官民連携のPPPとサステナビリティによる持続可能なまちづくり
2024年7月25日、株式会社ブレインファームによる「国際標準のサステナビリティ対応が拓く 持続可能なまちづくりの視点」(※国土交通省後援)セミナーが行われた。
PPPとは「Public Private Partnership(パブリック・プライベート・パートナーシップ)」の略称で、行政と民間が連携して事業を進める方式を意味する。人口減少や気候変動などの問題に対応するために、そして持続可能な社会を実現するために、今後ますます官民が連携して取り組んでいくことが重要となる。
このセミナーでは国土交通省、PPP分野のコンサルティングを行うブレインファーム、サステナビリティを評価する機関であるCDP Worldwide-Japanとエコバディス・ジャパン株式会社、そしてPPPに取り組んできた実績のある清水建設株式会社による発表が行われた。
今回は、それぞれの登壇者の発表内容をレポートする。
官民連携のPPPでインフラの老朽化・人口減少に対応する
最初に、国土交通省による説明があった。まずPPPを推進する背景について、公共インフラの老朽化と人口減少の問題がある。まずは、高度成長期に整備された構造物が、50年を超えて老朽化が進んでいる問題だ。
壊れてから修繕する事後保全をすると費用が膨大に膨れ上がってしまうため、壊れる前にメンテナンスをすることで構造物の寿命を伸ばす予防保全を進めていきたい。
しかし、作業を担う市町村の技術職員が減少している。すでに0人になっている自治体は25%、5人以下になっているところは約半数だ。
そこで、PPPを活用することで人材不足を補いつつ、民間のアイデアや資金も活用することで、問題の解決を目指している。なお、PPPと同様にPFI(※1)も活用していく。
※1 PFI法に基づいて、民間の資金を活用して公共施設の建設や維持管理を行うこと。PPPは行政と民間が協力すること全般を指し、PPPの中にPFIを含む。
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PPPを推進するメリットは大きく3つ。行政にとっては、単年度ごとに発注していた従来のやり方ではなく複数年まとめて発注できることで、事務作業の負担軽減・コスト削減につながる。地域住民にとっては、同じ税金の中でも民間委託によってサービスの利便性が向上する。事業者にとっても、事業機会が増えて収益が増加する。
PPPは「3方よし」で、みんなが幸せになれる取り組みなのだ。
PPPの具体的な取り組み事例
PPPの具体的な取り組みとして3つ紹介したい。
1つ目は、PPPによって地方創生の推進をする「スモールコンセッション」。地方公共団体が所有する空き家などの遊休不動産を官民連携で活用し、地域課題の解決やエリア価値の向上につなげる取り組みだ。今までの事例として、個人から寄付された伝統的構造物を民間の力を使って改造した宿泊施設や、廃校となった学校を利用したサテライトオフィスなどがある。
2つ目は、水道・下水道・工業用水道などの整備を官民連携で行う「ウォーターPPP」で、水インフラの持続性を向上させる。
3つ目は、「地域インフラ群再生戦略マネジメント(通称、群マネ)」だ。既存の行政区域にこだわらず、複数の市町村が連携して公園や上下水道といったインフラの整備を行うことで、より効果的なインフラ整備を目指す。
国土交通省では、PPPの導入支援も行っている。PPPの知識や経験が豊富な企業・地方公共団体と協力するPPP協定パートナーやPPPサポーター制度があり、今回もセミナーパートナーであるブレインファームと連携している。他にも専門家を派遣するなど、さまざまな支援を行い、今後ますますPPPを推進していきたい考えだ。
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地方自治体の持続可能性とサステナビリティ
続いて、ブレインファームの新谷さんから地方自治体の持続可能性とサステナビリティについてのお話があった。
ブレインファームは、2018年より国土交通省PPP協定パートナーとなり、PPPセミナーやサステナビリティ関連セミナーを行ってきた。サステナビリティに関しては、2022年、2023年に、エコバディスからプラチナ認定を受けている。
新谷さんは「地方自治体を取り巻く環境変化は大きく3つある」という。
①人口減少・少子高齢化・財政のひっぱく(いわゆる行政の三重苦)、②朽ちるインフラ・ダブつく公共施設、③地球温暖化による気候変動・災害多発化の3つだ。
新谷さん「今から30年後には人口が20%以上減少するという推計もあります。人口が減少すると活力が低下し、全国でトンネル事故など老朽化したインフラ関係の事故が発生するかもしれません。また、年々降水量が増え豪雨による被害も多発しています」
