令和の大改修を終えた岡山のシンボル"烏城"こと岡山城
岡山県の県庁所在地である政令指定都市・岡山市。かつて岡山城の城下町だったことが、街のルーツだ。市内を流れる旭川のほとりには、昭和41年(1966年)に再建された岡山城の天守がそびえている。
岡山城はまるでカラスのような漆黒の外壁が印象的であることから、「烏城(うじょう)」の別名を持つ。岡山城の天守を含むかつての本丸周辺は「烏城公園」として整備されており、旭川の中洲にある大名庭園「岡山後楽園」とともに、岡山市や岡山県のシンボルとして多くの地元住民や観光客に親しまれている。
そんな岡山城の天守はリニューアル工事を実施。そして令和4年(2022年)11月3日、「令和の大改修」を終えた岡山城がリニューアルオープンした。なお11月3日は、昭和41年に岡山城の再建天守が完成したのと同じ日だ。具体的に計画が動き始めて約3年、工事が始まって約1年半を費やしたという。
大規模なリニューアルによって岡山城はどう変わったのか、リニューアルのポイントなどを紹介したい。
宇喜多・小早川・池田の三家によって整備された岡山城と城下町
岡山城のリニューアルについて紹介する前に、岡山城の歴史や特徴について紹介しよう。
岡山城は岡山市中心部を流れる、岡山三大河川のひとつ・旭川のデルタ地帯にある「岡山」「石山」「天神山」という3つの連なる丘に築かれた城である。
戦国時代になると、のちの時代に日本三梟雄(さんきょうゆう)の一角といわれた宇喜多直家(うきた なおいえ)が岡山城を手に入れる。直家は城を改修して「城郭」としての体裁を整え、城下町も整備した。この城こそが現在の岡山城の原型であり、城下町は現在の岡山市中心部のルーツである。そして、宇喜多直家は「岡山開府の祖」といえる。
天正10年(1582年)に直家が死去すると、子の宇喜多秀家(うきた ひでいえ)が城主となる。秀家は豊臣秀吉の養子になり、若くして豊臣政権の「五大老」の一角に名を連ねるなど、大出世を遂げた。秀家は、直家時代には「石山」という丘にあったという岡山城の本丸を、隣の丘「岡山」に移したと伝えられている。そして立派な天守を築造。「不等辺五角形」の天守台がある、全国唯一の天守である。ほかにも旭川の流路も整備、城下町も拡大・整備して、岡山城を近世城郭にスケールアップさせた。
関ヶ原の合戦のあと、小早川秀秋(こばやかわ ひであき)が城主になったが、約2年で死去。代わって池田忠継が城主となり、以降は江戸時代の終わりまで池田家が治めた。池田光政(いけだ みつまさ)は土木事業だけではなく、医療体制や教育体制を整えるなど、のちの岡山の発展の礎を築き、「三名君」の一人にも数えられている。光政の子・綱政(つなまさ)は、旭川の中洲に大名庭園「岡山後楽園(当時は御後園)」を築いた。
明治時代になると堀が埋め立てられたり、建造物が解体されるなどしたが、天守など本丸周辺の建造物は残り、国宝に指定された。しかし昭和20年(1945年)6月、太平洋戦争における岡山空襲によって岡山の街は焼け野原となり、岡山城の天守は焼失してしまう。
そして戦後になり、昭和39年(1964年)に鉄筋コンクリートによる天守再建工事が始まり、昭和41年11月3日に完成。以降、現在まで岡山のシンボルとして親しまれている。
観光地・憩いの場としてより親しみやすい岡山城へ
「天守の耐震性の向上とともに、訪れた方々が岡山城に親しみやすくするのが、今回のリニューアルの目的でした」と語るのは、岡山市役所 産業観光局 観光部 観光振興課 学芸員の小野田 伸(おのだ しん)さん。
昭和41年に完成した岡山城の再建天守は、現在の耐震基準を満たしていないことが判明。耐震性を強化するために、天守のリニューアルが決定した。
