2021年4月から住宅ローンの控除対象住宅は専有面積が40m2以上に変更

2021年度の税制が開始されて数ヶ月、住宅市場は株価の高値安定や巣ごもり消費の間接的な影響もあってコロナ禍でも順調に回復している。

昨年末に注目された住宅ローン控除については、2020年度に特例として10年から13年間に延長された控除期間がそのまま据え置かれることになり、また入居期限も2022年末まで2年間引き延ばされた。また、特筆すべき事項として、住宅ローン減税の対象となる住宅の専有面積要件が業界たっての要望により、これまでの「50m2以上」から「40m2以上」に緩和された。

この変更によって、これまで各金融機関が取り扱う「住宅ローン」商品では概ね50m2以上とされてきた対象物件(少数ながら例外あり)の面積要件は、2021年4月以降40m2に引き下げられている。実際には延べ床面積が40m2台の戸建は極めて想定しにくいから、今回の面積要件緩和はもっぱらマンションを対象とした施策となる。

現状は、主に若年層購入者が、例えば各都市圏中心部の新築マンションを購入する際、予算的に住宅ローン控除を受けられる専有面積の物件を購入できず恩恵を受けられない、といった「制度の歪み」を解消できるというメリットが見出される状況にある。

ただし、これは一義的な解釈であって、弊害もあり得るとの見方がある。
この面積要件は登記簿上の面積、つまり専有部分の内側を測った「内法(うちのり)面積」であり、一般にマンションの間取図で採用されている面積表記は壁や柱の厚みの中心から測る「壁芯(かべしん)面積」であるため(その差は概ね5%程度)、2021年度から住宅ローン控除を受けるには少なくとも間取図上で42m2以上、物件によっては44m2程度の壁芯面積が必要となる。住宅ローン控除を受けるために想定よりも価格の高い物件を購入してしまう可能性があるとの指摘だ。

住宅ローン控除は元本の上限が4,000万円に固定(長期優良住宅は5,000万円:対象マンションの面積要件は55m2以上であるからここでは考慮しない)されているため、13年間の控除総額は最大で480万円(10年間は元本の1%+11~13年目は合計2%相当で算出)となるが、都心の30m2台と40m2台のマンションの価格を比較すると同一物件でそれ以上の価格差があるものも見受けられ、最大480万円の控除を受けるために500万円以上高額な物件を購入してしまう可能性は考えられる。

このようなケースを想定すれば、新築マンション分譲大手は簡単に40m2台のマンション(その多くは1LDKタイプ)の供給を増やすこともまた難しいのではないか、ということになる。
果たして住宅ローン控除対象物件の専有面積引き下げは新たな市場活性化策となるのか、それとも税調が懸念する不必要なローンの利用を拡大させることになるのか、有識者の見解を聞いた。

住宅ローン控除対象物件の専有面積引き下げは新たな市場活性化策となるだろうか住宅ローン控除対象物件の専有面積引き下げは新たな市場活性化策となるだろうか

面積要件の緩和は消費者の居住の選択肢を増やす ~ 伊藤 陽平氏

令和3年度の税制改正で盛り込まれた、住宅ローン減税の適用に当たって専有面積の要件を「40m2以上」に緩和する措置は、住宅・不動産業界にとって待望の政策だ。

マンションの主なコストとなる建築費と土地価格は上昇を続けており、販売価格は必然的に上げざるを得ない。筆者の属する不動産経済研究所の調査では、首都圏の新築分譲マンションの戸当たり平均価格は、11年は4,578万円だったが、20年は6,083万円に大幅に上昇している。そのような環境下でも多くの消費者へ住宅を提供するため、分譲マンション事業者は空間利用の効率化を進め、無駄な面積を削って販売価格を下げようとするプランを増やしてきた。現に、首都圏の戸当たり平均専有面積は、11年の70.46m2から20年は65.73m2に7%近く減ってきている(不動産経済研究所調べ)。

