うめきたの開発で盛り上がる梅田のもう一つの顔、梅田地下街

大都市大阪の玄関口、梅田。JR、私鉄、地下鉄の7駅が集中し、百貨店や飲食店などに多くの人が集まる関西随一の繁華街だ。かつてJR梅田貨物駅であった大阪駅北地区「うめきた」の開発では、「グランフロント大阪」のある1期に続き、2027年の完成を目指し2期の開発が進む。それに先立って、2023年にはJR大阪駅の地下ホーム(うめきたエリア)が開業。従来の大阪駅と改札内通路で結ばれた。うめきた2期の開発では、今まで梅田地区の中心であった商業ビルやオフィスビルだけではなく高層マンションも建設され、計画のキーワードでもある「みどり」に囲まれた環境を整備する大規模な都市公園((仮称)うめきた公園)も計画されている。

このように、大阪随一のターミナルとして、またビジネスや商業の中心として進化を続ける梅田地区で、人々の乗り換え動線として、また人々の消費の場として重要な役割を果たしているのが、今回取り上げる「梅田地下街」である。

広く利用者には「梅田地下街」と呼ばれているが、かつて「ウメチカ」の愛称で親しまれてきた「ホワイティうめだ」、それにつながる「ディアモール大阪」のほか、鉄道駅の改札へと繋がる地下通路や周辺ビルの地下階モールからなるのが「梅田地下街」だ。今回は、1963(昭和38)年開業という長い歴史を持つ地下の街を、いろいろな角度から見てみたい。

梅田の地下街のひとつ「ディアモール大阪」梅田の地下街のひとつ「ディアモール大阪」

日本一の地下街と呼ばれた梅田地下街。ダンジョンと呼ばれる理由とは

梅田地下街は長年にわたり増改築が繰り返されたことで複雑な構造になっており、普段から通勤や通学に利用する人以外の観光客や来阪者にとって、分かりにくくて迷うという声も多く聞く。まさに迷宮=ダンジョンと呼ばれる理由だ。

梅田地下街は、そもそも成り立ちからして通常の街とは違う。通常の街づくりでは、都市計画のマスタープランがまず描かれ、その指針に沿って、用途地域や市街地開発事業などの具体的な計画が作られる。場合によっては既存の建物を除去し道路が計画され、それに沿って、施設や建物が建てられる。

一方、梅田地下街は、鉄道駅へのアクセスのための地下通路ができ、その後周辺ビルの地下階が次々に接続されたことでできあがった。ビルや施設が新しくなると、それに伴って入り口が新設され動線も変わり、増改築が繰り返されることでますます複雑な構造になっていく。事業者の異なる地下施設が接続され、さらに地下街の名称も異なることから、なかなか覚えられないのが現実だ。

また、大阪駅から「ホワイティうめだ」「ディアモール大阪」などの南方面へは、地理的な要因で下り坂になっている。これにより、周辺ビルの地下階表示と、地下街で実感する地下階数が異なったりもする。また、地下街が接続する鉄道駅も、Osaka Metroが「梅田」「西梅田」「東梅田」、JRが「大阪」「北新地」、阪急と阪神が「大阪梅田」を名乗っていて、来阪者には覚えにくいかもしれない。これらも、地下街で迷う一因だろう。

開業から60年以上がたった現在でも、常にどこかで改装工事が行われ、それに伴って道が閉鎖されたり新しい道ができたりする。店舗の改装や入れ替えも加えれば、通いなれた人でも、いつも新しい発見がある。

多くのビルが林立する大阪駅前の風景。地下街がこれらを結ぶ多くのビルが林立する大阪駅前の風景。地下街がこれらを結ぶ
多くのビルが林立する大阪駅前の風景。地下街がこれらを結ぶ地下街から地上への出口も多数

SF小説『梅田地下オデッセイ』はこうして生まれた

堀晃作 短編SF集『梅田地下オデッセイ』(ハヤカワ文庫1981年)堀晃作 短編SF集『梅田地下オデッセイ』(ハヤカワ文庫1981年)

