家じまいは単なる自宅&実家の売却ではない
所有者の高齢化や逝去などをきっかけに、家じまい=自宅売却を検討し始めるケース、および相続人である子供が実家を売却することを考えるケースが増えている。
当然のことながら、心情的に住み慣れた我が家を積極的に売りに出したいと考える所有者は少なく、このまま家を残して亡くなると子供や親族に迷惑をかけることを不安視したり、介護施設などへの入居を決めたりといった“このまま自宅・実家を維持保全することが難しい”という各家庭の事情がその背景にあると考えられている。
家じまいについてLIFULL HOME’Sとオープンハウスが実施したアンケート調査(※)によれば、家じまい経験者の親世代の平均年齢は父母とも80歳、家じまい検討者でも父親77歳、母親78歳と、親世代が健康寿命である男73歳、女75歳を過ぎてようやく検討し始めるという実態が明らかになっており、売却の検討を始めたきっかけでは、「家の維持・修理が大変」「家族・親族との死別」または「高齢化」との回答が多数を占める。
一方、検討は始めたものの売却に至っていないケースでは、「特にない」に次いで「時間的余裕がない」「家族の意見が決まらない」「家の片付けが終わらない」などが上位に挙がっていることから、問題を先送りにする(したい)という心情を窺うこともできる。
アンケート結果からは、家を使う見込みがないのに維持費が発生することを筆頭に、親世代の高齢化および逝去をその理由として挙げる回答が多い。住宅ローンや税金の納付が重荷にというケース、介護施設への入居費用捻出といったケースもあり、自宅・実家を維持するのに専ら経済的な負担が大きくなったこと、それを解決する手段として売却を検討していることが明らかだ。
また、長年住んでいた自宅・実家には思い出の品も含めて多くの物があり、それぞれの価値を見極めて適切に処分・売却するには手間がかかる。つまり、家じまいには相応の時間を要することも家じまいのハードルをさらに高める要因と考えられる。単なる家の売却とは異なり、住み慣れた我が家、思い出の詰まった実家を売却するということは、それだけ覚悟と思い切りが必要という事実、これは他人事ではないという現実がある。
ただし、そのままもしくはリフォームして住む、もしくは貸すといった具体的な用途がイメージされないまま自宅・実家を放置すると、固定資産税や都市計画税のほか、建物の維持管理コストも発生することになり、さらに相続後3年を経過すれば、3,000万円の税額控除が適用されなくなるから、家じまいすることを検討するのであれば、決断するまでの時間は限られているとも言える。
家じまいが単なる売却とは意味合いが異なることを理解し、ビジネスライクになり過ぎずに対応してくれる不動産会社を見つけることはハードルの低いことではない。高齢化がさらに進んで今後は自分も当事者として家じまい・実家じまいすることを想定した場合、自宅・実家を売却するために必要なことは何か、住宅売却に詳しいプロにアドバイスを求めた。
※2025年「大相続時代」に備え、オープンハウスとLIFULL HOME'Sが 「家じまい」に関する共同調査を実施
https://lifull.com/news/34663/
「家族間のコミュニケーション」が家じまいの鍵 ~ 小池 正也氏
小池 正也:らくだ不動産株式会社・不動産エージェント。大手ハウスメーカー、不動産仲介会社を経て、2021年8月より「らくだ不動産」に参画。二級建築士・マンション管理士・ファイナンシャルプランナー(二級技能士)など、多くの資格を保有し、不動産の売買以外にも、新築・建替・アパート経営、相続税対策など、幅広い分野で活躍。『不動産エージェントという選択』(幻冬舎)他、取材協力多数。所有者、子世帯、どちらが主体になって動くとしても、トラブルなくスムーズに住まいを売却するには、大前提として家族間のコミュニケーションが不可欠である。コミュニケーションがしっかり取れている場合は比較的スムーズに家を売却できるが、どちらかが先走っていたり、家族間で意向の相違が見られたりするケースでは、さまざまな壁に突き当たってしまうことが多い。相続後は子世帯が売却に向けて動くことになるだろうが、兄弟間の意向が合わないことで売却が進められないケースも少なくない。家じまいには、解体や片付け、税金など、さまざまな問題がハードルになることもあるが、家族同士が意向を認識し、足並みをそろえることさえできれば、少しずつでも前に進めることができる。
今回のアンケート結果からは「問題を先送りにしたい」との心情も垣間見えるが、家じまいは多くの人がいつかは直面する問題だ。私たち不動産会社や士業など外部の人間は、所有者やその家族がなんらかのアクションをしてくれないことには介入することはできない。不動産は、自分が住む・他人に貸す・売るの三択。家族間で意見が合わなかったとしても、最低限、親や兄弟がどうしたいか知っておくことが肝要である。近年は認知症の発症件数も増加傾向にあることから、できれば親が元気なうちに意向を確認しておくべきだろう。
家の所有者、あるいはその家族をサポートする私たちに求められるのは「ディレクション力」になってくる。家じまいに向けた問題を洗い出し、ひとつずつ解決していくには、法律、税金、片付け、解体、仲介など多方面のサポートが必要だ。必ずしも不動産会社がディレクターになる必要はないが「売却」というゴールに向けて、さまざまな専門家をアサインしなければならない物件も少なくない。
2023年には「相続土地国庫帰属制度」がスタートしたが、同制度で国が引き取ってくれる条件を満たす物件は、言ってしまえば売却も可能。家じまいが問題になりやすいのは、往々にして、資産価値が低い家や売りにくい物件だ。先般、低廉な空き家の仲介手数料の上限額が見直されたが、不動産会社が仲介以外の役割も担うとすれば十分とはいえない。案件によって異なる業務量に見合ったフィーを見積もることができるようにするなど、法律面の見直しも求められる。
