2023年4月の東京23区平均価格は11,773万円 首都圏平均も7,747万円と超高水準

東京都内では新築マンション価格の急上昇が続いている。この状況はいつまで続くのだろうか東京都内では新築マンション価格の急上昇が続いている。この状況はいつまで続くのだろうか

5月中旬に不動産経済研究所が公表した首都圏および近畿圏の新築マンション供給・価格動向によると、首都圏平均価格は7,747万円(対前年同月比+23.1%)、東京23区は11,773万円(同+60.3%)を記録した。極めて高水準というほかなく、近畿圏平均5,193万円(同+30.4%)、大阪市平均の4,920万円(同+21.5%)と比較しても突出した価格水準に達している。

ただ、3月には首都圏平均が14,360万円(同+120.3%)、東京23区平均に至っては21,750万円(同+173.7%)と単月では初の1億円台および2億円台を突破、これは都心で最高45億円という住戸がある物件ほか超高額物件が複数分譲されたことで平均価格に大きなバイアスがかかったことが一因だが、首都圏で2500戸弱、東京23区では1300戸程度の分譲しかなかったことが平均価格を押し上げた最大の要因だ。つまり、物件価格の上昇に歯止めが掛からない状況が続いているため、新規に分譲する戸数を各マンション・デベロッパーが絞り込んでいる結果、このような平均価格の急上昇および乱高下の可能性が発生していると言ってよい。

また、4月の周辺3県の価格は神奈川県が5,792万円(同-2.2%)、埼玉県が5,578万円(同+23.9%)、千葉県が4,595万円(同+8.3%)と東京23区とは明らかに大きな価格差が発生していることから、この価格の急上昇および高水準での推移が、東京23区に限っての現象であることが分かる(都下も5,564万円で東京23区とは大きな開差がある)。

新築マンションの価格上昇については、ウクライナ侵攻に端を発するサプライチェーンの逼迫による輸入資材およびエネルギー価格の上昇、さらには日米の政策金利格差による円安の発生に伴うコストアップが大きな要因とされているが、日本建設業連合会の調査では、建設業に携わる作業員の労務単価単純平均は2年前から9.1%上昇しているから、人件費の高騰もコストプッシュ型の価格上昇の一因であることは明らかだ。
また、建設業については時間外労働の上限規制猶予が2024年3月末で終了するため、建設業に従事する労働力不足=建設業の2024年問題が確実視されており、現在のところ、コストプッシュ型の新築マンションの価格高騰には歯止めが掛かる様子は見られない。

さらには、日銀総裁の交代によって長期金利の上昇圧力が一時的に高まったものの、現状では植田新総裁の金融緩和策継続路線の踏襲によって落ち着きを示しており、金利上昇の可能性はごく限られるため、住宅ローン金利の上昇も想定できず、この超低金利が物件価格の高騰に一層の拍車をかけていると言ってもよいだろう。

このもっぱら東京都内で発生している新築マンション価格の急上昇と高値水準の継続はいつまで続くのだろうか、また価格が下落する可能性があるとすればそれはどのような要因が端緒となるのだろうか。新築マンション市場の動向に詳しい専門家の見解を聞く。

富裕層の増加で、高級マンション需要高まる。価格上昇は続くが、金利上昇、円高、世界経済減速が不安要素 ~岡本郁雄氏

<b>岡本 郁雄</b>:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3,000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ岡本 郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3,000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ

最低販売価格が2億円を超えた三田ガーデンヒルズの好調な売れ行きが示すように高級レジデンスの需要が高まっている。背景にあるのは、国内における富裕層の増加だ。野村総合研究所(NRI)発表の「2021年の日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模の推計」によれば、『純金融資産保有額が1億円以上5億円未満の「富裕層」、および同5億円以上の「超富裕層」を合わせると 148.5万世帯。推計を開始した2005年以降、最も多くなっておりその純金融資産総額は364兆円と推計している。

富裕層の増加は、都心の高級マンション市場を活性化する。富裕層の住宅といえば、世田谷区や渋谷区などの邸宅街が挙げられるがベンチャー企業の社長などの新富裕層は高級レジデンスを好む傾向が強い。約4,000室の高級賃貸マンション「ラ・トゥール」を展開している住友不動産によれば、高級賃貸レジデンスに居住する40代以下の日本人比率が年々高まっており2023年3月時点では、59%に上る。100㎡を超えるような物件が都心分譲市場にないため賃貸を選ぶ人も多い。高級賃貸レジデンスの賃料は、上昇傾向にあり三田ガーデンヒルズが売れるのも理解できる。