一方で、この期間の日本の世帯所得は、平均値でも中央値でも上昇したマンション価格に対応できるほど伸びていないことが明らかだ。こうした事業者・消費者のお互いの事情を考えると、公平性が重要な「減税」は適用対象の拡大が望ましい。面積要件の下限を50m2から40m2へ緩和した今回の措置は、多くの消費者に居住の選択肢を少しでも増やす現実的な解と捉えるのが妥当だ。

実際に、都市型のマンションを提供しているデベロッパーでは、40m2台の面積帯で単身者ではなく2人以上の家族が住む状況を想定し、主に2DKや2LDKの間取りの商品の開発を進めている。たとえば、大京の「ライオンズミレス」シリーズや、伊藤忠都市開発の「クレヴィア」シリーズなどにそうしたタイプが取り入れられている。40m2台で効率的な住戸を設計するには、土地の形状など条件が必要となるが、アウトポールや生活動線の整理、独自の収納や収納のアウトソーシングなどの創意工夫によって快適に暮らせる住戸が市場に提供されている。

販売現場では顧客へ提供できるメリットが増えたという好評も取材で耳にする。ただし、消費者保護の観点は必須であり、過度なセールストークに利用されることは避けなければならない。そのためにも、居住面積要件の下限の引き下げが様々な場面で定着すれば、大手の事業者による商品開発の新たな機会が生まれ、品質の向上が見込まれる。消費者が主体的にライフスタイルに合わせて、都市型の利便性あるコンパクトマンションや郊外型の余裕あるマンションなどを選べる可能性がより増えて、良好な市場に近付くのではないだろうか。


伊藤陽平:株式会社不動産経済研究所 通信編集部「日刊不動産経済通信」記者。1983年生まれ。早稲田大学法学部を卒業、北海道大学大学院法学研究科法律実務専攻を修了。2018年8月に入社。総合不動産会社や鉄道系、商社系、マンションなどのデベロッパー、マンション管理会社などを主に担当する。

単身・小家族向け住戸の選択肢拡大につながる ~ 酒造 豊氏

<b>酒造 豊</b>:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている酒造 豊:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている

2021年度の税制改正により、住宅ローン減税の対象となる住宅の専有面積要件が「50m2以上」から「40m2以上」に緩和された。また、コロナ禍以降の新築マンション市場において、単身者によるコンパクト住戸購入の動きもみられることから、40m2台の住戸を含む60m2未満のコンパクト住戸にも注目が集まっている。

首都圏(1都3県)の新築マンション市場における60m2未満のコンパクト住戸の供給状況をみると、2015・2016年は5,000戸前後、2017年は5,766戸、2018~2020年は6,000~7,000戸台の供給が行われている。首都圏全体の新規供給戸数が減少している状況下でも、コンスタントに供給が行われ、新規供給戸数全体に占める構成比は2015~2017年の10%台から2018・2019年には20%前後に、2020年には25%程度にまで高まっている。

面積帯別の供給戸数をみると、年によって増減はあるものの、50m2台が最も多く、次いで30m2台、40m2台の順となっている。最近の新築マンション市場においては住戸面積を縮小し、グロス価格の上昇を抑制する動きが強まっており、コンパクト住戸についても30m2台が増加傾向にある。2020年では50m2台が3,047戸(前年2,827戸)、30m2台が2,235戸(同1,479戸)、40m2台が1,265戸(同1,319戸)と、30m2台の供給戸数が大きく増加したのに対し、40m2台は前年を下回っている。

こうした供給状況をみると、グロス価格を重視して30m2台の住戸の供給が、部屋数や住宅ローン減税などの税制面を考慮して50m2台の住戸の供給が行われていると思われる。供給者、需要者共に40m2台住戸のメリットが今一つ感じにくかったことも、40m2台住戸の供給戸数が増加していない1つの要因と思われる。

