広島の一大ターミナルが大きく変わる 再開発が進むJR広島駅

再開発工事中の広島駅ビル(2023年3月撮影)再開発工事中の広島駅ビル(2023年3月撮影)

広島市の中心部にあるJR広島駅。JR在来線4路線に加え、山陽新幹線も停車する。さらに路面電車や路線バス、高速バス、タクシーなど多様な交通機関が乗り入れる一大ターミナルだ。2022年で1日約10万人、コロナ禍の前では約15万人の乗降客数がある。

さらに大きな商業ビルもあり、周辺は再開発ビルなども建ち並んでおり、商業地として栄えている。広島東洋カープ球団の本拠地・マツダスタジアムの最寄り駅でもあり、プロ野球の試合があるときには大勢の野球ファンが広島駅を利用。また原爆ドームや宮島などの観光地へ向かう観光客も多く利用する、まさに陸の玄関口となる駅だ。

広島市には広島駅から約1.5km西に紙屋町・八丁堀地区という繁華街があり、広島駅から繁華街を路面電車やバスがつないでいる。

その広島駅では2023年現在、リニューアルに向けて大規模な再開発工事が行われている。広島駅南口を中心とした駅前再開発計画で「広島駅南口広場の再整備等」と呼ばれるものだ。そこで広島駅南口の再開発の計画内容、再開発によって広島駅や周辺はどう変わるのか、再開発のコンセプトなどについて紹介していきたい。

再開発工事中の広島駅ビル(2023年3月撮影)広島駅南口 外観完成イメージ(提供:JR西日本)

コンパクトシティの中心施設としての機能向上を JR西日本・広島市・広島電鉄によるプロジェクト

JR西日本 大阪工事事務所 広島駅ビル工事所の田原潤一 副所長JR西日本 大阪工事事務所 広島駅ビル工事所の田原潤一 副所長

話を聞いたのは、西日本旅客鉄道 株式会社(以下、JR西日本)大阪工事事務所 広島駅ビル工事所の田原 潤一(たはら じゅんいち)副所長。

「今回の広島駅の再開発は、広島市・広島電鉄とJR西日本の3組織による計画です。広島市がコンパクトシティを目指すにあたり、その中心施設にふさわしい機能と、利便性を兼ね備えた施設に生まれ変わらせます。そして、広域的な交通結節点としての機能を強化するのが再開発の目的です。そして広島・瀬戸内の玄関口にふさわしいまちづくりを進め、新たな賑わいや交流・感動を創出するのがコンセプトですね」と語る。

コンパクトシティとは、居住地と交通機関や商業施設などの生活機能が近接している都市のこと。コンパクトシティを目指す上で、公共交通機関の担う役目は大きい。

広島駅南口再開発では、おもに3つの事業が核となっている。広島市が中心となって進める、広島駅南口広場の整備。広島電鉄が中心となっている、路面電車のルート新設と駅ビル2階への乗り入れ。そしてJR西日本が中心となって進めている、広島駅ビルの建て替え工事である。

完成は、駅ビルの建て替えと路面電車の整備が2025年の春、南口広場が2027年3月ごろの予定だ。なお広島駅の再開発は段階的に行われており、2017年には広島駅改札の橋上化が完成している。

路面電車のルート新設と駅ビル2階への接続により繁華街地区へのアクセスが便利に

広島駅南口の再開発の中で、とくに大きな変更となるのが広島電鉄の路面電車である。2023年時点で南口1階の広場にある路面電車の乗降場が、新しくできる駅ビル内の2階に新設される。

2017年に橋上化工事が完成し、広島駅の改札は2階に設置。路面電車が2階に乗り入れることで、路面電車とJRの乗り換えの利便性が大きく向上するのがメリットだ。

また、路面電車のルートが変わるのも大きな変更点である。現在、路面電車の南口広場への侵入ルートは迂回している。そのため広島駅と紙屋町・八丁堀地区間の所要時間が長く、路面電車の定時制や速達性の確保が課題であった。そこで駅ビルを活用して、路面電車の進入ルートを高架化。さらに短絡ルートとなる駅前大通リに、新たに路面電車のルートを新設する。