小野田さんによれば「これまでの岡山城は、観光地・市民の憩いの場として過ごしやすく整備されているとは言いがたい面がありました。たとえば雨が降ったとき、天守の入口前に水たまりができて入りにくかったり、木々が生長しすぎて石垣などの見どころが隠れてしまったりしていたんです。そこで耐震性の向上工事とともに、観光地・憩いの場らしく整備し、岡山のシンボルとして楽しめるようにすることになりました」とのこと。
このほか岡山城の特徴でもある黒い外壁を塗り直し、「烏城」の別名にふさわしい漆黒の壁になっている。
「まず烏城公園内に園路を整備し、散策しやすくしました。また石段の横側に、木製の手すり付きの階段を設けています。史跡・文化財という性格上、文化財保護の観点からエレベーターやスロープといった設備の設置は、今回はできませんでした。完全なバリアフリーは難しかったのですが、多くの方が訪れやすくなるよう可能な範囲で配慮をしています」と小野田さん。
「大きくなりすぎた木々を間引いたことで、園内を散策しながら石垣がよく見えるようにしました。緑と文化財のバランスを取るように、樹木の管理計画を見直しています。天守は再建ですが、石垣は昔のものが多く残されています。石垣が見えやすくなったことで、見どころが増えたのがポイントです。宇喜多・小早川・池田それぞれの時代の状態を比較するのもおもしろいですので、ぜひ園内を散策しながら石垣めぐりをしていただきたいですね」
続けて小野田さんは「天守のライトアップも変わりました。ライトアップ自体は以前から行っていましたが、照明の種類を変えました。より美しく見えるような照明になっていますので、ぜひご覧ください。園路に照明を設置したり、見えやすくなった石垣へのライトアップを新たにしており、夜間の散策も烏城公園内全体で楽しめます」と語る。
城内展示は岡山出身の人気歴史学者・磯田道史氏が監修!
天守の内部では展示が行われていたが、展示内容も一新した。マスメディアにもよく出演し、『武士の家計簿』などの著書でも知られている岡山市出身の歴史学者・磯田道史(いそだ みちふみ)氏が全面的に監修しているという。
「展示には『体験して魅力を感じてもらう』『ゆかりの人物のドラマを感じてもらう』『建物の魅力を伝える』『展示資料の魅力を伝える』という大きく4つのテーマがあります」と小野田さん。
なお岡山城天守は構造上、出入り口がある階が地下1階となっている。また展示は地下1階のあと、最上階の6階まで上がり、6階→5階→4階→3階→2階→1階と下っていく順路となる。
最初に訪れる地下1階では、岡山城の絵図(写真)や模型を展示。それらを通じて、建物としての岡山城の価値や魅力を感じられる。
地下1階の次の展示順路となる、最上階の6階。6階では、華頭窓(かとうまど)や壁の唐紙を再現している。当時の城主の気分で、岡山市街や岡山後楽園を一望できるのがポイントだ。
5・4・3階は、宇喜多・小早川・池田という歴代岡山城主の人間ドラマに焦点をあてた展示になっている。5階の展示では、プロジェクションマッピングを使った紹介などが見どころ。4階では、宇喜多直家・秀家親子の物語。5階では宇喜多直家と池田光政を中心とした、岡山城と城下町の「まちづくり」のようすや変遷を紹介する。
3階では、日本史での最大のできごとのひとつ・関ヶ原の合戦で、宇喜多・小早川・池田がどのように関わったのかをわかりやすく展示。実は岡山城主だった宇喜多・小早川・池田のぞれぞれが、東軍・西軍の違いはあるにせよ、重大なキーパーソンになっていた。3階では資料展示だけでなく、京都の映画村の俳優が出演したシアターも上映されている。
2階は池田光政・綱政を中心とした、池田家に関する歴史資料を展示する。温度や湿度を一定に管理できる博物館レベルの展示ケースを導入するなど、貴重な資料を保管しながら展示を鑑賞できるようになっている。
