鎌倉、尾道、大阪・昭和町から『共創』をめぐる空き家活用の取り組み
住まいの“本当”と“今”を伝える不動産・住宅情報メディア「LIFULL HOME'S PRESS」が主催するオンラインセミナーの3回目が、『地域に価値を生む「共創の空き家活用」~広島 尾道・大阪 昭和町の取り組みから』をテーマに開催された。
総務省統計局が実施する住宅・土地統計調査(2018年実施)によると、日本における空き家率(全国の住宅総数に占める空き家の割合)は13.6%。戸数にして848万9,000戸となり、過去最高の数値になった。増え続ける空き家は、所有者にとっても国にとっても大きな課題である。空き家問題は地域が抱える固有の課題が原因となるケースも多いため、課題解決への取り組み方は一筋縄とはいかない。しかし、根底には地域を問わず共通する部分もあるのではないか。今回のセミナーではその点に着目し、実際に成果を出している事例を聞きながら、地方における空き家活用の方法を考えてみようと思う。
空き家活用のポイントは共感と参加
オンラインセミナーは、2018年より共感投資プラットフォーム「ハロー!RENOVATION」を運営する、株式会社エンジョイワークス代表取締役 福田和則氏の基調講演から始まった。
「ハロー!RENOVATION」は、空き家や遊休不動産の活用に投資家が参加することによって再生する、まちづくりのための共感投資ファンドだ。鎌倉を拠点にボトムアップ型まちづくりの実証実験を経てスタートしたファンドの運営について、「不動産を再生して形にしていこうと思うと、お金という要素は欠かせません。そのひとつのソリューションとして、ファンドをうまく活用していきましょうという点が、皆さんから賛同を得ているポイントです」と説明する。
「空き家や遊休不動産などの物件は、皆さんと一緒に面白い体験を共有する機会や場所である、という捉え方をしています。そこで生まれる共感に、出資というお金を上手にかませていくことで、共創パートナーとしての関係性が、より長く太くなっていくのではないかと考えています」(福田氏)
どうやって共感が生まれるのだろうか。
「プロジェクトには、ファンド参加者のタッチポイントをなるべく多く設けたいと考えています。空き家活用の企画段階から実際の運営まで多くの接点を持ち、多くの楽しい体験を共有することで、共感を集めることを大事にしています」(福田氏)
重要なポイントは、「共感」「参加」だという。
実際にファンドに投資した人たちからは、事業に参加できる機会を得られることへの評価が高いとか。「金銭的リターンへの期待もなくはないが、実はそう大きくはないという点が面白いと思います」と福田氏はファンドの特徴を分析する。
また空き家活用には、お金のほかに「エリアや内容、規模に応じて、どんなステークホルダーを巻き込んでいくのがいいかを考えることが大事」と福田氏。空き家活用には、お金の問題に限らず、大小さまざまな点において多くの知恵や工夫が必要になる。
「今回のセミナーの登壇者の方々は、実際にさまざまな工夫をして空き家活用を手がけられていると思うので、事例を通じて教えていただきたいと思います」と投げかけた。
尾道特有の地形が生んだ空き家事情。再生過程で多くの人が接点を持った
まずは尾道空き家再生プロジェクト代表理事の豊田雅子氏から。
尾道出身の豊田氏は、関西の大学を卒業後、海外旅行の添乗員として働くなかで、世界の街並みを数多く見てきた後、Uターンをした。その尾道の中心地は、車の乗り入れができない尾道特有の地形事情がある。しかしだからこそ「尾道らしい風情が残り、斜面地には戦前の古い建物が独特な風景を醸し出しています」とその魅力を語る。
とはいえ、町の中心地に500件以上の空き家が存在している状況を憂慮し、豊田氏自ら再生しようと空き家を探すこと6年。出合ったのが、現在は一棟貸し切りで宿泊できる「ガウディハウス」だ。当時25年間空き家だったこの建物の再生の様子をブログで発信した。すると「1年のうちに、空き家に関する相談が100件以上寄せられた」という。それらニーズを踏まえ、2007年に尾道空き家再生プロジェクトを発足。翌年に法人格を得て、現在に至っている。
豊田氏は「お金がなかった当初はほぼボランティアで進めていました」と当初の活動を振り返る。再生現場でのワークショップ、空き家情報や再生ノウハウの交換、空き家に残されたもので蚤の市を開催するなど「再生プロセスにおいて、いろんな人に関わってもらうことを考えていました」と豊田氏。
2009年からは尾道市と共同で「尾道市空き家バンク移住定住支援」に発展。
「移住者にとって心強い『尾道暮らしサポートメニュー』というサポートの仕組みもつくりました」(豊田氏)
これらの取り組みで、空き家提供者や移住者もかなり増えて、豊田氏は「20~30代の若い方、新婚家庭や小さい子どもがいるファミリー層の移住者が多いです。自分で独立してお店を持ちたい人も多く集まっています」と分析する。
