木材活用はカーボン・ニュートラル実現に向けての重要施策

マンションといえば巨大で強靭な住宅というイメージがある。
マンションはSRC造もしくはRC造が圧倒的多数であり、木造の共同住宅というとアパート、もしくは連棟型のタウンハウスやテラスハウスが一般的だ。

そこに新たに「木造マンション」という概念が加わることになった。木造のオフィスビルは実例があるが、第一号物件の賃貸開始によって、2021年末からLIFULL HOME’Sほか不動産ポータルサイトが木造マンションという区分で広告掲載を可能にしたため、広く知られる契機ができたことになる。

第一号物件の「モクシオン稲城」は5階建て51戸の賃貸物件で(1階はRC造)、国土交通省「サステナブル建築物等先導事業」に採択されており、数々の先進的な取組みが採用されている。当然ながら梁や床、壁など建物の主要部分は木造で、建設時のCO2排出量はRC造の約半分。建物は断熱性が高く調湿作用があり、ALC100mm厚の約4分の1の床衝撃音。また認定率わずか5.6%の耐震等級3という極めて高い耐震性能や、耐用年数75~90年という耐久性を誇る劣化対策等級3の取得など、優位性が極めて高い住宅として注目されている。

木造マンションの開発はカーボン・ニュートラル実現の取組みに直結している。2050年までにCO2ほか温室効果ガスの排出量と吸収量を等しくするためには、鉄やコンクリートに代えてCO2の放出量が圧倒的に少なく、かつ吸収量も高くて固定化が可能な木材を有効活用することが、住宅業界に求められる施策だからだ。

ほかに、木造マンションのメリットは、鉄骨やRC造よりも軽量で工事期間の短縮とコスト削減が可能となること(モクシオン稲城は竣工まで1年)、国内の木材資源の活用によって国内林業の活性化に資することなどが挙げられる。また通気性や吸湿性に優れ、日本の高温多湿な気候にも適応する快適性や柔らかさ、香りによるリラックス効果などもある。

デメリットは耐火性能や遮音性能がRC造よりも劣るとされることだが、木材は住宅建材サイズであれば熱伝導が遅く、表面だけが燃えて炭化し、内部まで火が通るのには時間がかかるので、総合力でいうと耐火性能に大きな違いはないだろう。遮音性能についても、近年では技術的にRC造と変わらない性能を実現できるようになっている。

このようにメリットばかりの「木造マンション」だが、木材で大きな建物を造る経験値は足りず、木造マンションがイメージにないユーザーも多いことから、普及という点ではハードルが高いのも事実だ。

※木造マンションと表記するには、共同住宅であることと3階建て以上であることに加え、住宅性能表示制度による住宅性能評価書の取得が必須で、以下の等級条件を満たすことが求められている

劣化対策等級(構造躯体等)が等級3かつ、①もしくは②の等級・条件を満たすこと
①耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)が等級3であること
②耐火等級(延焼の恐れがある部分(開口部以外))が等級4もしくは耐火構造であること

新たな住宅のスタイルとして、またカーボン・ニュートラル実現の切り札として、木造マンションおよび木造オフィスビルは今後普及するのだろうか。仮に普及しないとすれば何がネックとなるのか、有識者の意見を聞いた。

木造マンションが今後普及していくためにはどのような施策が必要だろうか木造マンションが今後普及していくためにはどのような施策が必要だろうか

今回の時事解説論旨まとめ

論点:2050年までのカーボン・ニュートラルを実現するために、木造マンションおよび木造オフィスビルは普及するのか? 普及に向けてのネックは何か?

宮村氏:普及における最大の課題はコスト。資材価格の上昇によって、以前ほどの差はないものの、鉄骨造やRC造と比べてかなり割高である。

矢部氏:ユーザーにとっての合理性がない限り木造化普及は進まない。木造を民間建築主にとって合理的な選択とするために、まずは公的需要が先導し、供給体制整備を動機付けることが現実的。

ともに、コストを現時点での課題として挙げる。そのネックを解消するための道筋とはいかに? 以下、両氏のコメントを見ていきたい。

コストが最大の課題。コスト抑制に向けた折衷案の要望も ~ 宮村 昭広氏

<b>宮村昭広</b>:株式会社住宅産業新聞社代表取締役。1957年長崎県生まれ。大学卒業後、家電業界専門紙の新聞記者として、冷暖房や照明から水回りまで幅広く住宅設備分野を取材。さらに住宅専門誌の編集などを経て、住宅産業新聞社に。移籍後は住宅産業新聞の記者として住宅設備・建材業界、旧国土庁(現・国土交通省)や旧建設省(同)を取材し、その後取締役編集長として大手ハウスメーカーを担当。2015年から代表取締役に宮村昭広:株式会社住宅産業新聞社代表取締役。1957年長崎県生まれ。大学卒業後、家電業界専門紙の新聞記者として、冷暖房や照明から水回りまで幅広く住宅設備分野を取材。さらに住宅専門誌の編集などを経て、住宅産業新聞社に。移籍後は住宅産業新聞の記者として住宅設備・建材業界、旧国土庁(現・国土交通省)や旧建設省(同)を取材し、その後取締役編集長として大手ハウスメーカーを担当。2015年から代表取締役に

「木造」という言葉に代表されるイメージは、“軽い、弱い、燃える、腐りやすい”といったところだろうか。こうしたイメージからか、木造住宅には「寿命20年説」が、まことしやかに流布されてきた。だが、現実に多くの築20年超の木造住宅が存在しており、実際にお住まいの方も多い。では、なぜこうした誤解が生まれたのか。