これらの問題に対応するためにも、国土交通省からの説明にもあったスモールコンセッションや群マネ、ウォーターPPPなどを活用して、自治体職員だけではなく、市民や官民が一体となり問題解決に取り組んでいくことが重要になる。
新谷さん「PPPは今までは財政負担を軽くすることが中心でした。しかし、最近では『地域課題を解決する』という観点から活用されるようになってきました。民間のノウハウをうまく取り入れ、地域のにぎわい創出やエリアの価値向上につながることを目指しています」
同時に、地球温暖化などへのサステナビリティ対策も重要になってくる。企業ができるサステナビリティの取り組みとしてCDP、エコバディスが国の資料でも紹介されており、今後ますます活用が広がっていくだろう。
サステナビリティを評価する機関の役割と目的
続いて企業のサステナビリティを評価する機関であるCDPとエコバディスからのお話があった。
CDPは2000年にイギリスで設立された国際的な環境NGOで、現在、日本では主にプライム市場に属する約1,800社に対して情報の開示要請を行っている。企業は、気候変動・フォレスト・ウォーター・生物多様性・プラスチックなどの項目からなる質問書に回答し、サステナビリティの情報を開示している。
山下さん「重要なのは『測定していないものは管理できない』ということです。CDPの質問書に回答することで知見を得て、それらの知見に基づいて行動を起こすという好循環が生まれます」
また2024年に、CDPコーポレート質問書はこれまでの気候変動、フォレスト、ウォーターの独立した各質問書に代わり、ひとつに統合された。
山下さん「気候変動のみに焦点を当てると、企業は他の分野での深刻なリスクを見逃すことになります。フォレストやウォーターなど、ネイチャーの課題は、今後重要度が高まる分野として注目されています」
2023年には、全世界で23,000社以上がCDPに回答しており、その数は年々増え続けている。企業のみならず、各国の政府もCDPデータを活用し始めており、今後ますます広がりを見せていくことが期待されている。
上流・下流が力を合わせてサステナビリティに取り組む必要性
エコバディスは2007年にフランスで設立された機関で、若月さんはサステナブル調達が重要な理由を次のように話す。
若月さん「サステナビリティ系の問題の7割が、サプライチェーンの上流で起きています。世界の二酸化炭素の5分の1は、製造業・サプライチェーンから排出されていると言われています」
さらに、若月さんは「上場企業であるバイヤーに調達責任がある」と強調する。
若月さん「バイヤーがサプライヤーの行動規範をつくり、その遵守を求め、それが守られているかを評価し、遵守されていなければサプライヤーに改善措置を取る。これがバイヤーの責任であり、重要なことです」
この評価としてエコバディスのような第三者機関が客観的な視点で、サステナブルかどうかを分析する必要がある。エコバディスでは、質問票の記入・ISOの認定書や就業規則など証明書類の提出・アナリストによる客観的な分析と評価という手順を踏んで、評価をスコア化しブロンズからプラチナまでのメダルを付与している。
民間企業によるPFIと水害リスクへの対策
最後に、清水建設の小倉さんから、PFI事業で取り組んできた医療関連施設の事例紹介があった。
大雨の発生頻度は1980年頃と比べて約2倍に増えており、全国の災害拠点病院の約4割が浸水リスクのある立地になっていることが判明した。実際に、熊本県の人吉医療センターは2020年に豪雨で浸水被害を受け、清水建設は水害タイムライン計画(※3)を策定することになった。
※3 タイムラインとは防災行動とその実施主体を時系列で整理した計画で、防災行動計画とも言う。
小倉さん「土木の河川工学・建築の病院施設計画・災害医療の知見を融合して作りました。病院のタイムラインを策定するには、土木・建築・医療の融合が不可欠です」
この水害タイムラインは2022年の台風発生時に効果を発揮し、人吉医療センターは災害を免れた。災害対策には、ハード面だけではなく、このタイムライン作成のようなソフト対策も一緒に進めることが重要だと小倉さんは強調する。
今回のセミナーを通して、人口減少や気候変動の問題に対応するためにも、官民が手を取り合って対処していく必要性をますます感じた。「参加者が一人だけでも喜んでセミナーを開催します!」と言うブレインファーム新谷さんの言葉が心強く響いた。今後もLIFULL HOME'S PRESSでは、民間の資本やノウハウを上手に活用した、先進的な官民連携のまちづくり事例を取り上げていきたい。
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