日本の個人資産状況は、どうなっているのか

平成29年度の金融庁の報告によると「我が国の家計金融資産(約1,700兆円)の52%(約900兆円)が現預金。米英に比べ株式・投信等の割合が低く、家計金融資産の伸びは低い水準(運用による増加に大きな差)。近年の推移を見ても、我が国における現預金優位の状況は大きく変わっていない」という。このように日本の資産はほぼ運用にまわされていない状況であり、お金に関して保守的な国民性がうかがえる。

現預金以外の日本の家計資産はというと、割合では次が不動産となる。バブル期は土地神話まで生まれ、資産の70%以上が不動産といわれた時代もあった。今でも資産の中で重要な位置を占めている。
とくに多くの土地や物件をもつ所有者(オーナー)にとっては、不動産は重要な資産。その資産をいかに生かし、守るかについてが重要であることは間違いない。資産管理の中でも物件の管理については、不動産管理会社がその役割を担うことになる。

そんな中、“資産を総合的にとらえる”ことで、不動産管理業の枠をこえて顧客の資産管理に挑戦し続けている会社がある。福岡市を中心に3万7,647戸(2020年10月時点)の賃貸物件を管理し、1951年の創立から70年周年をむかえた三好不動産である。
“総合不動産コンサルティング企業”として「超・不動産宣言」を掲げる三好不動産の取組みを、代表取締役社長の三好 修氏にうかがってきた。

1951年の創立から70年周年をむかえた三好不動産。代表取締役社長の三好 修氏1951年の創立から70年周年をむかえた三好不動産。代表取締役社長の三好 修氏

“資産を総合的にとらえる”ことで新しい不動産管理業に挑戦

<b>三好 修:</b>株式会社三好不動産代表取締役社長。1980年に株式会社三好不動産に入社。1998年株式会社三好不動産の代表取締役社長に就任。2020年で創立70周年を迎えた
三好 修:株式会社三好不動産代表取締役社長。1980年に株式会社三好不動産に入社。1998年株式会社三好不動産の代表取締役社長に就任。2020年で創立70周年を迎えた

編集部:本日は、御社の取組みについて伺いたいと思います。よろしくお願いします。
三好不動産は「超・不動産宣言」をビジョンに掲げております。なぜ「超・不動産宣言」と掲げたのか、その背景についてお伺いできますでしょうか。

三好氏:「不動産とは、何なのか。不動産管理業とはどういうことなのか」ということなのですが、弊社の業務は、これまでは不動産の売買、仲介、賃貸管理、賃貸仲介の3つを柱にビジネスを展開していました。しかし、そのビジネスは本質的には、「お客様の資産を育て、守る」ということに行きつくと思います。銀行は、現金を預かりますがその現金を生かすための保険や投資信託を扱います。私たちは不動産という、やはり大切な資産を扱います。しかし、物件だけの管理に向いていたのでは、クレームの時でしかお客様のところに伺えないし、本来、お客様へのサービスとして本当にやるべきは、資産を守り、育てることではないのか?と思いあたりました。お客様へのサービスを考えた場合、もっと広範で業態を考えるべきだと思ったことがきっかけです。

編集部:そういった取組みは、どこからはじめられたのでしょうか?

三好氏:資産というと、現金(預貯金含む)・有価証券・不動産・生命保険なのですが、まずは新しい収益事業として生命保険サービスをオーナーに提供することを考えました。しかし、これがうまくいかない。いきなり私たちが不動産管理業から、資産管理の観点で保険の話をしても、オーナーの反応は冷ややかだった。不動産管理会社がお客様の資産を総合的に管理する立場として、いかに信頼を得ていくのか、そこが課題となりましたね。

1つの物件だけの管理では見えないオーナーの資産と資産価値

編集部:保険の提案がオーナーに受け入れられなかった……それは、何故だったとお考えでしょうか。

三好氏:当初は、保険サービスを提供することが目的となってしまっていたから、受け入れてもらえないのは当然ですよね。ビジネスを進めようとすると、いつしか手段が目的になってしまっている。改めて、何故、保険に入ることが必要なのかを考えたわけです。もちろん、リスクに対する保険の意味合いもあるけれど、資産をもつお客様にとっては相続税対策のために保険に入るということもある。物件を管理する・保険サービスを提供する、という手段ではなくお客様の資産を総合的にどう考え提案するかができなくてはいけないと気付いたわけです。

