ここ数年で照明への意識は大きく変わってきている!?
東日本大震災を機に“省エネ”の動きは加速したが、その中でも照明のLED化は急速に進んだ。震災直後は電力の不足から、節電のため街やオフィスが暗くなった事も記憶に新しいはず。LED化の急速な普及は、そうした節電を求められる中で、従来の明るさが欲しい私たちのニーズにぴったり合致した結果なのだろう。
現在も、節電をしながら明るさを追求する製品や技術は多様化をして広がりを見せている。ここ数年で照明について、大きな変化が起こったがそうした照明への意識の変化はどう移り変わっているのだろうか?ここ数年の私たちの照明に対する意識変化について知ることができるレポートが先日発表された。
環境省が主催、建材試験センターが運営担当で2014年8月25日に開催した環境技術実証事業(ETV事業)のセミナーの中で発表された「省エネルギー照明技術の研究・実証動向」。この調査結果は技術的なことも多かったが、照明について色々と知ることができたので、今回その発表についてレポートしたい。
明るさへの“罪悪感”が消えて、控えめな明るさに慣れる
「省エネルギー照明技術の研究・実証動向」の発表の中で、千葉工業大学工学部建築都市環境学科の望月悦子教授が「オフィスにおける節電と明るさや暗さについての満足度」の調査結果を公表した。どうやら私たちは明るさへの罪悪感が消えて、控えめな明るさに慣れて過剰な明るさを求めなくなった傾向にあるようだ。
同氏によると、従来のオフィスの机上面照度は750〜1000lx(ルクス)の明るさだったが、震災直後には国単位で節電環境が要求される中、間引き点灯などにより300〜500lxに低減したという。消費電力も、9時〜20時の間では、震災後はそれまでの約半分にあたる10Wh/h/m2未満になったという。
また、オフィスの机上面照度について「今の照明環境をどう感じるか?」を、2011年と2013年に調査。その結果を比較したところ、2013年は2011年と比べて“暗い”“やや暗い”と感じる人が減って“明るい”と感じる人の割合が増加したという。
「今の照明環境の満足度ついてはどうか?」という質問では、2011年には“明るい”と感じる状況を不満足と答え、“非常に暗い”“暗い”“やや暗い”と感じる状況を満足と答える人の割合が高かった。一方で2013年の同じ調査では“明るい”“やや明るい”と感じる状況を満足と答える人が増えていた。
これはつまりどういった結果なのか。望月教授曰く、「震災直後には、過剰な明るさに対する“罪悪感”が見られた。しかし昨年の調査では、適切な明るさに対する慣れと満足度の向上が見られる」と説明する。
震災直後は、節電環境の中で明るい環境は悪いことで「節電して暗くしていること=いいことをしている」という意識だったことが伺える。しかし、2013年になるとその意識が薄れてきているようだ。間引き照明が減ったあるいはLED化が促進された、机上面の明るさだけでなく空間全体で適切な明るさ感を確保する照明手法が普及しつつあるといった照明環境の変化も原因と考えられる。そして、2011年には「暗いこと=節電している」ことへの一定の満足感があったものが、2013年にはその意識が減ったのかあるいは節電慣れしたのか、節電への満足感は減り再び明るさについてポジティブな姿勢が見られる。
つまり、技術が進化してエネルギー効率のよいLED照明が登場し、少ない電力で明るさが確保できるようになった一方で、控えめな“暗さ”に慣れた多くの人が、震災以前のように明るさに安心感を感じている傾向にあるということだ。
安心感を感じるようになった理由のひとつに、スタンドライトなどの机上面を照らす照明と、空間を明るく感じさせる効果の高い壁や天井を中心に照らす照明をバランスよく組み合わせて、節電しながら空間全体で適切な明るさ感を確保する照明手法の採用が増えたことも挙げられる。だがこういった手法が導入された事例はまだ少なく、様々な空間での普及が今後の課題となっている。
震災直後は省エネや節電を意識して行ったが、照明はLED化したとはいえ全体的に省エネ意識は薄くなってきている。気づかぬ内に、再びエネルギーを大量に使ってしまう日がきてしまうかもしれない。そうならないためにも、改めて無理せずできる省エネ方法を知りたい。
