人口減続く工業都市三原。巻き返しの切り札は子育て支援

広島県三原市。かつては工場で働く人々であふれる企業城下町として繁栄を謳歌した。

いま、平成の大合併で一体化した旧3町を中心に人口減が続き、特に20歳代後半から30歳代の第1子出生率が県平均よりも低い、という問題意識などから、経済産業省のフェムテック等サポートサービス実証に採択された事業者とも連携し『妊活に取り組む人たち向けのセミナー』をLINEを活用して行うなど、子育て支援に本腰を入れている。

2020年8月には、市の中心駅である三原駅の目の前という好立地に子育て支援施設・児童館「ラフラフ」を設置した。安田女子大学現代ビジネス学部公共経営学科の大立秋穂の現場インターンシップでの経験と、一部追加取材をもとにご紹介する。

平日は小さな子供たちが中心平日は小さな子供たちが中心

児童館というと、どうしても小学生や未就学児の居場所というイメージがあるが、ラフラフでは多くの10代が利用者として、また、ボランティアとして施設を盛り上げているのだ。

現在、ラフラフに登録する中高生ボランティアは60人、大学生は65人、さらに、保護者のボランティアも12人が登録している(2022年10月1日現在)。

平日は小さな子供たちが中心中高生がたくさんやってくるのがラフラフの特徴(写真提供:三原市)

10代が気軽に活用する児童館をつくる

ラフラフがオープンする前の三原市児童館は、基本的に来場者の中心は小学生で、あとは乳幼児や乳幼児の保護者といった人々が集う施設だった。そこで、ラフラフの設置に当たり、「新児童館ティーンズ検討委員会」を立ち上げ、ヒアリングや座談会などを何度も行い、その結果が幅広く採用されているのが特徴である。

まず、館内の雰囲気はというと、児童館というよりはまるでカフェのような印象を与える。
学習室など館内のどの部屋でも使えるWi-Fiもまた、中高生の意見で取り入れられた。「Wi-Fiがないと誰も来ないよ」という意見があったのだそうだ。開館時間が19時までに延びたのも「放課後に来たい」という意見を踏まえたもの。

現在、ラフラフへの中高生の来館は、旧児童館時代の10倍近い(2019年一日当たり1.3人、2021年は同12.7人)。中高生たちへの訴求という意味で、彼らの意見を徹底的に聞いたことは功を奏したと考えていいだろう。

クライミングウォールも「新児童館ティーンズ委員会」の提案(写真提供:三原市)クライミングウォールも「新児童館ティーンズ委員会」の提案(写真提供:三原市)
クライミングウォールも「新児童館ティーンズ委員会」の提案(写真提供:三原市)おままごと(写真提供:三原市)

中高生ボランティアと乳幼児が交流。親は、ひととき子どもと離れてリフレッシュ

高校生も託児から多くのことを学ぶ(写真提供:三原市)高校生も託児から多くのことを学ぶ(写真提供:三原市)

ラフラフでは、中高生主催のイベントがあり、中高生がイベントの目的やゴールを決め、それに取り組むというテーマ型のイベントとなっている。

「中高生も来る」施設、ではなく、彼らは間違いなくラフラフの主役なのである。ラフラフがオープンするまで「新児童館ティーンズ検討委員会」として活躍した中高生のグループは現在「ラフラフティーンズスタッフ」として活躍。小学生による「ラフラフきっずスタッフ(3年~6年生)」も職員と一緒にイベントの企画や実施を担っている。また、大人たちや大学生によるボランティアグループもある。

父親の参加が目立つ(写真提供:三原市)父親の参加が目立つ(写真提供:三原市)

訪問した当日、このカフェのような児童館には、夏休みということもあって10人近い中高生ボランティアが集まった。ボランティアたちがやっているのはなんと、ハイハイ程度の乳児から就学前の年齢までの子どもたちのケアである。
驚くべきことに、あちこちで小さな子供たちを、高校生ボランティアが抱っこし、あるいは同じ目線ではいつくばって手馴れた様子であやしている。もう少し大きな子どもたちとペアを組むボランティアは、本の「読み語り」をしたりおもちゃでおままごとをしたりと忙しい。

