補助金効果で内窓の注文が殺到。消費者、施工事業者、メーカーも混乱状態に
補助金制度で一躍大人気となった「内窓」とは、今ある窓の内側に樹脂製の窓をもう1セット取り付けて二重窓にするもの。取り付けリフォームは1窓あたり約60分で完了。断熱性を向上させるので寒さ暑さを防ぎ、光熱費の削減にも有用で、防音効果も期待できる(マドリモ 内窓 プラマード U/YKK AP)史上最大といわれた2023年の省エネリフォーム「先進的窓リノベ事業」では、これまでにないほどの補助金額で申し込みが殺到した。
特に内窓の取り付けリフォームが大人気となり、大幅な納期遅れが発生。一時は消費者、施工事業者、メーカー側も混乱状況に陥った。
補助金は予算が尽き次第終了するということで、消費者は補助金が受け取れないのではと慌て、販売施工店は人手不足で工事日程が立てられず、メーカーは生産体制の変更を余儀なくされるなど、まさに大騒ぎだったのである。
「先進的窓リノベ事業」とは、国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携による住宅の省エネリフォーム支援「住宅省エネ2023キャンペーン」のひとつ。一定の省エネ性能を満たす窓リフォームをすると補助金が出るという制度である。今年(2024年)も、若干の変更はあるものの「先進的窓リノベ2024事業」として継続されている。
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さて、この補助金を利用して初期に窓のリフォームを実施した人たちのデータを見たところ、これまでとは異なる世代や築年数の層が目立ち、そこから日本の家の問題点も浮かび上がってきた。
そこで、窓のメーカーであるYKK AP株式会社に、「先進的窓リノベ事業」にまつわる舞台裏とその意外な内訳、今年の予測、おすすめの窓構成などについて伺った。お話をしてくださったのは、YKK AP株式会社広報室の前田好行氏、南雲歩氏。今回、社外にはあまり出していないデータなどもご提供いただき、また数多くの質問に丁寧にご回答いただいた。
3~4月が頂点の後ブレーキ。トラブルを懸念して新しい規約も
「先進的窓リノベ事業の補助金で、サッシメーカーさんは大躍進ですね。うらやましい」
ある設備機器メーカーの社員さんの言葉である。
たしかに補助金効果によって、YKK APでは内窓は前年度比220%(※)の増産、売り上げは270%(※)と大きく伸びている(※2023年度推定)。
しかしその裏側には相当の苦労があったようだ。先進的窓リノベ事業では、内窓の採用が圧倒的に多かった。一番簡単に取り付けができ、一戸建てはもちろんマンションでも採用しやすいからだ。
内窓の納期は一般的には2週間ほどである。しかし2023年は注文が殺到したことで出荷までの期間は2ヶ月ほど伸び、加えて販売施工店の人手を確保するのが困難になり、発注から工事完了まで4ヶ月以上もかかったケースもあったようだ。
「内窓の生産工場は24時間フル稼働体制とすることになり、人員の手当てなどに大変苦労しました。現場では納期の確定がなかなかできず、お施主さま・施工事業者さまに大変なご迷惑をおかけしました」と、前田氏は語る。
その後、状況は刻々と変化をしていく。「注文が増え始めたのは、2023年1月末に補助金対象商品が事務局から公表された後の2月からです。3月には急増し、ピークは3月から4月でした。しかし6月、7月ごろから、この勢いでいくと補助金が早々に底を突くのではないかという噂や雰囲気が出て、受注活動にブレーキがかかりました」と前田氏。
内窓の急激な需要増によって「補助金は夏までもたない」といったような噂が出まわり、慌てて注文をした人も多かったようだ。施工・販売会社にとっても、いきなり補助金が終わってしまえば、その差額は誰が払うのかといった問題が起きるため、急ぎたいといった思惑もあったことだろう。
そういったトラブルを懸念し、2023年4月になって、補助金の交付が受けられない場合について補助金相当分に係る双方の負担範囲とその方法について、あらかじめ取り決めておくよう規約が改正された。