1階では、1フロアすべてが「体験」コーナーに。リニューアル前からあった、駕籠(かご)に入って記念写真が撮れるコーナーのほか、日本刀や火縄銃のレプリカを手に取って、身をもって重さを体感できるコーナーもある。さらに老若男女を問わず人気なのが、馬の模型に乗って記念撮影ができるコーナー。馬は当時の種に近い、日本原産種をモデルにしている。より当時の武士と同じ感覚を体感できるのが魅力だ。
また1階にはカフェコーナーがあり、そこでは磯田さん自ら出演して岡山城の魅力を解説する映像が流れている。休憩しながら映像の鑑賞も可能である。
小野田さん「実は1階の展示は移動可能で、閉館後の夜間にフロアを多目的施設として貸し出すこともできるんです。会議や懇親会、イベント会場などとしても利用できます」
さまざまなアイデアや視点が織り込まれた引き込まれる展示
小野田さんは「故郷のシンボルのリニューアルに携わるということで、磯田さんが大変情熱をもって取り組んでくださったのが印象的でした。また磯田さんは多くの著書を出していたり、テレビなどのメディアにもよく出演されています。そのため展示の説明や紹介の仕方など、とてもわかりやすくなっていて、流石だなぁと驚きました」と語る。
「一見すると文章が多めだなと思っても、読み始めるとドンドンと引き込まれていくんです。内容もわかりやすくて、読み終えたときには、なるほどと感じます。また教科書に載っている誰もが知るできごと・関ヶ原の合戦に焦点を当てた説明や、各城主の奥方が夫自慢をするような紹介の仕方など、わかりやすくなるようなアイデア・視点も磯田さんならではですね」
実際に訪れた人からは、どのような感想があるのだろうか。
「おかげさまで、もう一度来てみたいという声が多いですね。博物館のような施設では、いかに常設展示のリピーターを増やすかというのが究極の課題なんです。ですから、また来たいという声が多いのは大変ありがたいと感じています。海外からのお客さまからも好評で、海外の来訪者が増加しています」と小野田さん。
「あとは訪れた方みなさんが、とてもうれしそうなんです。外観は黒色を塗り直して、訪れた方が楽しそうに写真を撮影していました。また散歩やランニングで公園を訪れる方もいるのですが、とても楽しそうに散策しています。みなさまの笑顔が増えたことが、一番うれしいことです」と語る。
今後も定期的なバージョンアップで、より魅力的な岡山城へ進化を
今後の課題や展望について、小野田さんは次のように話す。
「今後の課題は、バリアフリーをより一層実現していくことです。これは岡山城に限らず、史跡や文化財に共通する悩みだと思います。もともと城というのは人を侵入しにくくする造りですし、バリアフリーと史跡・文化財の保護との両立が難しいのです。今後、その点を解決できる方法が生まれることを期待しています。また今後は期間を決め、展示も定期的にバージョンアップを施していきたいですね。新たなアイデアを導入して、よりよい岡山城を目指していければと思います」
岡山城はすぐ東に旭川が流れ、近くに日本三名園のひとつ・岡山後楽園や林原美術館などの文化施設もある。「天守内の磯田道史さん監修の展示はもちろん、城の近隣もぜひ散策してみてほしいですね」と小野田さんは語る。
「旭川のボート上や、岡山後楽園内から眺める天守も最高です。気候条件がよければ、旭川の土手から川の水面に映る『逆さ烏城』も見られます。ぜひ、いろいろな岡山城の姿を楽しんでみてください」と小野田さん。
岡山城は年末(12月29日~12月31日)を除き、9時〜17時30分(入城は17時まで)のあいだで見学できる(イベント等で変動あり)。近隣の岡山後楽園や林原美術館、夢二郷土美術館などとの共通入場券もある。
取材協力:岡山市 産業観光局 観光部 観光振興課
岡山城 公式サイト:https://okayama-castle.jp/
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