その一方で、単身世帯、夫婦のみ世帯、特に単身世帯数が大幅に増加している。その結果、分譲マンションにおいては単身世帯、2人家族世帯の購入も増加傾向にある。従来のファミリー層向けの住戸プランだけでなく、単身世帯・夫婦2人世帯を中心とした小家族向けの住戸プランに対するニーズも高まってきている。こうしたことも60m2未満のコンパクト住戸の供給がコンスタントに行われている要因の1つとなっている。

さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、在宅勤務など、家にいる時間が増加し、住宅に対する意識も変化している。30m2台住戸の購入者層の中心である単身世帯においても在宅勤務が増加し、家にいる時間が長くなる傾向にあることから、グロス価格が多少高くなったとしても、ワークスペースのある間取りや使い勝手の良い住戸プランに対するニーズも増加している。

今回の税制改正によって、住宅ローン減税の対象となる住宅の専有面積要件が「50m2以上」から「40m2以上」に緩和されたことは、こうした小家族世帯のニーズに対応し、住宅の選択肢拡大につながる。今回の住宅ローン減税の対象となる住宅の専有面積要件の緩和は、現状では消費税率引き上げ対策としての時限措置となっているが、今後も単身世帯を中心に小家族世帯は増加傾向が続き、小家族世帯の持家需要も底固く推移する思われることから、一定の要件のもとに恒常化する必要もあると思われる。

住宅ローン控除2022年改正に向けて~ 坂根 康裕氏

<b>坂根康裕</b>:「住宅情報スタイル首都圏版」(現「SUUMO新築マンション」)「都心に住む」元編集長。不動産市況解説サイト「Fact Stock(ファクトストック)」を運営。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」坂根康裕:「住宅情報スタイル首都圏版」(現「SUUMO新築マンション」)「都心に住む」元編集長。不動産市況解説サイト「Fact Stock(ファクトストック)」を運営。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」

年初、話題にのぼった住宅ローン控除の面積要件緩和「下限50m2から40m2に」は、本来の持家促進策としての制度改正ではなく、コロナでダメージを被った経済回復策としての側面が強い。現に契約期限は注文住宅が令和3年9月まで、分譲住宅は同11月まで。国土交通省リリースのタイトルも「住宅ローン減税等が延長されます!」ではじまり、「控除期間13年の措置について」とうたわれているので、消費増税に伴う減税措置の再拡充と捉えることができる。したがって、売主が住宅事業者に限定され、個人間売買(中古)は対象とならない。デベロッパーやハウスメーカー、買取再販業者等への支援策と受け取る他ない。コロナ禍で住宅市場は思いのほか活性化しているため、今となっては違和感があるが、決定時点でそこまで市況を読み通せなかったのだろう。その1年前(2019年末)にも面積緩和案が新聞に出たことから勘違いしがちだが、2021年のそれは抜本的な改正ではなかった。

しかし、逆に2022年は仕切り直すに良いタイミングだ。個人的には以下にあげる3点の実現を願う。

ひとつは、やはり「中古住宅も含めた面積緩和」だ。「ストック住宅の活用」を方針のひとつに掲げ、すでに新規分譲よりも中古流通が多数となっているマンション市場において、新築だけを対象とする住宅ローン控除制度は、例え一部の面積帯だけであったとしても一貫性に欠ける。法に基づく、住生活基本計画のなかで単身者の「誘導居住面積水準」は40m2(都市居住型)。財閥系デベ曰く、いまやコンパクトマンションの買い手は投資家層中心ではなく、実需層が目立つという。国が目指す面積水準に合致し、市場の実態も伴っている。今後、晩婚化等で一人世帯の数は増加する一方だ。家を買った後の税制優遇の差を早い段階で解消すべきではないか。

次に、多数のマイホーム購入者が利用する控除率1%を下回る変動金利への対応。すでに改正が見込まれているので詳細は割愛するが、「逆ザヤ」現象は国民の納得のいく説明がつかないだろう。マイナス金利政策(2016年1月)の翌年くらいに改めておくべきだった。