結局、たしかに前半は補助金の申請が殺到したが、後半は緩やかになり、交付申請の予約の受付を終了したのは2023年11月30日であった。
「メーカーの納期が長いながらも安定してきた頃からは、施工事業者の施工キャパシティが限られていることもあり、製品の納期以上に施工までのリードタイムがかかっていた現場もあるようです。窓・サッシ業界でも一部、施工者不足が発生しました」
昨年、筆者も内窓の注文をしたが、3月に採寸・発注をして取り付け工事は7月と、4ヶ月待ちとなり、スケジュールの変更をすると次はいつになるか分からないといった状況であった。現場の予定は立たず、工場も施工店も、事務局も混乱気味でまさに内窓狂騒曲といった状態だったのである。
補助金を使って窓リフォームをした人の意外な年代層。高齢者への周知不足も
さてYKK APでは、「先進的窓リノベ事業」を利用して窓リフォームをした人にアンケートを実施したのだが、そこから普段はリフォームをすることが少ない意外な層がこの制度を活用していることが分かった。
一般的なリフォームをする世代は50代以上が圧倒的に多い。下に表示している住宅リフォーム推進協議会のデータでも、50代以上が約6割を占めていて、20~30代は約2割である。
しかし先進的窓リノベ事業を利用して窓の断熱性能向上リフォームを実施した年齢層を見ると、20~30代が約5割を占め、40代以下が全体の約7割を占めている。
その理由として、若い世代は内窓の効果の高さや、今回の補助金がいかにお得であるかなどの情報収集の感度が高く、フットワークがよく住環境の改善に前向きであることが考えられる。高齢者はどうしても情報収集がしにくく、また我慢は美徳とリフォームに消極的な人が多いこともあるだろう。
また補助金を利用した家庭環境は、世帯年収1,000万円以上が3割を占めるなど、比較的年収が高い世帯が多く、共働きが7割を占める。リフォームはローンではなく現金で支払うケースが多く、収入にゆとりがある若い世代を中心に、より快適な住環境を得たいと考える層が積極的に利用したと推察される。
ただしこのデータは補助金制度が始まった前半(2023年6月)にとったものであるため、ネットなどで情報を得やすい世代が殺到したという面はあるだろう。
筆者が2023年の春に、シニア層の視聴者が中心の朝のテレビ番組でこの補助金制度を紹介したのだが、その時点で既に若い世代ではSNSを中心に話題になっていたが、50代以上では知らない人が多かった。
しかし寒い家が健康に与える影響を考えると、古い家に住んでいる高齢者にもぜひ使ってほしい制度である。そういった人々に情報を伝えるための施策が不足していることをひしひしと感じた。
「補助事業が始まったばかりのタイミングでのアンケートなので、これまでの傾向とは異なった、特徴的な回答になったとも思われます。本アンケートは今年も実施を予定しております」と南雲氏。その後どうなっていったのか。次の結果も機会があれば皆さまにお届けしたいと思う。
築10年未満が5割、築浅でなぜ性能向上リフォームが必要なのか? 樹脂サッシの普及状況
こちらのアンケートの結果では、補助金を利用して内窓の取り付けを実施した住宅の約半数が築10年未満であることにも注目したい。利用した年齢層からみて妥当な結果ではあるが、その大きな要因には「日本の家は新しくても断熱性能が低いことが多い」ことがある。
断熱性能とは簡単に言えばポットの性能のようなものである。性能が高い家ほど、外気の影響を受けにくくなり、小さなエネルギーで室内を快適に保つことができる。
その断熱性能を大きく左右するのが窓の存在だ。窓は断熱の弱点になり、性能が低いと室内から多くの熱が流出しやすくなる。
基本的には築年数が古いほど性能は低く、快適性に劣り、光熱費も高いはずなのだが、現状、日本の家づくりにおいて法律で義務化された性能基準がない。新築でも無断熱の家、窓ならアルミの枠に1枚ガラスの家も建てられる状況にあったのである。