編集部:最初の「お客様の資産を総合的にとらえる」というところに立ち返ったわけですね。

三好氏:そうです。木造のアパート1棟で6戸のオーナーと考えるだけだと、そういう提案しかできないけど、そういったオーナーは他に物件や駐車場をお持ちの方もいる。毎月家賃が100万とか200万入っているとか、空きの駐車場があるとか、ビルを持っているというと、オーナーには色々な問題が出てきます。私どもの会社で管理をお引き受けしていない物件があったとしても、建物の修繕管理費をどうするのかとか、オーナーはそういった問題も抱えているわけです。我々としてはいろんな提案ができるはずなんです。保険を手段と考えると、オーナーが一番、頭を抱える問題が「相続」であると思ったわけです。お客様の抱える資産相続の問題を物件管理だけではなく一緒に考えていける、そういったサービスをしようと考えました。

遺言書の作成まで…オーナーの資産を継続的に守るプロとなる

編集部:不動産会社からお客様の資産を守るコンサルティング企業を目指すわけですが、会社内での意識の改革も必要だったのではないでしょうか?

三好氏:いやもう、それはその通りで、知識のない人間が大切な資産のアドバイスなどできませんから、社員みんなで相続を勉強するしかないんですよ。もちろん、すぐにできるわけではないのですから。お客様の資産を総合的にコンサルできる会社になると思ってから23年くらいやってきて、ようやく今の「超・不動産宣言」が実質的に形になってきた。本来、そういった相続の問題は皆さん弁護士や税理士に相談するでしょ。でも我々はオーナーの物件管理をしていて毎月のお付き合いがある。弁護士や税理士はオーナーの総合的な課題の一部の解決にお手伝いをしてもらうことはありますが、本来、不動産物件をお持ちのオーナーの課題には私たちが一番近いところにいるはずなんです。

編集部:なるほど、不動産のプロではなく、資産管理のプロになるということですね。

三好氏:そうです。本来、不動産管理会社はそういった役割を担えると思います。取組みを始めたころ、ちょうど私も日管協(※公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)の会長になりましたが、日管協でも相続支援研究会を立ち上げ、弁護士や税理士も入れて、勉強できる環境を整えました。日管協で「相続支援コンサルタント」という資格制度を設けているのですが、その合格者が社内で100名くらいになりました。

編集部:そういった努力によって、御社へのオーナーの信頼が得られてきたということでしょうか。

三好氏:それでもやはり、弁護士や税理士の資格を持つ人より信頼されるためには、そういった勉強だけでなく、実際に役に立つ機会を設けるのが必要でした。そのために資格をもつ社員が講師でオーナー向けの講演会やセミナーを複数行うようになりました。ちゃんとした知識で事例をもって説明ができ、オーナーの質問に答えられるようになると、ようやく“いち不動産担当者”ではなく、資産管理の講師をすることで“資産管理のプロ”としてみてもらえるようになりました。
今では、年に約70回、資産管理や運営・相続や家族信託などの講演会を行っており、その講演がきっかけの相談も増えるようになってきています。

編集部:どういったご相談が多いのでしょうか?

三好氏:やはり、資産運用と節税、そして相続のご相談が多いですね。相続については、一つの大きな節目があってそれが遺言書です。私たちはオーナーからの依頼で、遺言書作成も行っています。今では月1~2件ほどの遺言書を作成していますよ。また、一人の担当者に任せっきりにしないで、資産運用の話・保険の話・節税の話・相続の話・遺言書の話と、その都度、詳しい相談ができるように担当者を変えて連携してオーナーの課題を解決していく体制をとっているんです。
人生100年時代、オーナーが100歳をむかえると子どもは70歳、その子どもは40歳と資産運営を総合的に考えると長いお付き合いを世代を超えて継続的にやっていかなくてはならない。そう考えて、前もって一緒に対策を考えていくことがオーナーの資産を守ることだと考えています。

三好不動産が行っている相続対策セミナーの様子三好不動産が行っている相続対策セミナーの様子

LGBT、外国人。部屋探しにマイノリティをつくらない

店舗には分かりやすいようにLGBTフレンドリーを示すレンボーマークのステッカーが掲示されている店舗には分かりやすいようにLGBTフレンドリーを示すレンボーマークのステッカーが掲示されている

編集部:三好不動産は、そういった相続・資産ビジネスだけでなく、社会課題の解決にも積極的ですよね。LGBTや外国人など、今までは部屋探しに苦心していた方々に対しての部屋探しをサポートするなど、SDGsの考え方にそった取組みも行われています。これは、どういった経緯だったのでしょうか?