最後に、マンションの登記簿面積(内法)表示の義務化。物件概要に記載されている専有面積は「壁芯」である。普段目にすることのない登記簿面積の値がローン控除の要件なので、わざわざ確認(とその対応)の負担が取引当事者にかかる。効用は、その抑制にとどまらない。すべての検討者が「購入対象面積(壁芯)」と「実際に使える面積(内法)」の差をチェックできる。柱が住空間にせり出した間取りが減少するとしたら、良質なストックを目指す国の方針にも一致している。

若年層は、老後にこそ重くなる住宅ローンをイメージすべき ~ 松崎 のり子氏

<b>松崎のり子</b>:消費経済ジャーナリスト。生活情報誌の副編集長として20年以上、節約・マネー記事を担当。雑誌やWebを中心に、生活者目線で記事を執筆中。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)ほか。「消費経済リサーチルーム」https://www.ec-reporter.com/松崎のり子:消費経済ジャーナリスト。生活情報誌の副編集長として20年以上、節約・マネー記事を担当。雑誌やWebを中心に、生活者目線で記事を執筆中。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)ほか。「消費経済リサーチルーム」https://www.ec-reporter.com/

「住宅ローンを組むなら、物件価格の2割~3割の頭金を貯めてから」というかつての常識は今や通用しなくなったようだ。三井住友トラスト・資産のミライ研究所が出したレポート「住まいと資産形成に関する意識と実態調査 ~住宅購入と住宅ローン」(2021年3月調査)によると、調査に答えた住まい購入者のうち約半数が、「頭金ゼロもしくは1割」で住宅ローンを組んだという。とくに20代では約6割、30代では7割近くにも上っていると聞くと、それは決してイレギュラーな選択ではないようだ。おまけに頭金ゼロで買ったと答えた購入者は、30代で約38%と4割近くもいた。

この背景には「住宅ロ―ン減税延長の終了前に利用したい」「十分な頭金を貯めているうちに、物件価格がさらに上がってしまうかもしれない」という損得勘定もあるだろう。控除期間13年間の特例を受けるための契約期限は、新築物件で2021年9月末までといよいよ残り時間がなくなってきた。

さらに、その背中を押すことになりそうなのが、住宅ローン控除対象物件の面積要件の緩和だ。
所得の少ない若年層や単身者が買うような、専有面積40m2以上の物件でも控除の恩恵が受けられると聞けば、消費者はますます「今でしょ」とのセールストークにあおられてしまうのではないだろうか。頭金なしに、時間切れになる前にと急いで購入に踏み切る人が増える可能性はないだろうか。借入金額が“身の丈以上”の金額だとしても、変動金利を追い風にして借りられてしまうご時世でもある。

しかし、所得も手持ち資金も十分ではない若年層がローンを組むとなれば、月の返済額も抑えるしかなく、返済期間も長くなる。最低でも35年ローンからになるだろう。30歳で組んでも65歳まで返済が続く計算だ。
「借りられるか」だけでなく、「返していけるか」を、長期のライフプランの視点からシミュレーションしておきたい。2021年4月の高齢者雇用安定法の改正により、70歳までの雇用が努力義務化されたとはいえ、多くの企業では50歳代半ばで役職定年となり、その後は収入がぐんと減る。70歳まで働ける時代が来るといっても、現役時代と同じ給与がもらえるわけではないのだ。できれば住宅ローンは60歳までに返済を終わらせるのが理想といわれるが、住宅購入を考えるなら60歳時点でいくらのローンが残るかも計算してみたほうがいいだろう。

今の若者層には老後不安が根強くある。不安解消にと住宅購入に踏み切る者も多いが、そのための住宅ローンが老後生活の負担となっては本末転倒だ。住宅ローンを返しつつ、リタイア前に返済が終わるように繰り上げ返済用の貯蓄もできるかどうかもポイントになる。
慌てて購入を決める前に、まず試算すべき数字はいくらでもあるのだ。

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