昨年(2023年)やっと、2025年の新築建築物からは一定の断熱性能に適合させることを義務化する法律の改正があったが、その基準もそう高いものではない。築浅でありながら内窓補助金に殺到する背景には、日本の家は新しくても断熱性能が低い家が多く、冬に寒い家が多いという現状があるのである。
「アルミ窓(複層ガラス)に内窓(Low-E複層ガラス)を設置すると、夏には家全体に流入する熱を38%削減、冬には家全体から流出する熱を31%削減(※)します(※YKK AP算出)」と南雲氏。内窓は簡単な工事で性能向上が図れるというわけである。
今どきは外窓の交換リフォームも手軽にできるようになっている。こちらも先進的窓リノベ事業の対象となっていて、その場合はガラスの性能に加えて枠にも注目することが肝心となる。
昨今の高断熱新築住宅や断熱性能向上リフォームの現場では、アルミサッシよりはるかに断熱性能が高い、樹脂の枠にトリプルガラスを組み合わせた樹脂サッシ(YKK APでは樹脂窓)を採用するケースも増えている。
「2023年度推定の一戸建て住宅用窓の販売数の構成比は、樹脂窓35%、アルミ樹脂複合窓45%、アルミ窓20%です。これを2024年度には樹脂窓41%、アルミ樹脂複合窓49%、アルミ窓10%にしていく計画です」とのことだった。
内窓に期待する効果、光熱費削減や騒音対策も。おすすめの内窓のガラス構成
補助金を利用して窓の性能向上を行ったエンドユーザーアンケートでは、リフォームの目的についても調査を行っている。
「一番多かったのは『光熱費の削減』です。窓の断熱リフォームによって冷暖房効率を上げ、省エネ・光熱費の削減につなげたいという回答が多くありました。」
「次は『寒暖差の低減』で暑い・寒い・結露といった悩みの解決のためという回答でした。これは住環境を快適にしたいという、コロナ禍以降続いているニーズによるものと思います」とのこと。
光熱費の高騰や在宅時間の増加が、リフォームへの大きな後押しになり、補助金を使えばすぐに元が取れそうといった声もよく聞かれた。ほかにも騒音対策として、寒さは我慢できても音は我慢できないといった声もあったとのことだった。
内窓の効果はガラスの性能によって変わる。おすすめのガラス構成を聞いてみた。
「Low-E複層ガラス・アルゴンガス入りです。アルミ窓・単板ガラス(熱貫流率6.51W/m2・K)に内窓・Low-E複層ガラス/アルゴンガス入りをつけると、外窓+内窓の熱貫流率=1.43W/m2・Kとなり断熱性能は約4.6倍になります」
またお得な情報として、「先進的窓リノベ2024事業における内窓設置の補助金額は、Low-E複層ガラス・アルゴンガス入りの場合Sグレードが適用、ガスなしのLow-E複層ガラスだとAグレードの適用です。この2つの商品の公表価格は6,700円の差ですが、補助額はSグレードのほうがAグレードより1万6,000円高いため、コストパフォーマンスと性能の面でもおすすめです」とのこと。
つまり公表価格の差よりも補助金の差のほうが大きいため、性能が高い内窓を選んだほうが安くできるという逆転現象が起きているのである。
また注意点として、外窓が網入ガラスのときや外窓・内窓ともにLow-E複層ガラスの場合、設置環境によってはガラスの温度が上昇することによる「熱割れ」が起きる可能性があるとのこと。日当たりや現在の窓構成をよく確認し、施工店に相談しながら進めよう。
2024年も継続する補助金制度「先進的窓リノベ2024事業」の予測、2023年との違い
2024年も窓の断熱性能向上リフォームに対する補助金制度は、「先進的窓リノベ2024事業」として継続中である。
現在(2024年2月)の注文や納期の状況を聞いてみたところ、「今のところどちらかというと穏やかです。2024年4月には、昨年の1月(「住宅省エネキャンペーン」が始まる前)から見ると約4倍に生産能力をアップさせますのでご安心ください。ただし、補助金がいつ底を突くかは読みようがございませんので、実施内容が決まったらできるだけ早めの交付申請の予約を行っていただきたいと思います」とのこと。
