一年に暖冷房除湿が必要な期間はどのくらいか?
つい最近、東京大学の前 真之 准教授が「エコハウスのウソ 増補改訂版」を出版された。
全体的にも素晴らしい本である。その中で、前から思っていたがきちんと計算したことがなかったことが、グラフ化されていたので、それを紹介したいと思う。
この円グラフは、アメリカの空調学会の基準で室内環境を温度・湿度ともに快適に過ごせる範囲内のために年間のうち、「快適」「自然通風で快適」以外の88%の期間においては暖房、冷房・除湿のいずれかが必要であるということを示している。
前准教授の著書では、旭川から宮崎まで18都市が棒グラフで掲載されていたが、自宅に最も近い大阪だけを円グラフ化し、期間が長い方から並べてみた(下図)。
温湿度のコントロールのための空調作動期間とエアコンの誤解
パーセンテージでは、ピンと来ない人もいるかもしれない。そこで、日数表示にしてみた(下図参照)。
これは例えるなら、大阪で完璧に温湿度がコントロールされたホテルの場合、年間で約10.5ヶ月、約88%の期間において空調機器が動いていることになる。このデータをみると、「こんなに動いているなんて、もったいない」となるのだが、これは住宅でも同じ話である。
住宅では、高性能住宅に住み替えるのであれば、作動期間自体も短くできる上、暖冷房に利用するエネルギーも住み替え前の住宅で暑さ寒さを我慢しながら過ごすよりも少なくなるケースが多い。
私は、いつも講演時に
「日本は、春夏秋冬という言葉から3ヶ月ごとに季節が分類され、暖房必要期間は3ヶ月、冷房必要期間も3ヶ月みたいに思う人が多い。しかし、実際には暖房必要期間は5、6ヶ月、冷房必要期間は2ヶ月ほど、除湿必要期間は1ヶ月ほどだ」
と言ってきた。多少の誤差はあると思うが、今回、示されたデータとほぼ合っている。実際には加湿必要期間もあるのだが、今回のグラフではそれは表示されていない。
ちなみにであるが、暖房、冷房、除湿に関してはエアコン1台ですべて完結できる。しかも3分野(暖房、冷房、除湿)全てにおいて、実は省エネかつ光熱費も安い。エアコンは日本では、とことん嫌われているが、エアコンを不快に感じるのは、低性能住宅が原因であって、エアコンが原因では決してないことを知っておかねばならない。
この誤解だけでエアコンの購入率・利用率は、他のもっとエネルギーを使い、光熱費がかかる冷暖房器具に取って代わられている。それによって、国も個人もエネルギーとお金が無駄にされてしまっていることは残念でならない。
「10円拾うために1万円捨てる戦略」
それともうひとつ、年齢が上の方ほど顕著な傾向があるのだが、設計者に出会った瞬間に「風の抜けがいい家にして下さい」と言われる。その要望があまりにも多いので設計者も通風だけは気にして設計する人が多い。
しかしながら、通風だけで快適な日は年に3日しかないのである!
厳密にいうと、これは多少言い過ぎではある。なぜなら通風してもしなくても「快適」な時期が約40日あるからだ。この40日の間は(ほとんどが5月と10月)温度がどうこうというよりも、開け放した方が気持ち良いので、単に窓を空ける人が非常に多くなっている。よって、正確には通風が気持ちの良い期間は年間に約43日、ほぼ1.5ヶ月、足しても結局12%の期間でしかない。
冷房に使うエネルギー比率は一般家庭の平均だとせいぜい2%でしかない。
それでも皆、「通風、通風」と通風ばかりを重視する…。その一方で、約7ヶ月59%の期間と25%のエネルギーを使う暖房に関しては多くの方が無頓着である。
私はこれを、「10円拾うために1万円捨てる戦略」と揶揄している。
だからといって、10円を捨てていいと言っているわけでは決してない。温暖化の影響もあり、夏の暑さは厳しさを増している。また、冷房エネルギー使用量こそ少ないが、ビル部門が大量消費する都合から国全体での電力使用量のピークは夏の昼間にやってくる。
これらを総合的に考えると、やはりきっちり「10010円拾う戦略」が必要であると考えている。
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