不動産投資市場の誕生

不動産市場においては、これまでさまざまな技術革新が起こり、産業として大きく成長してきた。近年、多くの市場でAIやビッグデータを用いた市場革新が進められ、不動産市場も新しい産業へと進化していくのではないかといった期待が寄せられている。
しかし私が、「不動産市場における最も大きな技術革新は何か」と聞かれたら、不動産の証券化技術の開発と投資市場の整備であったと言うであろう。

2001年、2銘柄のリートが東京証券取引所に上場。不動産投資の門戸が大口投資家から個人を含むすべての投資家に広がった2001年、2銘柄のリートが東京証券取引所に上場。不動産投資の門戸が大口投資家から個人を含むすべての投資家に広がった

1990年の不動産バブルの崩壊は、日本の不動産市場だけでなく経済全体に大きなダメージを与えた。そのような破綻した市場を再生させるために、当時のイノベーターたちが集まり、不動産投資市場の誕生を目指したのである。

私自身も、1996年に有志らと私的研究会を組織し、不動産投資インデックスなどの情報インフラの整備を開始した。そして2001年に上場リート市場が誕生した後は、年々と市場は大きく、そして進化してきた。

バブル崩壊後の不動産市場を振り返ると、不動産価格は持続的に下落し、金融機関は不良債権問題に苦しんでいた。誰もが出口を見いだすことができていなかった中で不動産市場を再生していくためには、ハゲタカと呼ばれた資金も、不動産証券化のスキームを通じて多様な資金を不動産市場へと流入させることも、必要不可欠であったといえよう。

なかでもリート市場の誕生は、不動産の投資商品が小口化されることで、不動産投資の裾野が広がり、私たち家計をも投資が可能となっていったといった意味で、きわめて画期的な出来事であったと言ってもよいであろう。

不動産投資市場の成熟

リート市場の誕生以降、不動産投資が小口化され、かつ上場されることで市場の透明度が増すとともに、家計においても不動産投資が一層身近なものとなった。市場参加者の専門性や社会的なルールが洗練される過程で、不動産市場の透明度は飛躍的に向上した。

そのような不動産投資市場は、第1期の生成期から、リーマンショック後には第2期の成熟期へと向かう。世界的な経済成長速度・生産性の低下を通じて、また金融市場の低い金利水準が持続的に継続されるという状況で、長期的な不動産投資の重要性が再認識されるとともに、一層洗練された市場への進化が求められたのである。

長期的な資金を運用する投資家は、リターンを最大化するのではなく、リスクを最小化するような行動規範を持つ。そのような中では、非流動的な投資資産として毛嫌いされてきた不動産は魅力的な投資対象へと変質した。

リスクを最小にするように投資配分を決定しようとすると、不動産を投資対象に組み込まざるをえないのである。長期資金を運用する投資家が不動産に投資する目的としては、リスクを最小にしていくという分散効果に加え、厚いインカム収益、非流動性などに起因する高い収益率とインフレ・ヘッジが挙げられる。かつてはこれらの効果に対して疑問が提示されることがあったが、不動産投資研究が蓄積されるとともに、不動産投資の実績もまた積み上げられ、学術的にもこれらの効果が明らかにされてきた。

このような中で、わが国においても不動産投資市場の第2期が幕開けした。年金基金や郵便貯金などの機関化された資金が不動産投資市場へと参入してくる中で、市場はさらに進化せざるを得なかったのである。もちろん低金利下で従来のコアな投資対象のリターンが低下したという外圧もあったが、本来の長期投資の在り方が整理される中で、不動産が明確な形で投資対象として認識されたといってもよい。

上場リート市場は22兆円の規模までに拡大し、私募リートも含めれば40兆円をも超える産業へと成長してきた。

このような不動産投資市場の構築には、20世紀後半から多くの先人たちの強い想いと並々ならぬエネルギーが投下され、そこに多くの参加者を加えながら一つの産業へと成長してきた歴史を持つ。そして、20世紀の黎明期に私たちが描いた理想的な姿へと、ゆっくりではあったが進化し、近づいてきたと言ってもよい。

