持ちがなければ、必ず取り組むという。またもう一つの取り組む条件として、週に取り組む時間が8時間以内かどうか。これは小友さんが複数の事業を運営しているためだ。

パネルトークの様子山梨さんは「まちづくりの活動を統率するボス的存在が必須」と話す。山梨さん自ら地域の活動の先頭に立っているという
パネルトークの様子小友さんは「普段から敵をつくらないように意識している」といい、相手から信頼が得られるようなやり取りを心がけているという

まちづくりの対象地域の範囲を広く設定しすぎないことは重要なポイント

第3部ではショートレクチャーの3名をゲストスピーカーに、神姫バスの長尾 真さん・建築家の西村 浩さんをパネリストに迎えたクロストークを開催。クロストークでは来場者からの質問にゲスト・パネリストが答えながらトークを展開した。

一つ目の質問は「まちづくりの取組を始めるときに大事な要素とは?」。島田さんは「この地域をどうしたいか」という「思想」が大事だという。思想に共感してもらえるから、いろいろな人に協力してもらえると話す。山梨さんは「自分の住む地域を平和で幸せに暮らせるようにしたいという気持ち」とのこと。「これは日本人の根幹だと思います」と話す。小友さんは人によって状況が異なることを前提とした上で、「心・技・体」と答えた。「心」は取り組むにあたって不安なことを、しっかりと調べて知ること。「技」は考えられるリスクを最小化するテクニック。「体」は取り組める時間や出せる費用などを意味するという。そして「心・技・体」をチームで取り組むことが大切だそう。

また長尾さんは「私の場合、まちづくりができる力がある企業なのに、まちづくりに取り組んでいなかったことがくやしいという気持ちがありました。これが原動力となっています。またまちづくりは利益だけでなく、非常に多面的な効果があると思います。利益が赤字だとか黒字だとかで、一喜一憂しないことも大事です」。西村さんは「まちづくりの対象地域の範囲を広く設定しすぎないことが重要なポイントです。市全体では活性化は大変だが、住んでいる周辺エリアなら活性化はしやすいですよね」と話した。

クロストークの様子クロストークの様子
クロストークの様子山梨さんは「自分の住む地域を平和で幸せにしたいという気持ちは、日本人としての根幹」と話す

二つ目の質問は「まちづくりの活動をする場合、世代による考えの違いなどで統率が取れないとき、どのようにして対策していくか」。長尾さんは「若い世代や中年世代は一生懸命やっていても、高齢世代は疑問に感じていることも多い」と話す。長尾さん自身は高齢世代に近いため、自身が間に入ることで、双方をつなげる役目をしているという。

また西村さんは「全国の商店街が設立されてから長い年月が経ち、現在は世代交代の時期に来ています。今は時代の変わり目。逆に言えば、新しいことに挑戦するチャンスのときです」と話す。ただし、今まで方法からまったく別の新しい方法に変えるのではないという。「今までの蓄積の中から残していくものを残し、変えていくものは変えていく。進化させるという表現の方が合うかもしれせんね」

小友さんは、まちづくりの組織の最初は「事業計画を進められる人」「地域からの信頼がある人」「現場実務に強い人」「学術的な視点で周囲を説得できる人」という、異なる特徴を持つ4人が集まって活動することが重要だという。世代間の軋轢は「地域からの信頼がある人」が対応し、解決することが多いそうだ。

山梨さんは、先の質問の答えで西村さんが話した「まちづくりの対象地域を広く設定しないこと」がポイントだと話す。島田さんは、志を持って地域活性の活動を行いながら、叱られたときはしっかりと謝罪できる人物を育てていくことが大切という。

クロストークの様子小友さん「まちづくりの初期段階では『事業計画を進行できる』『地域からの信頼がある』『現場実務の進行ができる』『学術的な視点で説得できる』という異なる特徴を持つ4人をそろえることが重要」
クロストークの様子島田さん「まちづくりには多くの人の協力が必要。そのためには『この地域をどうしたいか』という『思想』を持っていて、それに共感してもらうことが大事」

地域への投資により地域の価値が向上し、やがて本業の発展につながる

シンポジウムのテーマである「なぜあの企業は地域に投資するのか?」。これは企業が地域に投資することで、地域の魅力が向上して地域の価値の上昇につながる。地域の価値が上昇すると、新たに人が集まるようになり、仕事が生まれ、やがて本業に良い影響が出るためだという。さらに企業が元気になれば、税収が増えて行政も元気になり、地域に還元される。

たとえばワークヴィジョンズや創造舎であれば、地域に人が集まるようになったことで新規出店が増え、新たな店舗設計の仕事が生まれる。小友木材店の場合だと、マルカン百貨店の存続により地域に貢献し、百貨店を使って「おもちゃ美術館」などの新規事業も開始した。神姫バスだと、バス利用者の増加などの成果がある。島田さんの場合は会社とは別に個人で活動を始めたが、本業の福山電業の採用増につながり、しかもまちづくりに興味のある求職者が増えているという。

西村さん「みんなで幸せに暮らしたいから、そして取組が楽しいから、まちづくりを始めます。ですが本業に返ってくるものがないと、長くは続きません。結果として地域活性化も道半ばになってしまいます。地域の価値の向上、そこから本業の発展というサイクルは、まちづくりに欠かせない要素です」

西村さん「まちづくりの活動は、持続的に行う必要があります。そのためには地域の価値の向上・本業の発展というサイクルは欠かせません」西村さん「まちづくりの活動は、持続的に行う必要があります。そのためには地域の価値の向上・本業の発展というサイクルは欠かせません」
西村さん「まちづくりの活動は、持続的に行う必要があります。そのためには地域の価値の向上・本業の発展というサイクルは欠かせません」長尾さん「まちづくりには『魂』がこもっているかが重要です。『魂』のこもった取組でなければ、人が振り向くような取組につながりません」

最後にパネリストの2人が、まちづくりに対する思いを語った。西村さんは「私の場合、佐賀は自分にゆかりのある土地ですから、逃れられないんです。だからこそ、街が良くなってほしいという思いがありますし、覚悟を持ってまちづくりに取り組み、いろいろなチャレンジをしています」。

長尾さんは「姫路・たつのでのまちづくりの取組は、この地でバス事業を営む私の宿命だ思っています。まちづくりで大切なのは『』がこもっているかどうかです。魂がないと人を振り向かせるような取組はできません」と話した。


※取材協力:
株式会社 リノベリング
https://renovaring.com/

西村さん「まちづくりの活動は、持続的に行う必要があります。そのためには地域の価値の向上・本業の発展というサイクルは欠かせません」クロストークの様子

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