1981年に出版された短編SF集『梅田地下オデッセイ』(ハヤカワ文庫1981年)。著者は梅田在住の堀晃氏で、巻頭を飾る表題作は「梅田地下オデッセイ」だ。梅田地下街を舞台に、そこに閉じ込められた人間たちのサバイバルが描かれている。地下街にうごめく人間たちと、「チカコン」と呼ばれる地下街を支配するコンピュータとのバトルが、なじみ深い地下街の地理とともにリアリティーをもって迫ってくる。

この作品が注目されて以来、堀氏は梅田地下街に詳しい作家として、地下街で事件が起こるたびにニュースメディアからコメントを求められるようになったという。初秋の昼下がり、そんな堀氏に、梅田の新しい顔のひとつ「茶屋町」でお会いし、お話を伺った。

まず、複雑で混沌とした梅田地下街を小説の舞台とした経緯を聞いてみた。

「SFの書き手ですから、学生時代から宇宙が興味の対象です。当時、受験、入学とはじめて大都会の大阪に出てきて、最初に出会ったのが地下街建設当時の梅田だったわけです。今と違い、当時地下を開発するときには、道路を全部開削する工法が主流です。建設中は路面交通に支障がないように鉄板を敷きます。ですから、やがて地下街ができる大阪駅前の道路は鉄板だらけ。その風景はまさに未来の宇宙船を見るようでしたね」

やがて、本格的にSF作家としてデビューし、数少ないハードSFの書き手として、新しい小説を構想する。

「スターシップものを考えていました。スターシップといっても世代宇宙船、いわゆるスペースコロニーを舞台にするアイデアがありました。しかし、スペースコロニー建設の技術的な考察を進めていくと、地下空間にたどり着いたのです」

地下街建設当時のまるで宇宙船のような梅田駅前の光景が、地下街の近未来小説につながったのである。

SF作家の堀晃氏SF作家の堀晃氏

「梅田地下オデッセイ」の印象は強烈であった。当時、通勤などで毎日利用し、通いなれた地下街のイメージと、複雑にうごめく都会の人間模様が、生き残りをかけたドラマの舞台に重なった。

新しくできた阪急三番街の地下通路では、川が流れ噴水があり、ガラスウィンドウのおしゃれな店が並ぶ。一方で、天井に配管が剥き出しになった狭い通路のようなエリアには、古書店、立ち飲み店もある。まさに混沌として統一感がまるでない。

7つの駅を結ぶ地下街では、駅から駅への乗り換えの動線も一筋縄ではいかない。

どのルートを行くかのが良いかは、混雑具合によって変わるし、通いなれた人でも知らないルートを発見する場合もあると聞く。地下街は大きな街である。しかし、都市計画によって通路や店舗、オフィスへの出入り口が配置されているわけではない。堀氏は「大学受験で初めて降り立って以降、学生時代、社会人になってからも、来るたびに変貌し、姿を変えてきましたね。この点でも、スペースコロニーの増殖と重なります」と語る。

混沌としてとりとめがなく、有機体のように時代とともに増殖する地下空間。まさにこれが、名作SF小説までも生んだ梅田地下街の魅力だ。

堀晃作 短編SF集『梅田地下オデッセイ』(ハヤカワ文庫1981年)地下街へ下りる階段

これからも変化を続ける梅田の地下空間

このように変化し続ける梅田地下街だが、これからも変化は続く。久しぶりに梅田を訪れると、風景が一変していたということになるかもしれない。ここでは、最近の変化と、現在進められている計画を紹介しよう。

●大阪梅田ツインタワーズ・サウス

大阪神ビルディング(1963年竣工)と新阪急ビル(1962年竣工)を一体的に再開発し、2022年3月に開業した。主要なテナントとして阪神百貨店が入居する地上38階建てのビルで、地下はもちろん地下街に接続。地下1階フロアが「ディアモール大阪」と繋がっている。