では、不動産投資市場にはこれからも成長余力はあるのだろうか。今後どのような方向へと向かうべきであろうか。黎明期において予見できなかった新しい未来を、また描くことができるのであろうか。

日本の不動産ストックは、約2,562兆円規模にのぼる日本の不動産ストックは、約2,562兆円規模にのぼる

不動産投資市場の最終形とは

従来不動産投資市場は、大資本を持つ者しか参加できない市場であった従来不動産投資市場は、大資本を持つ者しか参加できない市場であった

不動産投資市場が果たした最も大きな貢献は、不動産市場の民主化である。20世紀までの不動産投資市場は、ごく限られた大きな資本を持つ企業しか投資ができないような市場であった。しかし、証券化という技術が登場し、不動産投資のリスクを細分化することを可能とした。そして、上場市場を誕生させることで、家計をも含む多くの参加者を不動産投資市場の中に取り入れることを可能とした。個人投資家を不動産投資市場に参入させるために、市場の透明化を進めるとともに、投資から発生するリスクを管理していく技術も大きく進化した。そのような中で、不動産市場そのものの効率化も進んだ。

さらに家計に対しては、従来は資産形成において預金・株式投資・国債などの債券投資しかなかったところに、不動産投資のリスクを組み入れやすくすることで、リスク分散効果が働きやすくなったという点も評価されるべき点である。しかし、残された課題も少なくない。

上場リート市場の投資家層は、広い裾野への拡大が期待されたが、実際には一部の投資家層に限定されてしまっている。具体的には、多くのシェアを占める投資家は、「年齢の高い、投資経験が豊富な、富裕層」といった性格が強い。不動産投資の分散効果という性質を考えれば、本来であれば若年層から長期間にわたって積み立てていくことがふさわしい。しかし、現在の商品性では株式と投資としての性格が強く、一口当たりの金額も大きいことからそのような投資資金の受け皿にはなりにくい。リートを組み込んだ投資信託などの金融商品もあるが、レバレッジが強くかかっているために、一層エクイティとしての性格が強くなり、本来の不動産投資の魅力を低下させてしまっている。
また、現在のミレニアム世代には、単純な投資収益や分散効果だけでは、大きな投資のドライバーになるとも考えづらい。さらには、投資資金は都心部の一部の良質な不動産に限定されてしまっているという問題もある。

実現に向けた2つのハードル

不動産投資市場に次なる新しい技術革新を起こし、本来の不動産投資市場の最終形へとステージをもう一段高めるためには、次の2つの大きなハードルを超える必要がある。

第1が持続可能性の高い社会を実現するための未来への投資であったり、社会課題を解決しようとしたりする取組みへの投資といった、従来とは異なる基軸による投資リターンの定義化と投資対象の拡大である。具体的には、地方部の不動産資源の再生である。
第2が多くの参加者を巻き込むことができるような、投資規模の小口化である。

いずれの場合も、それを実現するための技術革新が要求されている。後者については、近年の技術革新によって実現可能性が高まった。例えば、STO (Security Token Offering)の活用である。STOとは、ブロックチェーン上で発行されたトークンを用いた資金調達方法のことを指し、スマートコントラクトの技術を組み込むことで、証券の小口化と配当の支払いの自動化を実現する。不動産の所有権の分割コストの低下を通じて、多くの裾野を巻き込むことができるようなサイズへと小口化をすることができる。STOだけでなく、当該分野では新しい技術革新が進むことは必至である。

前者についても、地方創生のための技術や私たちの意識の向上によって、少しずつではあるが前に進みつつある。不動産投資市場の最終形に向けての助走が少しずつ始まっていると言えよう。このような未来を、自分自身が当事者となって創造していきたいと考えている。

STO (Security Token Offering)は、不動産投資の小口化を実現する鍵となるSTO (Security Token Offering)は、不動産投資の小口化を実現する鍵となる