「みどり」が 住宅賃料に及ぼす影響の分析手法

前回は、「みどり」の多寡が住宅賃料に及ぼす影響の対象と緑視率についてお伝えした。今回は実際の分析結果がどうであったのかをお伝えしたい。

分析の手法であるが、地価分析などの不動産市場分析で多く用いられるヘドニック・アプローチを採用した。この考え方に基づき、以下の推定式を構築し、視界に入る「みどり」がマンションおよびアパート賃料へ及ぼす影響を推定した。

「みどり」が 住宅賃料に及ぼす影響の分析手法

分析結果 ~「緑視率」はマンション賃料に対し、統計的に有意な影響を与えている

分析の結果、「緑視率」はマンション賃料に対し、統計的に有意な影響を与えていることが分かった。

具体的には、マンション賃料は、「緑視率」が 10%上昇した場合、1,326円上昇することが示唆された。(図表-7)。マンションの平均賃料は98,000円であるので、「緑視率」が 10%が上昇した場合、マンション賃料は約1.3%上昇することになる。

一方で、アパート賃料では、「緑視率」は統計的に優位な影響を与えていなかった。アパートを選ぶ際には、「家賃」が特に重視され3、「みどり」の多寡を含む住環境の優先順が相対的に低いことが要因の一つではないかと考えられる。

図表-7 推定結果</br>(出所)LIFULLのデータを用いてニッセイ基礎研究所</br>
注)***は、有意水準1%、**は有意水準5%を示している。図表-7 推定結果
(出所)LIFULLのデータを用いてニッセイ基礎研究所
注)***は、有意水準1%、**は有意水準5%を示している。

推定結果の解釈

図表-8 推定結果の解釈</br>(出所)LIFULLのデータを用いてニッセイ基礎研究所図表-8 推定結果の解釈
(出所)LIFULLのデータを用いてニッセイ基礎研究所

「みどり」の整備が不動産価値向上へ

江東区「江東区のみどりに関するアンケート調査結果(平成30年12月)」によれば、「住まいの周りで今後増やしたいみどり」に関して、「道路沿いのみどり」(42.4%)との回答が最も多く、次いで「公園や広場」(41.5%)との回答が多かった。また、「マンションやアパートのみどり」との回答も約4分の1を占め、上位であった。

今回の分析結果と併せて鑑みると、不動産事業者が「みどり」に配慮した環境整備の取り組みを行うことは、不動産価値の向上に寄与する可能性が考えられる。また、地方自治体の動きと連携し、街の道路や公園、広場等の緑化を進めることも有効と考えられる。

森ビルが2023年の開業に向けて開発中の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」は「緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街 - Modern Urban Village ‐」を再開発のコンセプトにし、「圧倒的な緑に囲まれ、自然と調和した環境の中で、多様な人々が集い、人間らしく生きられる新たなコミュティ」の形成を目指すとしている。開発計画区域(約8.1ha)に占める「みどり」の面積割合は約3割とする計画である。
また、日鉄興和不動産は、「赤坂・虎ノ門緑道構想」を立ち上げ、東京都が新橋から虎ノ門ヒルズまでの新虎通りを緑豊かな道路に整備する動きに併せて、虎ノ門から赤坂までの道路を緑道に整備している。

今後は、不動産開発・運営事業者による「みどり」の整備の取組みが不動産投資の判断基準の1つになる可能性がある。

■ニッセイ基礎研究所レポート
視界に入る「みどり」が住宅賃料に及ぼす影響
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65489&pno=1?site=nli

◎分析  :ニッセイ基礎研究所 吉田 資
     :株式会社 LIFULL 遠藤 圭介

「みどり」に配慮した環境整備の取り組みは、不動産価値の向上に寄与する可能性が考えられる「みどり」に配慮した環境整備の取り組みは、不動産価値の向上に寄与する可能性が考えられる

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