現在の路面電車は、広島駅の南東から大きく迂回する形で広島駅へ乗り入れている。しかしこのルートでは広島の繁華街である紙屋町・八丁堀地区方面への時間的・距離的なロスが大きいため、新しいルートが新設されるのである。

駅ビル2階の路面電車乗降場の完成イメージ(提供:JR西日本)駅ビル2階の路面電車乗降場の完成イメージ(提供:JR西日本)
駅ビル2階の路面電車乗降場の完成イメージ(提供:JR西日本)広島電鉄 路面電車 新ルート駅前部分の縦断図(提供:広島市)

新しいルートは、既存のルートから分岐して駅前大通りを通り、広島駅へ南側から真っ直ぐと進入する。あわせて既存ルートの猿猴川から広島駅のあいだのルートは廃止され、「循環ルート」に再編される。新設ルートは新駅ビル2階へ乗り入れるために、猿猴川にかかる駅前大橋の南詰から高架になる計画だ。

駅ビル2階の路面電車乗降場の完成イメージ(提供:JR西日本)広島電鉄 路面電車 新ルートと既存ルート図(提供:広島市)
駅ビル2階の路面電車乗降場の完成イメージ(提供:JR西日本)広島電鉄 路面電車 新ルート 駅前エリア拡大図(提供:広島市)

南口広場へのペデストリアンデッキの設置などにより回遊性を向上

広島市が主体となって整備される南口広場は、現在よりも広くなる。路面電車の新駅ビル2階への乗り入れにより、現在の乗降場がなくなり、さらに新駅ビル1階の空間を活用することによって、現在より約1.4倍に拡張される。

新しい駅ビルの構造は、1階に南口広場からつながる路線バス乗り場、タクシー乗降場、一般車の乗降場がつくられる。広島駅のバス乗降場は数ヶ所に分散していたものが、1階のバス乗降場を新設することで、乗り換えの利便性の向上を目指す。バス乗り場などから、2階にある広島駅の改札へのアクセスもしやすい。

駅ビル1階 ・南口広場 完成予定レイアウト(提供:広島市)駅ビル1階 ・南口広場 完成予定レイアウト(提供:広島市)

田原さんは「南口広場の整備の目玉は、2階レベルでの"ペデストリアンデッキ"の設置です(後述の外観イメージ図の1)」と語る。ペデストリアンデッキとは、複数の建物を立体的に結ぶ歩行者通路のこと。新駅ビルを中心に、すでに整備された広島駅南口Aブロック・Bブロック・Cブロックや広島JPビルディングなど、周辺の建物をつなぐ。駅と周辺の移動がスムーズとなり、回遊性が向上。ペデストリアンデッキには休憩用のベンチなども設置予定で、にぎわいの創出を図る。

「ちなみに広島駅の北口には、すでにペデストリアンデッキが設置されています。南口のペデストリアンデッキがイメージしにくい方は、実際に北口のペデストリアンデッキを歩いてみてください」と田原さん。

駅ビル1階 ・南口広場 完成予定レイアウト(提供:広島市)ペデストリアンデッキ イメージ図(提供:広島市)

駅ビルを広島・瀬戸内の玄関口にふさわしいおもてなしの空間へ

田原さんによると「旧広島駅ビルは1965年に建てられたもので、約60年経過し老朽化していました。2020年に旧駅ビルを解体。建て替え工事を開始しました。広島、そして瀬戸内の玄関口にふさわしい、広島らしさのあふれるおもてなしの空間がテーマです」。

駅ビル1階 ・南口広場 完成予定レイアウト(提供:広島市)駅ビル1階 ・南口広場 完成予定レイアウト(提供:広島市)
駅ビル1階 ・南口広場 完成予定レイアウト(提供:広島市)新駅ビル フロア構成イメージ(提供:JR西日本)

駅の改札のある2階には、新たに乗り入れる路面電車の乗り場を設置。そして6階まではショッピングセンターのエリアとなる。7・8階にはシネマコンプレックス、また7〜20階にはホテルも入る予定だ。さらに7階と9階には屋上広場を設置し、憩いの空間となる。

また立体駐車場も備え、車でのアクセスにも対応。広島高速5号線が完成すれば、広島駅は車でのアクセスも向上する。さらに地下は賑わいの創出や、人が憩う空間となるようリニューアルが検討されている。