マンション事業の場合、用地取得から分譲開始まで一定期間を要するため地価動向と建築費の動向を見れば数年先のマンション価格が原価ベースで見てどうなるかはおおよそ見当がつく。例えば、港区の公示地価は、コロナ禍の影響を受け若干下落した2021年を除き2013年以降長期にわたって上昇を続けている。建築費も上昇を続けておりロシアによるウクライナ侵攻以降は大きく上昇。原価ベースで考えると、数年先までマンション価格の上昇は、避けられないだろう。

コロナ禍において住宅需要が喚起されマンション相場も押し上げられた。大手不動産各社の収益性も向上しておりマンション供給戸数の大幅増加は見込みにくい。また、円安による外国人需要の拡大や地方の富裕層など都心のマンション需要層は裾野が広い。低金利を背景にした共働き層の需要も旺盛で、マンション価格が下落する兆しは今のところ見られない。日本では、バブル崩壊以降、長期間デフレトレンドが続いたが様々な要因もあり、すでに政府が目標とする物価上昇2%を上回っている状況が続く。2%の物価上昇が36年続けばお金の価値は半減する。資産防衛の為に株式や資産性の高い不動産にマネーが向かうのは当然だろう。

しかし、全国的に見れば人口減少が続いており、東京都の人口も将来的には頭打ちになる。物価上昇に賃金上昇が現時点では伴っておらず、戸建て市場には、在庫が増えるなど影響が出始めている。日本銀行による金融緩和が修正され過度に金利が上昇すれば、好調なマンション市場も影響を受けざるを得ない。今の円安トレンドが円高に向かえば、外国からの投資も細るだろう。また、世界的な景気後退などで共働き層の所得が落ち込めば需要も減退する。マンション供給の増加が見込めない中、需要の動向が価格の行方を左右する。

大手ら都心に傾斜、「厚利少売」で収益確保 ~ 平松健一郎氏

<b>平松 健一郎</b>:株式会社不動産経済研究所、日刊不動産経済通信編集部チーフ・記者。横浜市中区出身、東京都江東区在住。出版社、新聞社などでの勤務を経て18年から現職。3・11後は東北の被災地で震災復興の取材に没頭し、現在は国内外の大手不動産・金融各社の取材を担当する。趣味は25年続けているジョギングと、世界の僻地を巡るバックパック旅行平松 健一郎:株式会社不動産経済研究所、日刊不動産経済通信編集部チーフ・記者。横浜市中区出身、東京都江東区在住。出版社、新聞社などでの勤務を経て18年から現職。3・11後は東北の被災地で震災復興の取材に没頭し、現在は国内外の大手不動産・金融各社の取材を担当する。趣味は25年続けているジョギングと、世界の僻地を巡るバックパック旅行

東京23区の新築マンション価格が上がり続けている。不動産経済研究所の調査では4月の平均価格は2億円強と1年前の2.7倍になり、東京など1都3県でも3月の価格が初めて1億円の大台に乗った。三田や浜松町などで売られた一部の「超億ション」が押し上げた形だが、折からの土地高と建築費高、旺盛な購入需要などが相まって売り値は全体に強気だ。ただ郊外物件の人気には濃淡があり、駅前案件などを除き価格相場に天井感も漂う。不動産各社は都心好立地での薄利多売ならぬ「厚利少売」に傾く。都区部の供給戸数は長期的に漸減しそうだが、竣工が遅れていた複数の超高層マンションが今後市場に出てくる。少数の高額物件が平均価格を上振れさせる展開が続きそうだ。
 
建築費は当面は高止まりが予想され、10年来の超低金利環境にも黄信号が灯る。住宅市場には悪材料が多い。それでも東京都心周りのマンション需要は6月時点でなお強い。湾岸や西新宿、池袋などで大型物件が売られ、富裕層や高所得の共働き夫婦らが買う。在留外国人の購入も増えている。都内のマンション市場は需給ともに「都心回帰」の色が濃くなり、同時に価格上昇の波は空白地帯だった下町などにも及ぶ。ある大手デベロッパーの幹部は「市部も含め都内の売れ行きに陰りはない」と話す。ただ活況の背景を「人口減少に伴い住宅需要も縮小基調だが、それを上回るペースで供給事業者が減ったせいもある」と説明する。活発にみえる市況には、販売戸数が少ないぶん需要の鈍化が目立ちにくいという上げ底景気の側面もある。