その様子を見て、スタッフの佐藤祐枝さんは目を細める。
「学習室の高校生のところに、おままごとの食事の出前が届くこともあるんですよ」

ではその保護者はというと、実は当日は保護者向けの教室型のイベントである「ママチャレンジ」が開催されており、こちらに参加している。たった1時間ではあるが、保護者は子供たちから離れてセミナーを受け、子どもたちは職員や中高生のお兄さんお姉さんと遊ぶ、という保護者リフレッシュ型の行事なのである。

たった一時間の別離ではあるが、なかにはそれまで機嫌よく遊んでいた子どもが、戻ってきた母親の顔を見た瞬間、泣き出すシーンも。
「たった1時間ですが、あらためてわが子がとてもかわいく、いとおしく思えます」

「中高生ボランティアを信頼している」

親同士の横のつながりが生まれるという効果も(写真提供:三原市)親同士の横のつながりが生まれるという効果も(写真提供:三原市)

佐藤さんによると、
「一定の研修を行っているのは当然ですが、私たちは中高生ボランティアたちをパートナーとして信頼しています。そして彼らには、その力量があります。もちろん、ボランティアと乳幼児は1対1対応で、それを私たち職員が見守っていますが、職員が口を出す事はほとんどありません。
また、彼らは普段は接することのない赤ちゃんや小さいお子さんと接する中で、子育てのイメージや保育や幼児教育などの職業のイメージを膨らませていきます。ここで活躍した中高生ボランティアたちが、将来的には三原で家族を持ち、また親子でここを訪ねてくれることが1つの目標と考えています」

ボランティアの活躍を見て、若い親は自分たちの子育てのイメージをポジティブに持つという。もちろん、ボランティアは女子とは限らず、男子高校生の姿も普通にみられる。
「高一の男子でも普通に託児を担います。楽しく子どもたちと接するお兄さんお姉さんを見て「我が子もこんな風に育ってほしい」と生き生きした様子で語るお母さん。ここではみんながイキイキしています」
館内では、未就学児同士で遊ぶ姿もみられるし、夏休みの小学生もたくさん来場している。

マンガの最新のタイトルもマンガの最新のタイトルも

中には、夏休みを取ったお父さんの姿もみられる。子どもと遊びに来たあるお父さんは、マンガを読んでいた。
「お父さんにも気軽に遊びに来ていただきたいです。ラフラフは中高生の意見により、マンガをたくさん所蔵しています。子どもたちはもちろんのこと、お父さんたちにもそれを目当てにお子さんと遊びに来ていただいています。お父さんたちは、ボランティアとしても仲間であり、大きな戦力です」

先に述べたように、このラフラフを計画する際、市役所が特に重視して意見を聞いたのが、中高生であった。まず、床はフローリングでありこれは「カフェのような雰囲気がよい」という意見から採用されたものだという。児童館であり、乳幼児も使用することから、フローリングの下には空間が作られ、転倒しても大きな怪我をしないようになっている。そして、壁面には作り付けの本棚が設置されており、書籍や絵本のほかにマンガが大量に収納されている。

親同士の横のつながりが生まれるという効果も(写真提供:三原市)高校生が自然に抱っこ(写真提供:三原市)

ダンスの練習に励む高校生。一緒に踊りだす小学生

Wi-Fi、コンセント完備。Wi-Fi、コンセント完備。

Wi-Fi完備の学習室は、児童館のホールのスペースとは区切られた一人ひとりに仕切りがある机と椅子の設置されたスペースであり、個別の電源もある。施設的には予備校の自習室等にも負けない。
「試験シーズンにはそれでもいっぱいになってしまいますが、道路を挟んだ向かい側の図書館にも自習スペースが設置されていますので、中高生たちは気分により行ったり来たりしながら勉強をしているようです」

スポーツ室には、バレエ教室のような大きな鏡がある。
「これも彼らの意見で設置しました。中学生や高校生がダンスの練習をしたり、動画を取ったりしています」。
スポーツ室は外から見られるので、小さな子どもたちがのぞき込んだり、ダンスをする高校生と顔見知りの小学生が入ってきて一緒にダンスをすることも。

同じビルにあるみはら市民大学を利用する高齢者との交流も始まっている。例えば先日は子どもたちと高齢者が一緒に陶芸教室を楽しんだという。

ラフラフやみはら市民大学が入居するビルや隣の新築された中央図書館など、駅の南側がリニューアルされ、ものつくりの街、三原の駅前には若い、明るい声が響いている。

Wi-Fi、コンセント完備。日によって勉強する場所を使い分けする中高生も

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