西洋の庭の「園」と「苑」の違い
唐突だが、「園」と「苑」の違いをご存知だろうか。
三省堂の『漢辞海』で「園」をひくと、一つ目の字義として「果樹園。周囲がまがきで囲われているもの」と説明されている。一方「苑」は「天子が林や池をつくり、鳥獣を飼い、草花を植えて遊び楽しんだところ」だ。これだけで軽々しく断定はできないが、大雑把に整理すれば、「苑」は天子が作ったもので広々としており、垣根がない。これに対してまがきで囲われた「園」は、内と外の区別がはっきりしている。
旧約聖書に出てくるエデンは「園」だ。だからアダムとイブが追放された後、神は、もっとも重要であり、アダムとイブが食べなかった「生命の樹」に、誰も近づけないようケルビムに護らせた。英語で庭を示す「Garden」も「守護された」を意味する。パラダイスも「塀に囲まれた場所」を意味する古代ペルシャ語の「pairidaeza」が語源。外敵の多い土地で安全に過ごそうとすれば、囲いが必須だったと思われる。
「時空がない」日本の庭
それでは、日本の庭はどうだろうか。
京都で代々庭師の家柄の現当主に取材したとき「日本庭園には時空がない」と聞いた。西洋の庭は持ち主が変わるたびに模様替えされることが多いが、日本の庭は作庭者の思いが引き継がれるので、時代に則した小規模な変化はあっても、ガラリと変更されることはない。つまり「時間による変化がない」のだ。
そして空間にも切れ目がないのだという。「借景」という言葉があるが、庭から見える景色を取り入れるのが日本式。
京都では、隣の庭木が大きくなり、今まで見えていた山が綺麗に見えなくなってしまったときなどには、お隣に「あの木の高さをちょっと抑えて」と頼むのだという。「抑えて」とは「剪定して高さを抑えて」の意味。無理な頼みのようだが、古くから京都に住む家なら、快く剪定してくれるそうだ。つまり「和を以て尊しとなす」の精神を大切にしてきた日本の庭は、「園」ではなかったといえるのかもしれない。
庭に樹木を植えれば、枯れ葉が隣の敷地に落ちることもあるだろうし、果実のつく樹木を植えて、熟した果実を収穫しないでおくと野鳥が集まってくる。庭を訪れた鳥の声が騒がしいこともあるし、近隣の庭に糞を落とすかもしれない。逆もまたしかりだ。「日本古来の庭には時空がない」ということを、頭の片隅に置いておきたいと思う。
庭木に植える樹木の目的を明確に
本格的な日本庭園には「地産地消」の精神もあるという。
例えば、ドバイの富豪に「家に日本庭園を造りたい」と依頼されても、日本から楓や桜を持ち込んだりしないこともあるという。ドバイ土着の植物、あるいはドバイの風土にあった植物を使って「和の心」を表現するのだそうだ。
では、日本の一般的な家庭の庭に植えるなら、どのような樹木を選べばよいだろうか。
まずは、なんのために植えるのかを明確にしたい。生垣や目隠しにする樹木とシンボルツリーにする樹木では、選ぶ種類が違うからだ。生垣にするのなら、常緑樹で葉の密度が高く、病虫害に強くて手入れがしやすく、樹高が1~1.5m程度になるものを選ぶと良いだろう。コニファーやレッドロビンなど、葉の美しい樹木のほか、マンサクやドウダンツツジ、アベリア、ツバキ、キンモクセイなど花を楽しめるものも人気のようだ。
シンボルツリーは庭のイメージやコンセプトを決定する樹木。たとえばエデンの園ならば、智恵の樹と生命の樹がシンボルツリーにあたるだろう。個人の庭では、家族に愛される樹木がよい。ただ、好みだけを考えて選ぶと、手入れが大変だったり、虫害に悩まされたりするので、世話をしやすい種類かどうかも考えて選びたい。
たとえば落葉樹を選ぶと、枯れ葉が近所の敷地内に入ってトラブルになる可能性があるし、掃除も大変だ。その点ヒイラギやキンモクセイ、ネズミモチといった常緑樹なら、落ち葉が少なくて済む。
