他エリアに負けないまちづくりのために立ち上がった民間
大阪のメインストリート御堂筋。これを南へ行くと突き当たるのが、髙島屋大阪店と南海電車の「なんば駅」だ。なんばといえば、「キタ」「ミナミ」と称される大阪の2大繁華街のひとつであり、関西空港から来るインバウンド客でも大変なにぎわいを見せている。また、駅前にはタクシー乗り場やバス停留場があり、向かいの戎橋筋商店街と駅を行き交う多くの人や、御堂筋から分離していく自動車交通でごった返している。それがなんば駅前の日常だった。
しかし、2025年に国際的なイベントの開催を控えた大阪では、特に梅田を中心とした「キタ」で大規模な再開発プロジェクトが多く進められている。また、2031年に開業が予定される新線「なにわ筋線」では、南海電車が乗り入れ、関空から大阪駅までの直通運転も計画されておりキタからの人の流れが生み出されるチャンスとなる一方で、これまでミナミへ来ていた人のキタへの流出が懸念される。つまり、現在人々の目的地として活気があふれるなんばも、将来的に通過点となってしまう懸念があるのだ。
2000年に入った頃は、グランフロント大阪やあべのハルカスの計画が進められ、特色ある再開発によって大阪が生まれ変わろうとしていた。一方で「ミナミ」の顔であるなんばの駅前は、タクシーなどの車であふれていた。国際的に名の通った大阪の南の玄関口として、その都市格にふさわしい風景といえるだろうか。こんな疑問からスタートしたのが、なんば駅前を人中心の空間に再編する「なんばひろば改造計画」(なんば駅周辺における道路空間再編推進事業)だ。
今回、「なんば広場マネジメント法人設立準備委員会」で実務を担当する南海電気鉄道株式会社まち共創本部の廣田真由さん、稲元あいさん、このプロジェクトをサポートする都市デザイン会社・有限会社ハートビートプラン岸本しおりさんに、なんばひろば改造計画の具体的な計画から将来ビジョンまでを伺った。
民間が発意した「なんばひろば改造計画」
「なんばひろば改造計画」の最大のポイントは、民間発意の計画であることだろう。「なんさん通り商店会、戎橋筋振興組合など地元の事業者たちの問題提起から発意され、スタートしています。ミナミの玄関口として、都市格を象徴する場所を創りたい。そのためにはこの空間をどうすればいいのか、自分たちで考えたのです」と廣田さん。
計画の対象となる空間は市道で、事業主体は大阪市の公共事業となる。しかし、検討を主導したのは民間によって設立した「なんば安全安心にぎわいのまちづくり協議会」だった。なんばの将来を見通し、当事者である周辺の商店街や地元企業が、エリアの魅力アップ、価値向上をめざしたいという想いで、公共空間のデザインから運営管理まで一貫したプランを描き、行政に提案したのだ。こうして、民間発の公民連携のまちづくりが動き出した。
2回の社会実験を経て先行オープン
2023年11月、なんば駅前にはこれまでとはまったく違う光景が広がっていた。待ち合わせや憩いの場として、人々が思い思いに過ごしている。「なんば広場」(仮称)が先行オープンしたのだ。先行オープンまでの経緯を簡単に紹介する。
2008年、「南海なんば駅前広場環境整備協議会」として民間発意で構想が始まった。2011年には地元町会や商店街、周辺企業等で構成される「なんば安心安全にぎわいのまちづくり協議会(以下、協議会)」が設立し本格検討がスタート。2013年、協議会によって計画のたたき台が「まちづくり構想」としてまとまった。2015年には構想の具体案および要望書を大阪市長に提出。その後官民合同で組織する検討会が設置される。翌2016年には1回目の社会実験を3日間にわたり実施した。このとき、駅前の道路からなんさん通りを南行きのみに一方通行化し、カフェや休憩スペースを設置。日替わりでマーケットやライブなどのイベントを行うと共に、駅前を来街者が待ち合わせなどに活用できる空間に改造し、その評価を行った。
2018年、将来の広場の運営主体をめざして「なんば広場マネジメント法人設立準備委員会」を設立。そして2021年、2回目の「社会実験」を6日間にわたり実施した。ここでは、なんさん通り南北を時間帯別・目的別で流入車両を抑制して、駅前に車道のない歩行者のための滞留空間を創出した。具体的には、道路上に休憩や待ち合わせに利用できる机、椅子、テントを設置したほか、観光案内所も設置。将来、歩行者空間としての使われ方を想定した実証実験だった。そして2023年11月、「なんば広場」(仮称)として先行オープンに至った。
廣田さんは、2回の社会実験の検証で目指すべき広場の形が見えてきたと語る。
「1回目の社会実験では、広場に車道が残るプランでしたが、2回目の社会実験では、駅前に車道のない完全歩行者空間化したプランで実施し、交通影響を検証しました。また、活用の視点でも1回目の社会実験は、イベント的な活用を中心にわいわいとにぎわいを創出する目的でした。1回目の実験の際にとったアンケートの結果では、この駅前には休める憩いの空間が求められていたことがわかりました。2回目の社会実験は、休める場所、憩える場所、滞在できる空間として活用し、多くの方にご利用していただきました」
稲元さんも、これらの社会実験をとおして、広場の将来の形が確かめられたと言う。
「今まで、交通の要所としてバスやタクシーのプール機能がありましたが、それが人の回遊の障壁になっていたのではないかと思っています。人中心の空間として、人が集い、歩いて楽しいエリアの中心として、ミナミの回遊のポイントにしたい。ここを拠点に人を送り出す、ポンプの役割を果たせたら、と考えています」
ミナミの玄関口として、民間の力で大阪再生のための街づくりを
地元の人々や企業が課題感をもって発意してから10年超。行政を巻き込み、先行オープンという一定の成果を得た「なんばひろば改造計画」だが、広場のオープンで終わりではない。先行オープン以降の計画も聞いてみた。
「全体の整備計画は、駅前広場の先行オープンに加えて、なんさん通りの整備が完成する2025年3月までスケジューリングされています」(岸本さん)
しかし、まちづくりはただ広場や歩道などのハードを整備するだけにとどまらない。エリアマネジメントとは、民間が主体となって自主的に地域経営を行っていこうとする考え方だ。大阪市も、「エリアマネジメントの事業効果を把握し、持続的なまちづくりの発展を図るため、目標を設定しその達成状況を確認しながら、改善策をその後の事業に反映していく仕組みが重要であり、官民連携による体制構築や評価方法について検討する」としている(令和4年「なんば駅周辺における空間再編推進事業整備プラン」より)。
なんば広場においても、民間の団体が主体となり、将来にわたる維持管理を含めたマネジメントを担うことを目指している。現在、なんば広場は社会実験という位置づけで運営しており、社会実験の中で、イベントへの貸し出しなどの広場の活用によって得ることのできる収入、日常清掃などの広場の維持管理にかかる支出を明らかにし、民間による持続的な運営が可能かを検証している。民間の発意で始まったまちづくり「なんば広場」。行政に依存するのではなく、エリアマネジメントの手法で、地域の新しい価値創造を進めるプロジェクトだ。
人口減少が進むと、ほとんどの自治体で、将来にわたる社会資本投資の予算が限られてくるだろう。そんななか、誰が行政に取って代わり、あるいは支え、まちづくりを進めればいいのか。かつて、民間主導で「大大阪」と呼ばれるまでの経済発展を遂げた大阪の街で行われているサステナブルなまちづくりは、そのヒントを示しているのかもしれない。
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