有力な説が、木造住宅の法定耐用年数が22年であることに起因するのではないかというもの。ご承知の方も多いかもしれないが、法定耐用年数とは「減価償却資産が利用に耐える年数」のことで、これが過ぎると税務上の資産価値がゼロになるという意味だ。あくまで計算上の数字であって、築20年で住めなくなるわけではないのだが、現実的にはマイナスイメージにつながっている。

さらに、木造賃貸の共同住宅に至っては「木賃アパート」と呼ばれ、どれほど高品質・高性能でも一括りに「アパート」に分類されてしまうという難点があった。そうした“安かろう悪かろう”のイメージを払しょくするために設定されたのが「木造マンション」という概念だ。

国産「木造マンション」の先駆けが、三井ホームが2021年12月に竣工させた「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」といえるだろう。東京都稲城市内に建った総戸数51戸の5階建ての木造賃貸住宅は、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の評価は5つ星で、住棟単位の一次エネルギー消費量3割削減も達成。RC造集合住宅と同レベル(重量床衝撃音LH-55以下、軽量床衝撃音LL-45以下)の遮音性能を実現した高性能遮音床を採用している。

今回のモクシオン稲城において、同社が最も力を入れていたのが木造建築物の「地位向上」であり、その象徴が経済産業省資源エネルギー庁による集合住宅の「ZEH-M」の取得。その上で、立地や管理状況、順法性、建築物の仕上げや構造、設備の劣化状況、耐震性能、土壌汚染などについて第三者が調査・報告する「エンジニアリングレポート」も作成する。木造建築物の価値の明確化につなげるのが狙いという。

木造マンションをはじめ、中大規模構造の木造建築物は環境負荷軽減の観点からも注目を集めており、国も木造建築を推進する立場で利用法の改正を含め後押しをしてきた。だが、普及における最大の課題はコストだ。現状では鋼材やセメント価格が上昇し、鉄骨造やRC造に対し以前ほどの差はないが、それでもかなり割高ではある。
さらには耐火構造認定の問題もある。現行の1時間耐火構造の国土交通大臣認定では、純木造で最高4階建てまでだが、梁と柱で2時間耐火の認定を取得すれば5階以上14階建てまでの木造建築物が建てられる。ただ、その1時間の差が文字通りコストを跳ね上げる。
業界団体としては「例えば90分耐火認定のような中間の設定があればコストが抑えられる」との折衷案も要望している。「数値では表せないが、木造は温かい」という評価もあり、炭素固定など環境性能も含めると木造建築の秘めた可能性は高いはずだ。今後の国の判断が待たれる。

木造中大規模建築物の普及はようやく第一歩 ~ 矢部 智仁氏

<b>矢部 智仁</b>:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中矢部 智仁:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中

何のための木造化か

木造マンション、木造オフィスビルは今後普及するのか。この問いを考える前にそもそも都市部の中大規模建築物の木造化は何のためなのか、を再確認しておく。

よく聞く木材利用促進の「目的」としては、例えばカーボンニュートラルの実現のため、ウッドショックのような市場急変に対応可能な国内産業育成政策としての林業再生、あるいは利用可能に育ってきた豊富な森林資源の有効活用策などといったお題が木材利用促進の背景・理由として挙げられている。これらの背景・理由に共通する特徴はいずれも供給側の思惑が起点にあるという点にある。裏を返せば、都市の中大規模建築を木造化しなくてはならない決定的な理由が需要サイドにあるのかという疑問を抱かせる。ニーズが顕在化しない環境を一般的に考えれば、中大規模建築の木造化普及は進まないのでは?と言わざるを得ない。

ユーザーにとっての合理性はあるか

ところで都市に存在する建築物の中で木造化が進んでいる分野はあるのだろうか。ひとついえるのは、個人住宅における木造の普及である。ではなぜ個人住宅の木造化は進んだか(もともと個人住宅は木造が主流であったわけで、普及拡大というより他の材に移行しなかったともいえるが)。それは資材調達の量的確保の容易さ、建て方、納期などにおいて商品化あるいはパッケージ化されたことでユーザーにとって妥当な費用、期待に沿う可能性が提供されているからだ。言い換えれば、「その選択が合理的だから」ということである。

ではこの先、都市の中大規模建築の建築主、例えば、木造マンションや木造オフィスへの投資を検討する賃貸オーナーにとって木造化は「合理的」な選択になるのだろうか。
中大規模化の可能性を広げる一つの財としてCLT(直交集成板)があるが、CLTの建材としての性能・品質やコストについては、性能面(例えば耐火性能や加工性、強度など)においては鉄骨等の既存建材の代替の候補に挙げられるが、一方で価格にも関係する供給量の確保においてはまだまだ不十分であるといわれている。価格低下につながる供給量の拡大については鶏が先か卵が先かの議論であるものの、こうした現実を見ても「合理的」な選択の結果として建築主が積極的に木造化を選択するほど機は熟していないといえそうである。

都市の中大規模建物の木造化は端緒についたばかり

社会的な変化としては、2010年に制定された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が2021年の改正によって法律名を変え(「建築物等における木材の利用の促進に関する法律」)、法の対象建築物も公共建築物から建築物一般に拡大された。ルールにおける対象が変わったからといって建築主の選択意向が直ぐに変わることはないと思うが、まずは機運を高める端緒についたというところではないか。
こののち建築主、特に民間建築主の積極的な「合理的な選択」を促していくには、法改正のような事業環境の良化を生かしつつ、やはり公的需要が先導することで供給体制整備を動機付けていくことが現実的ではないかと考える。

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