また、樹木には一本立ちのものと株立ちのものがある。一本立ちの樹木はたとえばハナミズキやアオダモなど背が高くなるものも多く、それなりの広さがある庭ならばシンボルツリーに相応しい。株立ちの樹木は地面から複数の幹が枝分かれするから、あまり高くならないものが多いので管理しやすい。
庭木に選びたい「縁起の良い木」とは
庭は毎日眺めるものだから、見る度に幸せな気持になるものを選びたい。たとえば庭に桜の樹木があれば、春になるたび美しい花を愛でられる。ただ、虫害が出やすいなどの注意点もあるので、あらかじめ世話の仕方を調べておきたい。
以下では、古来縁起が良いとされてきた樹木を紹介しよう。縁起が良いとされる樹木を植えれば悪いものを退け、幸福を呼んでくれるかもしれない。
マツ
日本庭園で必ずと言ってよいほど見かけるマツは、縁起の良い樹木の代表格だろう。寒い冬でも葉が緑であることから「不老長寿を象徴する木」とされる。アカマツ、クロマツのほか日本の固有種であるゴヨウマツなどがあり、病虫害や乾燥にも強い。しかし、剪定の際には葉が刺さったり松脂で服が汚れたりするだけでなく、バランスよく仕上げるには技術が必要だから、プロに依頼する方が間違いない。庭木の手入れに費用をかけられるかどうか、考えておいた方が良いだろう。
ナンテン
難を転じるに通じることから、古来縁起の良い樹木とされている。赤は魔除けの色でもあり、鈴なりになった実は、悪いものが侵入するのを避けてくれると考えられた。熟した実を乾燥させたものは漢方で「南天実」と呼ばれ、咳止めの効果があるとされる。
ヒイラギ
近年ではあまり見かけなくなったが、かつては節分にヒイラギと鰯の頭を飾る風習があった。邪鬼は、鰯の臭いやヒイラギの葉の棘をいやがると信じられたからだ。ナンテンと同じく魔除けになる。
センリョウ・マンリョウ
その名の通り、センリョウやマンリョウを飾るとお金持ちになると信じられた。あまり知られていないが「ヒャクリョウ」「ジュウリョウ」「イチリョウ」という樹木もあるので取り揃えても面白いかもしれない。ただし、似たような名前でも、ふさわしい生育環境は少々違う。センリョウはセンリョウ科、イチリョウはアカネ科、マンリョウとヒャクリョウ、ジュウリョウはヤブコウジ科。ヤブコウジ科のマンリョウなどは暖かい半日陰を好むが、センリョウは直射日光が当たると葉焼けを起こすので、植える場所を工夫しよう。
ユズリハ
若葉が生えそろったのちに古い葉が落ちるので、ユズリハを植えると途切れることなく子孫が繁栄すると考えられた。ただし寒さに強くないので、本州の南部に適している。
オリーブ
日本古来の樹木ではないが、日本の気候でも育てやすいオリーブ。ヨーロッパでは、オリーブは「力と勇気の象徴」とされてきた。勝者の冠に使われるほか、庭に植えると魔除けになる。
月桂樹
明治時代に輸入された樹木で、ギリシャ神話の太陽神、アポロンが愛したダフネというニンフが変身したと信じられた。ダフネはアポロンからの愛を拒絶するために樹木に変わってしまったのだが、それでもアポロンはダフネへの気持ちを止められず、その枝を冠にして、競技の勝者に与えた。それが月桂冠だ。葉には独特の香りがあり、乾燥させれば料理の香りづけにも使える。
家に樹木があれば四季の変化が楽しめる。大きな庭がなくても、玄関にスペースを作り、シンボルツリーを植えてみてはいかがだろう。
■参考
婦人生活社『木の名前ー由来でわかる花木・庭木・街路樹445ー』岡部誠著 平成13年7月発行
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