一方、これらの活動から新たな課題も見えてきたという。個人の力で活用しにくい大型の空き家をどうするかという問題、移住したくても仕事が不足している問題、温泉もなく宿泊型の観光客が少ないといった問題だ。この解決策として尾道空き家プロジェクトでは、商店街に素泊まりできるゲストハウスとカフェを伴う長屋「あなごのねどこ」をオープン。仕事を生み出し、宿泊旅行者を呼び込んでいる。
成果の先に見えた課題へ対処しながら活動を続けるも、文化財級の建物の保護や、修復技術を持つ人材の不足、現在の建築基準法に適合しない建物をどうしていくのか、所有者が手に負えなくなりつつある空き家予備軍への相談の増加など、課題はまだ山積するようだ。
「宅建免許を取得し、解体の瀬戸際と、瀬戸内をかけてネーミングした“尾道瀬戸際不動産”を、町の魅力のために残して活用していく事業を今、専門家を交えて考えています。空き家は『負』の遺産ではなく可能性のある箱だと思っています」(豊田氏)
さらなる活動への意欲を語って話を締めくくった。
「大大阪」時代の名残の長屋を活用。地域によき商いを育てる
続く事例紹介は、大阪・昭和町で丸順不動産株式会社を経営する小山隆輝氏から。1924年に創業した同社の3代目である小山氏。「住人を巻き込んで、というより町の不動産会社として思うところをコツコツやってきただけ」と小山氏は冒頭に話したが、その積み上げが今回のテーマ『共創』につながっているという事例だ。具体的には「長屋などの既存建物を活用して、エリアによき商いを誘致する『エリアリノベーション』、そして、エリアのよき商いを守り育てる『Buy Local運動』」という2つの取り組みをしているという。
大阪の南の玄関口としてにぎわう天王寺駅の1駅隣に位置する昭和町駅と、さらにその隣の西田辺駅近辺は「大阪が東京市よりも人口が多く『大大阪』と呼ばれた時代、急増する人口対策として長屋が建築された地域」だったという。しかし「経済の中心が東京に移行していくなかで、長屋を解体した空き地や、荒れ果てた長屋の空き家が散見されるようになってきました」と小山氏。
町に活気がなくなっていくことを危惧していたなか、2003年に小山氏は地元の長屋が国の登録有形文化財に認定されたという新聞記事を目にする。
「そこに住む者は気づかないが、外部から見ると国の宝として大事にしなければいけないものであると気付き、長屋の見方が変わりました。町の中にいくらでもある庶民の住まいである長屋が、文化財になるような価値あるものだということに、目から鱗が落ちました。この時に、私の不動産事業者としての頭のスイッチが切り替わりました」(小山氏)
文化財となった長屋のオーナーとも知り合い、オーナーによる改修を経て、テナントづけの仲介をしたことが現在の仕事の原点だという。
「私はあくまでも不動産会社。地域のネットワークは誰にも負けないほどあるつもりなので、『自分の建物を町のために活用したい志のある不動産オーナーさん』と『町をよくしたい建築士や施工者などの専門家』そして『プレイヤーとして町に関わりたい住民』をつなぐコーディネーターとしての役割に徹しています。私自身が何かを生み出すというより、仲介業としてコーディネーターに徹することで、昭和町の価値を上げていく活動を続けています」と小山氏は自身の役割を説明する。
また小山氏は「空き家が非常に増えてしまった地域においては従来のような賃料の値下げやリフォームなどといった個別不動産への対応、対策では太刀打ちできません。エリアの問題としてエリア全体の価値を向上させなければならないという視点で活動を続けています」と、空き家問題はその空き家だけにとどまらないことを指摘。この視点も、まさに『共創』の理念といえるのではないだろうか。
では「エリアの価値向上」とはどういうことを指すのか。これについて小山氏は、「そこに暮らす人たちが豊かさを実感し、そのエリアに住み続けたいと思うこと。そして、新しい居住者がそのエリアを選んでくれること」だと思うと説明。豊かさを実感してもらうために「エリアに小さな『よき商い』をつくり、育て、守ることが大切」と、エリアリノベーションの活動を説明した。
続いて、小山氏はもうひとつの取り組み「Buy Local運動」についても言及。「既存建物を活用して小商いの人たちを集めるだけでなく、今ある商いを守り育てる活動」だという。
「大手の資本を否定するわけではなく、共存を目指す活動を指します。コンビニがなくなったら不便ですよね。でもそういった大手のお店ばかりでなく、個人が経営する小商いも町に共存する多様性が町の中にあることが大事だと思います」(小山氏)
