ウォーカブルなまちづくりを推進するオンラインコミュニティ「まちみち広場」誕生
近年、各地で「ウォーカブルなまちづくり」の取り組みが行われている。「居心地が良く歩きたくなるまち」を実現するために、国土交通省や各自治体などが力を入れているものだ。
この「ウォーカブルなまちづくり」を推進するため、誰でも参加できるオンラインコミュニティ「まちみち広場」が、2024年8月に立ち上がった。
そもそも「ウォーカブルなまち」とは、一体どのようなものだろうか?まちみち広場には、以下の記載がある。
「単に『道路を活用すること』『歩きやすくすること』だけではありません。ウォーカブルなまちづくり=クルマ中心に整備されてきた都市空間を、ひと中心、徒歩・公共交通中心に転換して、ライフスタイル自体も歩く暮らしに転換していくまちづくりだと、私たちは考えています」
まちみち広場では、web講座の開催や過去の講座記録でウォーカブルなまちづくりを学ぶことができるだけではなく、コメント機能によって参加者同士が気軽にコミュニケーションできる場を作っている。
今回は、まちみち広場を運営している公益社団法人日本交通計画協会の近藤さん、銅崎さん、株式会社Groove Designsの東さんに、まちみち広場が生まれた経緯やこれまでの取り組み、ウォーカブルなまちづくりに対する思いを聞いた。
「ウォーカブルなまちづくりの理解を広めたい」と、マチミチweb講座を開催
まず、「まちみち広場」の前身は、国土交通省関東地方整備局・東北地方整備局・日本交通計画協会が行っていた「マチミチweb講座」だ。
もともと日本交通計画協会では、国土交通省が発出しているウォーカブルな都市空間を創出するための「ストリートデザインガイドライン」の策定を支援しており、その際の国交省担当者と共通の問題意識を抱えていたことが「マチミチweb講座」誕生につながったという。
近藤さん「当時は、ウォーカブルなまちづくりに対する理解が十分に広まっておらず、『歩道を広くすればいい』『芝生を敷けばいい』のように、単純に捉えている人もいました。ウォーカブルの理解を深めるために、もっと草の根的に伝えていく必要があるという問題意識があったんです。そこで、国交省の方と一緒に、誰もが気軽に参加できるweb講座を作ろうと、はじめたのが『マチミチweb講座』です」
話が持ち上がってからは、2~3週間というスピードで初回の講座が開催された。自治体の職員がメインのターゲットだったが、民間企業の会社員や学生まで、参加者の間口は広がっていったという。
初年度の2021年は10回の講座を行い、全国から約1,600人が参加した。講座後には毎回アンケートを取り、近藤さんたちは「ウォーカブルへの理解度は確実に上がっている」という手応えを感じていた。
「まちづくり x デジタル」の力で、多様な人々の参加を促すオンラインプラットフォーム「my groove」
オンラインコミュニティ「まちみち広場」は、Groove Designsが運営する地域エンゲージメントプラットフォーム「my groove」の中にある。
my grooveとは、都市環境デザインのコンサルティングを行っているGroove Designsが2023年に立ち上げた、自治体や企業、市民などが幅広くまちづくりに参加できるオンラインプラットフォームだ。現在は18の自治体や企業が利用しており、約50個のプロジェクトが立ち上がっている。
Groove Designsの代表・三谷さんは長年まちづくりや都市計画に携わってきた専門家。そして、取締役である東さんはIT系のバックグラウンドを持つ。この2人の得意分野を掛け合わせて誕生したのが、オンラインプラットフォーム「my groove」だ。
東さん「もともと、私たちはまちづくりへ参加する側としても、支援する側としても課題を感じていました。地域のことに関わりたいけれど、会議が平日の日中しかやっていなかったり、そもそも住民に何を期待しているのかわからなかったりして、参加しづらいと思っていたんです。参加者の方もいつも同じメンバー、なおかつ若者の参加が少ないという課題も見えて、もっと参加の機会を広げられるような仕組みはないか、と考えていたんです」
忙しくてなかなかまちづくりに参加できない人でも、「オンラインで好きな時間に参加できるものがあれば、間口が広がるのではないか」と考えた。そして、生まれたのがmy grooveだ。
my grooveでは、まちづくりの過程を公開し、住民からの意見も取り込んでいるが、自治体からは不安の声もあったという。
東さん「自治体の方は、プロジェクトの途中段階を公開することに慣れていないので、どこまで情報を出すのか?住民とはどういう距離感で関わっていったらいいのか?また、炎上するんじゃないか?などの不安を感じる方もいます。けれど、我々の方でアドバイスをしながら一緒に進めていくので、まずやってみることで実践を通じて、次第に不安は払拭されていく印象です」
Groove Designsではプラットフォームを提供するだけではなく、それぞれの地域や団体に寄り添い、伴走しながら各プロジェクトを作っていっている。
「まちみち広場」は講座の後もつながれる、ゆるやかなオンラインコミュニティ
my grooveのプラットフォーム上にマチミチweb講座がコミュニティに発展した形で誕生した、まちみち広場。マチミチweb講座とmy grooveはどのようにしてつながったのだろうか。
近藤さんはマチミチweb講座にある課題を感じていたという。
近藤さん「講座そのものは毎回とても盛り上がっていました。けれど、講座の後のつながりがあまりなかったんです。また、リアルタイムで講座に参加できない人も巻き込んでいきたいという思いもあり、デジタルなプラットフォームを活用したコミュニティを作るのがいいのでは、と考えました」
そうした課題感を抱えていたところに、マチミチweb講座にGroove Designsの代表・三谷さんがゲスト講師として登壇することに。これをきっかけにmy grooveとつながったという。
「ウォーカブルなまちづくり」を広く普及させたいなら、動画配信サイトで講座内容を公開するのがいいのでは?とも考えられるが、近藤さんは「コミュニティ」にすることに意義があると語る。
近藤さん「コミュニティにすることで、『隣のあの人がやっているから自分もやってみよう』と気軽に参加しやすくなり、結果的にウォーカブルなまちづくりの輪が広がっていくと思います。ウォーカブルに興味を持っている人はたくさんいることをちゃんと伝えて、心の距離を感じさせないコミュニティを作ることが大事だと思っています」
東さん「自治体の中にも、まちづくりの取り組みに孤軍奮闘している人がいます。そういう人も含めてつながりを作れる、交流が生まれることを意識して、まちみち広場を作りました」
近藤さんの思いも踏まえて、まちみち広場は匿名性を保ちつつ自由に意見交換できる場になるよう設計した。
現在は、各回の講座のルームやそれぞれの取り組みを発表し合う「やってみた」のルームに参加できるだけでなく、開催された講座のアーカイブを記事で見られるような仕組みになっている。忙しい人はアーカイブを見るだけで内容がわかり、もっと参加したい人は講座への参加やコメントで積極的にやりとりができる。
まちみち広場に参加しているメンバーは227人(2024年10月現在)。自治体職員や、まちづくりに取り組む民間企業の会社員、学生など多様な人々が集う。
近藤さん「まちに関わりたい、まちづくりの活動に興味がある人は誰でも気軽に参加してほしいです!」
ウォーカブルなまちの実現に向けて
まちみち広場をスタートしてから3回の講座を終えたところで、現在感じている課題もあるという。
近藤さん「積極的に参加してくれている人もいますが、もっと運営側が参加者のコミュニケーションを促す工夫をしないといけないなと感じています。コミュニケーションを密に取ることで、参加者側からの相談や『もっとこういうことを知りたい』という声がどんどん上がってくるといいなと思っています」
たとえば、「もっと具体的なジャンルまで追求したい」と近藤さんは語る。たとえば、ウォーカブルな取り組みで道路を使用したい場合、警察と協議をする必要性がある。『どうやって警察とうまく協議を進めていくのか』というような、踏み込んだ内容までも取り組んでいきたいと、意欲を見せる。
そういった具体的な要望を引き出すためにも、密なコミュニケーションを取り、話題を振りやすい環境を作ることが大事だという。
最後に、「どうしたらウォーカブルなまちが実現できるか?」を3人に聞いてみた。
銅崎さん「今年度、マチミチweb講座では『ウォーカブル×〇〇』という、ウォーカブルと何かを組み合わせたテーマを設定しました。人によって関わり方や刺さるテーマも違うと思うので、多様なテーマを設けることで関わる人が増えることを期待しています。そのため、マチミチweb講座を聞いていただければ、それぞれの関心事が見つかるんじゃないかなと思います」
東さん「まちづくりとは違う業界から入った身として感じるのは、まちづくりは多様な主体が関わっている分、複雑性が高いということです。まちづくりは行政だけでも、いち住民の思いだけでもできません。まちに暮らす多様な人々が、どうやってうまく連携を取ってよりよい形を作っていくのかが大事だと思います」
近藤さん「まちづくりは専門家だけがやっても、たぶんおもしろくないんじゃないかなと思います。まちには多様な人が暮らしていますからね。また、それぞれが『自分事』としてまちに関わることが大事だと思います。お気に入りのパン屋の店主とよく話すとか、まちの花壇に毎日水をやるとか、人それぞれの関わり方の積み重なりが、居心地がよく歩きたくなるまちにつながっていくと思います」
また、「デジタルだけではなくリアルでのつながりも大事」だと、皆さん口をそろえる。入り口はデジタルだとしても、最後は「心地よさ」などの人間の感覚が大事になってくる。リアルのつながりを作るために、今後はオフ会やまち歩きなども企画していきたいという。
デジタルで間口を広げ、参加のハードルを下げて多くの人に参加してもらい、そこでできたつながりをリアルな生活にも広げていけたら。自分のまちについて考える人が増えることで、きっと暮らしやすいまちが実現していくのではないだろうか。まちみち広場が、今後さらに広がっていくことを期待したい。
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