また2023年の制度から若干変更がある点にも注意が必要だ。内窓の取り付けは補助額が減り、外窓の交換は補助額が増えた。そして玄関ドアの交換が新たに補助金の対象になっている。
外窓や玄関ドアの交換はカバー工法を使えば、窓は1ヶ所あたり約半日、玄関ドアも1日で工事が完了し、外壁や内装の補修は不要だ。内窓は窓を開けるたびに、外窓・内窓と2回ずつ動かす必要があるので意外と面倒だという声もある。頻繁に開閉する窓は外窓の交換をしておくほうが開け閉めはラクにできる。
断熱性が高い玄関ドア。カバー工法で工事が可能なので1日で完成する。こちらのデザイン(N09・D2仕様)の場合「先進的窓リノベ2024事業」では8万7,000円の補助金が還元される(ドアリモ 玄関ドア D30/ YKK AP)玄関ドアの断熱改修リフォームが「先進的窓リノベ2024事業」の対象になったのは朗報だ。
同じ住宅省エネ2024キャンペーンの中の「子育てエコホーム支援事業」でも玄関ドアの断熱改修で補助金が出るが、高性能なドアに交換するのであれば「先進的窓リノベ2024事業」は補助金額が高い。
家の中から流れ出る熱量の多くは開口部からであり、玄関ドアもそこに含まれる。古い玄関ドアは断熱性能が低いため冬になると玄関や廊下が寒くなったり、アルミのドアの場合は冷え切って結露をしたりといったケースも少なくない。
玄関ドアを断熱性能が高いタイプに交換すれば、こういった悩みを解決しやすくなるのはもちろん、防犯性能の向上、家の顔としてのデザイン性の向上も図れる。
住宅の高性能化に欠かせない窓。樹脂サッシ(樹脂窓)に注力、木製窓にもアプローチ
住宅の高性能化には窓の性能向上が欠かせない。ガラスはもちろん枠の素材や構造によっても性能は大きく変わる。
特に注目したいのが樹脂サッシ(樹脂窓)だ。今や樹脂サッシは世界的なスタンダードになっているが、日本での普及率は3割以下にとどまっている。
以前、同社への取材で、日本で樹脂サッシの普及が遅れた理由のひとつに、日本の技術力の高さがあると伺った。
日本では樹脂サッシは高性能ではあるが、アルミサッシより値段が高い。しかし実は多くの国では、樹脂サッシのほうが安価だという。というのも日本では優れた加工技術で精度が高いアルミサッシを安価に量産できるため、安く高品質なアルミサッシの普及が爆発的に進んだというのである。
先日、YKK AP株式会社 代表取締役社長 魚津彰氏のインタビューの中で、樹脂窓販売の背景について「アルミサッシメーカーですから、これまで莫大な投資をしてきました。これから回収して儲かる時期にもかかわらず、これからは樹脂窓に舵をとらせていただきたいという提言をしました(※)」という話があった。(※社長名鑑 2024年2月8日公開動画より)
日本で住宅の高性能化を進めるにあたって、もはや樹脂サッシは欠かせないものとなっている。またYKK APは最近、木製の内窓の専用部材や部品の開発・提供に加え、木製の外窓の開発に着手し話題になった。
「木製の内窓の開発の背景は、国産木材利用の活性化と開口部の高断熱化を促進するためです。全国各地で木材の加工や販売を行う木材・木建具事業者と連携し、木製内窓専用の部材・部品を開発・提供することで、各事業者による木製内窓の商品化を支援しています」とのこと。既に設計事務所などからの引合いも増えているそうだ。
「一般の住宅だけでなく、マンションや医療福祉施設などの非木造建築分野においても、高断熱窓の普及浸透を図りながら、快適で健康な住空間づくりに貢献していきたいと思っています」
窓は本来、光や風、美しい景色を取り込む大切な部位である。しかし性能が低い窓は不快や不健康、光熱費の無駄遣いの源になる。幸せな暮らしに窓の性能向上は欠かせない。補助金を上手に活用して快適な住まいづくりをしていっていただければと思う。
取材協力:YKK AP株式会社
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