2020年は新築・中古とも市場規模が縮小 中古マンション価格は上昇基調

2020年の住宅市場はコロナに翻弄された一年といってよいだろう。2020年4月に緊急事態宣言が発出されて以降は、新築・中古市場共に急激なシュリンクを経験し、解除と同時に徐々に回復したものの、2019年を上回る規模には回復することはなかった。

特に大きな動きを見せたのは首都圏の中古マンションで、売り物件が減少したことから需給がタイトになり、新築マンションの市場規模が一向に回復しないことも手伝って、流通価格が短期間で5%程度上昇するという状況となった。
また、その後も感染拡大が続く各都市圏と感染者数が一定数に留まる地方圏では住宅市況に比較的大きな違いが生まれ、昨年7月以降地方圏での賃貸市場および中古流通市場は前年並みの水準に戻るなどV字回復との声が聞かれるまでに回復している。

しかし、こういった動きは一部に留まり、2020年全体の動きを見ると新築マンションの分譲戸数は首都圏で前年比12.8%減の約2.7万戸(12月に7,000戸超の大量供給あり)、近畿圏でも同様に15.8%減の約1.5万戸に留まり、一方の中古マンションも首都圏では成約件数が6.0%減の約3.5万戸、近畿圏でも5.6%減の約1.7万戸となって、コロナの影響を受けて都市圏での住宅需要の縮小が発生したことが明らかとなった。

唯一、戸建市場は堅調に推移しており、首都圏では2.4%増の1.3万戸超、近畿圏では0.9%と微増ながら同じく約1.3万戸の成約があり、マンション分譲および流通が縮小する中にあって戸建の流通が市場を底支えする結果となった。これについては首都圏中心部からの人口の流出、およびテレワークやオンライン授業など在宅での業務・受講が増えたことによる住宅ニーズの変化が影響しているものと考えられる。あまりに都心や市街地中心部に住宅ニーズが集中したことの反動が、コロナによって引き起こされていると見るべきだろう。コロナの影響が長引けば長引くほど、こういった状況も継続する可能性が高い。

このような状況を踏まえて2020年の新設住宅着工数は815,340戸に留まり、前年比では9.9%の大幅減を記録している。2019年の消費増税などを含め、住宅の新規着工数は4年連続して減少傾向にあるが、コロナ禍が拍車をかけていることがわかる。

2020年はコロナの影響が住宅市場に大きな影響を及ぼし、市場縮小の主要因となった。2021年はこのような状況を打開するべく住宅ローン減税の維持・拡大政策が実施され、またIT重説の運用やオンライン契約などコロナ対策も本格始動する。果たして住宅市場はコロナの影響を脱することができるのか、また不動産のIT化はその処方箋となり得るのか。住宅市場分析の専門家の意見を聞いた。

2020年全体の動きを見ると新築マンションの分譲戸数は首都圏・近畿圏で減少。</br>中古マンションの成約件数も減少傾向で、コロナの影響を受けて都市圏での住宅需要の縮小が明らかに2020年全体の動きを見ると新築マンションの分譲戸数は首都圏・近畿圏で減少。
中古マンションの成約件数も減少傾向で、コロナの影響を受けて都市圏での住宅需要の縮小が明らかに

中古住宅の価格は株価、住宅金利、成約1件あたり在庫件数という3つの指標の影響が大きい~田中 歩氏

<b>田中 歩</b>:さくら事務所不動産コンサルタント。信託銀行にて企業不動産・相続不動産などを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」に参画田中 歩:さくら事務所不動産コンサルタント。信託銀行にて企業不動産・相続不動産などを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」に参画

昨年の一都三県の中古住宅市場は、コロナ禍前後、すなわち2020年3月までと同年4月以降ではその動きが大きく異なる。今回はその動きを概観して、今後の動向を考えてみたい。

中古住宅の価格は、いくつかの要素で形成されるが、そのうち株価、住宅金利、成約1件あたり在庫件数という3つの指標の影響が大きいと筆者は考えている。成約1件あたり在庫件数とは需給バランスを示す代替指標として考えてもらえればよいと思う。これらの指標の価格に対する影響度が、16年1月から20年3月までと20年4月以降でどのように変化したのかをまずは振り返ってみたい。