三好氏:知り合いからLGBTの啓発活動をしているNPO団体の代表の方を紹介され、LGBTの方の住まいに関する悩みを知ったのがきっかけです。「なかなか、部屋が借りられない」というんです。その1~2週間後ぐらいに賃貸部門の全体研修があったので、その方に来ていただきLGBTの基礎知識や部屋探しの現状をお話してもらいました。そうしたら、ある社員が「私に担当させてほしい」ということで任せたんです。そこから本格的に取組みが始まりました。LGBTフレンドリーを示すレインボーのバッジを作ったりして、まずは賃貸から始めました。取組みをしていく中で、LGBTのカップルの方からパートナーと家を買いたいというご要望を多く頂くようになったこともあって、今年4月にLGBT向け住宅ローンを取り扱う楽天銀行と提携しました。多様なお客様のニーズにお応えできるようこうした取組みも行っています。

編集部:それは、対象の方々にはすごくありがたいですよね。外国人の方々へのサポートも同じでしょうか。

三好氏:福岡は大陸が海を隔てて近いこともあり、また大学があって留学生も多いことから部屋を探す外国籍の方が多いんです。外国人の方々もスムーズにお部屋探しができるように、社員にも外国籍の方を採用しています。現在16名在籍していますが、国籍は中国が10人、韓国が3人、ベトナムが2人、ネパールが1人です。すごいのは、そのほとんどが宅建士の資格を持っているんです。日本語ももちろん話せるからお客様の対応もできるし、基本的に全員TOEICは800点くらい。みんな優秀ですよ。こういった時代なのだから多国籍の方々が住まいを探すのは当然のことですよね。また、今はコロナで海外でのビジネスはいったん見合わせているけど将来こういった人たちが活躍してくれるだろうと思います。

オーナーが守る土地。そのつながりのある地域で不動産会社が行えること

編集部:御社はまた、子ども食堂や一人暮らしの高齢者のための取組みもしていらっしゃるとお聞きしております。

三好氏:子ども食堂のほうは、介護事業を展開している関連会社の​株式会社サンコーライフサポートで熊本県合志市のサービス付き高齢者向け住宅「スリースマイル秋桜」内で子ども食堂を運営しています。ユニークなのは、子どもたちがスリースマイル秋桜の入居者の食事提供時の配膳の手伝いや、リハビリのお手伝いをするなど職場体験もできるということです。食事をするだけでなく、お手伝いをすることで人の役に立つ気づきも感じてもらえればと思います。また、子どもたちと地域の人たちをつなぐコミュニティスペースにもなっていたり、高齢者などと触れ合うことで、多様な価値観や考え方に触れてほしいと思っています。小学生以下の利用はすべて無料となっています。

編集部:子ども食堂もそうですが、高齢者の一人暮らしの問題も地域で課題ですよね。

三好氏:そうなんですよね。当社の本社近くに、関連会社で原状回復やリフォーム事業を行う株式会社ビルドヒューマニーがあるのですが、そこの駐車場スペースでJAと協力して月2回ほど10~12時までマルシェを開いています。ここのご近所に住んでいらっしゃるご高齢の方など、100人くらいが買いに来られるんです。地元で採れたてのものが集まるというので人気なんですよね。お花も新鮮で長持ちすると評判です。集まってくださる地域の方は、こういった場があるとうれしいと言ってくださるそうです。

編集部:新鮮な野菜とか、一人暮らしの方にはうれしいですよね。本当に地域とオーナーとの長いお付き合いができるように取組んでいらっしゃるのですね。

「ビルドヒューマニーマルシェ」には新鮮な地元野菜や花などが並び、地域の人々に喜ばれている「ビルドヒューマニーマルシェ」には新鮮な地元野菜や花などが並び、地域の人々に喜ばれている

三好氏:オーナーとの関係も地域との関係も「信頼」の関係が必要です。資産を守ること、そのことを仕事にするということは、すべては、信頼を最大化することです。オーナーさんだけでなく、部屋を借りてくれるユーザーの方々、地域の方々、そういった方々の信頼を守り、つなげていくことこそが弊社がしなくてはいけないことだと思っています。
わが社のゾウのマークには「親から子へ信頼のおつきあい」という想いが込められています。コロナ禍で、ニューノーマルといわれる社会変化が起きていますが、そういう時代だからこそなくてはならない企業だと思ってもらえるように信頼を積み上げていきたいと思っています。

編集部:御社のさまざまな取組みが、すべて「信頼につながる」ことへの取組みだということが分かりました。本日は、ありがとうございました。

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