変わり始めた呉駅前
広島県第3の都市、呉市。その玄関口である呉駅前では、現在大規模な再開発工事が進行している。駅前にはかつて、百貨店「そごう呉店」が立地していた。1990年、第一種市街地再開発事業に基づく再開発で誕生した「呉駅前西地区再開発ビル」に開店し、22年にわたって営業を続けていたが、1993年に212億円あった売り上げは2012年には89億円まで減少するなどしており、セブン&アイホールディングスによる不採算店舗の整理の一環で2013年に閉店。その後は建物が解体されないまま長期間放置され、駅前の活気に暗い影を落としていた。
そんななか、2021年度に「一般国道31号 呉駅交通ターミナル整備事業」が事業化され、そごう呉店跡地を含む再開発が行われることになった。2024年に着工し、現在も工事が続く再開発事業は、どのような経緯で行われ、どのようなまちづくりが目指されているのか、このプロジェクトを推進する呉市の担当者、呉市 都市部 呉駅周辺事業推進室の林通宏室長に聞いた。
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交通結節点と都市の将来を描く有識者会議
呉駅前再開発は、単なる跡地活用ではなく、呉市の将来を見据え、駅前を交通結節点としてどう再構築するかという課題が出発点にある。鉄道、路線バス、港が近接する呉駅前は、高いポテンシャルを持ちながら、長年その機能が十分に更新されてこなかった。
こうした問題意識のもと、呉市は2018~2019年ごろから有識者会議を立ち上げ、駅前全体の将来像について議論を重ねてきた。会議には、国土交通省主導でのバスターミナル整備、いわゆる「バスタ」に関わった専門家らも参画。本事業も「バスタプロジェクト」のひとつに位置づけられ、老朽化した駅前広場やバスロータリー、将来的な更新が避けられない南北自由通路などが課題として整理され、交通を起点に駅前全体を捉え直す議論が進められた。
同時に議論されたのが、駅前の賑わいと居住の問題である。1975年に31万人だった人口は2025年に20万人を割るなど人口減少が進み、呉市では都市機能を集約するコンパクトシティ化は避けられないテーマとなっている。実際、2010年代後半から呉駅周辺ではマンション建設が進み、駅前居住という選択肢が現実のものとなりつつある。
有識者会議は、交通、賑わい、居住といった個別の論点を束ね、「呉市の未来をどのように描くか」を語る場でもあった。この議論が再開発計画の土台となっていく。
市が跡地を取得して、民間に委ねる
駅前の一等地でありながら長年活用が進まなかった背景には、事業規模の大きさや投資リスクの高さがあった。
そこで呉市は、2020年(令和2年)に旧そごう呉店跡地を一括取得。有識者会議で示された方向性を実行に移すため、行政が主導して再開発の枠組みを整える判断を下した。民間任せにせず、市が土地を押さえたうえで、駅前に必要な機能整備を条件として民間事業者に売却する方式だ。
同時に交通結節点の整備は国の直轄事業として進め、建物整備や都市機能の導入は民間が担うことに。役割分担を明確にすることで、再開発全体の実現性とスピードを高める狙いがあった。
民間事業者は、公募の結果、五洋建設(東京)やマンション開発事業者などでつくるグループ「くれみらい」を選定し2023年に売却。求められたのは、単なる商業開発や住宅開発ではなく、駅前に人を呼び込み、日常的に使われる都市機能の導入である。商業、居住、交流といった複合的な機能を組み合わせ、交通拠点と暮らしを結びつけることが前提とされた。
行政が示す方向性と民間の事業力を組み合わせ、呉駅前再開発は動き出し、2024年7月に既存の建物の解体工事が完了した。
再開発で整備される施設の全体像
呉駅前再開発では、交通結節点としての機能更新を核に、商業や交流機能を重ね合わせた立体的な駅前空間が整備される。中心となるのは、国の直轄事業として進められるバスロータリーを含む総合交通ターミナルである。
この交通ターミナル整備は、2025年以降、2027年の1期工事完成を目標に段階的に工事が進められており、バス、タクシー、歩行者の動線を再編することで、安全性と利便性の向上を図る。複合ビルの1階部分までバス動線を取り込む立体的な設計により、限られた駅前空間を有効に活用する計画だ。
交通ターミナルの上部には、広い歩行者デッキや広場が整備される。イベントやマルシェ、キッチンカーの出店などで、憩いと賑わいの空間としての活用を図るほか、災害時には一時的な避難場所や帰宅困難者等の受け入れ空間、災害支援の活動拠点等としての活用を想定。用途を固定しない可変性の高い公共空間とすることで、駅前の賑わい創出を担う。
旧そごう呉店跡地に建設される複合ビルには、商業施設も大きく確保される計画で、日常的な買い物需要を支えると同時に、人の流れを駅前へ引き戻す役割が期待されている。
また、駅前エリアでは、再開発プロジェクトに合わせて自動運転車両による実証実験も行われている。現在は低速走行による検証段階だが、将来的な導入を視野に、交通ターミナルや周辺動線との融和を目指している。
呉の未来を動かす司令塔「アーバンデザインセンター」
呉駅前再開発の真価は、施設完成後の運営にある。その中核を担うのが、公民学連携による「アーバンデザインセンター」だ。この組織は、再開発の本格化と並行して設置・検討が進められてきた。
再開発では、交通、商業、子育て支援、若者の居場所など、複数の機能が一体的に整備される。しかし、それらを「つくって終わり」にしないためには、横断的に企画し、使い方を更新し続ける存在が不可欠となる。アーバンデザインセンターは、市民が集う広場空間のあり方やマネジメント、自動運転を見据えた交通社会実験などの新たな取り組みについて、行政、大学、民間事業者、地域主体と連携しながら、その司令塔を担う。
特に重視されているのが、将来を担う世代との関係づくりだ。2020年代以降、中学生・高校生が駅前で挑戦や体験を積み、「呉で何かをした」というポジティブな記憶を持てる環境づくりが進められている。進学や就職で一度街を離れたとしても、地元への印象が将来のUターン意向に影響を与えることが期待されているからだ。
呉駅前再開発は建物の完成で終わる事業ではない。2027年の完成後も、運営を通じて価値を高め続ける、公民学連携による都市実験なのである。その先の姿も見守り続けていきたい。



