自分たちでもできることから始める ~ 高橋 正典氏
高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など今、日本の人口を5歳ごとに区切ると、最も多い年代は50歳から54歳で、いわゆる団塊ジュニア世代だ。この世代は親が75歳を超えた団塊の世代であり、実家をどうすべきか? 親の今後をどう考えるか?という問題に直面しており、場合によっては既に相続が発生しているだろう。本年4月から相続登記の義務化がされたことも相まって、筆者の元への相談も増えてきた。
さて、この「家じまい」「実家じまい」には多くの課題があるが、相談者の声でいちばん多いのが「親にどう話したらいいかわからない」というものだ。当然ながら親の家には「思い出」や、親の「想い」もあり、単なる不動産の処分のように動かすことだけでは解決できない。
「売却」だけに絞れば、ある意味テクニカルな相談になるが、「売却」という段階に至るまでに乗り越えなければならないことが多々ある。そのことが、結果先送りとなり収拾のつかない状況を招いているのが昨今の空き家問題の要因のひとつでもある。
そうしたなかで論点を整理すると、まずは「親に聞かないとわからないこと」と「親に聞かなくても自分たちで調べられること」に分け、後者から着手することである。
例えば、親の預貯金はなかなか聞き出せない。また、施設に入った場合の家の処分などは、聞き出すための配慮が十分必要で、時間をかけてやるべきことだ。しかし、自分たちでできることもある。それは自宅などの不動産が「そもそも売れる物件であるのか?」を把握することである。そもそも、需要のある場所なのか? 建て替えのできないような「再建築不可」といわれる物件なのか?すぐに売るつもりのない不動産の相談に乗ってもらえる不動産会社を見つけることには手間を要するが、建て替えができるのか? などは、役所に行けばおおよそのことは教えてもらえる。これを把握できるだけで、将来リスクはだいぶ軽減される。
また、一戸建てなどの場合で気をつけたいのは、「近隣との境界」が明確かどうか?である。
現在、この境界がわからない、つまり所有する敷地がどこからどこまでか?が曖昧だと売却できないことが多く、できたとしてもそのことが価格低下の要因になる。
もちろん、売却する段階で近隣の方々との「境界確定」を行えれば問題はないが、筆者の元へはこの「境界確認」が進まないという相談が非常に多い。これは、親の世代において起きた近隣住民との軋轢やトラブルが遺恨として残っていることに起因する場合もある。
そして最後に、「親に聞かなくてもできること」に、相続人である兄弟姉妹間の話し合いがある。親の問題を兄弟姉妹に任せて東京に出てきたり、結果的に任せっきりになっていることも多く、この手の話し合いを避けたい方も多いが、先送りしても必ず自分に戻ってくる問題であるので、早めの覚悟をお勧めしたい。
事業者からみた空き家ビジネスのリスクとチャンス ~ 北川 友理氏
不動産事業者の立場から空き家ビジネスをみてみる。
東京都に本社を置く中堅買取再販事業者の事例によると、同社が購入検討者を紹介して手数料を得る不動産仲介で売却する場合、依頼から引き渡し・現金化までの期間は購入検討者の内覧や住宅ローン審査期間も含めて半年から1年ほど、事業者が直接買い取って新たなオーナーに売却する買取再販の場合は1ヶ月から1ヶ月半ほどが相場となる。
不動産仲介の場合は残置物撤去費用や仲介手数料は売る側が負担する。撤去費用は専有面積70m2ほどの平均的なファミリーマンション住戸で20万~30万円、手数料は売買価格の3%ほどだ。空き家の流通は大半が不動産仲介となる。
売る側にとっては仲介手数料がかからず、現金化までの時間が短いなど買取再販のほうが利点が多い。一方で、事業者の側はいったん物件を購入するコストが生じること、販売が遅れ物件が手元で滞留するリスクがあることなどから、参入できる事業者がおおむね大手と中堅に限られる。一方で新築住宅の販売価格の上昇に伴い中古物件を選ぶ購入検討者が増え、流通市場が活性化している。買取再販事業を強化している事業者も多く、売る側が高値で売却するチャンスも広がっている。
事業者にとってリスクが高く、倦厭される案件を把握していれば、すぐに売るか将来売る選択肢を残すかにかかわらず、売りたいのに売れない、適正な評価を得られないといった大きな危険を回避することができる。最も倦厭されるのは、複数回の相続を経て共有持分が細かく分かれている場合だ。事業者が共有持分の一部を担保に金融機関から融資を受けることは極めて難しいうえ、相続をさかのぼって個別に持分の所有者と交渉して持分をまとめていく作業には数年を要する事例も珍しくない。
東京都心の駅に近い一等地の物件でも同様だ。まとめることができればマンションデベロッパーらを出口に大きな利益を上乗せして売却できるためビジネスチャンスに見えるが、こうした案件は10分の1以下の共有持ち分であっても1億円以上の価格となる事例が珍しくない。事業スケジュールのメドが立たない数億円、数十億円の案件に手元資金のみで参入する事業者はそうそういない。
現在売却を考えている、もしくは将来円滑に売却できる状態にしておきたい所有者は、持分が細分化する前に動いていただきたい。迷った場合は売ってしまうのが最もリスクが低いと言える。なかには共有持ち分を専門に扱うベンチャー系の買取再販事業者もあり、まったく販路がないわけではない。ただ、同社でも持ち込まれた案件の中で実際に取り扱うのは件数ベースで1割程度だ。いずれにせよ、問題になる前に家族・親族間や不動産事業者と相談しておくことが必須だろう。
北川友理:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。京都市出身。1987年10月生。地方新聞記者を経て、2018年に不動産経済研究所入社。以降ハウスメーカー担当
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