不動産各社は「空振り」のリスクが小さく、価格転嫁の余地もある都心好立地での開発を重視する。彼らが神経を尖らせるのは建築費と金利の動向だ。特に原価の過半を占めるとされる建築費の上昇は経営を圧迫する。建設物価調査会の「建設資材物価指数」(東京・建築部門)は15年の100に対し22年は127.8に上昇。5月時点でも132.3と高く、高原状態が続きそうだ。5月に出そろった大手不動産各社の決算では分譲マンションの販売が高収益に寄与した事例が多いが、今期から建築費の上昇負担が本格的に反映されてくる。デベロッパー数社に用地仕入れの方針を問うと「都心では相対取引を中心とし、郊外ほどグロス価格を意識している」と同じ答えが返ってきた。そのうちの一社は「賃金上昇の動きが鈍く、今の物件価格に消費者がどこまでついてくるかが大きな不安材料だ」と打ち明ける。立地を厳選し、消費者が離れていかない範囲の慎重な価格設定で収益確保を狙う。
 
一方、建築費以上に関係者が気をもむのは金利動向だ。日銀の植田和男総裁は6月16日の記者会見で長短金利操作を含む大規模な金融緩和を続ける方針を表明したが、物価の動きによっては政策変更に踏み切る考えも示唆。7月27、28両日の日銀会合が注目される。将来的に住宅ローンの変動金利が上がれば特に実需市場を直撃する。その時期は先だとの見方が現時点で優勢だが、近年のマンション市場は超低金利環境に支えられてきただけに、不動産各社は石橋を叩いて渡る姿勢を強めている。高いほど売れるという今の値付けをいつまで続けられるかは、欧米の景況や為替、日米の金利差などといった複合的な要因による。大手不動産各社は資産価値が色褪せにくい都心物件を販売の軸としつつ、有望な郊外の需要地を開拓するという両にらみで勝ちを狙う。その過程で東京のマンション価格は地域差がますます鮮明になる。

買っても節約、買えずも節約。行き過ぎた価格高騰は日本経済のブレーキにも ~松崎のり子氏

<b>松崎のり子</b>:消費経済ジャーナリスト。生活情報誌の副編集長として20年以上、節約・マネー記事を担当。雑誌やWebを中心に、生活者目線で記事を執筆中。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)ほか。「消費経済リサーチルーム」https://www.ec-reporter.com/松崎のり子:消費経済ジャーナリスト。生活情報誌の副編集長として20年以上、節約・マネー記事を担当。雑誌やWebを中心に、生活者目線で記事を執筆中。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)ほか。「消費経済リサーチルーム」https://www.ec-reporter.com/

昭和の常識を振り返ると、マイホームを買うなら物件価格は年収の5~6倍まで、まず物件価格の頭金を2割用意し…とよく言ったものだが、今や頭金1割未満でローンを組むケースも少なくない。また、住宅金融支援機構「フラット35利用者調査(2021年)」を見ると、住宅所要資金に対する年収倍率は、新築マンションの場合、全国で7.2倍、首都圏では7.6倍にも及ぶ。この年収倍率は2011年以降のグラフは右肩上がりのまま、一向に下がっていない。月収に対する返済額の割合も、25%未満・30%未満・30%以上を合計すると、全宅の6割を占めるのだ。月収の1/4~1/3近くが返済で消えてしまうとなれば、購入者の家計にかなりの重しとなるだろう。

それを裏付けるように、住宅ローンの利用者の年齢に変化がみられるという。30代以下が減少し、代わりに50代以上の割合が上昇、はじめて2割を超えたとか(同調査より)。マンション価格があまりに高額になったため、子育て世代の手に届かないものになっているとの傾向がうかがえる。一方では、現役世代の後半と言える50代に数十年にわたる住宅ローンを組むというのも、老後の生活資金を考慮するとかなりリスキーな選択だ。いくら人生100年時代とはいえ、マンション価格の高騰はちぐはぐな副作用をもたらしているのではないか。

「買える相手がいるのだから、そういう相手に売ればいい」という強気な姿勢も、ビジネスでは正論だろう。しかし、住まいを買えない若者層は老後不安をいっそう募らせ、消費ではなく貯蓄や資産形成に資金を振り向ける。一方で背伸びして高額物件を購入した世帯は、返済のためにやはり節約に励むようになる。どちらにしても、財布は固く閉ざされたままとなるだろう。消費拡大の担い手として「分厚い中間層」がたとえ復活しても、このままでは内需を支える余裕はありそうにない。

住まいが適価で供給されることが人生の安心につながり、他の消費に振り向けようという余裕を生む。天井知らずの物件価格は、景気浮揚を妨げる元凶になりかねない。我々が目にする生活品の値上げでは、企業は同じ文言を繰り返している。原材料高、エネルギー高、物流費と人件費の高騰。物件価格にも同じ要因はあるだろう。しかし、それをすべて「全部乗せ」にしていいかは別の話だ。「もう誰も買えなくなった」とならないうちに、方向転換が必要ではないだろうか。

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