公的な評価を基に製品を選ぶ
では暮らしの中で、どのようにしたら無理なく省エネや節電対策を取り入れられるのか。
新築や引っ越し、リフォームの際に節電タイプの照明に切り替えたいと思っても、次々に登場する新しい製品をどのように選べばよいか分からず、メーカーや量販店が勧める製品に任せるしかないのが現状だ。そこで環境省は、基準や規格が制定されていない新しい技術や製品に対して実証試験を行う「環境技術実証事業(ETV事業)」を推進している。環境省および建材試験センターが、想定される技術を募集し、応募のあった製品や技術の実証を行っている。
実施中の9つの分野の中で、地球温暖化対策技術分野(照明用エネルギー低減技術)の分野では、「照明器具」「内装材料」「昼光導入装置」「その他」の4つに分類して募集を行っている。実証実験にかかる一定の費用を応募各企業が負担する。企業や研究機関で既に実証試験を済ませていても、その結果は利用せずに環境省が定める基準で同センターが実証を行う。
今回のセミナーでも、照明の意識変化以外にも現在主に扱われている非住宅向けの製品や技術の中に、今後住宅にも応用できそうな技術を見つけることができたのでお伝えしたい。
注目した技術のひとつは、オフィスの照明用電力の削減に有効な昼光利用について。窓からの日射を遮蔽するブラインドやスクリーンによる視環境の制御に関する研究だ。ものつくり大学建設学科で講師を務める伊藤大輔氏が発表した。
昼光を取り入れる際には、熱の取り込みや抑制と共に、視環境性能を保つことが重要になる。ただ壁にして熱が入るのを防ぐのではなく、明るさの確保と不快グレア(不快と感じるまぶしさ)の抑制、景観保持の実現が求められる。そこで同氏は、必要とされる直射日光遮蔽装置について計測を行った。
窓を覆うスクリーンについては、表面の輝度によって不快グレアが発生しないように使うことが重要だ。スクリーンの表面の輝度は、空隙を抜けてくる光に、繊維部分を透過する光と繊維部分を反射する光を加えて算出する。スクリーンは同じ材質を使ったスクリーンでも、平織りや綾織り、繻子織といったように織り方を変えることで空隙率や表面輝度が変わる。建物の北面には、見かけの空隙率や繊維部分の透過率が高いスクリーンを使ってより多くの光を取り込んでも不快グレアが起こりづらく、昼光利用に有効だと言える。だが、南面で同様のスクリ―ンを使うと不快グレアが起こりやすいため、見た目の空隙率や繊維部分の透過率が低い素材を使う方が快適に過ごせる。
ブラインドについても素材や色の選び方、角度の設定によって、不快グレアと明るさのバランスを調整できることが分かる。例えば半透明の素材を使ったブラインドは、不透明な素材よりも光をよく通して昼光の利用にはよい結果をもたらすが、輝度が上がってしまうことで不快グレアが起こる割合も高くなっていた。室内の状況を再現する実験装置を屋外に設置して、午後1時、3時、5時と3つの時間帯に計測することで違いが明らかになった。
窓から自然の光を
もう一つ、今後の応用に期待したいのが、照明器具やランプを選ぶように窓や昼光導入装置から取り入れる光を計画するための手法だ。静岡県工業技術研究所機械科長の鈴木敬明氏が発表した。大半の照明器具について作成される光の広がりや光量などを表す配光データを、昼光導入装置についても作成して、既製の照度計算ソフトで計算するシミュレーションを行っていた。倉庫に利用した実例の紹介だったものの、同じ手法を住宅でも応用できる可能性は高い。
住宅の日射は、建築設計者が窓の大きさや位置に工夫を凝らすことが一般的だ。だが、今後は昼光導入装置の特性に合わせて、照明器具を配置するように、配光特性の異なる光を作り出す昼光導入装置を計画的に配置して、人工照明のように光を操ることが有効になる。
すぐに応用できる技術ではないが、一歩先に進んだ省エネや節電を行うために、LED照明を使うだけでなく、自然の光を効率よく取り入れたい。開口部分の輝度の調整にも関心が高まって、住まい手が自分の手で開け閉めや調節行為を行うことに慣れれば、ブラインドやスクリーンの色や柄を楽しむだけでなく、生活の中で光を楽しむ、豊かな生活を手に入れることができるようになるだろう。
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