コロナ禍前の中古マンション市場は価格上昇が継続していた時期である。マンション成約単価は、日経平均株価および住宅金利(分析上はフラット35の金利を利用)との相関がはっきりしており、この2つの指標で成約平均単価の72%程度が説明できるほどであった。需給バランスは、在庫の増加に対し成約件数も増加したため需給バランスは概ね均衡したままということもあり、株価上昇、金利低下の二つの要素が中古マンション価格に影響し上昇した可能性が高い。一方、同時期における中古戸建の価格は微増傾向といった状況で、株価上昇だけが価格上昇に若干影響しているという状況だった。

ところが、昨年4月以降は様相が大きく変わる。これら三つの指標のうち価格に大きく影響する要素として成約1件あたり在庫件数が躍り出てくる。そして金利は価格に影響しなくなり、株価の影響は弱まった。

コロナで家計支出が減少した世帯が住宅購入など大きな買い物へ資金を向かわせているという声が聞かれる。一方、コロナ禍だから住まいを売るのはしばらく様子を見たいという傾向も強い。その結果、昨年4月以降、需給バランスが崩れ、需給は急激にタイトな状況に変化した。

一方、未曾有の金融緩和で株価が適正に景気の状況を反映しなくなっていると言われて久しい。また昨年以降、金利動向は大きな変化はなく、金利がさらに低下することも考えにくいし、短期的に一気に上昇することも想定しにくい。こうしたことから昨年4月以降は、株価も金利も中古住宅価格に影響しなくなったのではないか。

今後もしばらくは成約1件あたり在庫件数、つまりタイトな需給関係が価格上昇を誘導すると思われるが、コロナ禍の着地点が見え始めると思われる年末頃までに需給は均衡点に落ち着くと思われる。その時の株価(景況感)と金利水準がどうなっているか、それが次の中古住宅市場の価格を決めていく。

顧客に寄り添う力の向上がコロナ騒動後における成長の鍵~矢部 智仁氏

<b>矢部智仁</b>:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中。
矢部智仁:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中。

果たして住宅市場はコロナの影響を脱することができるのか、またその処方箋はあるのか。

住宅市場における「コロナの影響」として、市場規模の増減、種別による動向の差、地域による動向の差といったことは結果としてそうだということであり、「影響」の根本には、取引時の対面・接触の懸念、働き方、暮らし方に対する価値観の変化、社会通念のゆらぎといった「人の動き」の変化の結果である。そのように考えれば、コロナの影響を脱することができるのかという問いは、人の動き方や動き方の元になる価値観がコロナ前の状態に元に戻るかという問いかけとして置き換えることができる。さらに言えば、「脱することができるのか」「処方箋はあるのか」という問いは、「対応することができるか」という問いが適切な問いかけではないか。

一度「知ってしまったこと」「わかってしまったこと」、例えば、物理的・時間的拘束を受けずに働くことが可能であること、ワークライフバランス・時間配分の工夫ひとつで快適で豊かな暮らしが実現できること、デジタル化を受け入れることで利便性が格段に向上することなどを、何事もなかったように「もとに戻せるのか」といえば、完全には元に戻せないと考える人が多数にのぼると想像する(少なくとも私はそう考える)。
別の機会でも書いた取引手段のOMO化の流れも不可逆なものであるし、自宅の環境、住まい手の健康に関わる住宅の高性能化(高断熱・高気密等)への適合もその義務化が再浮上している。住宅性能の表示についても従来の「業界内の人だけがわかる専門的な数値」から「顧客がわかる数値」へと「見せ方」の変更も始まる。そのような事業環境の変化のもとで、スペック比較の終始するハードによる競争差別化は顧客から見えなくなり、住宅不動産の役割としての暮らし編集、例えば庭創りの提案、インテリアの工夫の提案、暮らしの安心を支えるライフプラン相談などに焦点が移るかもしれない。

また、こうした「コロナだから」という理由だけにとどまらず、例えばFIRE(Financial Independence,Retire Early)などといわれ、不安定・不確実な時代に備えた若年層が形成する「これまでと規模や期間の違う不動産投資市場」の登場による資産形成の動きが広まる可能性が高まっている。これも時代の影響をうけた人の行動の変化がもたらす機会の一つといえるだろう。
FIRE志向の登場は、住宅が資産形成のための金融商品である認識の「あたり前度」を高め、取引に有利不利に影響する個別の建物の特殊性は不要となり、その結果、建物単体の差別化が難しくなり、取引における立地や建物と土地の一体的価値の注目、汎用性の高い建物への注目が今以上に高まるだろう。