昭和町では、Buy Localのイベントとして年1回マーケットを開催。地元のお店を応援するためのもので、にぎわいを生むことよりも、小さな商いのよさを知ってもらうことと、お店の人とお客さんが1対1でコミュニケーションをとることでお互いの価値を共有すること」に重きを置いているという。「お祭りではなく、日常のシーンとしてマーケットを開催しています。混雑しないよう日程は直前まで発表しません。ちょっと偏向している考えですけど」というのは、着々と成果を上げてきた小山氏独自の視点だろう。
そんな昭和町、2009年までは下降の一途であった地元小学校の児童数が、2010年以降現在まで少しずつ増加に転じているそうだ。「Buy localの力だけではないと思いますが、いろいろな形で町が評価されていることで人口が増えてきているのではないでしょうか」と小山氏。エリアによき商いを守り育てることにより、住民が豊かさを実感し、その結果として町の価値が上がっていっていると成果を振り返った。
登壇者の経験を基に、参加者へアドバイスも
続いて、登壇者全員でのトークセッションと質疑応答に移った。
空き家再生に取り組む参加者からもいくつか質問が寄せられており、まず「住民や行政の巻き込みに苦労しています。活動が町レベルに拡大していく手応えは、活動開始からどれくらいで感じるようになったのでしょうか」という問いに対して、豊田氏は「行政の方とネットワークを広げ、20年来顔の見える付き合いをし、良好な関係を築いています。行政と対立せず、自分たちの責任も感じながら、一緒に乗り越えていく気持ちが大事だと思います。告知に関してはネットだけに頼らず、地域住民を巻き込むためには新聞が大切です。新聞に出ると、高齢の方の評判が上がります」と自身の経験を基にアドバイスを贈った。
「田舎で空き家事業をする際のアドバイスと、空き家再生事業の可能性について考えを聞かせてほしい」という質問には、「僕たちは鎌倉の空き家事業で失敗したことがあります。人気のある鎌倉で、ですよ」と、福田氏が自身の失敗談を交えて回答。「人気のあるエリアか、そうでないかにかかわらず、問題は『共感』が得られなかったから。空き家活用のコンセプトを伝えきれず、多くの人を巻き込むことができなかったから、結果として共感が得られずプロジェクトが頓挫したと考えています。逆に田舎でもうまくいったケースもあります。特に『共創』を考えたとき、人を巻き込みながら共感が得られること、さらに、できれば集まった人たちがコミュニティ化することにつながっていくと、エリアを問わずうまくいくケースが起こりえるのでは、と考えます」(福田氏)
空き家問題はエリア問題。小さな成功体験をゆっくり重ねて
最後に、各登壇者が一言ずつ発言しトークセッションは終了した。それぞれの言葉に、共創の空き家活用のヒントが詰まっていたので紹介したい。
「空き家問題は、地元の人たちだけで考えると、アイデアが限定的だったり、しがらみで頓挫することも多いので、外からの視点を入れることが大切です。港町である尾道は、外から入ってくるものを受け入れる文化が昔からあり、それがよい町づくりにもつながっていると感じます。外からの視点で町のよさをフィードバックしてもらい、他の町との違いを見つけて、そこに磨きをかけることが大切だと思います」(豊田氏)
「町に小さな成功体験をちりばめる、とよく言っています。大きく目立つことをひとつして、そのひとつで町を変えてしまおうというのは無理な話です。オーナーが貸してよかったなと思えるとか、小さな自己実現をしたい人に小商いができる場所を提供し、結果その人が幸せになったとか、大きなことや目立つことを狙うのではなく、小さなことを継続してたくさんつくり出していくのがいいと思っています」(小山氏)
「不動産業界側の視点からすると、コーディネートに徹してそれがすぐにお金になるのかというと、実際すぐには儲からないわけです。でもそういう活動を地道にやることで、町に豊かさを実感できる人たちが増えて、結果的にそのなかで不動産業界も商売をさせてもらうチャンスが増えてくるわけです。儲かるタイミングは後からついてくるという、考え方の転換が必要になるかもしれません。そして自分たちの業を、ユーザーと一緒にどうつくっていくのか、自らつくり出していく姿勢も必要です。共創のチャンスはそんなところから広がっていくのではないでしょうか」(福田氏)
空き家問題や空き家活用といえば、文字どおり建物としての「空き家」にフォーカスすることも多い。しかし今回のセミナーは、そのテーマが示すとおり「共創」が解決の糸口や解決策そのものともなり、建物を超えてエリアを変えていく可能性もあると感じられた内容だった。「共創の空き家活用」は、ひろく、ゆっくり、がキーワードになるかもしれない。尾道の事例、昭和町の事例、いずれもがそれを示唆していると感じたセミナーであった。
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