新しい駅ビルは「広島らしさ」を随所に取り入れたデザインに

「広島らしさでいえば、まず注目してほしいのが2階の入口に大きく張り出した屋根です。この屋根は、広島の平和の象徴でもある折り鶴をイメージしています(外観イメージ図の2)。壁の模様なども、折り紙をモチーフにしたデザインです」。外観の壁の縦ラインが見えるデザインも、折り紙をイメージした段差状のデザインとなっている(外観イメージ図の3)。

全体の配色は、「平和」をイメージするカラーである白色を基調にしており、広島らしさを取り入れているのが特徴だ。

(1)ペデストリアンデッキ、(2)折り鶴をモチーフとした屋根、(3)折紙をモチーフとした壁(提供:JR西日本)(1)ペデストリアンデッキ、(2)折り鶴をモチーフとした屋根、(3)折紙をモチーフとした壁(提供:JR西日本)

さらに田原さんによれば「新駅ビルの特徴的なものが、屋上広場です。屋上広場には雁木(がんぎ)状の大階段を設けます。これは広島を流れる太田川などにある雁木をモチーフにしたものです。雁木状の大階段に座ると、駅から南方向の市街地が一望できます」。

2階の路面電車が乗り入れるスペースでは、壁の一部がユラユラと波打つようなデザインとなっている。これも広島を流れる河川をモチーフとしているとのことだ。「2階の路面電車が乗り入れるスペースと屋上広場は、JR西日本がとくに力を入れている箇所です」と田原さん。

(1)ペデストリアンデッキ、(2)折り鶴をモチーフとした屋根、(3)折紙をモチーフとした壁(提供:JR西日本)駅ビル 屋上広場の雁木状の大階段 イメージ図 (提供:JR西日本)
(1)ペデストリアンデッキ、(2)折り鶴をモチーフとした屋根、(3)折紙をモチーフとした壁(提供:JR西日本)工事中の駅ビル屋上 雁木状の大階段設置予定場所より南方面を望む。雁木状の大階段から見える景色を想定(提供:JR西日本)

広島駅周辺と紙屋町・八丁堀地区が連携し、広島全体を盛り上げる

「大変なのは、駅を利用してもらいながら工事を進めることです。工事の段階に応じて、通路を変えていかなければいけません。大勢の方が利用する駅ですから、安全な通行ができるように導線を模索して設定しています。工事中は利用者の方に大変なご不便をおかけするぶん、みなさまに喜ばれるような新しい広島駅ビルをつくりたいですね」と田原さんは語る。

工事の仮囲いには新しくなる広島駅のイメージ図を張り出したり、さまざまなテーマの装飾をする「魅せる仮囲い」を設置したりするなど、不便さだけでなく、楽しみや期待感も感じられるような工夫もしているという。

駅ビル2階 路面電車乗降場のイメージ図(提供:JR西日本)駅ビル2階 路面電車乗降場のイメージ図(提供:JR西日本)
駅ビル2階 路面電車乗降場のイメージ図(提供:JR西日本)再開発中の駅ビルを駅前通りより撮影(2023年3月)。手前は路面電車のルート新設工事

田原さんは「広島駅を単なる交通施設として利用するだけではなく、楽しむために訪れる目的地のような場所にしていきたいです。地元の方から観光や仕事で訪れた人まで、広島駅で楽しめるような施設を目指しています。地元の方にはぜひ映画や買い物を楽しんでもらって、広島以外から来られた方には、ぜひ屋上からの眺めを楽しんでほしいですね。広島・瀬戸内の"玄関口"にふさわしい駅にしていきたいです」と語る。

さらに続けて「また、広島駅から約1.5km離れたところに、広島を代表する繁華街の紙屋町・八丁堀地区があります。駅周辺地区と紙屋町・八丁堀地区が別々に競争するのではなく、互いに魅力を高めながら協力し、広島の街全体を盛り上げていきたいですね」と田原さんは意気込みを語った。

広島らしさを存分に取り入れた駅ビル、回遊性を高めたペデストリアンデッキ、そして路面電車の2階への乗り入れで利便性抜群となり、コンパクトシティの拠点性を高める新しい広島駅に期待がふくらむ。


取材協力:西日本旅客鉄道 株式会社
https://www.westjr.co.jp/

公開日:

ホームズ君

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