●大阪マルビル

1976年に竣工し、大阪のランドマーク的な存在として親しまれてきた大阪マルビルは、2023年7月から解体工事に着手。2030年春の完成を目指して建て替えが行われる。ちなみに現在のビルは地下2階フロアが地下街「ディアモール大阪」と接続していた。同ビル解体後の敷地は2025年に開催される国際的な博覧会会場へのバスの発着場として利用される。

なお、大阪梅田ツインタワーズ・サウスと大阪マルビルは、どちらも公式サイトのアクセス案内で「地上からのアクセス」と「地下からのアクセス」が分けて書かれている。地下街からのアクセスがいかに重要で、また人々にとって必要な情報であるかがわかる。

地下街と接続していた大阪マルビル地下街と接続していた大阪マルビル

●大阪駅の西側拡張

JR大阪駅を西側へと拡張する工事も始まっている。2024年夏、現在の桜橋口からさらに西側に新たな改札口が登場する予定だ。また、隣接する旧大阪中央郵便局の跡地などに、オフィスや商業施設、バスターミナルからなる地上23階のビル「JPタワー大阪」が建設され、地下はガーデンアベニュー(西梅田地下歩行者道路)と接続される。

●芝田1丁目計画

阪急大阪梅田駅に隣接する大阪新阪急ホテルと阪急ターミナルビルの建て替えや、阪急三番街の全面改修も検討されている。阪急阪神ホールディングスは、2022年に策定した「梅田ビジョン」の構想に基づき、国際的な競争力を高め、同エリアを世界と関西をつなぐ「国際交流拠点」とすることを目指しており、これら「芝田1丁目計画」はビジョンの実現に向けた最重要プロジェクトと位置付けている。具体的な計画は今後進められるものと思われるが、当然梅田の地下空間とも接続することになるだろう。

浸水対策などの防災対策も進められている

地上出入り口などの開口部から浸水する可能性があるが、なかには止水対策が未完了の箇所もあるという(画像はイメージ)地上出入り口などの開口部から浸水する可能性があるが、なかには止水対策が未完了の箇所もあるという(画像はイメージ)

鉄道会社などで構成される梅田地区エリアマネジメント実践連絡会が行う活動「梅田防災スクラム」は、「梅田は、地下に2万人。何となく、覚えておこう。」と呼びかけている。

30年以内に70~80%の確率(※)で起こるとされる南海トラフ地震において、梅田エリアは津波の危険性も想定される。また台風や大雨などで淀川が氾濫した場合には梅田地下街も浸水の可能性があることから、地下での洪水浸水リスクの周知や、「もしも」に備えるための情報発信を行っているのだ。

地下街にいるときに万が一のことがあると、状況に応じた避難が必要となる。そのため避難場所や、地上への出口についてなど、日頃から意識して知っておくことが大切だ。

民間だけでなく、大阪市も「大阪駅前地下道東広場防災・減災対策」を実施している。

大阪駅前地下道東広場は、梅田地区にある各鉄道駅で乗り換える人たちが往来する結節ポイントで、地下街における防災面で特に重要視される拠点でもある。しかし建設から80年以上が経ち老朽化していることから、大阪市では大規模地震時における防災力の向上を図るためにリニューアルを進めている。

たとえば床面は通行しやすくし、柱を約3割減少させ、視認性が悪かったスペースの改善を目指している。リニューアル完成後には国内外すべての人にわかりやすく、快適に通行できる空間になるとのことである。完成予定は2025年3月末とされる。


梅田ダンジョンと称されるこの地下街。現在進行中の開発によってますます広がる「梅田地下街」の新しい顔も楽しみたいものだ。


※ 令和3年版国土交通白書

地上出入り口などの開口部から浸水する可能性があるが、なかには止水対策が未完了の箇所もあるという(画像はイメージ)多くの人が行き交う「ホワイティうめだ」

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