何にしても顧客が変われば当然業界の働き方やサービスの提供の仕方も変わる。OMOでも高性能化でもアジャストできない(しない)産業、企業は機会を失うだけだ。「コロナの影響」は脱するものではなく、理解し寄り添うものと考えればこの先の処し方は明快で、顧客に寄り添う力の向上がこれからのコロナ騒動の沈静化した後における成長の鍵になるのではないだろうか。

2021年のマンション市場は昨年下半期の好調を維持するだろう~松田 忠司氏

<b>松田忠司</b>:株式会社不動産経済研究所企画調査部主任研究員。1974年生まれ、福岡県出身。東京理科大学理学部卒。2004年8月に株式会社不動産経済研究所に入社。以降、一貫して新築分譲マンションの調査に携わり、首都圏マンション・建売市場動向を毎月発表している。2012年10月から現職松田忠司:株式会社不動産経済研究所企画調査部主任研究員。1974年生まれ、福岡県出身。東京理科大学理学部卒。2004年8月に株式会社不動産経済研究所に入社。以降、一貫して新築分譲マンションの調査に携わり、首都圏マンション・建売市場動向を毎月発表している。2012年10月から現職

2020年の住宅市場は予期せぬ新型コロナウイルスの猛威に振り回されるものとなった。
首都圏のマンション市場を見てみると、価格高騰の影響によりここ数年は徐々に厳しさが増しており、2020年の市況は年明けから低調な状態に陥っていた。そのような状況の中で4月に最初の緊急事態宣言が発令されたことで多くのマンションのモデルルームが営業を取り止め、状況は一段と厳しいものとなった。発売戸数は4月が686戸、5月が393戸と、単月での最少供給を更新し続け、上半期では7,489戸と初めて1万戸を下回ることとなった。

しかしマンション市況はここから急回復することとなる。緊急事態宣言中に在宅時間が増えた中で今の住まいに対して不満を持った人が急増、ポータルサイトの閲覧数や資料請求は大きく伸びていた。そして緊急事態宣言が明けるとインターネットで住宅を探し始めた人たちが積極的にモデルルームに来場するようになった。首都圏マンションの発売戸数は7月に対前年同月比で増加に転じると下半期を通じてその勢いは続き、年間供給は2万7,228戸まで挽回することとなった。年間としては1992年以来の3万戸割れとなったものの、下半期は1万9,739戸と前年同期(1万7,802戸)比10.9%増と伸ばし、2万戸に迫る発売戸数となっていた。

この下半期の急回復を支えたのは郊外の物件である。
2020年に供給が前年比で増加したのは東京市部と千葉県の2エリア。在宅ワークがある程度普及したことによって通勤の頻度が減った人、また時差通勤が可能になった人などが都心に近い立地であること以上に広さや部屋数、周辺環境などを重視するようになったことで、価格の高騰から苦境に立たされていた郊外の物件が脚光を浴びることとなった。郊外とはいえ現在販売されている物件の多くは駅近で利便性の高いものとなっており、ユーザーが郊外にもエリアを広げて検討するハードルを下げやすくなっていることも人気回復を後押しした。

その一方で地下鉄駅直結のタワーマンションが短期間で完売になるなど、都心の物件の人気は引き続き高い。1億円以上の高額住戸も依然として積極的に販売されていることから、23区から郊外に人気が移ったのではなく、都心、郊外を問わず幅広いユーザーが購入に動いているということだろう。共通しているのは、共用部にテレワークスペースを設置した物件のニーズが高まっていることで、一気にニューノーマルのスタンダードになりつつある。

またマンションの販売手法にも変化が見られる。モデルルームは完全予約制となり、オンライン接客も一気に普及した。2021年の年明け早々には2度目の緊急事態宣言が発令されたものの、ほぼすべてのモデルルームは感染に気をつけつつ営業を続けることが可能となっている。コロナ禍は簡単には収束しないのだろうが、マンション販売への影響は限定的といえる。コロナ禍で新たに生まれた住宅ニーズが急にしぼむことは考えにくく、2021年のマンション市場は昨年下半期の好調を維持するだろう。

とはいえ好立地の用地取得は依然として難しく、また人手不足による施工費の高騰にも歯止めが掛かった訳ではなく、コロナ禍以前と環境は大きく変わっていない。今の活況はどこかで終わりを迎えるかもしれないという不安もまた続くことになる。

公開日: