高齢者の多い地域では住宅の耐震化率が低い傾向

阪神・淡路大震災や東日本大震災などの記憶が生々しく残っている人も多いだろう。そのような中、2024年1月1日に能登半島地震が発生し、多くの住宅が倒壊した。特に持ち家率が高く、所有者の多くが高齢者の地域では住宅の耐震化率が低かったそうだ。

住宅の耐震化率について、2018年時点で約87%。2030年までにおおむね解消という目標を政府は掲げている。しかしながら、なかなか進んでいないのが現状だ。その要因としては、耐震改修等を行うための資金不足や動機不足などが考えられる。

このような状況を打開するため、国土交通省は「木造住宅の安全確保方策マニュアル」を作成している。これは、私たち一般市民はもちろん、地方公共団体の防災担当者や建設事業者などが住宅の耐震化推進を考えるための手引書だ。今回は、このマニュアルを基に「耐震化への支援制度」「リスク軽減策」「日頃からの備え」などを確認したい。

補助制度に融資制度、税制の特例措置も。耐震化への支援制度

住宅の所有者が耐震診断や耐震改修の検討を開始するには、動機付けがもっとも重要だ。やるべきだとわかってはいても、面倒、お金がないといった理由で、なかなか行動に移せないのだ。そのような人たちの背中を押すために、国や地方自治体は、さまざまな支援制度を用意している。主なものは「補助制度」「融資制度」「税制の特例措置」だ。

「補助制度」(2024年度の場合)
国交省の「住宅・建築物耐震改修事業」を活用して、耐震化にかかる費用の補助を受けられる場合がある。この事業では、地方自治体が耐震性強化に関する補助制度をつくった場合に、国も支援を行うというものだ。たとえば、耐震診断や耐震改修などが補助対象となる。耐震診断については、費用の3分の2を補助する(自治体によって上限額あり)。また、耐震改修の場合は、自治体によって異なるが一戸当たり100万円前後(一戸建て)を限度に補助を行う。お住まいの地域の自治体の補助制度を確認してほしい。

補助の金額は「個別支援」「パッケージ支援」によって異なる。耐震化への周知方法などの一定条件をクリアした自治体では、より補助の金額が多くなる「パッケージ支援」を利用できる(出典:国土交通省「住宅・建築物耐震改修事業」)補助の金額は「個別支援」「パッケージ支援」によって異なる。耐震化への周知方法などの一定条件をクリアした自治体では、より補助の金額が多くなる「パッケージ支援」を利用できる(出典:国土交通省「住宅・建築物耐震改修事業」)

「融資制度」(2024年度の場合)
耐震改修の工事費用を比較的低金利で融資する制度。返済期間は20年以内。融資上限額は1,500万円だ。なお、年齢条件は満79歳未満だが、それ以上でも親子リレー返済を利用する場合は申し込み可能で、高齢者でも借りやすいようになっている。

「税制の特例措置」(2024年度の場合)
一定の耐震工事を行った場合、所得税の特別控除と固定資産税の減額措置がある。所得税については、工事限度額250万円の範囲内で費用の10%(※補助金を適用する場合は、補助金額を除いた10%)を所得税から控除できる。固定資産税については、改修が完了した年の2分の1が減額される。

耐震化促進に向けた国や自治体の取り組み

特に高齢化や過疎化が進んでいる地域では、耐震化の周知方法が重要になる。たとえば戸別訪問や説明会の実施、ファイナンシャルプランナーの派遣などだ。実際にはそれぞれの地域の特性などに合わせて実施されているので、その一部を紹介しよう。

「SNS(ソーシャルネットワークサービス)を活用(愛媛県)」
若い世代や孫世代を対象にフェイスブック・インスタグラムといったSNSターゲティング広告を行っている。広告から愛媛県のホームページにリンクする。県のホームページも、問合せをしやすくなるように改善された。

愛媛県のSNSターゲティング広告例(出典:国土交通省「木造住宅の安全確保方策マニュアル」)愛媛県のSNSターゲティング広告例(出典:国土交通省「木造住宅の安全確保方策マニュアル」)

「3Dツール“Wall stat(ウォールスタット)”を活用(静岡県)」
Wall statとは、京都大学生存圏研究所が開発した木造住宅の耐震性能を可視化するフリーソフトだ。ソフト上で対象となる建物を揺らしてみてどれくらいの耐震性があるのかをアニメーションで確認できる。静岡県では建築士が戸別訪問など行い、このソフトを用いて耐震化の重要性を伝えていく予定だ。

「一戸建て住宅の耐震化アドバイザー制度(東京都)」
建築士や弁護士といった専門家を無償で派遣し、住宅の耐震化と同時に防災性と快適性を向上させるリフォームの総合的な助言を行っている。

耐震化へのハードルを下げ、倒壊リスクを軽減するための方策

大地震に対して安全性を確保するには、耐震基準を満たす住宅に住むことがもっとも重要だ。しかしながら、費用などの要因によって耐震改修を行えない世帯も少なくない。このようなケースに対して各地方自治体は、さまざまな方策を提案している。

「段階的な耐震改修を提案(高知県)」
耐震診断では、それぞれの建物に対して次のような構造評点を算出する。

0.7未満:倒壊する可能性が高い
0.7以上1.0未満:倒壊する可能性がある
1.0以上1,5未満:一応倒壊しない
1.5以上:倒壊しない

高知県では、将来的に構造評点1.0以上とすることを前提に、その前段階として0.7以上とする改修も提案している。その場合、「段階的に実施する理由書及び誓約書」の提出を求めている。

「部分的に耐震化する補助メニューを用意(兵庫県)」
当面の措置として、寝室や屋根のみなどの部分的な補強も有効だ。兵庫県では、寝室やリビングなど主要な居室のみに耐震シェルターを設置する費用などを助成している。

兵庫県では耐震シェルターのほか、簡易型改修工事、屋根軽量化工事にも補助を行っている(出典:国土交通省「木造住宅の安全確保方策マニュアル」)兵庫県では耐震シェルターのほか、簡易型改修工事、屋根軽量化工事にも補助を行っている(出典:国土交通省「木造住宅の安全確保方策マニュアル」)

工事や改修だけじゃない。すぐにできる日頃の備えも重要

『家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック』(東京消防庁)『家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック』(東京消防庁)

大震災の被害を軽減する方法は、建物の耐震化だけではない。家具の転倒防止、ガラス飛散の防止、棚ストッパーの設置といった、すぐにできることもある。具体的になにができるのかは、以下のハンドブックなどが参考になるだろう。

「『家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック』(東京消防庁)」
東京消防庁では、地震時に負傷者を減らすためのポイントをまとめた「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」をWeb上で公開している。これは都民でなくてもダウンロード可能だ。

「防災パンフレット『みんなの防災』(内閣府)」
内閣府は、地震・津波・風水害などの被害を軽減するための備えをわかりやすい漫画を用いたパンフレットにまとめている。こちらもWebからダウンロードできる↓
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/keigen/gensai/gensai.html

以上のように国や自治体は、大地震の被害を軽減するための方策を耐震化に限らず提案してくれている。「気になっていたけど、どうも踏ん切りがつかなくて――」「実家の親が心配」といった人は、まずは「木造住宅の安全確保方策マニュアル」を読んでみてはいかがだろう。

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